************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎたころ、 コオは日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーを受け、してもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受ける準備を始める

 父のことを話したいという莉子と会い、莉子はコオに母の葬式代50万を請求、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。

 莉子からの連絡はなく、コオが父と日々の面会を再び始めた時に、父から

「家の通帳の管理をしてほしい」と頼まれ, コオは引き受け、手続きの準備をする

**************************************

 

 コオは、これ以降ありとあらゆる手続きを、父の代わりに、あるいは父のため、莉子のためにすることになるのだが、常に阻まれてきたのは、【個人情報保護】【本人確認のための、転送不要での送付】だった。

 コオに言わせてみれば『責任を取らないで済むのだったら、虚偽の書類でも受け取るくそ役人』『責任を取るのをあらゆる方法で回避するために、市民を苦しめる市役所のアホども』に比べ、F銀行の対応は、神対応だった。

 F銀行の通帳再発行から始まり、以降、コオは様々な手続きのため、複数の銀行に行くことになる。その中でF銀行は、高齢者への配慮、その家族への配慮は群を抜いていた。しかもコオの行った複数の支店全てで。

 事情を話し、身分証を提示し、父との関係を証明するのはもちろん必要であったが、できる限りの配慮とイレギュラー対応をしてくれたのはF銀行だけだった。

 

 この最初のF銀行支店は、コオの職場に近い(といっても車で30分はかかる)ところにあった。

 印鑑の変更をし、再発行の手続きをした。そして、コオは父が2つの口座を持っていることをこの時知った。

 

「お父様・・・年金を複数持ってらっしゃいますね。」

「ああ、ええ、そう思います。片方は、多分大したことない額です。多分月2万くらい。もう片方が、メインじゃないかと。」

 

 コオは、そこから先をあまり覚えていない。初めてきたF銀行だったので、他の銀行とも一線を画す神対応であることもそのときはわからなかったし、それに比べていかに役所系の対応がクソかも、知らなかった。

 でも、コオの旧姓の通帳は、その場で嶋崎の通帳に作り替え、簡単に動かせないように端数以外は全部定期預金の形にしたのは確かだ。そして、父の通帳の再発行の手続きはしたが、時間がかかる、と多分言われたのだ。何日か立ってから、書類を持ってくるように言われたような気がする。その時は書類をもっていけば、通帳を受け取れると思っていたのだが、そうではなかった。

 そして、この通帳はカギとなり、この時コオの手にわたらなかったことで、長いあいだコオを苦しめることになる。

 

 

************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎたころ、 コオは日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーを受け、してもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受ける準備を始める

 父のことを話したいという莉子と会い、莉子はコオに母の葬式代50万を請求、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。

 莉子からの連絡はなく、コオが父と日々の面会を再び始めた時に、父から

「家の通帳の管理をしてほしい」と頼まれ, コオは引き受けることにする。

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 さて、引き受けたものの、何から始めるべきか?

 コオはコンピューターの前に座った。web上に大概の情報はある。それを引き出すのはどのようなキーワードを選ぶかにかかっている。【検索力】とコオは呼んでいる。今回はそこまで大したことじゃない。でも無駄はしたくないから、考えよう。

 キャッシュカードは、莉子が持っている。それは確認済みだ。彼女は父の年金にぶら下がって生活しているし、母が亡くなった今、カードを日常的に使っているのは莉子だ。コオが使うわけじゃないから、キャッシュカードはどうでもいい。管理するなら必要なのはむしろ通帳だろう。

 父の代理としてやるのだから、委任状が必要。そして、コオが娘であることを示すもの。住民票。印鑑。印鑑が困ったな、とコオは思った。母の残したお金の通帳に使う印鑑、というのは父から渡されているが、それが父の通帳の印鑑かどうかわからない。

 

 「まぁ、どうせF銀行に行くわけだからその時聞いてみるか。」

 

 コオはつぶやいた。母の残したコオ名義の通帳は、旧姓のままだった。コオはそれを今の嶋崎に変えるつもりだった。ついでにキャッシュカードも作りたい。そもそも、いくら入っているのか、通帳がいっぱいになってしまって記帳もできないから、わからないのだ。

