近々、昇段審査を控えた人達が居るという事で
今一度、基本中の基本である袈裟斬りをおさらいしましょうか。
これがまた簡単な様に見えてかなり奥が深い。
確か入門したての頃だったか戸田宗家から「本当の振りを覚えるまで毎日素振りし続けてようやく掴んだ」と教えられまして、
自分も同じく毎日毎日、櫂型木刀で素振りし続けてなんとなく掴みかけてきた頃に
宗家の振りを見てようやく本当の意味がわかりました。
確か二段目前の頃だったか…
しかし、画像検索とかすると居合道師範の方でも平気で間違っている人がかなりいるんですよねぇ…
今回登場していただくのは…
横浜の動くガンダム先生
わざわざ自分で悪い例の写真撮るのも面倒だし癪なのでね…
まずは剣の握り
本来の日本刀の正しい握りはこれ。
握り方①
左右の手の間隔を空けずに握る。
戦国時代までの日本刀の握りがこれ。
我々不伝流ではこの握りを強く推奨しています。
理由はあらゆる面で理に適っているから。
そして、古流をわざわざ改悪する理由もない。
続いてこちら
握り方②
こちらは左右の手の間隔を空けて握る。
竹刀の握り方と言えばわかり易いでしょう。
いつからこうなったのか詳しい年代は不明だが、
発祥は江戸時代。
長い太平の世の最中に生まれたのでしょう。
本来、この持ち方は長大な野太刀、長刀や長巻といった長柄武器の持ち方であって
長時間に渡る武器の重量から来る疲労を和らげる為なのだとか。
標準的な長さの日本刀でこの様に握った場合、
メリットは両手の間隔を空ける事によって重量が分散されバランスが取り易くなる事くらい。
だが、間隔を空けない握りと比較して取り回し易さで圧倒的に劣り、咄嗟の対応や狭い場所での取り回しが非常に困難となる。
これも過去に何度も言っているが
「半面切りの直後に間髪入れずに水平切り」
「水平切りをフェイント、そこから袈裟切りへ変化」
どちらの握りが取り回し易いのか?
最早、議論の余地もないほどに前者でしょうよ。
続いて振りかぶり
振りかぶり①
手首から下を左右に広げない。
肘は軽く曲げる程度で左右に張らない。
振り上げた腕は潰さない。
構えから振りかぶりまでに無駄な動作が一切入らない。
つまりは攻撃に入るまでの一連の動作を最短で行えるということ。
次はこの振りかぶり
超絶可動を誇る動くガンダム先生も手首はあまり可動しないので完全再現は無理だったw
振りかぶり②
肘が思いっ切り曲がり、手首から下が左右に広がり完全に潰れている状態。
これまた剣道の振りかぶりと言えばわかり易いでしょう。
構えから振りかぶりまでにわざわざ肘を開くという無駄な動作が生じ、
僅かながらもここでタイムロスが生じる。
つまりは自ら攻撃のスキを作っていることになる。
更にこの後、剣を振り下ろすとまた余計な動作が増えることになる(後述)
この振りかぶりは剣道の竹刀打ちに特化した形なのではと思う。
剣道は未経験ですが、あの独特の打ち込み方は手首というより肘関節で打ち込んでますよねたぶん?
この様に肘を曲げた状態から腕を前方に突き出すだけで一気に叩き込む事ができるので確かにこれは非常に合理的だ。
しかしまあ…残念ながら剣道振りじゃ全く斬れません。
あれで斬れたら完全に刀のおかげですよ。脅威の斬れ味のカミソリ刃とか。
これは完全に剣道ルールに乗っ取った竹刀に特化した振り方です。
居合の振りと剣道の振りは完全に別物なので、この合理性も居合では全く意味を成さない。
剣道の振りかぶりを真似る必要など皆無ですよ。
やはりこの振りかぶりの発祥は幕末の竹刀剣術からということか…
続いて横から
横から振りかぶり①
振りかぶり位置はこの程度十分。
腕を振り上げた状態で目線を上にし、鍔が見える程度の位置。
振りかぶりが足りない様に見えるかもしれないが、この位置からでも十分に切る事ができます。
頭の手前の位置で止めるという事は構えから振りかぶりまでを最短で行えるという事。
そして、万が一に敵の攻撃が来た場合もこの手の位置ならば応戦可能である。
次はこれ
横から振りかぶり②
ちょっと振りかぶりすぎですがw
ここまで大げさじゃないにせよ頭の位置より後ろまで振りかぶる必要はありません。
当然、ここまで振りかぶると僅かながらもここでまたタイムロスが生じる上に
どこからどう見てもスキだらけですねこれ。
ただ…わかっちゃいるんだけど油断してると結構後ろまで振りかぶる事があるんですよね…
自分も未だに結構やらかしますw
続いて剣の振り
振り始め①
手首から上を先に突き出し後、肘が伸び始めたところで手首のスナップを利かせて
大きく前方へ刀を投げ出すように振り下ろす。
先に拳が飛んできて少し遅れて刀身が飛んでくるイメージ。
ただし、これは理屈で覚えると何とも珍妙な動作になるので感覚で覚えてくださいw
要は身体に染み込ませろということである。
因みに、先ほどの振りかぶり②からこの動作へ移ると開いた肘をまた閉じるという余計な動作が生じる。
構えから振りかぶりに無駄な動作が生じ、振りかぶりから振り下ろしにまた無駄な動作が入るということである。
無駄無駄無駄ァァァッ!!
