ロシアのモスクワで開催されている、第16回チャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門(公式サイトはこちら)。
6月19日は、1次審査の第2日。
ネット配信を聴いた(こちらのサイト)。
ちなみに、第16回チャイコフスキー国際コンクールについてのこれまでの記事はこちら。
(第16回チャイコフスキー国際コンクール(ピアノ部門) 出場者発表)
1.
09 GUGNIN Andrei / Russia Age: 32
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in A-flat Major, BWV 862
Beethoven: Piano Sonata No. 21 in C Major, Op. 53 "Waldstein"
Rachmaninov: Etudes-tableaux No. 4 in B-flat Minor, Op. 39
Chopin: Etude in E-flat Major, Op. 25, No. 1
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 8. Wilde Jagd : Presto furioso
Tchaikovsky: "Dumka", Op. 59
ピアノはスタインウェイ。
「ワルトシュタイン」ソナタ、悪くないが前日のSHISHKIN Dmitriyと比べると、オクターヴ・グリッサンドを含めスムーズさにおいてやや劣るか。
リストの「狩」も、よく弾けてはいるが、前日のAN Tianxuと比べてしまうとおとなしい。
全体的に、まとまってはいるが、今回のメンバーの中で特別な存在感を発揮するところまではいっていない印象。
2.
07 GADJIEV Alexander / Italy Age: 24
J.S.Bach: WTC 2, Prelude and Fugue in E Major, BWV 865
Beethoven: Piano Sonata No. 21 in C Major, Op. 53 "Waldstein"
Tchaikovsky: Theme and variation in F Major Op. 19 No. 6
Chopin: Etude No. 5 in E Minor, Op. 25
Rachmaninov: Études-tableaux No. 5 in E-flat Minor, Op. 39
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 4. Mazeppa
ピアノはスタインウェイ。
こちらの「ワルトシュタイン」ソナタも、やはり前日のSHISHKIN Dmitriyに比べ、オクターヴ・グリッサンドを含めスムーズさにおいて敵わない。
ただ、独特のからっとした歌心があるにはある。
ロマン派の各曲も同様に、独特の味があるといえばある。
ただ、技巧的にはまずまずといったところであり、リストの再現部冒頭の軽快な部分ではミスも多く、こうした欠点をカバーするほどの表現力があるかというと難しいところ。
3.
16 MELNIKOV Alexey / Russia Age: 29
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in B-flat Minor, BWV 867
Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F Minor, Op. 57, "Appassionata"
Tchaikovsky: The Seasons, Op. 37a - 10. October: Autumn Song
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 1 in C major
Rachmaninov: Etude-Tableau No. 2 in C Major, Op. 33
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 10. Allegro Agitato
ピアノはスタインウェイ。
ロシア風の美しい音を持つのみならず、他の多くのロシア系ピアニストたちと違って、いわゆる「爆演」にならない繊細さがある。
「熱情」ソナタ、2015年浜コンでも弾いた彼の得意曲だが、前日のMUN Arseniiのような力感はないものの、細部の表現に気を配った説得力のある演奏となっている(技巧的な安定性もこちらのほうがやや上)。
バッハやチャイコフスキーでのメランコリックな表現も美しい。
ショパン、ラフマニノフ、リストのエチュードも、シャープな表現が魅力の、完成度の高い演奏。
4.
13 KOPACHEVSKY Philipp / Russia Age: 29
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in C Major, BWV 846
Haydn: Piano Sonata in A-Flat Major, Hob. XVI. 46
Tchaikovsky: The Seasons, Op. 37a - 5. May: Starlit Nights; 6. June : Barcarolle; 7. July: Song of the Reaper
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 1 in C major
Rachmaninov, Etudes-tableaux No. 5 in D Minor, Op. 33
Liszt: Grandes études de Paganini, S. 141 - No. 6 in A Minor, Thèmes et variations
ピアノはヤマハ。
バッハにハイドン、きわめてロマン的な演奏だがなかなか味わい深い。
チャイコフスキーやラフマニノフも、どこか個性的な味がある。
ただ、ショパンとリストのエチュードは技巧的にいまいちで、音の流れがぎこちないし、強音もよくコントロールされたというよりは力任せな印象。
5.
23 YASHKIN Anton / Russia Age: 21
J.S.Bach: WTC 2, Prelude and Fugue in B-flat Major, BWV 890
Beethoven: Piano Sonata No. 23 in F Minor, Op. 57, "Appassionata"
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 4 in C-sharp minor
Rachmaninov: Etudes-tableaux No. 3 in F-sharp Minor, Op. 39
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 4. Mazeppa
Tchaikovsky: "Scherzo à la Russe", No. 1, Op. 1
ピアノはスタインウェイ。
「熱情」ソナタや「マゼッパ」、パワフルで迫力があり、技巧的にもそれなりによく弾けていて悪くないのだが、ややごつごつしており、洗練されているという感じではない。
ショパンのop.10-4では、フレーズの変わり目で減速してしまうのがいまいち(特に左手の速い走句が苦しそう)。
6.
