*これまでの話**

父が脳出血で深夜から明け方にかけ、救急搬送された。
コオは父と同居している妹・莉子の代わりに入院手続きを済ませ、今は感情に蓋をして、娘らしいことをしようと考える。父が意識を取り戻しコオは面会をして、思ったより状態がいいことにホッとする。

 父に万が一のことが起こることを考えて、早いうちに莉子に送ったリストへの返信は数日後直接電話でかかってきた。

 

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「もう、じゃあ、勝手にしたら。」

「お姉ちゃんは、冷たいんだよ!あんなに事務的なFAX一枚で…」

 

 キンキンとわめき続ける莉子の声は流れ続けていたが コオは電話を切った。

 

 その後も何回か、莉子との電話のやり取りがあった。しかし、とても有効的な姉妹の会話とは言い難かった。

 平和に終わることなど、まずなかった。

 必ず最後は怒鳴り合いになり、莉子が喋り続けているのを無視してコオが電話を切る。ときにはイライラしたあげく、そのままコオが受話器を叩きつけて切る。逆のこともあった。

 それは恐ろしく不毛な時間で、コオは、吐き気がするほどのイライラした気持ちと、莉子のキンキンとした声しか、もう今は、思い出せない。

 

 「FAXで送ってよ」とコオは直接言ってみたりもした。でも、答えははっきりとは思い出せない。確か、なんでFAXじゃないと、とか直接電話のほうがいいじゃないの、などと、莉子は言ったのだと思う。あるいは例によって、まったく別の答えにならない答え。コオはそこでうっかり、言ってしまったのだ。それは覚えている。

 

 「もう、話すとすぐヒステリー起こすから嫌なんだよ」

 

 途端に、一気にボルテージが上がった莉子のキンキンした声。思い出すと同時に今でもコオは動悸が激しくなる。しかし、もうその声の紡ぐ言葉を聞いたかどうかは思い出せない。

コオは求める答えをほとんど一つも得ることができずイライラしてたし、莉子の声自体がコオの癇に障った。甲高い声で

 

 「だから、お姉ちゃんは、わかってないんだよ!」

 

というのをコオは受話器を耳から遠く外して、やれやれ、というふうに息子たちに向けてみせた。それは、息子たちを自分の味方にしたかったからに他ならない。それが効果があったとも思えないが。腕を一杯に伸ばしても莉子の声はキンキン、と受話器から聞こえてきた。ヒステリー、とコオは思った。昔以上に話が通じない。