音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~ -8ページ目

音と言葉と音楽家  ~クラシック音楽コンサート鑑賞記 in 関西~

クラシック音楽の鑑賞日記や雑記です。
“たまにしか書かないけど日記”というタイトルでしたが、最近毎日のように書いているので変更しました。
敬愛する音楽評論家ロベルト・シューマン、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、吉田秀和の著作や翻訳に因んで名付けています。

静岡県の浜松市で開催された、第12回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)が、終わった(公式サイトはこちら)。

これまで、ネット配信を聴いて(こちらのサイト)、感想を書いてきた。

とりわけ印象深かったピアニストについて、備忘録的に記載しておきたい。

ちなみに、第12回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。

 

第10回浜松国際ピアノコンクールが終わって

第10回浜松国際ピアノコンクール 審査結果詳細を見ての感想

第12回浜松国際ピアノコンクール 出場者一覧

第1次予選 第1日

第1次予選 第2日

第1次予選 第3日

第1次予選 第4日

第1次予選 第5日

第2次予選 第1日

第2次予選 第2日

第2次予選 第3日

第3次予選 第1日

第3次予選 第2日

本選 第1日

本選 第2日

 

 

 

 

 

67 佐川 和冴 SAGAWA Kazusa (日本 1998年生まれ)

1次)(2次)(3次

 

第3次予選で選出されなかった日本人から一人選ぶなら彼か。

華美な効果を狙わず、実直に譜面を音にしていくタイプで、ハイドンやモーツァルト、ブラームスを得意とする。

ハイドンのソナタ第32番終楽章など、何気ないようでいて相当な指捌き。

 

 

15 デイヴィッド・チョエ David CHOI (アメリカ/韓国 2007年生まれ)

1次)(2次

 

今大会の10代天才ピアニスト5人組(と私が勝手に名付けたのだが)の一人。

音色や歌わせ方に華があって、ぱっと花が咲くかのよう。

彼のヘンデルやR.シュトラウスを聴くと、彼が素直さと熟練とを兼ね備えていることがよく分かる。

プロコフィエフのような激しい曲でも、音に明るさがあって際立っている。

2次で個性を出しきれず落ちてしまったのは残念だが、1次の見事な演奏を思うとまだまだ伸びしろがありそう。

 

 

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の第6位。

クールなテクニシャンで、ブーレーズやヴァイン、デュティユーなど近現代作品を得意とする。

日本人作品最優秀演奏賞を受賞したのもむべなるかな、である。

ショパンのエチュードop.25-4やアムランの難曲も、涼しい顔で弾きこなしてしまう。

とはいえクールなだけではなく、情熱やロマン性を秘めているのが特徴で、デュティユーのソナタなどアグレッシブな熱演だった。

 

 

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の第3位。

歌と様式感とのバランス感覚に優れた、本物の音楽家。

歌に満ちていながら、音楽は自然な流れを止めることがなく、どこを切り取ってもぎこちない瞬間がない。

また、タッチコントロールが抜群で、あらゆる音に気を配っており、無為に出てしまうような音が一つもない。

どの曲を取っても、完全にプロの仕事である。

彼は、アンドラーシュ・シフの音楽的後継者だと私は考えている。

現代最高の巨匠の一人として知られるシフは、チャイコフスキーコンクールで第4位、リーズコンクールで第3位だった。

華やかさよりも自然さ・緻密さを追求することは、何より困難な道であろうにもかかわらず、優勝への近道とはならないのかもしれない、けれども、きっと音楽の巨匠へと通ずる道なのだろう。

 

 

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の第4位。

どんな曲にも、目一杯の情熱を傾ける。

スクリャービンのop.8-10のような練習曲や、ラフマニノフのコレッリ変奏曲のような地味目の曲でも必ず血が通っているため、聴きごたえがある。

ミスを恐れず全力で突き進み、ショパンの前奏曲集のような聴き慣れた曲もスリリングな表現で、新たな感動を与えてくれる。

華々しい演奏だが、カワイのピアノを使うことで音色に艶消しを施し、華美になりすぎないのも良い。

 

 

17 チュー・チェンシー CHU ChenXi (中国 2009年生まれ)

1次

 

今大会の10代天才ピアニスト5人組の一人。

静かなところからクライマックスへの振れ幅が大きくダイナミック、しかもそれは冷静に俯瞰してコントロールされており、最年少なのに未熟さを感じさせない。

大袈裟な身振りはなく冷静、かつ音色がやや暗めのため一見目立たない存在だが、相当な腕達者であり、ショパンのバラード第4番もリストの「雪あらし」も最良の演奏の一つと言っていい。

