膀胱瘤の整体治療
6診目でほぼ改善した症例の解説です。
患者Mさん=27才-女性-主婦の症例
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① Mさんの病歴・・・
患者Mさんは、3か月前に第一子を出産されましたが、退院後の3週目頃に会陰部に何かが挟まっている感触があった為、触診すると尿道口から少しはみ出ているものがあったそうです。婦人科を受診したところ「膀胱瘤」との診断を受け、「ステージ2で、3cmの膀胱下垂がある」との事だったそうです。ただ有効な治療法は無く、「もしかすると自然に改善するかもしれないので、半年ほど様子をみてください」と言われ、加えて骨盤底筋体操をする様に指導を受けたそうです。Mさんは「半年たてば元に戻りますか?」と担当医に尋ねたそうですが、担当医は「う~ん、、、」というだけで、あまり期待はしないように言われたそうです。
② Mさんの診察
・膀胱瘤の感触は「何かが挟まっている感じで、尿道付近に強い下垂感がある」そうで、特に歩行中に強くなるそうです。お風呂などで触診すると、尿道口付近に硬い腫瘤の様なものが飛び出ているのが触れられるそうです。ペッサリーでは下垂している膀胱壁を挙上-維持する事が難しいそうです。
・第一子の出産は普通分娩でしたが、陣痛が長引き、出産まで31時間もかかったそうです。新生児の体重は3500gだったそうです。
・出産後の三日目に、一度だけ失禁があったそうです(その後は一度も無い)。ただ、それ以降ずっと頻尿気味で、一日に10回以上も尿意が起こり、トイレに行かれるそうですが、尿の量は少なめだそうです。
・排尿障害や排尿痛、排便障害は無いそうです。
・出産後に一度、ご主人との性交があったそうですが、挿入時に膣の深部に極度の痛みがあり、また正常位/後背位のどちらでも性交痛があった為、それ以来「恐くて(性交が)できません」と仰っていました。
・出産前の月経周期は28~31日で、月経期間は7日だそうです。生理痛はかなり強く、主に下腹部から会陰部~仙骨部にかけて痛むそうです。排卵痛は無かったそうです。
・子宮筋腫は無いそうですが、数年前に子宮内膜症と子宮後屈症の指摘を受けていたそうです。特段の治療はしていなかったそうです。
・腹部聴診上、血管雑音はありませんでした。グル音はやや弱く聴取出来ました。
・腹部触診上、恥骨直上から右恥骨結節の深部に著明な緊張がありました。また、臍の左右から恥骨にかけての深部にも著明な緊張がありました。
➂ 治療目標と整体治療
⑴ 骨盤静脈叢のうっ血を緩和する
⑵ 内腸骨動静脈流域の循環を回復させる
⑶ 上記⑴、⑵によって骨盤内臓(泌尿生殖器、骨盤底筋群、膀胱膣中隔、子宮支持靱帯群)の修復力増強を期待する
⑷ 子宮内膜症を解消する
⑸ 子宮後屈を前傾前屈に戻す
⑹ 膀胱底を挙上する
⑺ 子宮/膣~直腸を挙上する
・骨盤静脈叢解放テクニック
・内腸骨動脈解放テクニック
・アルコック管解放テクニック
・直腸平滑筋テクニック
・膀胱尖牽引テクニック
・子宮底解放テクニック(子宮内膜症解放テクニック)
・子宮円索牽引テクニック
「下垂感は(治療前の)8~9/10くらいですが、お風呂で触ると以前の硬さが少しマシな感じがします」と仰っていました。
・3診目来院時、
「下垂感は7/10程度です。(尿道付近を)触った感じは、まだ硬くて出ている感じがします」と仰っていました。
・5診目来院時、
「下垂感は4~5/10程度で、触った感じはかなり軟らかくなって凹んできています。少し良くなってきた感じがあります。」と仰っていました。
・6診目来院時、
「下垂感は2~3/10程度で、触った感じも、(尿道付近の)硬さがほとんど無くなって、凹んでいます」と仰っていました。現段階で、相当な程度まで膀胱瘤が挙上-改善してきていると思われるので、この良好な状態を維持し、脆弱になって支えきれなくなっている膀胱膣中隔や子宮支持靱帯群の緩みが元の緊張した状態に改善するまで、ペッサリーを使用する方が良いと考え、これ以降は婦人科にて受診する事にしました。
⑤ 今回の症例の概説、、、
・膀胱瘤は女性に生じる疾患で、膀胱を支持する骨盤底筋群や色々な支持靱帯が脆弱になって支えきれなくなり、膀胱壁が膣との間(膀胱膣中隔)に下行し、最悪の場合は膣口より下方に脱出してしまう病態です。膀胱だけでなく子宮や直腸などの骨盤臓器も似た様な機序で下垂しやすいので、まとめて骨盤臓器脱と総称する事があります。
