半年ほど前から、近所のモスバーガーで、60代くらいの男性が働きだした。
レジカウンターに立って、お客さんのオーダーを取るには、ちょっとキツいのではないかと思えるほど、その男性の記憶力は衰えていた。
でも、少し時間はかかるかもしれないが、仕事に慣れて、メニュー名を覚えられるようになったら、オーダーを取る仕事もこなせるようになるのではないかとも思っていた。
そして、今日、その男性がレジカウンターに立っていた。
「ホット・レモンティーに、お湯をもう一杯つけてください」
コーヒーチケットを手渡し、私はそう注文した。
(ちなみに、モスバーガーでは、ホットティーを注文した時、このようにオーダーすると、お湯入りのカップを出してくれるので、ティーバッグを移せば二杯分の紅茶を楽しめる)
すると、レジを打った後、男性が「アイスティーですか?」と言ったので、私はもう一度、「ホットレモンティーに、お湯をつけてください」と返答した。
その後、男性は、紅茶とレモン入りの小皿をトレイに乗せながら、「スプーンはおつけしますか?」と言ったので、「お願いします」と答えたのだが、お湯を出し忘れていたので、「お湯もお願いします」と付け加えた。
そして、お湯をトレイに乗せてもらってから、「砂糖もつけてください」とお願いした。
半年前と比べて、この男性の応対能力は、あまり変わっていなかった。
記憶術の講師という職業柄、私は認知症の疑いがある人に、病院でどのようなテストをやっているのかを知っているのだが、この男性のワーキングメモリの機能が衰えていることは仕事の対応ぶりから見ても明らかだった。
ワーキングメモリとは、かけ算や足し算を暗算する時に、繰り上がりの数を一時的に記憶しておくための記憶領域で、この機能が衰えると暗算ができなくなる。
今回の場合も、私が伝えた情報は、
「ホットレモンティー」+「お湯」
という極めて単純な組み合わせだが、ワーキングメモリが衰えてしまうと、この2つの情報さえ、レジを打っている間に飛んでしまう。
一度、衰えたワーキングメモリの機能を回復させる画期的な方法は、今のところ残念ながら発見されていない。
だから、私がもし、この男性から、「どうすれば、レジの仕事をうまくこなせるようになれるだろう?」と相談を受けても、ワーキングメモリをそれほど使わず、紙にメモを取りながら進められる仕事を選んだ方が、きっとうまくいきますよ、と提案することぐらいしかできない。
それでも、私はこの男性を見ていると、なぜか応援したくなる。
もし、男性が今の仕事を続けていきたいと願っているなら、どのようにすれば、スムーズに仕事をこなせるようになるのかを一緒に考えてみたいとまで、なぜか思ってしまう。
仕事をうまくこなせない歯がゆさを日々感じながらも、それでも真面目にひたむきに仕事をこなそうとしているこの男性の働く姿を見ていると、他人とは思えなくなる。
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