患者Sさん=62才-女性-主婦/自営業の症例
患者Sさんは数年前から甲状腺が腫脹してきたそうです。血液検査では甲状腺ホルモンあるいはその他の異常は無く、橋本病やバセドー病、あるいは甲状腺腫瘍の様な病態も無いそうです。ただ、血液検査上、コレステロール値がやや高めだそうで、担当医の説明では「原因はよく分かっていませんが、コレステロール値が高めの人に甲状腺が腫れることが時折あります」とのことだそうです。担当医の説明時、レントゲン画像にも白い粒上の陰影が移っていたらしく、「それが血栓かも」と仰っていました。Sさんは別件(胃下垂と骨盤痛、頭痛、飛蚊症など)で当院に通院されていましたので、この件についても治療することになりました。
・頸部の視診上、甲状腺の輪郭がかなりふっくらと腫脹して見えました。左右とも腫脹していましたが、左葉よりも右葉の方が腫大していました。
・甲状腺の触診上、フクフクと柔らかく触れることが出来ました。腫瘤感はありませんでした。
・橈骨動脈の脈診上、1分間に70回程度の脈拍で、皮膚の湿り感や舌の腫大もありませんでした。
・飛蚊症の件で眼科などの医療機関を受診はされていませんでした。当院の勧めでその後眼科医院を受診されましたが、異常は無かったそうです。
・瞳孔の左右差は無く、眼瞼下垂や眼球の陥没・突出はありませんでした。また眼痛、霧視、斜視、複視、あるいは眼球運動の異常や視野欠損もありませんでした。しかし眼球結膜がやや赤く染まっていました。
・眼球の触診では、両眼ともやや硬く触れました。
・前後左右の首筋から頭部にかけての凝り=筋肉緊張及び圧痛が強く、時折接骨院などに行かれていてマッサージ等の施術を受けていたそうです。特に右側前側部の筋肉群は著明に腫大し緊張していました。
・頭痛の持病がかなり前からあり、痛まない時でも違和感は常にあるそうです。頭痛の部位は頭頂部付近だそうです。
腰痛と下腹部痛は起床時(臥位状態)に強く出るそうです。その部位は恥骨から臍下にかけてと、仙骨周辺だそうです。
・病院では有効な治療法がなく、近くの接骨院で治療されていましたが全く効果が無かったので、ご自身で色々な治療法を試されていたそうです(例=漢方、サプリメント、体操、ツボ治療など)。その経験上、どれも効果は無く、一番効果的だったのは「朝ぶろ」だったそうです。
・排便は毎日1回あるそうですがスッキリ排便出来ることは稀で、スッキリ排便出来た時は腰痛・腹痛が両方とも解消するそうです。しかし全部排便出来ずに残便感がある時は腰痛・腹痛も解消しないそうです。そのせいもあって、下剤(☚漢方薬)を30年以上も服用していたそうです。下剤を服用すると1日に3回ほど排便があり、残便感も解消し、腹痛や腰痛も無くなるそうです。但し、漢方薬は1年ほど前から、出来るだけ服用しないようにしているそうです。
・便の性状は普通で、血便や筋状便(リボン状便)も無いそうです。
・初潮は遅く、閉経も早かったそうです。
・生理痛はほとんど無かったそうです。また、その他の婦人科的愁訴・疾患も特になかったそうです。子宮下垂も無いそうです。
・32才の時に出産されていますが、安産で時間も短かったそうです。
・排尿障害や排尿痛あるいは不正出血は無いそうです。
・左右の下腿の冷え性があるそうです。
・下腿の神経学検査で異常はありませんでした。
・Sさんの出生時に左鼠径部(恥骨側)に軽度の鼠経ヘルニアがあったそうですが、その時の担当医師より「手術などの治療をする必要もなく、放置していても大丈夫です」と言われていたそうです。ただ、成人後も時折左鼠径部に軽い疼痛が生じることがあるそうです。
・血圧は具体的な数字は覚えておられませんでしたが、正常範囲(やや低い方)だそうです。
・血液検査でも特段の異常を指摘されたことは無かったそうです。
・腹部聴診上、血管雑音はありませんでした。グル音はやや弱めに聴取出来ました。
・腹部打診上、盲腸部~下腹部~S字結腸部は濁音でしたが、恥骨直上から臍部~左季肋部にかけては鼓音でした。
・腹部触診上、腫瘤感はありませんでしたが、盲腸部~下腹部~S字結腸部にかけて極めて著明な粘土様の抵抗感がありました。また、十二指腸空腸曲や直腸部、S字結腸部(下腸間膜静脈部位)など数か所に著明な緊張と圧痛があり、特に左下行結腸はやや緊張して触れることができ、同部の押圧で押圧部位からS字結腸~左鼠径部(恥骨側とASIS側)、さらに大腿前面に放散痛が誘発出来ました。さらに回盲部の押圧でも左季肋部にかけて放散痛が誘発出来ました。肝脾腫はありませんでした。左右の恥骨結節直上にも著名な緊張と圧痛がありました。
⑴ 上・下甲状腺静脈の還流を回復する
・静脈還流促進テクニック
・4診目治療後、
・5診目来院時、
・7診目来院時、
・今回の甲状腺の腫脹はバセドー病や橋本病の様な甲状腺機能亢進症or低下症、あるいは腫瘍性の病変の心配はほぼ無く、甲状腺腫脹による愁訴も見当たりませんでしたので、特に積極的に治療する予定は無かったのですが、ただ見かけ上かなり甲状腺の腫脹が目立ち、Sさんご本人もその事を(美容上)少し気になされている様なので、アプローチすることになりました。
・甲状腺は小さな組織ですが、しかしその血管分布は旺盛で上頸部=外頸動脈=からは「上甲状腺動静脈」によって、鎖骨部=鎖骨下動脈=からは「下甲状腺動静脈」によって支配されています。従って、どちらか一方にでも静脈還流障害が生じると甲状腺が浮腫む(腫脹する)可能性があり得るので、と思います。
・今回のSさんのケースでは、バセドー病や他の甲状腺に関係する病態は確認されていませんので、上記仮説の可能性を検討してみる値打ちはあると思いました。そこで実際診てみると、確かに鎖骨上窩から頸部前側面~顎下部にかけて筋肉群の著名な緊張・圧痛、部分的には筋肉腫脹が確認でき(☚特に右頸部)、それが上・下甲状腺静脈の還流障害を生じさせている可能性が否定できず、その仮説の元に上記③の整体テクニックを施術する事にしました。
・結果的に4診目には私だけでなく、患者さん本人=Sさん=も確認できるくらいに甲状腺が小さくなりましたので、コレステロール等の血栓症の可能性もあると思われますが、本ケースについては上記仮説も一因の一つである事が確認できたのでは、と思います。
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