1次で落ちてしまったのが至極残念だが、近く頭角を現してくるだろう。

 

 

94 ライアン・ジュウ Ryan ZHU (カナダ 2003年生まれ)

1次)(2次)(3次

 

第3次予選で選出されなかった外国人から一人選ぶなら彼か。

安定した技巧と、硬質で明瞭な音を持つ。

ロマン的はロマン的でも、JJ ジュン・リ・ブイのような正攻法とはまた違った、変化球のこだわりが随所に感じられるのが面白い。

 

 

21 ロマン・フェディウルコ Roman FEDIURKO (ウクライナ 2004年生まれ)

1次)(2次

 

第2次予選で選出されなかった外国人から一人選ぶなら彼か。

東欧の煌びやかな美音と、すっきりした情感を持つ。

シューマンのソナタ第2番など、技巧的にも情緒的にも過不足なく、初稿のフィナーレまで付いて、これだけ弾けた演奏は他になかなかない。

 

 

38 カン・ドンフィ KANG Donghwi (韓国 2008年生まれ)

1次

 

今大会の10代天才ピアニスト5人組の一人。

燦々と降り注ぐ陽光のような、明るい音と情感を持つ。

グラナドスの「愛の言葉」など、スペインの太陽の輝きが浮かぶよう。

テクニック的にもかなりの洗練を見せる。

1次で落ちてしまったのは残念。

 

 

40 ルスタム・ハンムルジン Rustam KHANMURZIN (ロシア 1994年生まれ)

1次

 

第1次予選で選出されなかった外国人から一人選ぶなら彼か。

1次で落ちた中には、マーヴィン・ベリ、エルズビェータ・リアパ・ドヴァリオナイテ、ボグダン・ドゥガリッチ、テオティム・ジロー、ユアンファン・ヤン、ラファエル・キリチェンコ、ニコライ・クズネツォフなど、多くの才能ある演奏家がいたが、悩んだ末、「イゾルデの愛の死」の演奏が印象的だった彼を選んだ。

この曲では、私は鯛中卓也の2016年パデレフスキコンクールでの演奏が好きなのだが(動画)、それに匹敵すると思う(ピアニスティックな鯛中卓也に対し、今回のハンムルジンはオーケストラのようなどっしりした風格を持つ)。

 

 

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の第2位。

淡々としたザッハリヒな表現の中に、ほのかなロマン的情感を含ませる。

相当なテクニックを持ち、パワーにも欠けない。

マルティン・ヘルムヒェン以後、若き才能の払底しかかっている現在のドイツにおいて、貴重な存在である。

東アジアには彼くらいの腕を持つ若いピアニストは昨今少なくないが、それでもアジア人にドイツ音楽の味が本当に出せるかというと、難しい面もある。

彼は、代表的なドイツの名手になっていくものと思われる。

 

 

52 イ・ジョンウ LEE Jeongwoo (韓国 2008年生まれ)

1次

 

今大会の10代天才ピアニスト5人組の一人。

異様なほどに情熱的で力強い打鍵を有し、聴く者に強いインパクトを与えずにはおかない。

ロシア・ピアニズムの強打とはまた音色の異なる、よりシャープで、かつ燃え上がるような、いわば韓国ピアニズムとでも言うべき強打である。

また、強打のみならず弱音も美しく、訴えかけるような力がある。

クライバーンコンクール(その記事はこちらなど)優勝者のイム・ユンチャンのような豪快さと、ショパンコンクール優勝者のチョ・ソンジンのような繊細さとを併せ持ち、さらにはスケールの大きさをも感じさせる、稀有なピアニスト。

1次で落ちてしまったのは、真に惜しまれる。

彼が2次以降で予定していた「クライスレリアーナ」や「夜のガスパール」は、どんなにか見事だっただろう。

そして、本選で予定していたのはラフマニノフやプロコフィエフといった華麗な大曲ではなく、意外にもショパンの協奏曲第2番、このロマンティックな曲を彼はいったいどのように弾いただろうか。

 

 

64 リード 希亜奈 REID Kiana (日本/アメリカ 1995年生まれ)

1次

 

