これまでの話、Battle Day0-Day86 のあらすじは、以下のリンクをご覧ください、

あらすじ BattleDay0-Day86

 

*******Day86以降・前回までの話*********
 
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。

 ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。そしてケアマネージャーと相談し、莉子にケアプログラムを提案するために出かける。

莉子は、外で父と話したい、といったコオを拒否し、ドアの内側に閉じこもるが、コオは庭側から父に声をかける。

莉子は、コオを追い出そうとするが、コオは父に話がある、と伝える。

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 いったい、莉子はどうしたんだろう?気が変になってるとしか思えない。

 玄関に回ってからコオはあらためて、外の車の中で話そう、と父に言った。 もう、莉子の方は見なかった。それは、父に用があってきたのであって、莉子にではない、という意思表示でもあった。目の色が変わってしまった莉子は恐ろしくて、見たくなかったのもある。

 

 「パパ、行っちゃダメ!!行っちゃだめ!!行くならパパを殺して私も死ぬ!!」

 

狂ったように叫ぶ莉子を遠くから眺めるような目でみてから、父は、コオに視線を移すと

 

 「お姉ちゃん、ここで、玄関で話してくれないか?」

 

といった。わかった、ドアは少し開けとくね、とコオは言った気がする。

 

 「うん、パパ・・・あのね、私、色々、計算したの。」

 「私ここで見張ってるからね!!介護する気のない人に来てほしくなんてない!!」

 

 莉子がわめく

 

 「パパは・・・すごく順調に回復してたから、これを続けた方がいい。続けないと、機能は逆に保てない。だから、入浴だけじゃなくて・・・」

 「お姉ちゃんはいいよね!!お母さんのお金もらって!!それ自由に使って!!」

 

 莉子がわめく。わめく。わめく。 

 

 「それで、こういうケアプログラムを、考えてみたの・・・」

 「どれみせてくれ。」

 「介護する気のない人に関わってほしくない!お金なんていらない!!でてって!!ほんと、お姉ちゃんが人とうまくやっていけない理由がわかるわ!!ほんとに人の気持ちがわからなくて・・・最低!!」

 

 コオはもう眩暈がしていた。早くこの場からいなくなりたかった。

 実家は嫌いだった。

 嫌いだったけれど、母が恋しかった。結婚して子供が生まれて、母と今度こそ、同じ”母”という立場で話ができると期待した。お母さんがいつも私のことを”だめだ”と言っていた人間関係も、頑張って頑張って、ちゃんと仲良くできるようにしたんだよ。

今はいっぱい友達が・・・いて。助けてくれた・・・

 私はお母さんが言ってたみたいにちゃんと自分で生きてけるような、仕事にも、ついた・・・なのに

 

 母がとりついた莉子が母の言葉で私を責める。

 莉子のむこうに母が透けて見える。莉子は・・・母の援護を受けて、私を攻撃してるんだ。

 

  私は・・・何故、ここでこんな風にののしられているんだろう?

 

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父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。

 ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。そしてケアマネージャーと相談し、莉子にケアプログラムを提案するために出かける。

莉子は、外で父と話したい、といったコオを拒否し、ドアの内側に閉じこもるが、コオは庭側から父に声をかける。

莉子が、叫び始めた。

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 莉子が、叫び始めた。

 

「帰って。帰ってよ。警察呼ぶよ!」

「パパがそういうならね。ここはパパの家であんたの家じゃないでしょ。」

「介護する気のない人になんて来てほしくないの!」

 

 父の面会に何度通ったか知らない癖に、と言いたかった。病院の看護師にも、父にも、莉子は2週間に一度あるいは10日に一度しか来ない、というのを聞いていたから。でも言わなかった。

 ただ、冷静でいたいと思っていたが莉子に冷静ではいられなかった。でもそれよりも莉子から離れたかった。キンキンという耳障りな声を聴きたくない。何よりも父にこんなところを見せたくはなかった。入院中も、コオは父には莉子と意思疎通ができず険悪なことは言わずにいたのだ。

 だから、車で話すつもりだったのに。

 

「パパ、外で、話そう。車持ってきてるから。」

「ああ、とりあえず、玄関に回りなさい。」

「莉子が閉めちゃって、開けてくれないからさ。」

「開けさせるよ。だから玄関に。」

 

