映画.com 「未来少年コナン」NHK総合で5月3日から放送 延期の「キングダム」代替番組として
https://eiga.com/news/20200428/16/
ご承知の通り、コロナ禍の影響で様々な物事に支障が出ている。テレビの世界では今期放送するはずだった新作ドラマや新作アニメの制作および放送が休止状態に追い込まれていて、その代替措置として昔の放送作品を再放送するのが珍しくない状況。
それでNHK総合の深夜アニメ枠で4月から放送していた『キングダム』も今月から『未来少年コナン』の再放送に変わっていったのだが、ある物議を醸しだした。それが「画角」のことである。
デイリー 再放送「コナン」の画角に「がっかり」の声
https://www.daily.co.jp/gossip/2020/05/04/0013318617.shtml
その前にまずは題材となった『未来少年コナン』のことをさらっと紹介しておこう。いまから42年前の1978年4月から半年間に渡ってNHK総合で毎週連続放送されていたSFアニメ作品で、外注制作ながらNHK初の国産アニメ番組として日本のアニメ史に刻まれるものである。制作スタッフは、宮崎駿や大塚康生をはじめ、翌年の劇場公開映画『ルパン三世 カリオストロの城』を作っていくスタッフなど精鋭ぞろいなのも魅力的だ。ただ、当時はアニメやSFブームながらも視聴率的には惨敗する。放送していた時間帯、火曜夜7時半からの裏番組にはTBSの大ヒットクイズ番組『ぴったしカン・カン』などがあり、我が家もそちらを観ていた。
しかしながら、その質の高さが評判を生み、宮崎駿や大塚康生のネームバリューも手伝って、何度となく再放送がなされ、そしてVHSやLDといった前世紀の時代からソフト化がなされていることから、現在ではその時代の著名なアニメ作品として知られている。コロナ禍でテレビ番組制作がどうにもならない状況の中、このNHK初の国産アニメ作品が代替=救世主として選ばれたことはたいへん意義深いことと捉えられ、また歓迎もされた。
その一方で、前述した「画角」のことである。1978年の作品だから当時のテレビ受像機の規格に合わせて4:3の画角で作られて放送されたものが、現在の規格に合わせて16:9のワイドサイズにトリミングしたもので放送されているからである。
賛否両論の「賛」としては、現在の視聴に適っているというものがある。いまの若い人たちは物心ついた時からほとんど16:9の画角でテレビ放送を観てきている。この枠で本来放送しているはずだった『キングダム』も当然16:9の画角で作られて放送されてきた。テレビ放送というものは、観てもらうために存在する。観てもらうには、視聴者に寄り添った作りをしていかなくはならないのが道理。地上波という不特定多数の視聴者に対して、本来は新作アニメを放送する枠で、42年も前の旧作アニメにどうやって喰い付いてもらうのか?、NHKは「初見の人が観やすいように」との判断から16:9を選んだのだろう。
「否」としては、作品のオリジナル性を安易に損なっているというものだ。16:9の画角を持つテレビ受像機では、左右に余白部分を付ければ4:3の画角のものをそのまま映し出すことが出来るのに、なぜそれでしないのか?と。16:9の画角を見慣れている若い世代からの拒否反応を嫌ったものだろうが、同じ"コナン"とタイトルを持つロングランアニメ『名探偵コナン』では過去に4:3で作られて放送されていたものを現在の放送にのせる場合は16:9に変換せずに4:3の画角のままにしている。
Yahoo!知恵袋 質問 テレビアニメ「名探偵コナン」はナゼいまだに…
今回、この『未来少年コナン』のトリミングが騒がれ出した際、テレビ放送とトリミングのことで、ある逸話を思い出した。
16:9の画角を持つ横長のテレビ受像機が普及する前…、年代で示せば2000年代初頭くらいまで、シネスコ(画角が2.35:1=7.05:3)やビスタ(画角が1.85:1=5.55:3)と呼ばれる横に長いサイズで製作して上映されていた映画をテレビで放送する際は、4:3であるテレビの画角サイズにトリミングされているのが当たり前だったことを覚えている人は多いだろう。作品のオリジナル性を優先するよりも、観やすいサイズに手直しすることは致し方ないものと当たり前に考えられていたからだ。ところが、それに逆行することが行われたことがある。1980年4月からフジテレビ系で黒澤明監督映画作品群を独占放送する際、その契約事項に「画角を変えてはならぬ」というものがあり、放送局はそれに従ってオンエアしたところ、苦情の嵐であった(あと、「白黒だから見にくい」、「声がぼそぼそで聞き取りづらい」とかどうにもならないものもあった)。当時のテレビ受像機の画面は居間に置くようなもので19インチ、独りで視聴するようなものだと14インチという大きさ。いまのテレビ受像機に比べてあまりに小さい画面サイズであったことを思い出してもらいたい。画面の上下に余白が作られて通常の映画放送のものよりも小さい映像だったことから観ている側からしたら不満が募るというもの。
いままさにその真逆ではあるが問題の根は同じことが起きてしまったのだ。
しかし、絶対条件が違っている。横長のテレビ受像機の出現でテレビ番組の画角選びは自由度を増したはずである。シネスコでもビスタでもオリジナルに近く収められて4:3にトリミングしたものよりはるかに観やすくなった。そして4:3のサイズでもいままでどおりに収められて不自由はなかったのである。なのに、なぜ4:3の映像がテレビ受像機のほうへサイズを合わせなくてはいけないのであろうか。そんなに余白を見せることが怖いのか。甚だ疑問を感じる。
だから、16:9で見慣れている人たちがいようと、4:3の画角がオリジナルであるならば、そちらが選ばれるべきものである。
この昔の作品をトリミングしてしまう件、コロナ禍によるテレビ番組制作の危機(しかもNHK総合による全国ネットのもので)によってクローズアップされたのだが、以前から忌々しき問題としてあり、地上波だけではなく、スカパー!でも十年ほど前のHD化を機に横行していて、フジテレビONETWONEXTで放送されている過去の自社制作ドラマは「超解像リマスター版」と称して、オリジナルの4:3である画角のものではないのだ。それから、近年のホームドラマチャンネルでは「HDリマスター版」と称するものの多くがワイドサイズにトリミングされている始末。昨年、久方ぶりに放送された『セーラー服反逆同盟』(1986年10月~1987年3月まで放送、制作・日本テレビ‐ユニオン映画)ではあったが、「HDリマスター版」での放送と引き換えに悪しきそのトリミングが施されてしまって魅力半減。私事ながら毎年11月に発表している、スカパー!で各チャンネルがどのくらい昔のドラマに力入れて頑張っているかを称える「勝手に選ぶスカパー!昔のドラマアワード」において、本来ならば、「カムバック部門」(過去すでに放送されたことがあるなどして蔵出し作品ではないものの、もう一度観てみたかった作品を「連続ドラマ」、「単発ドラマ」など部門を問わずに選出)で選出されるべき逸品だったのに、無様なトリミングのせいで選外にせざるを得なかった悔しさがこみ上げる。
ホームドラマチャンネル公式 『セーラー服反逆同盟』
https://www.homedrama-ch.com/series?action=index&id=24859&category_id=4
今年もまた5月にリピート放送。"ながら見"で一応観るつもり