第1次予選で選出されなかった日本人から一人選ぶなら彼女か。

1次で落ちた中には、佐藤元洋、中川真耶加、稲積陽菜、池邊啓一郎、黒岩航紀、今井理子、大沢舞弓など、多くの才能ある演奏家がいたが、悩んだ末、美しい音が印象的だった彼女を選んだ。

イタリアの明るい響きと、ドイツのしっとりした響き、二つの国で研鑽を積んだ彼女はそれらを共に体得していて、スカルラッティの冒頭から音の美しさが聴き手の耳を惹くし、リゲティも現代音楽とは思えないほどまろやかで親しみやすい。

 

 

27 グオ・スーチョン GUO Sicheng (中国 2006年生まれ)

1次

 

今大会の10代天才ピアニスト5人組の一人。

充実した力強い打鍵が印象的だが、情感が溢れ出るようなイ・ジョンウの強打(上記参照)とは異なり、乾いた情熱が聴かれる。

その意味では、スクリャービンを選んだイ・ジョンウ、プロコフィエフを選んだグオ・スーチョン、共に自身の持ち味がよく分かっている。

乾いたといっても決してぶっきらぼうではなく、確かな表現力を持ち、腹にこたえるような迫力あるクライマックスを作り上げる。

1次で落ちてしまったのは残念。

 

 

22 藤平 実来 FUJIHIRA Miku (日本 1999年生まれ)

1次)(2次

 

第2次予選で選出されなかった日本人から一人選ぶなら彼か。

優しい音を持ち、ブラームスのヘンデル変奏曲がよく似合う。

ソレールやアルベニスといったスペインものも好んで選曲しており、上記のカン・ドンフィのような地中海の陽光に満ち溢れた感じはないが、慎ましい歌は彼ならでは。

 

 

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の第5位。

高度に洗練された技巧を持ち、完成度の高さでは今大会の出場者の中でもトップクラス。

タッチのムラがほとんどみられず、細部まで神経が行き届いている。

演奏スタイルは上品で正統的。

派手な効果を演出することがないため、カラフルな演奏ではないが、モノクロームの写真のようにシックな味わいを持つ。

といっても、ピンぼけした古写真の味わいではなく、最新式カメラによる高解像度のモノクロ写真のイメージである。

 

 

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

1次)(2次)(3次)(本選

 

今大会の優勝者。

また、私の中での個人的な今大会のMVP。

独自の魅力を持つ彼女の演奏を、何にたとえたらいいか。

私は、彼女の音は藤田真央に近いのではないかと考えている。

といっても、藤田真央の持つヴィルトゥオーゾ的な要素は、彼女からは感じられない(むしろ避けている印象)。

しかしながら、彼女は藤田真央と全く同様に、“歌う”ことにかけての感覚が、尋常でなく鋭敏なのである。

右手も左手も、いたるところに歌がある。

彼女のカンタービレはとても音が大きく存在感があり、そのぶん弱音部は人一倍繊細で、表現の幅が広い。

あらゆる音が角張ることのないよう丸く磨かれ、ペダルも決して濁らず純な響きを常に保ち、一音一音が白く発光し輝いている。

こういう音を出す人として、私には彼女の他にただ藤田真央のみが思い浮かぶのである。

音そのもので聴衆を魅了する、天才肌のピアニスト。

ただ、藤田真央が音の輝かしい光そのものを表現するのに対し、鈴木愛美は、“光”には必ず付き物の“影”のほうを意識して表現しているような気がする。

彼女の演奏は、その真っ白な音の輝きにもかかわらず、藤田真央のようには晴れやかでなく、どこか思索的である。

彼女のシューベルトやブラームス、シマノフスキがかくも美しく響くのは、そのためではないだろうか。

バッハやハイドン、モーツァルトやベートーヴェンも、彼女が弾くと、特段ロマンティックにデフォルメするわけでもないのに、典雅で古典的な作曲家というのとは全然違って聴こえる。

私は、作曲家の様式感を尊重した演奏を好むことが多いのだが、彼女のように様式を飛び越え、作曲家の心の内に深く共感し表現しようとする演奏家には、特別な敬意を払わずにいられない。

 

 

 

 

 

以上のようなピアニストが、印象に残った。

 

 

発足当初からレベルの高かった浜コンだが、今大会は特に第1次予選が異様にハイレベルで、普段なら地元枠かなと思うような人もちらほらいるのが、今回は全くと言っていいほど見られなかった。

欧米から一流のピアニストたちが参加し、普段なら少なからず残るロシア勢が全滅、韓国・中国の若き才能の数々がことごとく落とされ、日本人もごく一部の本当に個性の確立した人しか残らなかった。

