************これまでの話********************************
父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎようかというとき、莉子は姉・コオの夫、遼吾に繰り返し電話をし、会って父の今後を話したい、という。
コオは全くなじみのなかった日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーをしてもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受けるために必要な事項、介護認定・ケアマネージャーについての準備を一通りしたところで、莉子と会う日になり、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。
莉子はコオに、母の葬式代として50万円渡すようにコオに言う。しかし、「それがあれば安心してレッスンに行ける」という言葉にコオは違和感を覚える。
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寒い公園にいたせいで、その日からコオは熱を出した。50万円は、遼吾が父と莉子の自宅まで届けた。
2週間経っても、莉子からケアマネージャーについての連絡はなかった。コオは依然莉子には腹を立てていたし、自分はここまで手はずを整えているのだから、もうこれ以上自分から動く必要はないとも考えていたのもあって、それまでと同じように日々父に会いに行き、短い面会をし、時には父のそばで夕飯が終わるまで父の昔話を聞いた。
「文章を読んでもね、次の文を読んでると前書いてあったことと、結び付けられないんだよ。忘れちゃう、っていうか、解釈できないんだね。」
だから文章を読んでも、文字は追えるが、内容が入ってこない、と父は嘆いた。
「本を読むっていうのは、しゃべるのとは別だし、脳としては、すごく機能的に複雑なことをやってるんだと思う。だから、そっちの回復はもうちょっと時間がかかると思うな。だから、諦めないで、短い文章読んだりしていったほうが、いいと思う・・・しゃべる方はびっくりするくらい回復してる。やっぱりこうして話ししてるからだと思うよ?」
コオはいった。もう一つ、こういうふうに元気に話ができる時に聞いておきたいことがあった。
「・・・ところでさ、パパ、一つ聞いておきたいんだ。家のお金のことなんだけど。莉子に聞いてもなんだか要領得なくて、全然わかんないから。でも入院費のこととかもあるから知っておいたほうがいいかなって思って。」
「ああ、それな。頼もうと思ってたんだ。通帳の…お金の管理してほしいんだけれど・・・通帳何だけど、もうなんにもわからなくて、覚えてないんだよ。確か、F銀行だったとおもうんだけど。」
父は言った。