携帯電話考察
2年以上も、同じ携帯を使い続けている。
そろそろ、買い替え時だ。
バッテリーが、1日しか持たない。
新品のバッテリーに交換するより、機種変更した方が安いのだった。
カメラの性能も上がったものだ。
200万画素。
デジカメとして、十分機能しそうである。
実は、多機能携帯など嫌いだった。
話さえ出来れば、それでいい。
着メロなども、己の趣味嗜好を公の場でさらすことに、
恥ずかしさすら覚えるのであった。
ただの、ベルのような音で十分じゃないか。
俺の考える究極の携帯。
それは、ツーカーの液晶も何もない携帯だ。
最高にクールな携帯である。
電話帳を取り出し、ダイヤルする。
かっこいいじゃないか。
番号のメモリー機能すらないなんて。
そんなことを言いながら、メールだけは確たる通信手段として手放せないのであった。
距離
二人で朝食をとった。
モーニングメニューで、フライドエッグとソーセージ。
安直な店だ。
冷房が効き過ぎている。
それでも、穏やかな朝だった。
コーヒーを啜りながら、とつとつと話をする。
「娘も大きくなったことだし、今度、ダイビングやらないか」
「3人でやるってこと」
「娘は無理さ。その間、預かってもらう。気の利いたショップならそうしてくれるんだ」
妻は、黙っている。
呆れているのか。
それとも、嫌だということか。
妻の性格なら、嫌なら嫌と言うはずだった。
少なくとも、嫌ではないようだ。
そう、思うことにした。
共通の趣味。
ひとつ位あってもいいだろう。
音のない世界。
宙に浮くような感覚。
日常から、隔絶された世界で、
せめて海の中だけは、良い関係でいたい。
連休後半はどうするか。
そんな話になっていた。
行き先は、いつも妻が決める。
俺が行きたいところへ行く。
そんなことは、わがままだと思っていた。
自分が折れる。
それを優しさだと、俺は勘違いしているのかもしれない。
こうして、妻と普通に話していることが不思議だった。
少しずつ、前に進んでいる。
そして、気が付くと後ろへ引き戻される。
娘を迎えに行き、3人で買い物をした。
「これ、どう思う」
「良いと思うよ」
やめておけなどと、言ったことはない。
そう思うことは、不思議となかった。
これからも、多分ないだろう。
それくらい、妻を信頼しているということか。
それとも、自分の意思がないだけなのだろうか。
数点のものを、購入して車に乗った。
穏やかな一日だった。
妻と向かい合い、夕飯を食べながら、俺は安酒を飲んだ。
妻に勧める。
いらないと言った。
ウイスキーなど、飲まないのだろう。
ビールやワインなどを、いつも飲んでいる。
妻の目を見つめながら話した。
そのときだけ、距離が縮んだように思えた。
いつもこうであればいい。
「これ飲んでみろよ」
また勧めた。
「いらないから」
妻はちょっと怒ったように、言った。
今日は2杯でいい。
そう思いながら、汚れた皿を洗った。
不味いものと、美味いもの
銭が無造作にテーブルに置かれた。
一ヶ月分のこずかい。
自由に使える金額は、いくら位になるだろうか。
頭の中で、計算した。
多分、4千円位だろう。
こずかいのほとんどが、ガソリン代に消える。
昼飯代や、飲みもの代。
一冊くらいは、ハードカバーの本が買えるかもしれない。
映画で観た刑務所の囚人は、タバコを吸ったり、
読みたい雑誌や本などを、買い込んでいた。
調達人という者がいるのだった。
以前、監獄といったが、そういう面では監獄以下かもしれない。
酒もこずかいで買う。
今日、早速買った。
600円そこそこの、ウイスキー。
ケチりながら飲めば、2週間は持つかもしれない。
今日は三杯飲んだ。
今、4杯目をチビチビとやりながら、キーを叩いている。
テレビを付けた。
不味い物を食わないと、美味いものはわからない。
料理人が言っていた。
俺は、結婚生活において、不味いものばかり喰わされている。
そう思った。
なじられ、蔑まれ、そのうち自分が屑のようにしか思えなくなる。
そして、でくの様に、反論もせず嵐が過ぎるのを、
身を縮め耐えるだけだ。
憤怒で拳を、ソファーに叩きつける。
それでも、怒りは消えない。
俺が、我慢の限界に達すると、不思議なことに妻は少しだけ優しくなる。
俺も、気持ちを軟化させる。
それの繰り返しだった。
不味い物を喰わされ、ちょっとだけ、甘いデザートを見せられる。
それを、喰えると思い込んでいると、また不味い物を口に押し込まれる。
すでに、デザートは期待していなかった。
口も利きたくない。
別れるという選択肢も、あるじゃないか。
最近そう思う。
もっとも、妻は以前からそれを口にしている。
「いざとなったら、娘と二人出て行くから」
その言葉の中に、娘と二人、十分にやっていける。
俺など必要ないという意味も含まれていた。
こんな言葉を、吐かれて一緒にいること自体、俺はおかしい。
そう思えてくる。
4杯目を、呷っても怒りは消えなかった。
俺は、キッチンへ行き、5杯目を注いだ。
口をつける。
喉に引っかかるようで、不味いと思った。