 ことはシステマティックに進めた方が、ストレスが少ない。20代の時の失敗と、子供が生まれてからの大量のペーパーワークから、コオは実感としてそれをようやく学んでいた。ノートをひらき必要なもののメモを始める。最初は思いつくままに。次にそれを整理していく。ページが矢印でいっぱいになっていくが気にしない。これが一番コオの頭には整理しやすい。手に入れる順番も書き込む。書類関係になると、すぐにフリーズしてしまうコオの脳には、リストとフローチャートが必須だから、最後に綺麗にまとめなおす。

 

 「よし。まずは書類。住民票とるのに委任状ね・・・委任状のフォーマットは…あ、ダウンロードできるんだ。」

 

 だからネットって好きだ。

 

 「それと私の戸籍抄本、これは問題なし。すぐ取れる。それと、印鑑、一応旧姓のも準備しとこう。」

 

 コオは独り言で確認をしながら、着々と準備を進めた。

 

 

 

 

 

************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎたころ、 コオは日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーを受け、自宅に父が戻ってから介護サービスを受ける準備を始める

 父のことを話したいという莉子と会い、莉子はコオに母の葬式代50万を請求、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。

 莉子からの連絡はなく、コオが父と日々の面会を再び始めた時に、父から

「家の通帳の管理をしてほしい」と頼まれる。

**************************************

 

 コオは、長男の遼太と同じく軽度の発達障害だ、と自分では思っている。書類が苦手で新しいことが苦手で、なによりダメなのはコミュニケーションだ。他の人がやすやすとこなしていく(とコオには見えた)書類仕事が、コオには、一体何からやればいいのかわからない。3人以上人がいるところに行くと、何を話していいかわからなくなり、極端に無口になる。

 

 一人暮らしをはじめてコオが直面したのは、あらゆる支払いの手続き、あらゆる暮らしにまつわる書類業務を伴うシステムを、驚くほど自分は理解していないし、できない、ということだった。実家では父がほとんどすべての書類業務をこなしており、コオはその存在すらわかっていなかった。自分は、年金のシステムも、健康保険のシステムも、全く理解していない、と気づいたときは、コオは健康保険代や年金代を滞納していた。納付できずにいた年金は数年分は結局納付期限が切れてしまい、今も未納分として記録されている。健康保険代も滞納して、そんな時に手術・入院となってしまった時、親や莉子に迷惑をかけた苦い記憶もある。

 

 コオは、見事なまでの実社会に不適応な頭でっかちの、不完全な人間だった。決して、コオは自力ですべてをこなしてきたわけではなかった。特に親に迷惑をかけ、周りに迷惑をかけた20代を経て、それらの愚かな失敗の上に、ようやく今、普通の社会人として、子供の母としてやっていけるようになったのだ、と思っている。

 

 通帳とお金の管理を任せたい、と父に言われたコオは、胸を張って答えた。

 

「任せて。」

 

ここ数日、随分アップしました。

RealTimeのアップの仕方を変えて。1時間だけ公開にし、その後限定記事としてストックしています。いずれ、本編が追いついたら再編集・アップする予定です。

 

本編は、コオの父の脳出血による入院をきっかけに、少しずつ莉子の言動に違和感を覚え始めている、というところです。ついにお金の話が出始め、コオが、自分が使うわけではないのに、何故か莉子と激しく揉めることになります

 やはり、お金というのはいろいろな意味で、病人・健康にもかかわらず、人の心を揺さぶるのかもしれません、

 

 

************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎようかというとき、莉子は姉・コオの夫、遼吾に繰り返し電話をし、会って父の今後を話したい、という。

 コオは全くなじみのなかった日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーをしてもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受けるために必要な事項、介護認定・ケアマネージャーについての準備を一通りしたところで、莉子と会う日になり、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。

莉子はコオに、母の葬式代として50万円渡すようにコオに言う。しかし、「それがあれば安心してレッスンに行ける」という言葉にコオは違和感を覚える。

**************************************

 