これほどの第1次予選は、レベルの高さに驚かされたシドニーコンクール(その記事はこちらなど)にも勝るほどで、かのショパンコンクール(その記事はこちらなど)に匹敵するのではないか。

第1次予選の結果は私の期待したものとは少し違ったが、それ以降は結果に大きな異論もなく、演奏も素晴らしいものばかりで、本選までワクワクし通しの半月間だった。

この激戦を最終的に制し、審査員・聴衆の両者に支持されて浜コン史上初の日本人優勝者に輝いた鈴木愛美は、本物であると言わなければなるまい。

彼女はあと20-30年もすれば浜コンの審査委員長になるだろうし、これから日本のピアノ界を牽引していく存在となるだろう。

彼女の輝かしい未来を祝福したい。

 

 


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静岡県の浜松市で開催されている、第12回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)(公式サイトはこちら)。

11月24日は、本選の第2日、ついに最終日。

ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、第12回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。

 

第10回浜松国際ピアノコンクールが終わって

第10回浜松国際ピアノコンクール 審査結果詳細を見ての感想

第12回浜松国際ピアノコンクール 出場者一覧

第1次予選 第1日

第1次予選 第2日

第1次予選 第3日

第1次予選 第4日

第1次予選 第5日

第2次予選 第1日

第2次予選 第2日

第2次予選 第3日

第3次予選 第1日

第3次予選 第2日

本選 第1日

 

 

 

 

 

なお、以下の協奏曲は梅田俊明指揮、東京交響楽団との共演である。

 

 

 

 

 

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

 

S. ラフマニノフ パガニーニの主題による狂詩曲 Op.43

 

ピアノはカワイ。

 

 

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

 

J. ブラームス ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 Op.15

 

ピアノはヤマハ。

 

 

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

 

L. v. ベートーヴェン ピアノ協奏曲 第3番 ハ短調 Op.37

 

ピアノはスタインウェイ。

 

 

 

 

 

まだざっとしか聴けていないが、本選第1、2日の6人の演奏を気に入った順に並べると

 

1.  44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

2.  10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

3.  74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

4.  01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

5.  68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

6.  05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

 

といったところか。

JJ ジュン・リ・ブイも情熱的で華があるが、やはり小林海都の緻密な作り込みが一枚上手であるように感じた。

それから、音と表現に独特な力のある鈴木愛美が、何位に食い込むか。

 

 

 

 

 

さて、本選の実際の結果は以下のようになった。

 

 

【本選結果】

 

1位: 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

2位: ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

3位: 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

4位: JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

5位: コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

6位: ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

 

日本人作品最優秀演奏賞: ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

奨励賞: ヴァレール・ビュルノン Valère BURNON (ベルギー 1998年生まれ)

室内楽賞: 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

聴衆賞: 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

札幌市長賞: 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

ワルシャワ市長賞: 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

 

 

 

 

 

以上である。

なんと、鈴木愛美が浜コン史上初の日本人優勝である。

それも、優勝のみならず、室内楽賞・聴衆賞など総なめにしている。

私は、本選では彼女の演奏を一番には挙げなかったけれども、彼女の優勝には納得である。

彼女の演奏には、特別な力がある。

様式だとか技巧だとかを飛び越えて、音楽の核心部を掴みにいくような。

今大会全体を振り返っても、最初は百花繚乱の演奏家たちに目移りしたものだが、今となっては彼女の演奏が最も鮮烈に印象に残っている。

こういう人には、やはり優勝がふさわしいと思う。

2位以下の入賞者たちについても、概ね納得の結果だった(できれば小林海都に2位をあげたかったけれど)。

日本人初優勝という記念すべき回、それも全くふさわしい個性の選出に、(ネット視聴とはいえ)立ち会えたのをうれしく感ずる。

 

 


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静岡県の浜松市で開催されている、第12回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)(公式サイトはこちら)。

11月23日は、本選の第1日。

ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、第12回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。

 

第10回浜松国際ピアノコンクールが終わって

第10回浜松国際ピアノコンクール 審査結果詳細を見ての感想

第12回浜松国際ピアノコンクール 出場者一覧

第1次予選 第1日

第1次予選 第2日

第1次予選 第3日

第1次予選 第4日

第1次予選 第5日

第2次予選 第1日

第2次予選 第2日

第2次予選 第3日

第3次予選 第1日

第3次予選 第2日

 