 父は、アーガイル模様のセーターを着ていて、思ったよりも元気そうに見えた。よかった。これなら車まで連れて行くのもなんとかなりそう。父がそういうなら玄関は開くのだろう。コオは、ケアプログラムをメモしたノートと、ボールペンを持ち直して、もう一度、庭から玄関に回った。まだ、この時点でも、コオはお母さんの残してくれたお金を使う、と言えば、莉子は沈静化するだろう、と思っていた。

 お姉ちゃん助けてくれる、と莉子がわかる、と思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

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父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。

 ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだが、自分たち家族だけが楽しんだことにコオは罪悪感を覚える。そしてケアマネージャーと相談し、莉子にケアプログラムを提案するために出かける。

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 遼吾が、一緒に行こうか、といったが、首を振った。でも、車の運転してくれたら助かる。多分、莉子と会った後は、車の運転するの、私危ないと思うから。遼吾は、実家のそばの駐車場に車止めておくから、と言って、コオを門の前でおろした。

 

 チャイムを押す。

 莉子が、玄関のドアを細く開けて顔を出した。あまり髪を整え切ってない、化粧も多分していないようだった。もっとも、コオはいつもの通り化粧はしてないし、髪が縮毛でいうことを聞かないのは姉妹で同じだ。莉子の髪はずいぶん茶色いな、脱色でもしてるのか、とコオは思った。

 「・・・話なら家の中でして。」

 「今日はパパに用があるの。車で話はできるから、パパに出てきてほしい。」

 

 扉はバタンとしまった。そして、コオがたたいても、チャイムを押しても、もう莉子は顔を出さない。

 最初から戦闘モードか。まぁ、それは私も同じだ。

 コオは庭側に回ることにした。

 実家は、子供のころから玄関が閉まっていたら庭に回って、リビングの隣の6畳の部屋の掃き出し窓から入る習慣だった。その部屋は、母の介護ベッドがおいてあり、今も同じだろう。体の大きな父はサイズの大きなインテリアを好んだ。大きなソファのセットと、テーブル、そして莉子のグランドピアノが、リビングの真ん中に陣取っていた。

 母のなくなる間際に、10何年ぶりに実家に足を踏み入れたコオは、驚いた。母が車いすになっても、リビングは変わっていなかったからだ。母がダイニングテーブルから、介護ベッドに移動するのに、いちいちソファを動かさないと進めない。

 この人たちは、時が止まっている。いや、部屋を変えなければ、時も止まる、と思っているのかもしれない、とその時コオは思った。

 

 だから、掃き出し窓の鍵も、必ず開けたままのはずだ。

 コオはふすまで中が見えなかったが、勢いよく、窓を開けた。ほとんど同時にふすまも開ける。

 

 「おお、お前か」

 「パパ、久しぶり。今日話があってきたの。車持ってきてるから、外で話しできるかな。」

 

 莉子が、叫び始めた。

 

 

 

 

 

 

 

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*******Day86以降・前回までの話*********
 
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。

 ゴールデンウイークはコオの長男・遼太が帰省してくることになり、コオ達家族は1泊の短い家族旅行を楽しんだのだった。
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 罪悪感が少しあった、というのが正直なところだった。

 コオ達家族の4人の1泊のミニ家族旅行があまりにも楽しかったから。

 父と莉子が二人であの日当たりの悪い実家にいる。先の決まっていない状態で。

 だから、コオは旅行から帰った日に、すぐ、決まっていなかったケアプログラムがどうなったのか聞くためにケアマネージャーのの立石に連絡をとった。

 

 「ああ、お姉さん?お父様は一応体験入浴はされました。それから、主治医はやっぱり決まってません。」

 「それで、父の様子はどうでしょう。」

 

 立石は父自身の希望を聞けないのだ、といった。常に莉子が自分を通して話をしてくれ、というらしい。そして、父と立石を二人には絶対しないのだという。そして、ともかく「父は、他人がいると頑張ってしまうんです、本当は全然、しっかりなんてしてないんです。」と、強調するのだ、とも言った。

 

 「病院にいたときから・・・妹はそうでした。」

 

コオは何度も自分にも”パパはもう、昔と違うの”と繰り返した莉子を思い出した。

 

