*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは父と同居している妹・莉子の代わりに入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父が意識を取り戻しコオは面会をして、思ったより状態がいいことにホッとする。

 父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに莉子に送ったリストへの返信は数日後直接電話でかかってきた。

話はまったく噛み合わず、コオと莉子は険悪な会話を繰り返していた。

 

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「ねぇ、そんなに私の話って、通じませんか!?」

 

コオは職場で度々確認するようになった。

 

「まぁ、確かに…言葉が足りないことはありますけどね…そんな深刻ってわけじゃないと思いますけど。猪俣さんよりは全然マシですよ。」

 

同僚の咲田優子は首をかしげながら、さり気なく上司の悪口を混ぜて、くすりと、わらった。上手く通じ合わないからこそ、FAXという手段を選んだはずが、まったく予想通りに行かない。なぜこうなってしまうのだろう?莉子を気遣って考えたTo Do リストだったはずなのに?

 

「それより、お父さんいかがですか?」

「ありがとうございます、思った以上に安定して。良かったです。不思議なんですよ、過去の、父が子供のときとか、学生の時とかの話は、いくらでもでてくるんです。なんか、ああ、脳の深いところは無事だったんだなぁって、しみじみ思います。とりあえず、子供の受験も来週だしバタバタしたことにならなくて、助かりました。」

「そうですか!そうですよね、健弥くんも遼太くんも、受験ですもんねー、よりによってこの時期に。大変ですね。」

 

 コオは、ああ、通じてる、と思いながら、ありがとう、と礼を言った。

 

*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは父と同居している妹・莉子の代わりに入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父が意識を取り戻しコオは面会をして、思ったより状態がいいことにホッとする。

 父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに莉子に送ったリストへの返信は数日後直接電話でかかってきた。

 

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「もう、じゃあ、勝手にしたら。」

「お姉ちゃんは、冷たいんだよ!あんなに事務的なFAX一枚で…」

 

 キンキンとわめき続ける莉子の声は流れ続けていたが コオは電話を切った。

 

 その後も何回か、莉子との電話のやり取りがあった。しかし、とても有効的な姉妹の会話とは言い難かった。

 平和に終わることなど、まずなかった。

 必ず最後は怒鳴り合いになり、莉子が喋り続けているのを無視してコオが電話を切る。ときにはイライラしたあげく、そのままコオが受話器を叩きつけて切る。逆のこともあった。

 それは恐ろしく不毛な時間で、コオは、吐き気がするほどのイライラした気持ちと、莉子のキンキンとした声しか、もう今は、思い出せない。

 

 「FAXで送ってよ」とコオは直接言ってみたりもした。でも、答えははっきりとは思い出せない。確か、なんでFAXじゃないと、とか直接電話のほうがいいじゃないの、などと、莉子は言ったのだと思う。あるいは例によって、まったく別の答えにならない答え。コオはそこでうっかり、言ってしまったのだ。それは覚えている。

 

 「もう、話すとすぐヒステリー起こすから嫌なんだよ」

 

 途端に、一気にボルテージが上がった莉子のキンキンした声。思い出すと同時に今でもコオは動悸が激しくなる。しかし、もうその声の紡ぐ言葉を聞いたかどうかは思い出せない。

コオは求める答えをほとんど一つも得ることができずイライラしてたし、莉子の声自体がコオの癇に障った。甲高い声で

 

 「だから、お姉ちゃんは、わかってないんだよ!」

 

というのをコオは受話器を耳から遠く外して、やれやれ、というふうに息子たちに向けてみせた。それは、息子たちを自分の味方にしたかったからに他ならない。それが効果があったとも思えないが。腕を一杯に伸ばしても莉子の声はキンキン、と受話器から聞こえてきた。ヒステリー、とコオは思った。昔以上に話が通じない。

 

 

 

*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。 2日後、父が意識を取り戻し、奇跡的に麻痺も認知も問題なく、コオは面会して何が起こったのかを語った。莉子はコオにFAXではなく電話で折り返してくる。

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 「それで…FAXに書いたことなんだけど。パパが意識戻ったし、もう、それほど緊急じゃななくなったのは良かったけど、やっぱり考えておいたほうがいいと思うんだよね。」

 「あ、それでね、私、銀行とかに行って色々聞いてこようと思うの。」

 「・・・?いや、聞くっていうか、そもそも通帳とかカードとか、パパの名義のものがいくつかあるでしょ?どうなってるの?場所とか・・・印鑑の在り処とか・・・そもそもいくつあるのか、とか。そういう事を莉子が、わかってるか聞きたかったんだけど。あとは証券会社のこともあるだろうけど、それは手が回んないし・・・」

「だからそういうことは私も忙しいからなかなか聞きに行くのも難しいから、折を見て聞きに行くつもりではあるんだけど。」

「・・・? だからそうじゃなくてさ、パパに万が一のことがあったら、考えたくはないけど・・・銀行に行って父が亡くなりました、なんて言ったら、口座凍結されちゃって動かせなくなるんだよ?そしたらこまるでしょう。だからまずは調べておかないと。」

