日々を生きる。~大切なものを失って得たもの。 -188ページ目

畜生と鬼畜

「母はあなたのことを嗤っている、しょうもない奴だと」


妻が言ったことだ。


それでも義母は週末、家にやってくる。


俺は朝起きると、雑用のため家を出た。


義母と妻、娘は食事をとっていた。


俺の分の膳はなかった。


帰宅すると、人の姿はなかった。猫が丸くなっているだけだった。


食い物を探したが、おかずになるようなものは無く、飯が茶碗に一杯分、残っているだけだった。


卵をかけて、喰った。朝食と昼食はそれで終わりだった。



午後四時。妻たちは帰ってきた。


どこかで食事をとっているに違いないと思うと頭に血が上りそうになった。


腹が減っていたが、飯はなかなか出てこない。


たっぷりと2時間かけて、夕食が整えられた。


作られたのは、サラダ一品だけだった。




食事中も会話は無かった。いや、俺以外の3人は楽しそうに話している。


俺は存在しないのと一緒だった。


この家での俺の扱いは、猫以下だ。妻は猫には話しかけるし、餌は万事整えられている。


頭に血が上ったまま、飯など食えたものではない。


食い終わると、自分の食器だけ洗った。妻は決して俺の皿だけは洗わない。


俺が洗わなければ、いつまでもシンクに、俺の食器は取り残されたままになる。



風呂は一番最後で、湯はかろうじて腰が浸るくらいまでしか残ってなく、垢が浮いていた。


上半身は、湯につかれないので、体は温まらない。


体も温まらないまま、布団に潜り込むしかなかった。




どこまでも、俺を惨めな気持ちにさせてくれる。


憎しみ。


それは、妻から義母に、今後拡大するのだろうか。


俺のいないところで、二人が嘲笑していると思うと、また頭に血が上るのだった。



きっと、復讐するだろう。


俺は、人では無くなった。


畜生。


扱いは、それだった。


妻が憎い。憎悪が殺意に変わるときがくるのだろうか。いや、すでに変わっているのではないか。


灯油が無くなる。雨戸の滑りが悪くなる。何かが壊れる。


すべてが俺のせいだった。


一言話をするでもなく、酷く重そうに灯油のタンクを運んだりする。


それを、これ見よがしに、義母に言う。


布団に潜り込み、目を閉じた。


湧き上がってきたのは怒りだった。


そして、惨めさに包まれた。


それでも、涙は出てこなかった。

映画「パンズ・ラビリンス」~号泣

時々、泣きたくなった。

そんなときに、映画を観るのだ。

極上の映画をだ。




泣くことは、マイナスの感情ではないと思う。

何かに対しての、感情移入があって涙が出てくるのではないか。

それは、その対象に対しての、愛、ではないのか。

悔しくて、泣いたことは無かった。

それは、マイナスの感情だと思うし、堪えることも出来た。

思い通りにならなくて、泣く。

子供と一緒だとも思えた。


この映画はすばらしかった。

ラストは、胸を締め付けられ、涙があふれ出して、止まらなかった。









お前に飲ます酒はない

就寝前、妻が俺に対して、ただ一言こういった。


「高い酒飲まないでね。飲むなら安酒買ってきて飲んでくれる」


それが今日一日、妻の口から突いて出て、俺にたたきつけられた唯一の言葉だった。


俺はいろいろと忙しい。


妻のそんな言葉に対して、腹を立てている暇などないのだ。


給料をより多くもらって、妻の暮らしを向上させようなどとは、はなから考えていない。


俺と娘のためだ。


妻のために、などと考えてしまうと、腹が煮えて、やる気が失せるだけなのだった。




普段、妻に言われなくても、安酒だった。


小遣いで買うのだ。


安い酒しか買えるわけがなかった。



一升で500円。


日々を生きる。~妻よ。おまえはいったい何を望んでいるのか。


信じられない安さだが、俺にとっては高くもなく、安くもなかった。



妻が正月に、俺の酒を飲んだら頭が痛くなったと言っていた。


次の日、そこそこの酒を妻が買ってきた。


妻も飲み、俺も飲んだ。


しかし、飲む量が違った。


それで頭にきたのだろう、今日の物言いだった。



考えてみれば、理不尽な話だった。


わずかなサラリーだが、俺の働いた金で、我が家の生活は成り立っているのではないのか。


わずかばかりの贅沢も、妻には許されて、俺には許されないとでもいいたいのか。





かまうものか。


飲んだ分、水で薄めてやろうか。






俺はキッチンに置いてある一升瓶を探した。


妻が買ってきた酒は何処にもなかった。




俺は苦笑し、そのまま酒を買いに行った。