LTV理論は「商いは牛のよだれ」ということでもある | がいちのぶろぐ

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昨日配信されていたダイヤモンド・オンライン誌に、「『いきなり!ステーキ』苦境極まる、LTV理論で救済策を指摘する」という、新山勝利氏というマーケティング・コンサルタントの方が書かれた記事があった。

 

 

 

私は「いきなり!ステーキ」という店があることは知っているが、当初はステーキの〝立ち食い〟で回転を上げる営業スタイルで、急激に伸びた店だというくらいしか知らない。

 

もう少し言えば、牛肉を部位ごとに1gいくらという価格設定にして、お客が注文するグラム数に合わせてカットして焼き上げる、ということも何かで読んだことがある。

 

 

 

ただし行ったこともなければ、前を通った記憶すらない。そもそも間もなく後期高齢者という歳になれば、そこまでして牛肉をガッツクほどの体力・気力もない。

 

だから、このチェーン店が苦境になろうと、私がそれで何か困ることがあるかと言えば、まったくない。だからどちらでも良い話である。

 

ただ、新山氏の記事のタイトルにあった「LTV理論で救済策を指摘する」という部分に、興味を覚えたので読んでみた。

 

まず「マーケティングの『LTV』(Lifetime Value)とは『顧客生涯価値』、つまり『顧客から生涯にわたって得られる利益』のことである」と、新山氏は説明されていた。

 

顧客がそのブランドに対して生涯を賭けて支払ってくれる結果、その顧客によってもたらされる利益を「顧客生涯価値」と呼ぶ。これは、マーケティングの教科書にも載っている。

 

その最もよくわかる事例として、「LTVの例としてよく取り上げられるのは、航空会社のマイレージ制度」であるという。

 

「利用すればするほど会員のマイレージのランクが上がり、特典サービスが向上していく仕組みである。これによって顧客を囲い込む」というシステムになっている。

 

顧客がより上位の特典サービスを得たいと思えば、その航空会社から離れられないことになる。

 

私もキャリーバッグの名札代わりに、息子からもらった「ANA SUPER FLYERS」という金属製のタグを着けていた。

 

 

 

そうしたところ、ある時、飛行機に乗ろうと思ったら、グランドホステス(と、今も言うのかしら)の方から、とても大切に扱われそうになった。

 

「これは息子からもらったので、私はそんな人間ではありません」と、あわてて打ち消したけれど、先方は笑って「では、息子さんにありがとうとお伝えください」と言っていた。

 

要は〝リピーター囲い込み大作戦〟という意味だ。だから「いきなり!ステーキ」もお客が店に来れば、「注文した肉の『グラム数』に応じてポイントが加算される『肉マイレージ』」というサービスを行ってきた。

 

 

 

しかしこの間、売上げが大きく前年割れをしている状況で、「『来店数』に応じてポイントが加算される、目先の新規客狙いの制度へとシフトし、既存の優良顧客にとっては制度の条件改悪」になった、と指摘されていた。

 

毎回たくさん食べてくれる客と、回数多く来てくれる客の、どちらが店にとって良い客かという〝天秤〟の問題である。

 

どちらもリピーターであり、どちらも大事な客だけど、今まで「肉マイレージ」でポイントを溜めて来た客にとって、新しい制度では今までのポイントが〝チャラ〟になる。

 

 

 

だから「今回の制度改悪によって、既存顧客が周囲に否定的な印象を言いふらすことで悪い口コミ効果が起こってしまう。そうなると新規顧客が増えるはずがない」ということすら考えられるのだ。

 

新山氏は「マーケティングにおける『15の法則』とは、新規顧客に販売するコストは、既存顧客に対して5倍かかる」という意味だと述べられる。

 

それくらい、新規顧客を開拓するのは難しいということだ。既存客を丁寧に扱って、リピート回数を増やしてもらう方がコストは少なくて済む、ということだ。

 

だから「いきなり!ステーキ」も、「中長期的な視点でロイヤルティーが高い顧客を維持し、顧客との関係性を構築する施策を続けていなければ、企業の存続は危ぶまれる」と言われる。

 

「今はコロナ禍でもあり、外食産業にはより厳しい状態が続く。このような時期に新規客を増やすのは至難の業」だから、「既存の優良顧客に頼り、企業に支援、援護したくなるような戦略を図るべき」だと指摘されていた。

 

「いきなり!ステーキ」側としては、既存客が減少し売り上げが低迷する中で、何とか新規顧客を開拓したいと思ったのだろう。それもわからないでもない。

 

しかし新山氏が指摘されているように、既存客、それも常連客と言える客層に不利益を与えるような戦略は明らかにおかしい。

 

その結果、そうした常連客が店から離れるだけでなく、インフルエンサーとして否定的な評価を下すことになり兼ねない。

 

逆にこうした常連客=忠誠度の高い客が、ピンチの時こそ助けたいと思うような店になることが大事だろう。

 

その点を新山氏も、「優良顧客の上位層であればこそ、『いきなり!ステーキ』を助けるべきだと、動いたはずだ」と結んでおられた。

 

これは身に染みてよくわかる話である。これが〝日ごろの付き合い〟ということかも知れない。そこに「顧客生涯価値」という考え方の原点があると思う。

 

まさに〝商売は牛のよだれ〟という言葉こそが、先人の貴重な教えなのだろう。