目の前にあった、幸せ
全てを許し、全てを信じ、全てを愛しなさい。
そんなようなことを初老の牧師が言っていた。
結婚式である。
俺は、すべてをゆるせるのか。
いや、許されたいと、願っているのかもしれない。
そして、まだ未来を信じている。
愛されないまま。
披露宴が始まり、音楽とともに新郎新婦が入場する。
バックストリートボーイズ、だった。
普通の披露宴。
目の前に、広がるしあわせ。
俺が、心から望んでいるものがそこにあった。
みていたくない。
飲めるだけ飲んで、酔い潰れたい。
酔い潰れはしなかった。
いくら飲んでも、酔えないのだった。
花束贈呈。
新婦の読み上げる手紙。
泣いている母親。
ふと、親父とおふくろのことを思った。
親父たちは、今の俺をみて、どう思っただろうか。
お袋は泣いただろう。
親父は、黙って俺の話を聞いてくれただろう。
自嘲していた。
俺が結婚したときは、ふたりともこの世にはいなかった。
家に帰り、娘を抱き上げた。
「うつるから、抱かないでよ」
俺の体は、心配していないらしい。
俺は、妻にさえ気にかけられない男だ。
親父とおふくろに、会って話がしたい。
娘を、遠巻きに見つめながら、そう思った。
そんなようなことを初老の牧師が言っていた。
結婚式である。
俺は、すべてをゆるせるのか。
いや、許されたいと、願っているのかもしれない。
そして、まだ未来を信じている。
愛されないまま。
披露宴が始まり、音楽とともに新郎新婦が入場する。
バックストリートボーイズ、だった。
普通の披露宴。
目の前に、広がるしあわせ。
俺が、心から望んでいるものがそこにあった。
みていたくない。
飲めるだけ飲んで、酔い潰れたい。
酔い潰れはしなかった。
いくら飲んでも、酔えないのだった。
花束贈呈。
新婦の読み上げる手紙。
泣いている母親。
ふと、親父とおふくろのことを思った。
親父たちは、今の俺をみて、どう思っただろうか。
お袋は泣いただろう。
親父は、黙って俺の話を聞いてくれただろう。
自嘲していた。
俺が結婚したときは、ふたりともこの世にはいなかった。
家に帰り、娘を抱き上げた。
「うつるから、抱かないでよ」
俺の体は、心配していないらしい。
俺は、妻にさえ気にかけられない男だ。
親父とおふくろに、会って話がしたい。
娘を、遠巻きに見つめながら、そう思った。
病院
咳が出て熱もあった。
帰ったら病院へ行こう。
具合が悪かったら、すぐに病院へいって。
妻にそう言われていたのだった。
家に着いた。
「病院に行って来る」
返事はない。
了解という意味なのだろう。
待ち合い室は、すでに人で一杯になっていた。
電話予約の出来る病院。
俺の番は、当分回って来ないかもしれない。
一時間半、待った。
まだ名前は呼ばれない。
まるで、時が俺の周りだけ、遅くなっているような感覚だった。
このまま何時間でも待っていられる、と思った。
携帯が鳴った。
「いったいいつまでかかるの?8時から仕事なんだけど」
時計を見る。
もう7時30分だった。
「わかった。今すぐ帰るよ。」
「いいから、診てもらってきなよ。」
携帯が切れた。
それから15分後、名前が呼ばれた。
飛んで帰った。
「なんで私ばかり、忙しくしてなきゃならないの!」
「ホント頭にくる。もう、仕事やめるから。」
いきなりだった。
返す言葉は、なかった。
娘が奇声を上げ、足に抱きついて来る。
娘の顔が、一瞬ぼやけた。
それは一瞬で、冷たいものが、頬をつたうことはなかった。
「もう寝るから」
「ちゃんと歯磨きさせて」
反論する気力もなく、ただ、押し黙るだけ。
娘を抱いて、廊下を歩いた。
廊下には、ホワイトデーに贈ったお菓子が、封も切らずに投げ出されていた。
帰ったら病院へ行こう。
具合が悪かったら、すぐに病院へいって。
妻にそう言われていたのだった。
家に着いた。
「病院に行って来る」
返事はない。
了解という意味なのだろう。
待ち合い室は、すでに人で一杯になっていた。
電話予約の出来る病院。
俺の番は、当分回って来ないかもしれない。
一時間半、待った。
まだ名前は呼ばれない。
まるで、時が俺の周りだけ、遅くなっているような感覚だった。
このまま何時間でも待っていられる、と思った。
携帯が鳴った。
「いったいいつまでかかるの?8時から仕事なんだけど」
時計を見る。
もう7時30分だった。
「わかった。今すぐ帰るよ。」
「いいから、診てもらってきなよ。」
携帯が切れた。
それから15分後、名前が呼ばれた。
飛んで帰った。
「なんで私ばかり、忙しくしてなきゃならないの!」
「ホント頭にくる。もう、仕事やめるから。」
いきなりだった。
返す言葉は、なかった。
娘が奇声を上げ、足に抱きついて来る。
娘の顔が、一瞬ぼやけた。
それは一瞬で、冷たいものが、頬をつたうことはなかった。
「もう寝るから」
「ちゃんと歯磨きさせて」
反論する気力もなく、ただ、押し黙るだけ。
娘を抱いて、廊下を歩いた。
廊下には、ホワイトデーに贈ったお菓子が、封も切らずに投げ出されていた。
何でもない、しあわせ。
娘は大の字で、床の上に寝てしまった。
そっと布団をかけてあげる。
朝食を摂ってすぐに、倒れる様に寝てしまったのである。
汚れた食器を洗い、ソファーに体を沈ませた。
日差しが暖かい。
木漏れ日が、俺の手のひらに、奇妙な模様を写し出している。
ぼんやりと窓の方へ目をやっていた。
空は、蒼くどこまでも澄んでいるように思えた。
突然視界の中を、何かが過った。
雀だった。
盛んに首を動かし、刹那こちらを見て、どこかへ飛んでいった。
今日は良い一日になりそうだ。
娘の寝顔
時々やって来る雀。
なんでもないことに幸せを感じる。
まどろんでいた。
妻の声で、目覚めた。
「自分の洗濯物は、自分で洗って」
俺は、ああとだけ答えて、また窓の外に目を向けた。
そっと布団をかけてあげる。
朝食を摂ってすぐに、倒れる様に寝てしまったのである。
汚れた食器を洗い、ソファーに体を沈ませた。
日差しが暖かい。
木漏れ日が、俺の手のひらに、奇妙な模様を写し出している。
ぼんやりと窓の方へ目をやっていた。
空は、蒼くどこまでも澄んでいるように思えた。
突然視界の中を、何かが過った。
雀だった。
盛んに首を動かし、刹那こちらを見て、どこかへ飛んでいった。
今日は良い一日になりそうだ。
娘の寝顔
時々やって来る雀。
なんでもないことに幸せを感じる。
まどろんでいた。
妻の声で、目覚めた。
「自分の洗濯物は、自分で洗って」
俺は、ああとだけ答えて、また窓の外に目を向けた。