*これまでの話**
父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは妹・莉子に頼まれた入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父に万が一のことが起こることを考え、今すべき事のリストをFAXにして莉子に送り、長い1日を終えた。 2日後、父が意識を取り戻し、奇跡的に麻痺も認知も問題なく、コオは面会して何が起こったのかを語った。莉子はコオにFAXではなく電話で折り返してくる。
*******************************************************
「それで…FAXに書いたことなんだけど。パパが意識戻ったし、もう、それほど緊急じゃななくなったのは良かったけど、やっぱり考えておいたほうがいいと思うんだよね。」
「あ、それでね、私、銀行とかに行って色々聞いてこようと思うの。」
「・・・?いや、聞くっていうか、そもそも通帳とかカードとか、パパの名義のものがいくつかあるでしょ?どうなってるの?場所とか・・・印鑑の在り処とか・・・そもそもいくつあるのか、とか。そういう事を莉子が、わかってるか聞きたかったんだけど。あとは証券会社のこともあるだろうけど、それは手が回んないし・・・」
「だからそういうことは私も忙しいからなかなか聞きに行くのも難しいから、折を見て聞きに行くつもりではあるんだけど。」
「・・・? だからそうじゃなくてさ、パパに万が一のことがあったら、考えたくはないけど・・・銀行に行って父が亡くなりました、なんて言ったら、口座凍結されちゃって動かせなくなるんだよ?そしたらこまるでしょう。だからまずは調べておかないと。」
「でも私は一人だし、ほんと私忙しくて、行く暇がないの!」
何かがおかしい、とその時感じた。
子供の頃から、たしかに莉子はひどく頑固で、コオの言うことを聞き入れない、というのはよくあったことだ。
コオはコオでまだ自分のやり方に自信があるときは、何故莉子がまったくそれを理解しないのか、わからない。確かに自分は言葉か足りない説明をする事が多い。職場の女性職員に注意されたこともある。それは、確かにそうなのだが…むしろ、だからこそFAXにしたのだが。遼吾に読んでもらったのもわかりにくくないかのチェックのためで…
「だって銀行は閉まるの3時でしょ?私、本当にもう、信じられないくらい忙しくて…そりゃ、もう朝から晩まで気が休まる暇がないくらい…」
また、始まった。そんなことは聞いてない。銀行に聞きにいく、という返答自体が、コオには理解不能だ。そもそも通帳の在処を知っているか、と聞いているのだから、答えはハイかイイエの2択だろう。一歩譲って今探してるところ、とか。
コオは、ひどくイライラした。いや、イライラ“してしまった”。
この返答から既に莉子の様子はおかしかったのに、コオはいかにも、いつもの莉子らしい、周辺情報から説明を始め、本来コオが求める返事にたどり着くまでに時間がかかる喋り方、としか思わなかったのだ。
