お久しぶりです。ERのSです。
突然ですが
当院の超音波技師さんは、本当に有能です。
きっとたくさんの救急患者さんが集まる病院なので、たくさんの経験を積んで技術が向上していくのだろうと思います。
例えば、ある日のこと・・・
20代男性が、左の陰嚢が痛いと言って受診しました。
このような場合、なによりも注意しなくてはいけないのは精巣捻転です。
男性の大事な部分が捻じれてしまう病気です。
これについては以前、当ブログでも紹介しました。
「命以外にも大事なこと。精巣捻転を見逃すな!」
http://ameblo.jp/fukuoka-er/entry-12025451139.html
精巣捻転は緊急手術を必要としうる病気ですので、絶対に見逃したくない疾患です。
少しでも疑えば専門家につなげる必要が出てきます。
(でも徒手整復もあるので、以前のブログで勉強してくださいね。)
検査で有用なのは超音波(エコー)検査です。
このときも早速、超音波検査に出しました。
・・・すると超音波のレポートには
「左精索部に拡張・蛇行する脈管を認めます」
「左腎静脈やや拡張」
???
難しい単語が並んでいます。
若手の救急医には、超音波技師さんのレポートの意味が分かりませんでした。
とりあえず精巣捻転ではなさそうなので、一安心ではあります・・・
上級医に相談したところ思いがけない説明を受けました。
「技師さんはナットクラッカー現象による精索静脈瘤を疑っているんだよ!!」
精索静脈瘤とは、睾丸の上にある静脈が大きく拡張してしまう病気です。
(主に左側の)陰嚢の表面がボコボコと膨らんでいて、ときどき重い痛みを感じます。
精索静脈瘤は一般男性の15-20%に見られるので、決して稀な状態ではありません。
ですから大した症状が無ければ放置していても良いのですが、男性不妊の原因となりうるため手術療法を行う事もあります。
男性不妊症の人の40%は精索静脈瘤が原因とも言われているのです。
なんで左側が多いのかというと、血管の走行が関連しています。
左側の精索静脈が合流する腎臓の静脈が、動脈につぶされてしまいやすい走行をしているのです。
特に脂肪の少ない痩せている人が、つぶされやすいと言われています。
この様に血管がつぶされる状態が、くるみ割りに似ていることから、ナットクラッカー現象と言われています。
ナットクラッカー現象によって腎臓の静脈が押しつぶされてしまうので、精索静脈瘤以外にも、腰痛や血尿を引き起こすことがあります。
この様な状態を総称して、ナットクラッカー症候群と呼ぶこともあります。
CTでは大動脈とSMAの間に左腎静脈が挟まり、右に比べて左の腎静脈が著明に拡張して見られることがあります。
(急性腹症のCT演習問題 上腹部痛シリーズ29 RESIDENT COURSE症例ER141より引用)
これだけの知識をきちんと理解して、超音波のレポートに「左腎静脈やや拡張」と記載してくる当院の超音波技師さん。
ERの若手救急医も思わず、
「さすが、うちの技師さん!!」と叫んでいました。
患者さんはその後、泌尿器科外来で適切なフォローを受けています。
※個人情報に配慮して内容を一部変更しております。