 

 

 

 

なお、以下の協奏曲は梅田俊明指揮、東京交響楽団との共演である。

 

 

 

 

 

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

 

S. プロコフィエフ ピアノ協奏曲 第3番 ハ長調 Op.26

 

ピアノはカワイ。

おそらくオーケストラとの共演に不慣れなのだろう、突っ走ってオーケストラとずれてしまうことが多い。

第2楽章の途中からは慣れてきたのかオーケストラと合うようになり、彼特有のキレのある技巧、明瞭なタッチが発揮された。

終楽章コーダなど、2015年にこの曲で優勝したアレクサンダー・ガジェヴに匹敵する高速テンポで攻めており、さらにはミスタッチがより少なく正確性が高い。

しかし、音の線はガジェヴより細く、音の迫力という点では及ばない(クライマックスでオーケストラに埋もれる)。

ソロ曲と違って協奏曲では完成度よりも存在感が求められるのは、やむを得ないところか(ガンガン叩くような演奏は論外だが)。

 

 

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

 

B. バルトーク ピアノ協奏曲 第3番 Sz.119

 

ピアノはスタインウェイ。

こちらはもうオーケストラとの共演に熟達しており、しかも2021年リーズコンクール第2位を獲得した得意曲で(その記事はこちらなど)、アンサンブルの息はぴったり。

彼がオーケストラに対して加速を仕掛けるときも、全くずれることなくきわめて自然になされている。

ところどころに歌もあり、タッチコントロールも相変わらずしっかりしていて、フガートなども聴いていて全く不安なし。

文句のつけようもないのだが、私の好みを言わせてもらえるならば、彼の打鍵はバルトークにしては軽い。

その軽さを克服するためか、彼は常にしっかりめに弾いて強弱の差をあまりつけず、例えば冒頭の主要主題を強音で弾く。

それはそれで一つの解釈だが、私としてはここをデジュー・ラーンキのように重い打鍵で、かつ少し弱音で弾くことで、バルトーク晩年の透徹したような、澄み切った境地を表現してほしいのである(なお楽譜ではメゾフォルテの指示)。

そうすることで、後の経過部の強打とコントラストを形成してほしかった、というのは贅沢に過ぎる注文かもしれない。

 

 

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

 

J. ブラームス ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 Op.15

 

ピアノはカワイ。

彼もオーケストラとよく合っており、しかも2022年仙台コンクール第2位を獲得した曲ということで(その記事はこちらなど)、得意曲ということになるのだろう。

確かに、協奏曲にふさわしい力強い音という点では、第1日の3人のうち最も上と思われる。

ドイツらしい重厚感もあるし、技術的にも申し分ない。

しかし、全体的にテンポが遅い。

遅いテンポを支えられるだけの、息の長いフレージングを持つタイプではなく、どちらかというと技巧派で鳴らす彼は、マウリツィオ・ポリーニのように引き締まったテンポで弾かなければ、だれてしまう。

彼ならば、もっと攻めたテンポで弾けたのではなかろうか。

また、細かいことかもしれないが、第1楽章再現部冒頭のオクターヴトリルを、左右の手の交互オクターヴトレモロに変更し“逃げ”てしまっているのはいただけない。

 

 

 

 

 

そんなわけで、本選第1日の3人の演奏を気に入った順に並べると

 

1.  44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

2.  01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

3.  05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

 

といったところか。

協奏曲は、やはりソロ曲とは勝手が違う、というのが第1日を聴いての正直な感想である。

そんな中、小林海都は協奏曲でもしっかりと作り込んできているように感じた。

日本人初優勝も、夢ではないかもしれない。

そんな彼に、残り3人がどこまで迫ってくるか。

 

 

次回(11月24日)は本選の第2日。

本選の最終日である。

 

 


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静岡県の浜松市で開催されている、第12回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)(公式サイトはこちら)。

11月20日は、第3次予選の第2日(最終日)。

ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、第12回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。

 

第10回浜松国際ピアノコンクールが終わって

第10回浜松国際ピアノコンクール 審査結果詳細を見ての感想

第12回浜松国際ピアノコンクール 出場者一覧

第1次予選 第1日

第1次予選 第2日

第1次予選 第3日

第1次予選 第4日

第1次予選 第5日

第2次予選 第1日

第2次予選 第2日

第2次予選 第3日

第3次予選 第1日

 

 

 

 

 

11 ヴァレール・ビュルノン Valère BURNON (ベルギー 1998年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

