************これまでの話********************************
父が脳出血で救急搬送された。2日後、意識を取り戻しERから別病院に転院し、実家と連絡を絶っていた娘のコオは仕事帰りの面会で父との短いが穏やかな時間を送る。
一方父と同居のコオの妹、莉子はコオと、会話が食い違い険悪な状況が続く。1ヶ月が過ぎたころ、 コオは日本の”介護システム”について、友人・響子にレクチャーを受け、してもらい、自宅に父が戻ってから介護サービスを受ける準備を始める
父のことを話したいという莉子と会い、莉子はコオに母の葬式代50万を請求、コオは、父の希望する母の時同じケアマネージャーに連絡を取るように莉子に言う。
莉子からの連絡はなく、コオが父と日々の面会を再び始めた時に、父から
「家の通帳の管理をしてほしい」と頼まれ, コオは引き受けることにする。
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さて、引き受けたものの、何から始めるべきか?
コオはコンピューターの前に座った。web上に大概の情報はある。それを引き出すのはどのようなキーワードを選ぶかにかかっている。【検索力】とコオは呼んでいる。今回はそこまで大したことじゃない。でも無駄はしたくないから、考えよう。
キャッシュカードは、莉子が持っている。それは確認済みだ。彼女は父の年金にぶら下がって生活しているし、母が亡くなった今、カードを日常的に使っているのは莉子だ。コオが使うわけじゃないから、キャッシュカードはどうでもいい。管理するなら必要なのはむしろ通帳だろう。
父の代理としてやるのだから、委任状が必要。そして、コオが娘であることを示すもの。住民票。印鑑。印鑑が困ったな、とコオは思った。母の残したお金の通帳に使う印鑑、というのは父から渡されているが、それが父の通帳の印鑑かどうかわからない。
「まぁ、どうせF銀行に行くわけだからその時聞いてみるか。」
コオはつぶやいた。母の残したコオ名義の通帳は、旧姓のままだった。コオはそれを今の嶋崎に変えるつもりだった。ついでにキャッシュカードも作りたい。そもそも、いくら入っているのか、通帳がいっぱいになってしまって記帳もできないから、わからないのだ。
ことはシステマティックに進めた方が、ストレスが少ない。20代の時の失敗と、子供が生まれてからの大量のペーパーワークから、コオは実感としてそれをようやく学んでいた。ノートをひらき必要なもののメモを始める。最初は思いつくままに。次にそれを整理していく。ページが矢印でいっぱいになっていくが気にしない。これが一番コオの頭には整理しやすい。手に入れる順番も書き込む。書類関係になると、すぐにフリーズしてしまうコオの脳には、リストとフローチャートが必須だから、最後に綺麗にまとめなおす。
「よし。まずは書類。住民票とるのに委任状ね・・・委任状のフォーマットは…あ、ダウンロードできるんだ。」
だからネットって好きだ。
「それと私の戸籍抄本、これは問題なし。すぐ取れる。それと、印鑑、一応旧姓のも準備しとこう。」
コオは独り言で確認をしながら、着々と準備を進めた。
