日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -191ページ目

正気の沙汰~夢の中のおっさん。

バイト先のおっさんが、昨晩の夢に出てきた。


夢の中のおっさんが普段とは正反対に、やけに明るく何かを言いながら、俺の頭をつかんで、ガシガシやった。

いい加減にしなよ。


俺は笑いながら言う。


俺は、おっさんが嫌いではなかった。


おっさんはいつも仲間内から蔑まれ、揶揄されていた。


それでも、おっさんはいつもマイペースで仕事をこなす。


一度仕事帰りに、おっさんが一人寂しくファーストフードで食事をしているのを見たことがあった。



おれも、いっしょだわな。




そのとき俺は思ったのだった。


俺たち、三人でどこかに行く。


三人。



いつの間にか一人増えていた。



もう一人も、おっさんだった。


誰だったか、忘れた。知ってるおっさんだということはわかった。しかし、名前はわからない。

何処へ行くのか?俺たち三人は、ふらふらと歩き続けた。



居酒屋らしき軒先からは灯りが漏れていた。

俺はおっさん二人に挟まれ、得体の知れない町並みを歩いている。

薄暗い、物音一つ無い古びた町並み。

ジメジメとしていて、腐臭が漂ってきそうな猥雑な裏路地。



おっさん、飲んでるな。



おっさんの常軌を逸した明るさに、おれはそう結論づけた。



もう一人のおっさんは、静かだった。




今日はバイトなのか?




おっさんたちと一緒にいる理由が、わからなかった。バイト以外では会うことはない。だからバイトなのだろう、か?



疑問がわき上がり、虚構なのだと悟った瞬間に、目が覚めた。









おれは、不吉なものを感じだ。


おっさんは、死んだかもしれない。


俺に、最後の別れを告げにきたのだ。



俺は何故かそう思った。



おっさんは、体調が良くなかった。ぼろぼろの体で、最近はよく休んでいた。








おっさん………。




大丈夫かな?


くそったれ!!

本屋のトイレ。後ろで何度もノブをまわす音がする。


無視した。しかしその音は止まなかった。いつまでもノブをガチャガチャ。


ん? 馬鹿じゃねえのか?カギがかかってるだろうが!入ってるんだよ!


さらに、ノブを執拗にガチャガチャ。



クソッタレの馬鹿ヤロウが!



俺は振り返らずに、おもいっきり後ろのドアをけり飛ばした。


ドン!


それで静かになった。


すぐにトイレを出て、ばか者の姿を探した。


それらしき、男の姿はどこにも無かった。



今日は妻に話さなければならないことがある。



ここ一週間、話すに話せなかった。


妻の利害とも一致する、もともと、妻が言い出したことだった。



あんた、このままでいいの?


無理だと決め付けずに、やってみるという気概は無いの。




そんなことを、言われた気がする。


しかし、気になることもあった。


事を始めるには、まず金が必要なのだった。


そして、その金はどこにも無い。


そのまま、ハンバーガーショップへ直行した。


妻と対峙する事を、少しでも遅らせたいのかもしれなかった。


自然と足は、家から遠のく。


本を読もうという気も起きなかった。


二つ。バーガーを腹に詰め込んだ。


包み紙を丸め、ナプキンで口を拭うと、何もすることが無くなった。


主婦らしき4人組が、それぞれ携帯を弄びながら会話をしている。


気分を取り戻さなくては。


こんな気分では、手強い相手を説き伏せることはできないだろう。


いや、そもそも、説き伏せるほどのことなのだろうか。


案外、あっさりと承諾するかもしれない。


問題は、その後だった。


ふと思いたって、ノートを取り出す。




そして俺は書き始めた。

金、金、金。

朝、寝床から這い出すのと同時に、金を出せと妻に言われた。


昨晩は、深夜のバイト終えて4時に帰宅し、風呂やその他の雑事で、布団に入ったのが5
時、睡眠時間は2時間弱だった。


7時に起きて、15分後には家を出なければならない。


バイト代は、前回働いた分が支給されるシステムだった。


妻が言っているのは、その金を出せということだった。


悲しくなるほど、僅かな金だった。


それでも、無いよりはましなのだ。




あなたとは、生活のためだけに一緒にいる。



妻は臆することなく、平然と言ってのける。


俺は思った。


もしも、経済的に余裕があったなら、妻との関係性はどのような形になっていただろうか?


おそらくは、何も変わりはしなかっただろう。


今度は、さらに上の家庭と比べ、うちに無いものを並べ立てられるだけだ。


俺は鞄から、二つ折りにされた封筒を、テーブルの上に置いた。


そのまま弁当を持って、家を出た。