C. ドビュッシー 前奏曲 第2集 より「月の光がそそぐテラス」

C. ドビュッシー 前奏曲 第1集 より「西風の見たもの」

C. ドビュッシー 前奏曲 第2集 より「花火」

R. シューマン 幻想曲 ハ長調 Op.17

 

ピアノはヤマハ。

フランス/ベルギー系に特有な、やや硬質の涼しげな音色が美しい。

モーツァルト、ドビュッシー、シューマンという今回の選曲は、そんな彼の音を活かすのに適している。

ただ、技巧面で難があり、モーツァルトやドビュッシーは案外うまく乗りきっているが、シューマンの第2楽章は付点音形のリズムがよたよたしてしまっている。

 

 

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

F. リスト 「伝説」より 波を渉るパオラの聖フランチェスコ S.175-2

J. S. バッハ トッカータ ト短調 BWV915

L. v. ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第32番 ハ短調 Op.111

 

ピアノはカワイ。

モーツァルト、大変優美で整った、第1日の小林海都と双璧の演奏。

小林海都が、古楽器奏法の影響下にある当世風の歯切れよい“シフのモーツァルト”であるとすると、ヨナス・アウミラーはより伝統的な、かつてモーツァルト演奏の規範と謳われた端正で滑らかな“ギーゼキングのモーツァルト”とでも言えようか。

仙台国際のとき(その記事はこちらなど)にはまだ硬さのあった彼が、かくも美しいモーツァルトを弾くようになろうとは。

リストやバッハも、力強さ・テクニック共に十分。

ベートーヴェン最後のソナタはやや小さくまとまりすぎている印象だが、ガンガン叩きがちな演奏よりは良い。

 

 

73 ソン・ユトン SUN Yutong (中国 1995年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

L. v. ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第29番 変ロ長調 Op.106「ハンマークラヴィーア」

 

ピアノはヤマハ。

モーツァルト、彼らしい洗練されたタッチと明るい音色が聴かれる。

ただ、細かいことをいえば、歌い口やタメがところどころロマン派的で、様式感という点では先ほどのヨナス・アウミラーに軍配が上がるのは争えない。

「ハンマークラヴィーア」も、技術的には言うことないし、様々な音型が明瞭に聴こえてくるのは彼の趣向の賜だが、頻回のルバート(テンポの伸び縮み)といい、軽いタッチといい、“ベートーヴェンを聴いた”という感じがあまりしない。

様式感とは、何とも難しいものである。

 

 

88 ユ・ソンホ YOO Sung Ho (韓国 1996年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

R. シューマン クライスレリアーナ Op.16

D. ショスタコーヴィチ 前奏曲とフーガ 変ニ長調 Op.87-15

 

ピアノはヤマハ。

モーツァルト、技術的には確かだが、これまでの奏者たちの華やかな音の後では地味に聴こえてしまう。

シューマンやショスタコーヴィチ、これらの作曲家特有の妖しさや狂気のようなものは出せておらず、まっすぐで直情的な演奏だが、強音が力強く(硬めの音質だが)、技術力もあるほうで、これはこれで迫力がある。

 

 

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

G. ヘンデル 組曲 第3番(第1巻)ニ短調 HWV428

S. ラフマニノフ ピアノ・ソナタ 第1番 ニ短調 Op.28

 

ピアノはヤマハ。

モーツァルト、音色に派手さはないが、キラキラしすぎない良さがあり、そして慎ましい歌もあり、何より技巧的にきわめて洗練された、超一級の演奏。

ソロ曲も、バッハではなくヘンデル、またラフマニノフのソナタ第2番ではなく第1番、あえて地味な曲を選ぶあたりがいかにも彼らしい。

いずれも完成度の高い演奏で、かつ一音入魂タイプではなく、曲そのものに少しずつ語らせていくような、大人のバランス感覚がある。

 

 

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

J. S. バッハ 平均律クラヴィーア曲集 第2巻 変ロ短調 BWV891

K. シマノフスキ メトープ Op.29 第1曲 セイレーンの島

F. シューベルト ピアノ・ソナタ 第18番 ト長調 D894

 

ピアノはスタインウェイ。

モーツァルト、これまでの彼女の霊感豊かな演奏を思うと、ここでは割と普通なほうだが、ともかくも彼女なりに歌えているし(音階風の音型などでは彼女らしさが出ている)、技術的にも大過なし。

