**これまでの話**
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、意識のない父に話かけながら短い面会時間を終えた.長い間断絶していた実家だったが、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考えるコオ。 ひと時、家族のもとに戻り日常に戻ったコオは、父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。 父にかかるお金は母の残したお金を使おうと、コオは考える。
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父が意識を取り戻した。
2日経っていた。いきなり定年前まで勤めていた工場の話をしたり、記憶はかなり不安定で、めちゃくちゃになっているようだが、明瞭に言葉を喋り、一応コオの顔もわかるようだった。父が会社の話を始めるのは、やhり、その時に愛着があったのだろう。ともかく、言語野に出血があったのに言葉に問題がない、しかもどこにも麻痺が見当たらないのは奇跡的だ。妙に丁寧にしゃべる口調は少し気にならないではないが、まずは良かった。そして容態のよくなった父は、ERのオープンスペースから、同じ救急ではあるが、4人部屋の病室に移った。通常病棟ではないので、面会時は毎回入り口で内側から開けて貰う必要がある。面会時間はやはり短時間に制限されている。
コオはなるべく、ゆっくりと、なにが父に起こったのかを聞かせた。
「ああ・・・気が付いたら、ここだったんだ。全く、覚えてない。」
「莉子が気づいて、救急車呼んだんよ。よかったよ、早く病院にこられて。」
「・・・でも、何日か、とか住所がねぇ、思い出せないんだよ。」
「そりゃね。今は脳出血のせいで、神経回路が知っちゃかめっちゃかなのよ。徐々に回復はすると思う。」
コオは、当たり前だよ、といった。