「でも私は一人だし、ほんと私忙しくて、行く暇がないの!」

 

 何かがおかしい、とその時感じた。

 子供の頃から、たしかに莉子はひどく頑固で、コオの言うことを聞き入れない、というのはよくあったことだ。

 コオはコオでまだ自分のやり方に自信があるときは、何故莉子がまったくそれを理解しないのか、わからない。確かに自分は言葉か足りない説明をする事が多い。職場の女性職員に注意されたこともある。それは、確かにそうなのだが…むしろ、だからこそFAXにしたのだが。遼吾に読んでもらったのもわかりにくくないかのチェックのためで…

 

  「だって銀行は閉まるの3時でしょ?私、本当にもう、信じられないくらい忙しくて…そりゃ、もう朝から晩まで気が休まる暇がないくらい…」

 

 また、始まった。そんなことは聞いてない。銀行に聞きにいく、という返答自体が、コオには理解不能だ。そもそも通帳の在処を知っているか、と聞いているのだから、答えはハイかイイエの2択だろう。一歩譲って今探してるところ、とか。

 

 コオは、ひどくイライラした。いや、イライラ“してしまった”。

 

 この返答から既に莉子の様子はおかしかったのに、コオはいかにも、いつもの莉子らしい、周辺情報から説明を始め、本来コオが求める返事にたどり着くまでに時間がかかる喋り方、としか思わなかったのだ。

 

 

**これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。

 2日後、父が意識を取り戻し、コオは面会して何が起こったのかを語った。奇跡的に父は麻痺もなく、言葉、認知についてはほぼ問題がなかった。

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 莉子に送ったFAXの返信はなかなか来なかった。
父が意識を取り戻した後、莉子が病院へ行ってるのかどうかもコオはよくわからなかった。少なくとも面会時間に彼女にあったことは一度もなかったが、それはコオの時間帯と単にすれ違ってるかも知れなかった。
 もういい加減にしろ、と思った頃に莉子から、自宅の固定電話に電話がかかってきた。


 「お姉ちゃん、パパのところ行った?」
 「行ってるよ。思ったよりちゃんと話もできるし、最近の記憶はしっちゃかめっちゃみたいだけど、過去の記憶はちゃんとしてるみたいでびっくりした。麻痺もないみたいだし。脳の奥は無事みたいだね。」
 「お姉ちゃん、そんなこと言って、パパは昔とはもう違うのよ?お姉ちゃんはわかんないかも知れないけど。」


 莉子の声が尖った。

 “お姉ちゃんはわかんないかも知れないけど”この言葉はこの後何度でも繰り返されることになる。

 コオは実際何年も実家と連絡を閉ざしていたから、知らないことが多いのは当然で、だから莉子に反論はしなかった。ただ、離れていたからこそ、冷静に見られることがあるのではないか、とは密かに思っていた。また、コオは物理的な距離以上に実家の両親と精神的にも距離をとろうとこの10年努めていたし、そもそも高校生卒業と同時に親から離れて暮らしていたから、昔と違うというのが当たり前過ぎた。

 つまり、コオにとっては、父は80代の一般的な老人として目の前にいるだけで、コオが実家にいた頃の現役バリバリのときの父と比べることなど、考えもしなかったのだ。


 おそらくは昔とは違う、と自分に言い聞かせていたのは莉子だったのかも知れない。現在の父の状態を受け入れられずにいたのは、ずっと実家ぐらしだった莉子の方だった。そうコオが考えられるようになるのは、もっとずっと後のことだった。
 

**これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。

 2日後、父が意識を取り戻し、コオは面会して何が起こったのかを語った。奇跡的に父は麻痺もなく、言葉、認知についてはほぼ問題がなく、ただ記憶だけが混乱しているようであった。

 

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「学生時代・・・ボートで鍛えたからな」

 

と父はかすかに笑った

 

 父は、技術屋だった。定年前は管理職になったが自分が大学で専門を極めて行けなかったことをずっと残念に思っており、父と同じく理系で大学院に進学したコオを支えてくれた。決してスムースではなかったが、文句を言ったり責めたりすることなく、ただ、仕送りをし続けてくれた。 お金だけ渡していた、といえば、そうである。それでも、コオは自分の専門の話をすると、ひどく嬉しそうな顔をする父を覚えている。

 昔風の会社第一の会社員。何度か会社の部署は代わっていたが、仕事ばかりしていた。定年時は2時間以上かかる遠い工場まで通っていた。顔を合わせることが少なかった。

 それでも、小さい頃コオを沼のある大きな公園によく連れて行ってくれた時期もあった。

 コオはやはり少し変わった子供だったのだろう。夜中に、工場の機械トラブルだ、と言って飛び出していく父、家に帰っても、図面を睨みつけている父、仕事ばかりの父が、ひどく格好がいい、と思っていたのだから。

