久しぶりに病気の紹介をいたします。
ある日、外来の問診票を見ると8歳の男の子が発熱で受診しています。
子供の発熱は、あまり重症ではないことが多いです。
病名に限らず、子供の診療で気を付けるサインとして・・・
・グッタリしている
・水分も食事も摂れない
・顔色がわるい
この3つがとても重要です。
逆に言うと、これらが全て問題なくて、活気があってときどき笑顔がでるときなどは大きな病気である可能性は非常に低いと言えます。
では顔色が悪いというのはどんな感じでしょうか?
こんな感じです。
このように、「顔の中心」 「目と目の間」 「鼻の頭のあたり」が青ざめている時は要注意です。
これは教科書には載っていない事実ですが、ER看護師に話したらみんな同意してくれました。
こんな感じなら大丈夫。顔色が良くて、よく泣けていて、涙もポロポロでています。
こういった状態を、「活気がある」とカルテ記載します。
それにしても可愛いですね。
さて、、8歳の男の子の発熱の子の診察を開始しました。
見ると顔色が悪い。
本人は「ここが痛い」といって左の股のところを指さしています。
みると股関節を曲げたままで、伸ばすことができないでいます。
股関節を動かそうとすると、痛がってなかなか動かしません。
採血をすると白血球26000、CRP1.5です。
白血球が上昇しています。小児科医と整形外科医に相談して股関節のMRIをとりました。
左の股関節の周りに炎症(やじるし⇒の先の白い部分)があります。
・・・ま、まさか。
整形外科医が緊急で関節の液体を採取する処置をしてくれました。
白い膿がひけました。
やはり・・・
これは!!
化膿性股関節炎だ!!
※化膿性股関節炎とは・・・股関節に細菌が感染する稀な病気。ひどければ関節が破壊されたり骨の成長が障害されたりする。赤ちゃんや幼児に多い。
※ここからの流れが更に凄いです。少し難しい内容になりますので興味のある方はお読みください。
整形外科医は穿刺した膿をもって顕微鏡室へ直行。
ER顕微鏡室の様子はこちらの記事から
グラム染色を行ったところ・・・
むむむ。この青い菌は、連鎖球菌!
他には菌体はなし。
内科医に顕微鏡所見をみてもらうと
「たぶん溶連菌だね」とのこと。
そこで、ノドのA群溶連菌感染で行う簡単な迅速検査でチェック!
A群溶連菌が陽性!!
A群溶連菌であれば100%感受性があるという理由からアンピシリンで治療開始。
培養結果もA群溶連菌。
さらに関節の持続洗浄などの手術・治療が行われ、無事に軽快し退院となりました。
化膿性関節炎という重大な病気で、数時間で菌の名前を特定するなんてなかなかできません。さらに抗生物質の種類まで決めてしまうのはとても難しい選択です。
化膿性関節炎の原因菌についてUpToDateで調べてみると、こういう感じになりました。
黄色ブドウ球菌の頻度がとても高いですね。
化膿性股関節炎に対しては、世の中に抗生物質の効きづらい、いわゆる「耐性菌」が増加しているため、強力な抗生物質が使用されることが多いです。(カルバペネムやバンコマイシンなど)
一方でアンピシリンはターゲットとできる菌が少ない薬ですが、さほど副作用を気にする必要もなく、効くときはとてもキレが良いと言われています。
そういった意味でアンピシリンから治療できたことの意味はあると感じます。
顔色などから「何かおかしい」と感じ取れたER担当医
グラム染色を含め、フットワーク軽く対応してくれた整形外科医
いつも真剣に感染症診療に取り組んでいる内科医
彼らの協力が、患者さんの股関節を救いました。
※個人情報に配慮して、内容を一分変更しています。