ソロ曲のほうでは、特にシューベルトにおいて、2次で弾いたブラームスのあの詩情を彷彿させるような、単にきれいというだけではない、彼女独自の世界が開かれるのを感じた。

ここまでくると、様式感云々がどうでもよくなり、シューベルトの心の内奥を垣間見たような気になるから不思議である(その意味で彼女のシューベルトは、小林海都のシューベルトに匹敵する見事さでありながら、その性質は全く対照的である)。

 

 

 

 

 

そんなわけで、第2日の演奏者のうち、私が本選に進んでほしいと思うのは

 

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

 

あたりである。

次点で、

 

73 ソン・ユトン SUN Yutong (中国 1995年生まれ)

88 ユ・ソンホ YOO Sung Ho (韓国 1996年生まれ)

 

あたりか。

 

 

 

 

 

第1、2日を併せて、本選に進める人数である6人を選ぶとすると

 

第1日

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

 

第2日

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ)

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ)

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ)

 

あたりになる。

今回は、6人を選ぶにあたって、あまり迷わなかった。

 

 

 

 

 

さて、第3次予選の実際の結果は以下のようになった。

 

 

【本選進出者】

 

第1日

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ) ○

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ) ○

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ) ○

 

第2日

01 ヨナス・アウミラー Jonas AUMILLER (ドイツ 1998年生まれ) ○

68 コルクマズ・ジャン・サーラム Korkmaz Can SAĞLAM (トルコ 1999年生まれ) ○

74 鈴木 愛美 SUZUKI Manami (日本 2002年生まれ) ○

 

 

なお、○をつけたのは私が本選に残ってほしかった6人の中の人である。

6人中6人。

完全に希望通りの結果になるなんて、私には滅多にないことである。

審査員の方々に感謝の念さえ覚えた。

ファイナリスト全員がすでに完成されたアーティストたちであり、誰が優勝しても全くおかしくなく、浜コン史上最高の本選を迎えることになりそうである。

 

 

 

 

 

なお、今後の日程は以下の通り。

本選:2024年11月23日(土)、24日(日)

 

 


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静岡県の浜松市で開催されている、第12回浜松国際ピアノコンクール(通称「浜コン」)(公式サイトはこちら)。

11月19日は、第3次予選の第1日。

ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。

ちなみに、第12回浜コンについてのこれまでの記事はこちら。

 

第10回浜松国際ピアノコンクールが終わって

第10回浜松国際ピアノコンクール 審査結果詳細を見ての感想

第12回浜松国際ピアノコンクール 出場者一覧

第1次予選 第1日

第1次予選 第2日

第1次予選 第3日

第1次予選 第4日

第1次予選 第5日

第2次予選 第1日

第2次予選 第2日

第2次予選 第3日

 

 

 

 

 

45 マクシミリアン・クロマー Maximilian KROMER (オーストリア 1996年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

G. ヘンデル 組曲 第8番(第1巻)ヘ短調 HWV433

P. ヒンデミット 組曲「1922年」Op.26

A. スクリャービン 練習曲 変イ長調 Op.8-8

A. スクリャービン 練習曲 嬰ト短調 Op.8-9

A. スクリャービン 練習曲 変ニ長調 Op.8-10

A. スクリャービン 練習曲 変ロ短調 Op.8-11

A. スクリャービン 練習曲 嬰ニ短調 Op.8-12「悲愴」

 

ピアノはカワイ。

モーツァルトにぴったりの、本場オーストリアの音色を持つ。

ただ、ゴツゴツとまでは言わないが、タッチにややムラがあり、完全に滑らかに全ての音を歌えているとは言い難い。

ソロ曲も、味はあるのだが、例えばスクリャービンのOp.8-10など、1次でのJJ ジュン・リ・ブイやカン・ドンフィの鮮やかな演奏と比べると、もっさり聴こえてしまう。

ヒンデミットやスクリャービンのOp.8-12などでは、彼の野趣のようなものがよく出ているけれど。

 

 

67 佐川 和冴 SAGAWA Kazusa (日本 1998年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

S. プロコフィエフ 10の小品 Op.12

L. v. ベートーヴェン エロイカ変奏曲 変ホ長調 Op.35

 

ピアノはカワイ。

モーツァルト、音色は先ほどのマクシミリアン・クロマーの華やかさはないが誠実、また滑らかさは上回っており、総合的にはこちらのほうがモーツァルトにふさわしい。

プロコフィエフやベートーヴェンも、彼らしい渋い選曲でしっかり仕上げてきている。

ただ、残念なことに暗譜ミスが目立ってしまった。

相当な曲数をこなさなければならないので、こういうことも起こりうるのだろう。

演奏内容が良かっただけに、ここまでの苦労を思うと可哀想である。

 