「私は・・・長いこと家とは音信不通だったので、むしろ倒れた時点がスタートで・・・それから父が回復していく様子を、ずっと見てました。でも、妹の基準は常に・・・父が現役の時にあるのかもしれません。」

 

  コオは、この3ヶ月、父が回復していったのを感じていた。それが嬉しくて、父のところに通った。でも、リハビリなしでは回復は止まってしまう、いや、むしろ悪くなっていくだろう。

 

 「お願いします。私の希望を言それを・・・妹にも提案していただいているんですよね?ただ、決定できてないだけで。」

 「ええ。お金の方はお姉さんが助けてくださるみたいですよ、と申し上げたんですけどねぇ。」

 「リハビリ・・・多ければ多いほどいいのに。」

 「莉子さんが、お父さんは無理だと。」

 「いえ、ですから、立石さんから見て、プロの目から見て父は無理だと思われますか?」

 「私から見ても、お父さんはかなりしっかりされていると思いますけどね・・・」

 

 立石との約束は、コオの意見が莉子と合わなかったとき、決してコオの意見を通さない、キーパーソンとしての莉子を優先する、ということだった。ただ、コオとしては、莉子が決めかねているときは、プロとしての提案をしてほしかった。それがコオの意見とはちがうならそれは仕方ない。でも。

 

 「わかりました。では、これからの提案ということで、私も、妹と1度話してみます。でも、立石さんが次の妹と会った時に、立石さんのプロとしての提案があっても、それでも妹自身がゆずれない希望があるようでしたらそちら優先でいいです。」

 

 コオは言った。

 そして、次の日、実家に向かった。

 

 

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*******Day86以降・前回までの話*********
 
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをした。

 ゴールデンウイークを前に、コオは帰省してくる長男・遼太のことを想う。 
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 ゴールデンウィークは、せっかくだから、家族旅行をしよう、ということになった。

 コオも遼吾も仕事が忙しかったし、たまの休みも、今まで遼太や健弥のクラブ活動で一緒に出かけられることは殆どなかった。

 どこに行く?鎌倉にしようか?

 自転車借りれば色々楽に回れるよ!!

 泊まるところはこれくらいの予算でどう?

 晴れるといいな

 俺はこの鳥居がずーっと並んでるところに行ってみたい

 

 4人の間でメッセージが行き交い、わずか一泊のみの家族旅行はあっという間に決まった。

 

 いまでもあの時を思うとコオは泣きたくなる。

 あんなに楽しかったのに。

 たった2ヶ月で驚くほどしっかりして見えた遼太。

 4人で自転車でまわった鎌倉も、4人でカプセルベッドの宿にとまって、なかなか見れなかったテレビドラマを一緒に見て。晩御飯を食べるところを探してウロウロして。ゴージャスではなかったけれど、自分たちらしくて、無理もなくて楽しい観光だ、とコオは思っていた。

 次の日には江ノ島まで足を伸ばした。いつもぶすっとしている思春期の健弥も小さいことに戻ったようで、コオは本当に幸せだった。

 遼太は、水族館で、大きなカワウソのぬいぐるみに年甲斐もなく引き寄せられてるコオに、「この一回り小さいやつなら、俺が母さんにあげるよ」 と言って買ってくれたりしたのだ。

 

 あんなに楽しかった。

 あんなに4人で仲良く、…幸せだった。幸せだったのに。

 

 旅行から戻った次の日に、それは起こった。

 

 

 

 

 

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*******Day86以降・前回までの話*********
 
父が退院した。コオは、父の退院後ケアマネージャー立石と連絡を取り、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に短期入所していたことを知る。更に立石は莉子が父の自宅介護で必要なことを自分で決定できず、困っていることをコオに伝える。コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。莉子をキーパーソンとする大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始め、コオは父の自宅介護に必要な金額の見積もりをする
 
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 ゴールデンウィークは、地方の国立大学に入学したばかりの遼太が早々と帰省をしてきた。コオとしては、せっかくの大学生生活最初の長期休みに、一人暮らしを始めたばかりでまさか帰ってきたい、と遼太が言うとは予想外だったのだが。

  相変わらず、軽度発達障害の遼太はあまり人との関係を結ぶのが、うまくいかないってないのではないだろうか・・・コオは心配だったが、自分の問題を自分で解決できるように一人暮らしさせているのだから、気にしてはいけないのだとコオ自身に言い聞かせた。まぁ、それでもきついと思って帰りたい、と思うのなら黙って迎えてやろうとも思った。