 寒い公園にいたせいで、その日からコオは熱を出した。50万円は、遼吾が父と莉子の自宅まで届けた。

 2週間経っても、莉子からケアマネージャーについての連絡はなかった。コオは依然莉子には腹を立てていたし、自分はここまで手はずを整えているのだから、もうこれ以上自分から動く必要はないとも考えていたのもあって、それまでと同じように日々父に会いに行き、短い面会をし、時には父のそばで夕飯が終わるまで父の昔話を聞いた。

 

 「文章を読んでもね、次の文を読んでると前書いてあったことと、結び付けられないんだよ。忘れちゃう、っていうか、解釈できないんだね。」

 

だから文章を読んでも、文字は追えるが、内容が入ってこない、と父は嘆いた。

 

「本を読むっていうのは、しゃべるのとは別だし、脳としては、すごく機能的に複雑なことをやってるんだと思う。だから、そっちの回復はもうちょっと時間がかかると思うな。だから、諦めないで、短い文章読んだりしていったほうが、いいと思う・・・しゃべる方はびっくりするくらい回復してる。やっぱりこうして話ししてるからだと思うよ?」

 

コオはいった。もう一つ、こういうふうに元気に話ができる時に聞いておきたいことがあった。

 

「・・・ところでさ、パパ、一つ聞いておきたいんだ。家のお金のことなんだけど。莉子に聞いてもなんだか要領得なくて、全然わかんないから。でも入院費のこととかもあるから知っておいたほうがいいかなって思って。」

「ああ、それな。頼もうと思ってたんだ。通帳の…お金の管理してほしいんだけれど・・・通帳何だけど、もうなんにもわからなくて、覚えてないんだよ。確か、F銀行だったとおもうんだけど。」

 

 父は言った。

 

 

タイトル及びカテゴリRaalTimeの記事について。 

とりあえず1時間ほど限定で公開して、後限定記事にストックします。

 

このRealTimeタイトルの記事はいずれ本編の後の方に入ってくる予定です。

実録なので、ほぼリアルタイムで起こったことをこのカテゴリ、RealTimeに書きますが、

いずれ、RealTimeに書いた記事は削除し、本編が追いついた時点で、あらためてアップし直します。

 

*********************前回までのRealTime***************

 

莉子が無銭飲食で警察に保護された。

コオはこの機会を入院につなげるため、警察に保健所に連絡を取るように頼む。

コオは行政書士の友人、雪野順子、別れた夫、遼吾と連絡を取り続ける。

保健所の医師の判断で、莉子は2件の精神病院で診察を受け、

自宅のある寿市の隣町、湖町にある極北病院に措置入院した。

この最悪の事態まで動かなかった保健所の職員に、コオは怒りをぶつけた。

 

********************************************************

 

 

 すでに日は落ちていた。

 ポン、と携帯にメッセージが届いた音がした。

 

 『今週締切の書類の手直しできましたか?』

 

 コオは笑いたくなった。警察に莉子が保護され、警察に電話をかけ、保健所につないでもらい病院に入院させる。

 全神経を集中させ、決して警察も保健所も逃さないように食いつき、トータルで・・・10時間のバトル。ようやく、終わったと思ったら仕事?

 

 『明日、送ります』

 

 明日、そんな気力があるかわからない。でも、コオはそう返信をし、ベッドにもぐりこんだ。

 しばらくじっとしていたが、ふと、コオはもう一度携帯を開いた。

 もう一人、知らせなければならない人がいたことを思い出したのだ。

 

 『真子。新年おめでとう。報告したいことがあってメッセージしてます。妹が入院できたよ。去年の春、真子に相談した時に入院するためには診断書を取っとくべき、て聞いておいてよかった。あれから半年以上かかったけど、真子の言う通り準備しておいたおかげで今回は措置入院できた。』

 

 警察官の大和田真子はコオの高校の同級生だ。去年、莉子がタクシ⊸の無賃乗車したことで警察から連絡が来た後に相談をしていた。どうしたら病院に入れらる?という問いに、とても難しい、でもできるのは何としてでも早いうちに精神疾患の診断書を取ること、それを用意しておくことだ、と助言をくれたのだ。

 

 『あけおめ。私は夜勤明けたところだから起きてるよ。大丈夫。確認したよ。何が起きたのか。措置入院できたのね、よかった。』

 『うん、ほんとうによかった。保健所は最悪だったけど。』

 『でしょう?わかる。保健所ってホントダメ。対応遅くてさ。』

 

