ロシアのモスクワで開催されている、第16回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門(公式サイトはこちら)。
6月27日は、3次審査(ファイナル)の第3日、ついに最終日。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、第16回チャイコフスキー国際コンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(第16回チャイコフスキー国際コンクール(ピアノ部門) 出場者発表)
なお、以下はいずれもヴァシリー・ペトレンコ指揮、スヴェトラーノフ記念ロシア国立交響楽団との共演である。
1.
06 FUJITA Mao / Japan Age: 20
Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1 in B-flat Minor, Op. 23
Rachmaninov: Piano Concerto No. 3 in D Minor, Op. 30
ピアノはスタインウェイ。
圧倒的な完成度と表現力。
やはり、タッチの精度が著しく高い。
右手も左手もきわめて精緻にコントロールされ、無為に鳴ってしまうような音が一つもない。
チャイコフスキー、第1楽章の第1主題部ではペダルを使わずからっと仕上げたり、逆にペダルを使って深く響かせたりと、変幻自在。
そして、ペダルを使おうと使うまいと、音の粒は非常によく揃っている。
その後も、歌い口やルバートがセンスに溢れている。
第2楽章、ロマン的な表現が大変美しく、高音でふっと力を抜くなどメロディの歌わせ方が堂に入っている。
終楽章、装飾音の入れ方が一つ一つきめ細かい。
エピソード主題に入る直前のキラキラした速いパッセージでは、1回目はしっかりと鳴らすのに対し、2回目は繊細な弱音にするなど、手が込んでいる。
コーダでも、しっかりと疾走感を出しつつも、常に余裕が感じられる。
ラフマニノフも同様の素晴らしさ。
第1楽章の大きなカデンツァやその後のソロパッセージのキレといい、第2楽章の細やかな情感表現といい、文句ない出来である。
そして、終楽章は相当に速いテンポで攻めながらも、その精密さにいささかも変わりなく、苦しさや粗さを微塵も見せない。
ごり押しなところがなく、むしろ柔和ささえ感じられる。
一言でいうと、「洗練の極み」。
他のコンテスタントも皆かなりの腕の持ち主ばかりだが、彼の洗練度はさらに一段上を行っている。
ただ、チャイコフスキーやラフマニノフにこれほどの洗練は要らない、ロシア的なパワーのほうが重要である、という向きもありうるだろう。
とはいえ、彼には彼なりの引き締まった力感や勢いがあり、これほどの演奏を前にして他に注文を付けたいとは、私は思わない。
2.
03 BROBERG Kenneth / USA Age: 26
Rachmaninov: Rhapsody on a Theme of Paganini, Op. 43
Tchaikovsky: Piano Concerto No. 1 in B-flat Minor, Op. 23
ピアノはスタインウェイ。
音がやや硬質で、弱音は比較的きれいなのだが、強音がややきつめに聴こえる。
また、ラフマニノフの第15変奏のルバートや、第17変奏の低音のアクセントなど、ところどころに独自の工夫がみられるものの、それらが必然的というよりは、やや気まぐれに感じられる(端正に弾くほうが彼には合うのではないか)。
テクニック的にも苦しそうで、ラフマニノフの終盤など余裕がない感じ。
チャイコフスキーでも、第1楽章の第2主題はそれなりに歌えているものの、それがアルペッジョの伴奏を伴って繰り返される際には、技巧的問題のためかメロディが凸凹してしまっている。
終楽章も、軽快というよりはややもっさりした感じで、ミスタッチや音の抜けもそこここに聴かれる。
2曲とも、彼の本領を発揮できる曲ではなさそう。
そんなわけで、3次審査(ファイナル)第1~3日をまとめて、私の中で勝手に順位をつけるとすると
1. 06 FUJITA Mao / Japan Age: 20
2. 11 KANTOROW Alexandre / France Age: 22
3. 18 SHISHKIN Dmitriy / Russia Age: 27
4. 01 AN Tianxu / China Age: 20
5. 16 MELNIKOV Alexey / Russia Age: 29
6. 25 YEMELYANOV Konstantin / Russia Age: 25
7. 03 BROBERG Kenneth / USA Age: 26
というような感じになる。
藤田真央は、あの圧巻の演奏からすると、もう優勝で良いのではないか。
ただ、過去の受賞者から推察するに、チャイコフスキー国際コンクールの求める演奏がよりロシア的なものだとすると、1と3がひっくり返ったような順位になりはしないか、という懸念を消すことができない。
一体どうなるだろうか。
さて、3次審査(ファイナル)の実際の結果は以下のようになった。
【3次審査(ファイナル)結果】
1位: KANTOROW Alexandre / France Age: 22
2位: SHISHKIN Dmitriy / Russia Age: 27
FUJITA Mao / Japan Age: 20
3位: MELNIKOV Alexey / Russia Age: 29
BROBERG Kenneth / USA Age: 26
YEMELYANOV Konstantin / Russia Age: 25
4位: AN Tianxu / China Age: 20
5位: not awarded
6位: not awarded
Special Prize for courage and restraint: AN Tianxu / China Age: 20
私としては、予想に近い、概ね納得のいく結果だった。
藤田真央は第2位、惜しくも優勝ならず。
残念だったが、考えてみればチャイコフスキー国際コンクールで準優勝だなんて本当にすごい。
コンテスタントの方々には、今日はぜひゆっくり休んでいただき、そしてこれからも末永く活躍してほしいものである。
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