・そして膀胱瘤は、急性タイプでは、その多くが経膣出産時に上記の骨盤底筋群や支持靱帯が何らかの原因によって破損され、その支持機能を失って下垂してしまう症例が多い、と言われています。今回のMさんの場合、具体的な事は不明ですが、31時間も陣痛が続いていたとの事ですから、ひょっとしたらその際に上記の筋群や靱帯を傷めたのかもしれません。
・ところで婦人科的には、膀胱瘤の治療は1.骨盤底筋体操、2.ペッサリーによる支持、3.手術 の三つに分かれます。Mさんの場合、婦人科医の話しではステージ2との事でしたが、実際には3cmも下垂しているので、ステージ3(☚手術相当)に近い状態であるのでは、と思います。ですからペッサリーで膀胱瘤を挙上しようとしても無効であったのでは、と思われます。
・Mさんからお話を伺ったわけではありませんが、Mさんはおそらく、担当医から手術を勧められていたのでは、と思います。Mさんの例(膀胱瘤)に限らず、他の疾患の患者さんでも、手術を回避したがる方は多いですから、Mさんも同様に手術をしたくなかったので、当院の整体治療を希望されたのではないか、と思います。
・ちなみに整体治療とは手技による物理的な影響力を人体に及ぼす治療方法ですから、膀胱瘤の様な臓器の位置の問題に対するアプローチ法としては、投薬治療などより有効なのは当たり前の話で、それは膀胱瘤でも同様です。要は、下垂している膀胱を下記の様な整体手技により物理的に吊り上げ、元の位置に引き戻せばいいのですから。
・膀胱尖牽引テクニック
・子宮底解放テクニック
・子宮円索牽引テクニック
ただ、この様に有効と思われる整体治療にも弱点があります。それは「靱帯」の治療に関してです。
・靱帯の障害、それはいわゆる「捻挫」があります。捻挫は1度、2度、3度に分類されますが、3度は完全断裂ですから、当然手術適応になります。2度は半分の断裂で、残存する靱帯の線維はかなり伸びきった状態になり、関節の緊張度が弱くなるので、当該関節はグラグラした不安定な状態になります。2度の場合、保存療法が第一選択肢になります(場合によっては手術適応)。1度は一番軽く、少量の断裂だけで済み、残存する靱帯線維も少ししか伸びきっていない状態です。一般的にはこの1度の捻挫患者が大半だと思われます。この1度は、当然保存療法になります。そしてその保存療法とは「固定(ギプスなど)」が基本なのです。
・なぜ、捻挫の基本治療が固定だけでいいのか、それは靱帯線維(コラーゲン線維)は、固定し続けると縮んでくる性質があるので、伸び切った靱帯線維が元の長さに縮まり、線維が修復する為には、伸び切っている靱帯を縮めた位置に固定する必要があるからです。ですから足首の捻挫などの場合、足首が動いて伸びない様に足首をギプス等で固定するのです。
・ここでMさんの膀胱瘤に話しを戻すと、問題は膀胱膣中隔や子宮支持靱帯群などの「靱帯の捻挫」をどの様に処理するか、が問題となります。せっかく整体手技で下垂している膀胱壁を引き上げて、元の定位置に引き戻したとしても、膀胱膣中隔などの靱帯が引き伸びている状態では、長時間にわたり定位置に維持-固定する可能性が高まらないからです。つまり、整体治療の効果を長期化する為には、「固定という過程」が重要で、逆に言うと、この「固定という過程」が、整体治療の弱点になるのです。
・その整体治療の弱点を補うために、Mさんの下垂していた膀胱壁の大半が挙上した、と思われる6診目で、捻挫治療の固定=ギプス=に当たる「ペッサリー」が、挙上された膀胱壁を定位置に維持-固定する捻挫治療に最適である、と考えられので、この段階で整体治療を終了し、婦人科の受診を勧める事にしました。
・ただ、そのペッサリー効果を促進するために、その捻挫状態にある膀胱膣中隔や子宮支持靱帯群に新鮮な栄養やO2などの供給を促進し、その早期改善を期待する意味で、
⑴ 骨盤静脈叢のうっ血を緩和する
⑵ 内腸骨動静脈流域の循環を回復させる
⑶ 上記⑴、⑵によって骨盤内臓(泌尿生殖器、骨盤底筋群、膀胱膣中隔、子宮支持靱帯群)の修復力増強を期待する
目的を設定し、
・骨盤静脈叢解放テクニック
・内腸骨動脈解放テクニック
・アルコック管解放テクニック
などを、あらかじめ施術しておきました。
これらの事で、一日も早くMさんの膀胱瘤が、元の定位置に復帰-安定することを、今は祈るのみです。
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