きっと君はこない~クリスマスイブ
朝眼を醒ますと、誰もいなかった。
いつもなら、妻が作る弁当がキッチンに置いてあった。
今日は、無かった。
昼飯など、食うな、ということなのだろう。
家計が苦しい、だから渋々俺に弁当を作って持たせている。
ハッキリとそう言われたことがあった。
昼飯代が、弁当代より安かったら、弁当など作らなくて済むということだ。
ラジオからは、クリスマスソングが流れていた。
俺にとっては、どうでもよかった。
クリスマスで浮かれている奴らは、どれだけいるのだろうか。
考えたのはそれだけだった。
昔、クリスマスを一人で過ごすのがイヤで、必死になって恋人を探したことを思い出し、俺は苦笑した。
若かったのだ。
山下達郎のクリスマスイブは、当時の学生にとって、ある種の脅迫であった。
一人で過ごすクリスマスは、負けである、と。
俺も大衆に迎合する一学生に過ぎなかった。
何も考えない、馬鹿な若者。
今晩、妻娘は帰宅するのだろうか。
なんとなく、帰宅しないような気がする。
俺は一人、本を読みながら熱燗でもなめて過ごすことになるのではないか。
テレビは観ない。
娘がねずみ先生と言って、何のことだかわからなかった。
それでもいいと思っている。
どうでもいいようなスキャンダルと、人を嘲笑するようなものを観たところで、楽しめはしないのだから。
そう言いながら、ネットでユーチューブなどを観ている。
人とは矛盾だらけの生き物だ。
そんなことを、誰かが言っていた。
http://jp.youtube.com/watch?v=-YVRJXtZ8Pw
こんなのも、笑えないよな。
物語~娘の書いた本
コピー用紙にかかれたその本を手にとって、俺 は少なからず驚いた。
ちゃんと表紙があって、数頁が書き込まれ、ホチキスで止められている。
そこにかかれていたものは、紛れもないない物語だった。
侍が幽霊に遭遇する話だった。
侍と幽霊の挿絵も、かわいらしく描かれていた。
最後の方の頁には、感想を書き込めるようになっている。
そこに感想を書き込むのが、なんだかもったいないような気がしたので、娘に直接、おもしろかったことを告げた。
そして。
俺も娘に物語を贈った。
すべてひらがなで書いた。
猫が主人公で、そこに娘も登場する。そんな物語だ。
娘は喜んでくれた。
初めてかもしれない。
俺の物語を楽しんでくれた。その様子を間近で見ることを。
次はどんな物語を書こうか。
俺はかけがえのない読者を獲得したのだった。
