**これまでの話**
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。
2日後、父が意識を取り戻し、コオは面会して何が起こったのかを語った。
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「パパのね、脳出血は言語野って部分だったの。でもこうやって、ちゃんと話ができてる。すごい。それでね・・・専門家の立場から言わせてもらうけど、話をする、ってことはとっても脳の回復には大事なの。ネズミでさえね、脳梗塞を実験的に起こした後、一匹だけで飼ってるより、複数で飼うほうが、回復が早いの。話すこと。コミュニケーション。これ、すごく回復に大事なの。」
コオは仕事柄、脳についての一通りの知識がある。そしてそれは父も知っている。父は専門性を非常にリスペクトする性だから、こういう話し方をすれば、耳を傾ける。それをコオは知っていた。
(若干大風呂敷だけど、まぁ、大枠あってるからいいでしょ)
そうか、そうかとうなずく父を見ながらコオは思っていた。
面会を終え、「ありがとうございました」 と、病院スタッフに声をかけ、ドアを開けてもらう。病院の看護師が言った。
「お父様、よかったですね。」
「ええ、もうだめかと思ってました。」
「お父様、お名前は、すぐおっしゃれましたよ。住所と日付がまだ、出てこないんですけどね。」
「そうですか。」
それでも、奇跡的だ。亡くなった母は脳梗塞を起こした後、右半身が麻痺した。父はどこも麻痺もないのだ。言葉も問題ない。特に認知症的な症状も今のところ見当たらない。