 

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

S. ラフマニノフ 前奏曲 ニ長調 Op.23-4

C. ヴァイン 5つのバガテル

H. デュティユー ピアノ・ソナタ

 

ピアノはカワイ。

1次のショパンやアムランで相当な技巧を見せつけたが、2次のベートーヴェンやドビュッシーは意外と普通だった彼。

そして今回の3次では、再度魅せてくれた。

ヴァインやデュティユー、期待通りの切れ味の鋭さで、これらの曲の最高の演奏と言っていいだろう。

音色自体はどちらかというと地味なほうだが、決して無味乾燥ではなく、これらの近現代曲のシックな雰囲気に合っているし、モーツァルトやラフマニノフではロマン的に広がる歌も聴かれる。

 

 

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第2番 変ホ長調 K.493

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

F. シューベルト 即興曲集 Op.142 D935

G. クルターグ 8つのピアノ小品 Op.3

 

ピアノはヤマハ。

モーツァルト、ひたすらたおやかに弾くかと思いきや、歯切れよいスタッカートやノンレガートも多用して、古典派らしい軽やかさをうまく演出できている。

先ほどのロバート・ビリーのモーツァルトもロマン的で良かったが、こうした時代考証の確かさ、それから音色の明るさも相まって、この曲では小林海都に軍配が上がりそう(室内楽賞を取るかも)。

仙台国際でも弾いた彼得意のシューベルトも(その記事はこちら)、歌に満ちていながらそれに引きずられない、様式感を決して崩さないという、かのアンドラーシュ・シフのような演奏を実現している。

クルターグもタッチがとてもよくコントロールされており、トーン・クラスターでさえ歌があるように聴こえる。

もはや一個の成熟した芸術家であり、これで落ちることはさすがにないのではないか。

 

 

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 漆原啓子、Va 田原綾子、Vc 向山佳絵子)

F. ショパン 24の前奏曲 Op.28

 

ピアノはカワイ。

こちらは打って変わって、一音一音に感情を込める、ロマン派のほうを向いたモーツァルトである。

時代考証には合わないかもしれないが、この曲らしさを損なうほどではないし、音の明るさやタッチの安定性も先ほどの小林海都に劣らない。

そして彼得意のショパン、これは水を得た魚のようで、彼の持つ情熱性が存分に発揮されており、「雨だれ」や第16番、終曲など圧巻。

テクニック面でも、ほぼ完璧である(ほぼ、と書いたが、それほど気になる不足ではなく、また彼は豊かな表現力でそれを十分に補っている)。

 

 

94 ライアン・ジュウ Ryan ZHU (カナダ 2003年生まれ)

 

W. A. モーツァルト ピアノ四重奏曲 第1番 ト短調 K.478

(Vn 川田知子、Va 篠﨑友美、Vc 山本裕康)

R. シューマン 謝肉祭 Op.9

S. プロコフィエフ ピアノ・ソナタ 第7番 変ロ長調 Op.83

 

ピアノはヤマハ。

流れはさらりとしているが、こちらもフレージングなど明らかにロマン派寄りの様式のモーツァルトで、タッチは滑らか。

ソロ曲では彼のテクニックがいっそうよく発揮されており、「パガニーニ」などかなりスリリング。

ただ、謝肉祭の終曲は、彼としては若干おとなしく、もっと攻めたテンポでめくるめく感じを出してほしかった。

また、全体に強音が硬く、ロバート・ビリーやJJ ジュン・リ・ブイのようには輝かしくない(プロコフィエフではその硬さが活きていたが)。

 

 

 

 

 

そんなわけで、第1日の演奏者のうち、私が本選に進んでほしいと思うのは

 

05 ロバート・ビリー Robert BILY (チェコ 1997年生まれ)

44 小林 海都 KOBAYASHI Kaito (日本 1995年生まれ)

10 JJ ジュン・リ・ブイ JJ Jun Li BUI (カナダ 2004年生まれ)

 

あたりである。

次点で、

 

94 ライアン・ジュウ Ryan ZHU (カナダ 2003年生まれ)

 

あたりか。

 

 

次回(11月20日)は第3次予選の第2日。

第3次予選の最終日である。

 

 


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