 自分が一人暮らしを始めたとき、親がむやみに帰ってこないのか、というのもうっとおしかったし、でも、苦しい時には何故帰ってきていいよ、と言ってくれないのか、と勝手なことを思っていた。だから、コオの結論としては、子供が帰ってきたいといえば、いいよ、と言って迎えてあげればいい、というものだった。長期の休みで戻ってくる気配がなければ、今度の休みはどうするの?そっちにいるの?帰ってくる?と聞けばいい。あくまでも自分で決めさせる。

 莉子とのここしばらくの確執で、コオと遼吾の方針は、夫婦で一致するようになっていた。

 

 鉄は熱いうちに打て。子供はなるべく早く一人暮らしをさせて、一人で暮らすということがどういうことか学ぶべきだ。そして、自分の問題に自分で対処できるように、自分を鍛えていく。それは早ければ早いほどいい。特に遼太のような軽度発達障害があれば、人より学ぶのは時間もかかるし、失敗も多いだろう。だからこそ、今、手放さければ。もう心配ない、というところまでなんて待ってはいられない。だって、いくら心配しても親はいつまでも子供のことが心配で有り続けるのだから・・・・

 それがコオと遼吾の結論だった。

 親に甘やかされ続け、甘えることを許され続け、守ら続けてきた莉子は、精神的にも経済的にも全く自立していないことは、ずっと前からうっすらとわかっていた。しかし、父が倒れるまではそれは、コオが、親から距離を起きたいと思う理由でしかなかった。莉子ばかり、莉子ばかりだ、と。

 でも、今は、その莉子のぬるい人生がどろりとコオにのしかかり、コオと遼吾は二人の子供の親として、コオの両親の莉子の育て方は、間違っていたのだ、と思っていた。間違っていたし、そこにのっかったままでいた莉子も間違っている。

  

 だからコオと遼吾は話し合った。

 自分たちの子育ての最終目標は一人で暮らしていける大人に育て上げること。

 

 この目標にむかって二人で歩いていける。そう思っていた。

 

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*******Day86以降・前回までの話*********

 

父が退院した。コオは、父の退院後の様子を知るため、ケアマネージャー立石と連絡を取る。

そこでコオは父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に2週間の短期入所していたことを知る。

更に立石は莉子がケアプログラムを決定できないのでサービスを開始できないこと、主治医も決定していない

などトラブルをコオに伝える。

コオは今後自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。

大前提を先に明確にしたうえでの連携は機能し始めた

 

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  ベッドレンタル。風呂のみの介護サービス、半日のデイケアと丸一日のデイケア。

 コオは考え続けた。父は話をすることで回復してきたように思う。だから、これを途切れさせないためには、丸一日のデイケアが必要だろう。風呂はそれに合わせて2回から3回。いきなりデイケアを3回はきついだろうから、1回から2回くらいから始めるのがいい。父は昔から規則正しく何かをやるのが好きだから、習慣になれば機械のようにそれを実行していくだろう。

 コオは、父の、要介護度2の状態で月に使える介護サービスのほぼ上限までを書き出し、その料金を計算した。そしてそれを少し削ってみた。デイケアはまずは1回か2回.入浴だけの半日サービスを1回か2回.介護ベッド。

 母の残したお金を使ったとしても、この金額なら5年は行けるはずだ。病院などの突発的な事態があっても、それは莉子とコオが支払いをしていけば払えないことはないだろう。高額医療費の申請をすれば、ある程度は戻ってくるし、父だって、たくわえがゼロということはないはずだ。定年時はまがりなりにも会社の工場のトップだったはずだし、家は持ち家だ。旅行やお金のかかる趣味もない。

 ただ、気がかりなのは年金額が不明なことだ。月々の父の収入はおそらく年金だけのはずだ。父は証券会社に口座を持っており、株をやっていた。病院にいる間に、何とか聞き出したところでは、父は、もちろんもう株を売り買いできる状態ではないし、そもそも株そのものは、入院した時点ですでに売ってしまっていて、もうほとんど持ってない、と言った。それでも、一度はコオの夫、遼吾に、証券会社の口座の管理を頼みたい、とも言っていた。しかし、あとからまたもや莉子が、自分に管理させてくれ、と言ってきたのだが。

