不味いものと、美味いもの | 日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。

不味いものと、美味いもの

銭が無造作にテーブルに置かれた。

一ヶ月分のこずかい。

自由に使える金額は、いくら位になるだろうか。

頭の中で、計算した。

多分、4千円位だろう。

こずかいのほとんどが、ガソリン代に消える。

昼飯代や、飲みもの代。

一冊くらいは、ハードカバーの本が買えるかもしれない。



映画で観た刑務所の囚人は、タバコを吸ったり、

読みたい雑誌や本などを、買い込んでいた。

調達人という者がいるのだった。

以前、監獄といったが、そういう面では監獄以下かもしれない。



酒もこずかいで買う。

今日、早速買った。

600円そこそこの、ウイスキー。

ケチりながら飲めば、2週間は持つかもしれない。

今日は三杯飲んだ。

今、4杯目をチビチビとやりながら、キーを叩いている。




テレビを付けた。

不味い物を食わないと、美味いものはわからない。

料理人が言っていた。



俺は、結婚生活において、不味いものばかり喰わされている。

そう思った。

なじられ、蔑まれ、そのうち自分が屑のようにしか思えなくなる。

そして、でくの様に、反論もせず嵐が過ぎるのを、

身を縮め耐えるだけだ。



憤怒で拳を、ソファーに叩きつける。

それでも、怒りは消えない。

俺が、我慢の限界に達すると、不思議なことに妻は少しだけ優しくなる。

俺も、気持ちを軟化させる。

それの繰り返しだった。



不味い物を喰わされ、ちょっとだけ、甘いデザートを見せられる。

それを、喰えると思い込んでいると、また不味い物を口に押し込まれる。

すでに、デザートは期待していなかった。

口も利きたくない。


別れるという選択肢も、あるじゃないか。

最近そう思う。

もっとも、妻は以前からそれを口にしている。


「いざとなったら、娘と二人出て行くから」


その言葉の中に、娘と二人、十分にやっていける。

俺など必要ないという意味も含まれていた。

こんな言葉を、吐かれて一緒にいること自体、俺はおかしい。

そう思えてくる。

4杯目を、呷っても怒りは消えなかった。

俺は、キッチンへ行き、5杯目を注いだ。

口をつける。


喉に引っかかるようで、不味いと思った。