 その一方、普段の生活の上では、ひどくへんてこな父親だ、とも思っていた。空気は読まないし、結構こっちが恥ずかしくなるようなことを、平気で自慢したりする。相撲が好きで、ゴルフが好きで、うんちくを語るのも好きで。でもそれは偉そうとか、嫌味には聞こえず、どちらかというと、家族は「しかたないなあぁ」と、笑いを含んで聞いていたような気がする。

 

 

 

 

**これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。

 2日後、父が意識を取り戻し、コオは面会して何が起こったのかを語った。

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「パパのね、脳出血は言語野って部分だったの。でもこうやって、ちゃんと話ができてる。すごい。それでね・・・専門家の立場から言わせてもらうけど、話をする、ってことはとっても脳の回復には大事なの。ネズミでさえね、脳梗塞を実験的に起こした後、一匹だけで飼ってるより、複数で飼うほうが、回復が早いの。話すこと。コミュニケーション。これ、すごく回復に大事なの。」

 

コオは仕事柄、脳についての一通りの知識がある。そしてそれは父も知っている。父は専門性を非常にリスペクトする性だから、こういう話し方をすれば、耳を傾ける。それをコオは知っていた。 

 (若干大風呂敷だけど、まぁ、大枠あってるからいいでしょ)

 そうか、そうかとうなずく父を見ながらコオは思っていた。

 面会を終え、「ありがとうございました」 と、病院スタッフに声をかけ、ドアを開けてもらう。病院の看護師が言った。

 

「お父様、よかったですね。」

「ええ、もうだめかと思ってました。」

「お父様、お名前は、すぐおっしゃれましたよ。住所と日付がまだ、出てこないんですけどね。」

「そうですか。」

 

それでも、奇跡的だ。亡くなった母は脳梗塞を起こした後、右半身が麻痺した。父はどこも麻痺もないのだ。言葉も問題ない。特に認知症的な症状も今のところ見当たらない。

 

 

 




 

**これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、意識のない父に話かけながら短い面会時間を終えた.長い間断絶していた実家だったが、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考えるコオ。 ひと時、家族のもとに戻り日常に戻ったコオは、父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。 父にかかるお金は母の残したお金を使おうと、コオは考える。

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 父が意識を取り戻した。

 2日経っていた。いきなり定年前まで勤めていた工場の話をしたり、記憶はかなり不安定で、めちゃくちゃになっているようだが、明瞭に言葉を喋り、一応コオの顔もわかるようだった。父が会社の話を始めるのは、やhり、その時に愛着があったのだろう。ともかく、言語野に出血があったのに言葉に問題がない、しかもどこにも麻痺が見当たらないのは奇跡的だ。妙に丁寧にしゃべる口調は少し気にならないではないが、まずは良かった。そして容態のよくなった父は、ERのオープンスペースから、同じ救急ではあるが、4人部屋の病室に移った。通常病棟ではないので、面会時は毎回入り口で内側から開けて貰う必要がある。面会時間はやはり短時間に制限されている。
 コオはなるべく、ゆっくりと、なにが父に起こったのかを聞かせた。
 

「ああ・・・気が付いたら、ここだったんだ。全く、覚えてない。」
「莉子が気づいて、救急車呼んだんよ。よかったよ、早く病院にこられて。」
「・・・でも、何日か、とか住所がねぇ、思い出せないんだよ。」
「そりゃね。今は脳出血のせいで、神経回路が知っちゃかめっちゃかなのよ。徐々に回復はすると思う。」

 

コオは、当たり前だよ、といった。

 

 

 仕事始めから1日経ちましたね!!

 

コオの戦争は、RealTimeでは、8050戦争のなかの、

今ようやく1つの大きなステージが終了しつつあるところです。

「ドラマでいう、Next Season」, とKは言ってます。

かなり強烈なのと、恐ろしく濃密な数日間で、記録として書いていったわけですが、

まだ終わらない💦あと3回はかかりそうです。その間、本編の方も随時アップしていきます。

 

最初のBreakで、8050問題は、突然始まるわけではなく、恐ろしく昔から始まっている多くの問題を内包していて、最後に咲く毒花が8050問題だ、といいました。

 現在のカテゴリRealTimeでは、Kの8050問題を複雑なものにしているものの一つ、

精神疾患問題が浮上し、佳境にかかっています。

あくまで現在のカテゴリでは、ですけど。

相変わらず解決を遅くしてるのは行政です。

コロナで忙しい・・・って、コロナがないときに動かなかったからつけが回ってるだけなんですよね、

アリとキリギリスのキリギリスな行政。

 

8050.、低所得、精神疾患、介護問題、どれでも助けを求めたいときは

行政をどれだけ動かせるか、また、どれだけちゃんと動いてくれるスタッフに当たるかにかかっています。

すっげー使えない奴に当たっても、キャバクラみたいに ”チェンジ!!”

って言えないのがつらいですね。