 真子は何が起こったのか報告書?を見られる立場にいるらしい。

 

 『前話したタクシーの無賃乗車もふたを開ければ、私がしりぬぐいした2回以外も何回もやってたの』

 『まったく!!それで何にもしないんて、家族の身にもなってみろっつーの!!』

 

 真子はポンポンとレスポンスを返してくる。

 

 『措置入院なら公費だしさ。コオが身銭切らなくていいし。医療保護だと家族が払うことになるし、そこそこお金かかるからね。』

 「え?」 

 

 コオは声に出してしまった。お金払わなくていいの?そんな話、一つも保健所から聞いてないけど。

 

 『知らなかった。お金かからないんだ。』

 『そうそう。けど、措置は永遠じゃないから、ここからどうするかだね。多分妹さんの病気、もう直すのは難しいと思う。』

 

 コオは真子の小気味のいいメッセージに少しずつこわばった脳がほぐれていくのを感じていた。

 コオが欲しかったのは、こういう”リアル”だった、ということに気づいた。

 建前。ルール。妄想。そこにリアルはなかった。

  ルールに縛られた警察、建前と言い訳ばかり繰り返す保健所、妄想の中で生活している莉子との10時間近くにわたるバトルはこんなにもコオを疲弊させていたのだ、とコオは実感した。

 

 『私に役に立てることがあったらいつでも言って。同級生なんだから!!』

 『ありがとう、心強い。明けのところ、ありがとう!』

 

 コオは送信した自分のメッセージに、真子がハートマークのリアクションを返してくるのを確認し、ようやく眠りについた。

 

 

************これまでの話********************************

父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎようかというとき、莉子は姉・コオの夫、遼吾に繰り返し電話をし、会って父の今後を話したい、という。

 コオは全くなじみのなかった日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーをしてもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受けるために必要な事項、介護認定・ケアマネージャーを決める件に手を付ける。

 準備を一通りしたところで、莉子と会う日になり、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。

莉子はコオに、母の葬式代として50万円渡すようにコオに言う。

**************************************

 

 「わかった・・・」

 

 しぶしぶうなずたコオを見ずに莉子は言った。

 

 「それがあれば、私も安心してレッスンに行けるし。」

 

 レッスン?

 またレッスンだ。父が緊急搬送されたその日も、莉子は、私はレッスンだから入院手続きをやって、とコオに電話をかけてきた。

 レッスン。父から、莉子がパイプオルガンを始めたのは聞いている。しかし・・・

 何かがちぐはぐで、しっくりしない。

 しかし、この時コオはやはり、母の葬式にお金を出していなかったのが後ろめたかったのかもしれない。母の残したお金とはいえ、50万という大金をすぐ払うことに決め、深く考えずに早く帰ることばかり考えていたのだから。

 

 今思えば、母の葬式のときのことから莉子の行動は色々おかしな事はあった、と思う。

 コオの母は自宅で亡くなった。その時、何故か、父は葬儀会社との打ち合わせに同居の娘の莉子ではなく遼吾を連れて行った。コオはコオ自身の職場の同僚、職場の制度的なもの、それに加え、響子をはじめとする、数名の親しい友人からお香典をいただき、それら全てを遼吾を介して莉子に渡した。

 しかし、あの時、それに対して、挨拶のはがきも、香典返しもなかったのだ。だから、コオは、自分で香典返しを用意して挨拶をして、配って歩いた。今考えると、それだけでも奇妙だった。そして、あとになって分かったのだが、母の葬式の時に参列してくれた、親せきたちにも、一向に香典返しや挨拶のはがきが送られることがなかったらしい。そういう事務処理を莉子に任せていた父は、母の一番うえの兄から知らされて、初めてそれを知った。莉子はその叔父にかなりこっぴどく叱られ、ようやく香典返しを郵送したらしい。

 

 莉子の病気の兆候は、その時はとっくに現れていたのだ。

 しかし、父も母もまったく莉子の病気を認めていず、ましてや、長いこと連絡を絶っていたコオが知る由もなかった。

 ただ、違和感だけが、少しずつ、少しずつおおきくなっていた。