続いてこちらの振り
振り始め②
たぶんこれは初心者にしか起こり得ないと信じたい…
一連の腕の動作を行わずにただ剣を振り下ろしただけの状態。
振りかぶり②からそのまま剣を振り下ろすとこうなるのでしょうw
もし、これで物が切れたら刀のおかげと思ってください。
もの凄い切れ味のカミソリ刃なんだなと。
次は振り下ろし位置
これまた、さすがの動くガンダム先生でも手首が曲がらず半面位置で止まってしまいましたw
振り下ろし①
ここへ到るまでの動作が一番難しいことは間違いない。
肘は殆ど曲げず、柄は極力自分の身体の方まで引き寄せる。
その際に柄を両手で絞り込む(これが止めの動作)
簡単な様に見えてこれを理解するまでが難しい。
可動範囲の影響でちょっと変な姿勢になってしまったが
本来の刀の振り下ろし位置はこの辺りまで。
だいたい膝の高さがデッドライン。
膝下まで切先が落ちるとアウトと思ってください。
振り始め①で剣を投げ込んだ後、この位置まで引き斬る。
ただし、引き斬ると言っても本当に引く必要はありません。
下手に引きを意識しようものならこうなります。
振り下ろし②
引きを意識しすぎてホントに引いてしまい肘が曲がって珍妙な剣になるw
私は初級者が陥るパターン1と呼んでいるw
これじゃ切れるわけがない。
こちらのパターンは引き斬りを意識した場合に起こる事なので、普通に振っていれば陥ることは多分ない。
続いて
振り下ろし②
まったく引きを行わずそのまま自由落下させるとこうなりますw
私は初級者が陥るパターン2と呼んでいる。
たぶん最初は誰もが通る道。
そして間違いに気付かなければ何時まで経っても抜け出せない泥沼。
この姿勢では腰の入った剣が振れない。
切先が完全に下を向き、柄と身体の間に大きな隙間。
この隙間があるために次の動作へのタイムロスにも繋がる。
切先が下を向いているため、剣術として完全な死に体。
この一撃で相手を仕留められれば良いが、もし躱された場合はどうするのか?
剣が相手を向いておらずスキだらけ。
いかなる場合も切先は相手の方を向いていること。
これ、剣術の鉄則。
振り下ろし③
後ろ足が開いてるのでこれもダメ。
身体が外側に開くと身体の重心がブレて腰が入りません。
人間の身体の構造上、後ろ足を内に入れるのは脹脛が痛くなりますw
こればかりは慣れですが、徐々に慣らして極力足は内に入れるようにしましょう。
再び振り下ろし①
では、どうすれば良いのかというと
振り始め①の動作から剣を投げ込んだ後、
振り下ろしながら手首の角度を起こしつつ身体へ引き寄せる。
ということ。
この手首の角度を起こす動作がそのまま引きの動作になっており、
つまりは「引き斬る」とはこの動作を意味しているのだ。
引く必要はないというか
正しくは
引きを意識する必要はない
という事です。
多流派ですが「引く必要はない」と仰る先生が居りまして、
動画を拝見させていただきましたが、
この先生も上記の一連の動作をしっかり行っておりました。
無意識下で引きの動作を行っていたという事ですな。
次は正面から
振り下ろし正面①
正しい姿勢は振り下ろした時も身体が真っすぐ正面を向いていること。
振りかぶりから振り下ろしまで一連の動作で頭の高さが変わらないこと。
以下、形稽古ではあまり起こり得ないと思うけど…
振り下ろし正面②
試斬でよく起こるヤツ。
剣の止めができずに切先が横へ飛んでいく。
最後の止めの動作はしっかり行いましょう。
見てるこっちが怖いですw
振り下ろし正面③
こちらも試斬でよく起こるヤツ。
剣の止めができず、更に身体も勢いに任せて思いっ切り横向くヤツ。
最後の止めの動作と身体は常に前を向いていることを意識しましょう。
見てるこっちが怖いですw
振り下ろし正面④
一番やばいヤツw
剣が流れにながれて後ろ向いて身体も流れて明後日の方角へ。
最早、完全制御不能で見てるこっちが怖いですはいw
斬れりゃ良いってもんじゃないんだよ
こういった点から我々不伝流での真剣稽古は
厳しい厳しい雷神様審査を合格した者だけに許可されます。
おまけ
youtubeかなんかで見た殺陣みたいな流派の演武(?)がこんなんなってました。
……論外です。
剣が完全に後ろ向いて思いっ切り前傾ががっており、頭斬ってくれと言ってるようなもんでしたw
いやこれ…演舞でしょ?
以上、動くガンダム先生の正しい斬り方講座でした。
ずっとやりたかったんすよねこれw
いかなる場合も切先は相手の方を向いていること。
これ、剣術の鉄則(脇構えは除く)
補足:脇構えや振りかぶりの状態では柄頭で相手を威嚇する。
あ、過去の写真で丁度いいのがw
初段の頃かな
引き寄せはできてますが切先が完全に下向いてますね。
前述した「居合道師範の方でも平気で間違っている人がかなりいる」というのが、
まさにこの状態の事。
下手すると地面をガツン!とやりますよこれ。
恐ろしいことに検索かけるとこんなんばっか出てきますw
完全に死に体だよこれ…
うわぁ……
二段の頃か
この時、袈裟切りが異常に調子悪くて思いっ切り身体が横に流れてます。
因みに袈裟切りがボロクソのゴミカスだったのに何故か切り上げは絶好調でしたw
こちらは去年の奉納演武前のもの
切先はこの高さで止める。
低くなろうが切先は落とさない。
地面に膝が付くくらい低くなっても切先は落とさない。
究極形態がこちら
剣が切り抜けた直後に止める。
これによって切れ端の落下よりも早く次の動作へ移るため
剣で切れ端を掬い上げてしまうという凄い現象が起こるのだ。
さて・・・
今年の旅行も遂に秒読みとなりましたな。
来月、3日から念願の信州旅行へ旅立ちます。
東海道乃旅路は帰ってきてから再開かな…