11 KANTOROW Alexandre / France Age: 22
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in E-flat Major, BWV 852
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 12. Chasse-Neige
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 8 in F major
Beethoven: Piano Sonata No. 2 in A Major, Op. 2/2
Tchaikovsky: 18 Pieces, Op. 72 - No. 5: Méditation
Rachmaninov: Etudes-tableaux No. 9 in D Major, Op. 39
ピアノはカワイ。
硬質できりっとした、フランスらしい音。
バッハにリストにチャイコフスキー、べたつかず味わい深い詩情が聴かれる。
ショパンのop.10-8も同様だが、この曲ではところどころタッチが安定しないのが惜しい。
ベートーヴェンのソナタ第2番は優美で軽やかな演奏で、彼の音楽性が曲に合っている(ところどころ聴かれるタメはあまり好きになれないけれど)。
7.
19 TARASEVICH-NIKOLAYEV Arsenij / Russia Age: 26
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in E-flat Minor, BWV 853
Mozart: Piano Sonata No. 13 in B-flat Major, K. 333
Tchaikovsky: 18 Pieces, Op. 72 - No. 5: Méditation
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 1 in C major
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 12. Chasse-Neige
Rachmaninov: Etudes-tableaux No. 9 in D Major, Op. 39
ピアノはスタインウェイ。
ロシア風の美しい音が聴かれる。
バッハにモーツァルト、いくぶんロマン的だがしっとりとした美演。
ショパンやリストでは、技巧的にもなかなかのもの。
地元のロシア勢の中では、よく弾けているほうだと思う。
ただ、何かもう一つ、特別に印象的な持ち味が欲しいところではある。
8.
02 BEISEMBAYEV Alim / Kazakhstan Age: 21
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in E-flat Minor, BWV 853
Beethoven: Piano Sonata No. 7 in D Major, Op. 10 No. 3
Tchaikovsky: Nocturne No. 1 in F Major, Op. 10
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 12. Chasse-Neige
Chopin: 12 Études, Op.10 - No. 7 in C major
Rachmaninov: Etudes-tableaux No. 9 in D Major, Op. 39
ピアノはファツィオリ。
くっきりとした音が特徴で、硬めだがパワーがある。
ただ、ベートーヴェンは冒頭からせかせかしていて、このテンポを維持するコントロール力はなく途中でこけそうになるし、テンポが落ちたりまた速まったりと安定しない。
リスト、ショパン、ラフマニノフは名人芸的な味があり悪くない。
9.
06 FUJITA Mao / Japan Age: 20
J.S.Bach: WTC 1, Prelude and Fugue in A Minor, BWV 865
Mozart: Piano Sonata No.10 in C Major, K. 330
Tchaikovsky: "Dumka", Op. 59
Chopin: Etude No. 11 in A Minor, Op. 25
Rachmaninov: Études-tableaux No. 5 in E-flat Minor, Op. 39
Liszt: Douze Études d'exécution transcendante, S. 139 - 10. Allegro Agitato
ピアノはスタインウェイ。
これはすごい。
右手も左手も、タッチのコントロール能力が尋常でなく、音の粒が限りなくよく揃っている。
表現力も十分にあり、緩徐な曲でも飽きさせない。
それも、あえて工夫するというよりは、正攻法な表現である。
第2のチョ・ソンジン、ともいえるかも(弟のよう)。
チョ・ソンジンがより大人っぽい表現だったのに対し、藤田真央の場合はやや軽めのタッチで明るく天真爛漫なイメージ、という違いはあるが、モーツァルトでの美しい歌心から、リストのコーダでのトップスピードによるキレ味の鋭さに至るまで、遜色ない出来である。
ショパンやラフマニノフも、やや小ぶりだが完成度が高く、文句なし。
今回、優勝も十分にあり得そう。
いま、一番うまい日本人ピアニストかもしれない。
早朝4時から眠い目をこすりつつ聴き始めたのだが、一気に目が冴えてしまった。
そんなわけで、第2日の演奏者のうち、私が2次審査に進んでほしいと思うのは
16 MELNIKOV Alexey / Russia Age: 29
06 FUJITA Mao / Japan Age: 20
あたりである。
次点で、
09 GUGNIN Andrei / Russia Age: 32
07 GADJIEV Alexander / Italy Age: 24
11 KANTOROW Alexandre / France Age: 22
19 TARASEVICH-NIKOLAYEV Arsenij / Russia Age: 26
02 BEISEMBAYEV Alim / Kazakhstan Age: 21
あたりか。
本日6月20日は、1次審査の第3日が予定されている。
1次審査の結果発表もある(日本時間で6月21日の朝6時頃)。
藤田真央はまず落ちることはないと思われるが、どうだろうか。
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