 いずれにしても、株からの収入はおそらくゼロと考えていいだろう。メインの月々の収入は年金。そして、大した額ではないだろうが、莉子のバイト代が、深谷家の月の収入すべてのはずだった。

 その中から、光熱費、医療保険、固定資産税、住民税が固定で出ていく。莉子の分の年金もそうだ。健康保険は父の扶養に入っているだろう。

 

 この時点でコオが間違えていたのは、莉子は健康保険は父の扶養に入っているのではなかったということだ。父はすでに75歳を超えており、後期高齢者医療保険という別制度の枠組みに入っていた。これは国民健康保険とは全く異なる枠組みで個人の枠なので、必然的に莉子は莉子個人で国民健康保険に加入している必要があった。

 

 「小さいお金じゃないのは確かだけどさ・・・」

 

遼吾はコオがノートに計算をしているのを覗き込んだ。

 

 「この歳になって・・・緊急の時に出さえ、まとまったお金が出てこないっていうのは、悲しいよな・・・」

 

もちろんそれはコオ達家族の事ではなく、莉子の事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このブログは小説の体裁をとっており、物書きの私Greerが文責ですが、

実際に戦っているのはK(コオのモデル)です。

合作なので、コオこと、Kへのメッセージも承っております・・・どうぞよろしくお願いします。

 

ここまでのDay87までで、コオの家族はどこの家族にもあるような困難はあったものの

共働き世帯だけど、経済状態は多分ごく普通。

仕事時間はブラック企業並みだが、夫婦ともにあまり気にしてない

息子二人は問題がゼロではないがそこそこやってる

という、まぁ基本的には”いいんでない?”的な家族です。

 

コオの幼少時代の、姉妹格差、コミュニケーション障害だって、どこの家庭にもあるような困難だったのかもしれません。

今もそれが暗い影を落としていますが、コオはそれを過去のものとして封印して、

今の家族との生活を生きていました。

けれど、父親が倒れ、妹が連絡してきたことでその過去は再び息を吹き返し、

その瘴気がコオ自身とコオの平和だった家族を一気に食い荒らしていくのが次の話になります。

 

けれど、ある意味コオ今の家族は強靭です。家族メンバーはあまり影響を受けていないようにみえます。

それは、コオが守ろうとしたからかもしれないし、コオの夫・遼吾が頑張ったからかもしれません。

ただ、おそらくブラックホールを抱えたコオだけは、瘴気に容易に食い荒らされて行く

コオがボロボロになっていき、そのなかで彼女を食い荒らす瘴気に対処していこうとする戦いがつづきます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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*******Day86以降・前回までの話*********

 

父が退院した。コオは、父の退院後の様子を知るため、ケアマネージャー立石と連絡を取る。

そこでコオは父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に2週間の短期入所していたこと、を知る

更に立石は、莉子がケアプログラムを決定できないのでサービスを受けることもできない、主治医も決定していない

等のトラブルをコオに伝える。コオは自分の提案を、立石がプロとして莉子に提案してくれるように依頼する。

 

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 電話を切る前に立石は、週末が明けたら、介護ベッドを運び込む予定は決まっていることと、月末に、体験サービスで父が入浴ができることを伝えてくれていた。それが終わってまだ莉子が何も決められないようなら、コオとまた相談することになった。

 立石と話している最中に、ほぼコオの心が決まっていた。

 

 基本的に自分は表に出ない。

 立石さんとの連絡を密にして、状況を把握し、莉子が決めるべきことを決めていなければ、

 自分が基本ラインを決める。

 入浴サービスの回数。リハビリ。デイケアサービス。

 そして莉子に提案してもらう。

 すべてこの流れで進めるようにすれば、莉子との摩擦は最小限で済むはずだ。

 

 連休が明けたら、再度立石さんと連絡を取ってどうなったか聞いてみよう、とコオは思った。

 

 コオが影で動き、立石が提案の形で莉子に伝えるこのシステムは、この後ほぼ2か月間かなりうまく機能するようになる。

 コオは立石を通して、父の様子を把握し、やるべきことを決定し、立石に依頼する。立石も、いつまでたっても決まらないことでイライラするのを減らせたのではないか、とはコオは思っている。また、コオの父は、この後、再度入院することになるのだが、父の体の異変に、早めに対処できたのも、コオと立石がこの流れの中でうまく動けたせいだろう。

