日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -330ページ目

彼岸

「なにも考えられないわけ?」

「ほんと、どうしようもない」

「あまやかされて育ったから、こうなんだろうね」




昨日は、家族で出かけた。

彼岸の中日だった。

俺が忘れた。

そう言っているのだった。


「少しは、自分で率先して動けないの?」


墓参りの準備のことだろう。

朝、妻がいろいろと準備をしていたようだった。



墓参りに行った。

風もなく、空には雲ひとつなかった。

頭上を見上げると、青い。

しかし、水平線の方は、くすんだ白だった。



娘が今にも転んでしまいそうだ。

俺の前を走っている。



親父とおふくろの墓前に手を合わせた。

俺たち3人を、見守ってください。

心の中で、祈った。



娘は、墓石の周りを走り回っている。



妻は何か祈ったのか。

なんとなく考えていた。




そして昼過ぎ。

風が強く吹いていた。

映画「海辺の家」

余命宣告された男が、仲違いの息子を呼んで、海辺に家を建てようとする。

死ぬ前に、息子との絆を取り戻すために。



男は変わった。

以前の父親ではなかった。

自分の気持ちに、素直になれるのであった。


水平線に輝く夕日。潮風。家族。友人。隣人たち。



すべてが、いとおしく思える。


すでに男の元を離れた妻も、そんな男の姿をみて、以前の気持ちを取り戻していた。




人は徐々に変わるが、ある日突然変わる者もいる。

この俺だ。


主人公の男が、息子に言っていた。







家を建てることで、壊れたしまった家族の絆を取り戻していく。

そして、命の灯は消えようとしていた。





俺も、海辺に家を建てたいと、思った。

外出

ちょっと、遠出した。

片道、2時間ちょっと、と言うところか。

我が家では、珍しくはなかった。


ウインドウショッピング。

こうして、家族3人で出かけるのは、10日ぶりくらいか。

となりに妻が座っていること自体、不思議な気分になる。

あれだけのことを、言われ、次の日はこうして一緒に出かけている。


俺の気持ちは、萎え続けていた。



とても、明るく話しかける気分にはなれない。

無言で、運転を続けていた。



さらに、俺を萎えさせる怒号、罵り。





なかった。




少しづつ、俺の気持ちも、溶け始めていた。



ファミリーレストラン。

食事をしながら、妻が言葉を掛けてくる。

どこか、ほんの少しだけ、やさしさを感じた。


ちょっとの会話。



それでも、なにもしゃべらないよりは、ましだ。


娘のおかげだった。


娘がいるだけで、気持ちが和む。

窓の外に、列車が通り過ぎる。

目を輝かせながら

「うあー、がたんごとんだ」などと言っている。



帰り。

娘を間に挟んで、手を繋いだ。


直接繋げればいいんだがな。

心の中で、呟いていた。