 いずれにしても、立石というケアマネージャーが、コオに非常に協力的にうごいてくれた、とコオは今でも感謝をしている。

 もちろん、そのためにコオが最初に大前提として、《キーパーソンは妹であることは間違いない》、《私は提案するが、それがキーパーソンの妹の意見と食い違うのなら妹を優先する》、《プロとしての意見を尊重し、それによって何か起こっても責任は問わない.》などの事項を明確にしたのは、必要な事であっただろうし、それがあったからコオと立石の連携はうまく動いたのだろう。

 

 影として動く。

 立石と協力体制にあった2か月の間、一度だけ、コオはこれを破った。

 ただ一度。

 それはいくら後悔しても取り返しのつかないことだ。

 なぜなら、コオが表に出てしまったあの日を境に、コオと遼吾、遼太、建弥の家族は崩壊していったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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*******Day86以降・前回までの話*********

 

父が退院した。自分の家族と仕事で忙殺されていたコオは、父の退院後、父の様子をうかがうために、ケアマネージャー立石と連絡を取る。そこではじめて、コオは、父が退院後すぐ自宅に戻ることはなく、老人保健施設に2週間の短期入所していたことを知った。

更に立石は、莉子がケアプログラムを決定できず、父が1週間の間、入浴サービスを受けることもできていない、こと、本来決まっているべき主治医も決定していないことをコオに伝える

 

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 すこしずつ色々なことがつながってきたような気がした。

 

 「いちおう、今まだ病院からもらってあったお薬が残ってるようなので、差し迫ったものではないんですが…」

 

と立石は付け加えた。

 

 「連休明けには、と思ってるんです。主治医も、ケアプログラムも。今は介護ベッドだけは入れてる状態ですね。」

 「デイケアとかに行って、リハビリするのは。」

 「それも、ケアプログラムがきまって、莉子さんがうん、と言ってくださらないと、進まないんです。」

 

 コオはため息をついた。

 

 「・・・わかりました。あのですね、プロの目から見て、どれくらいの入浴頻度、っていうのが普通ですか?父のような容態の場合。」

 「そうですね、2回から、3回でしょうか。できれば3回。」

 「でしたら、それを、立石さんが妹にこれで行くのがスタンダードです、これで行きましょう、と提案してもらえませんか?業者も含めて。」

 「え・・・っ。でも、莉子さんが反対したら。キーパーソンはあくまで莉子さんです。お二人が違う意見を言われたら私たちは。」

 

立石が急に警戒モードに入ったのにコオは気づいた。コオはその答えも、もう用意してあった。

 

 「ええ、妹はキーパーソンです。意見が食い違ったら、妹を優先してくださって構いません。私の意見を通す気は全くないです。安心してください。でも、今、彼女は何も決められない状態です。ただ、私が決めれば、私が決めたというだけで彼女は反発するでしょう。ですから、私がこうしたいという内容が、立石さんのプロの目から見て、妥当なものでしたら、それを立石さんのプロとしての提案、という形で妹に言ってほしいんです。」

 「なるほど・・・でもそれじゃお姉さまが。」

 「私はどうでもいいです。父が穏やかに過ごしていけるなら別に。ともかく、選択権を全部彼女に与えると、結果的に彼女は何もやらない。選べないんです。でも、立石さんがプロとして、これこれを提案します、他に特にご希望がないようでしたら、これがいいと思います、という形にすれば、彼女は聞くと思います。」

 「・・・わかりました。また、ご連絡いただけますか?」

 

 もちろんだ、と言ってコオは電話を切った。

 あらゆる場面において、選択をする、ということには責任が伴う。自分の事であれ、他人の事であれ。莉子は、責任を取ることを回避しているのではないだろうか、とコオは思った。でも、それは立石もある意味、同じであるようにも思えた。

 顧客に、”あなたが進めたからでしょ”と後で文句を言われたときに、責任を取らないで済むための。

 いや、そこまで言うのは酷かもしれないが、責任を取りたくない二人がいくら話をしても事態は進まないだろう、と思った。