昨日に続いて、浜松国際ピアノコンクールの優勝者によるコンサートの2日目を聴きに行きました。


 

第10回浜松国際ピアノコンクール開催記念

ガラ・コンサート 覇者たちによるコンチェルトの饗宴

(アクトシティ浜松大ホール)

 

指揮:山下一史

管弦楽:東京交響楽団

 

ベートーベン/ピアノ協奏曲第5番「皇帝」

(ピアノ:アレクセイ・ゴルラッチ)

 

ブラームス/ピアノ協奏曲第1番

(ピアノ:イリヤ・ラシュコフスキー)

 

ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番

(ピアノ:アレクサンダー・ガヴリリュク)

 

 

 

(写真)アクトシティ浜松大ホールのエントランス。

 


 

昨日に続いて3人の優勝者によるピアノ協奏曲3曲。昨日がめちゃめちゃ良かったので、今日も有名なピアノ協奏曲を素晴らしいピアノでただただ楽しむだけ。こんなに気楽に臨めるコンサートはありません。

 

 

まずはアレクセイ・ゴルラッチさんによるベートーベン5番。

 

第1楽章。格調の高いピアノ。音がコロコロ転がっていくシーンが続きますが、非常に綺麗。第2主題は松本の時計博物館で見た、見事な装飾のアンティークの時計のよう。この方は将来モーツァルトの大家になるのかも知れない、そんな楽しみを抱きながら聴いていました。

 

第2楽章。この楽章も、うっとりするような、夢見ごこちの美しいピアノ。この幸せな時が永遠に続かないかなと思いました。

 

第3楽章。ここも曲調にピッタリと合ったエレガントなピアノに魅了されます。しかし、後半はエレガントなだけでなく、適度に強調も入れ力強さも。まだ落ち着くには早いですかね?ゴルラッチさんの遊び心すら感じます。素晴らしい皇帝でした!

 

 

アレクセイ・ゴルラッチさんはプログラムのインタビューで、今後の夢についてこう語っています。

 

「夢は何度でも来日し、音楽を理解してくれる素晴らしい観客の前で演奏することです。」

 

ゴルラッチさん、またのお越しを、喜んでお待ちしております!

 

 

 

続いてイリヤ・ラシュコフスキーさんによるブラームス1番。過去に何度か書いていますが、ブラームスの1番は私が一番好きなピアノ協奏曲です。

 

 

第1楽章。勇壮なオケに続いて、最初ピアノの入りは何と言うか投げやりな感じ。その後は1フレーズごとに強調を入れ、もがいて何かから抜け出そうとしている、そんな感じのピアノです。聴かせますね!

 

その後はフォルテを駆使した激しいピアノ。第2主題ですら、しっかり楔を入れてきます。あの優しく美しいメロディですら慰めには至っていない印象。どれだけ追い詰められているんでしょう?オケの冒頭の和音が帰ってくる前ももの凄い迫力!正に激情という言葉が相応しい第1楽章でした!

 

第2楽章。ラシュコフスキーさん、さすがにこの楽章の冒頭は優しいタッチのピアノ。ようやく落ち着いた心境を見出したのでしょうか?

 

ところが、2回目の第1主題から雲行きが怪しくなり、長いスパンで高まっていく場面では、誰の演奏よりも一早くフォルテになり、そのままの力強さで、まるでリスト/ウィリアム・テルの聖堂を弾く時のような演奏に!

 

こんな第2楽章、初めて聴いた!何と言う表現力!

 

この演奏、コンクールだったら、やれ音が大き過ぎる、オケとのバランスが悪い、とか指摘されて一発で弾かれる(はじかれる)んじゃないでしょうか?私はそんなことは承知で、どうしてラシュコフスキーさんがこのようなフォルテの表現に至ったか、そこに想いを巡らせ、涙を禁じ得ませんでした…。改めてピアニストの表現力には凄いものがあります。

 

第3楽章。ほぼアタッカで、ここも最強音での開始!まるで悲劇への序章のよう。紆余曲折を経て、最後のカデンツァも、もって回って強調を入れて、まるで神に救いを求める嘆きのよう!これはほとんどバッハですね。ラストもフォルテで駆け抜けました!

 

 

また凄いピアノを聴いた!浜松凄すぎる!

 

 

イリヤ・ラシュコフスキーさんはプログラムのインタビューで、共演してみたい演奏家についてこう語っています。

 

「(中略)共演は有名人であるか否かは必ずしも問題ではありません。以前、アマチュアのオーケストラとの協演で、世界的に有名なオーケストラと同じような深い感動を得たことがあります。」

 

私も普段プロのピアニストの素晴らしい演奏に痺れつつ、アマチュアの方や学生さんたちのピアノにも大いに感動することが多々あります。感動にプロもアマチュアもありません。ラシュコフスキーさんの今後が本当に楽しみです。

 

 

 

最後はアレクサンダー・ガブリリュクさんによるラフマニノフ2番。ガブリリュクさんはこれまで何度か聴いていますが、特にプロコフィエフのピアノ協奏曲の演奏(中でも2番)で、既に当代随一だと思われます。

 

 

第1楽章。早めの入り、左手の最下音をかなり強調して骨格を作っていました。叙情的な部分はかなり穏やか。ラシュコフスキーさんの危うい演奏の後だと、豪腕のガブリリュクさんですら、落ち着いて聴こえてきます(笑)。

 

第2楽章。叙情的な楽章、ここはしっとりと聴かせます。しかし、最後の飛翔の場面はアルペジオの上下をかなり強く弾いていました。第3楽章。見せ場の大きい楽章ですが、たっぷり、というよりは勢いや迫力で聴かせていました。もはや余裕や貫禄すら漂わせていた演奏、さすがでした!

 

 

 

浜松国際ピアノコンクールの優勝者によるコンサート、今日も素晴らしかったです!ピアニストの3人には、今後ますますのご活躍を祈っております!2日聴いて、こんなに濃い内容のピアノ協奏曲のコンサートは、二度と聴けないかも知れないと思えるほどに感動的なコンサート。今回この企画を敢行された浜松国際ピアノコンクールには大いに感謝できればと思います。

 

 

 

さて、この2日間の素晴らしい体験を通じて、演奏以外に思ったことについて。出演したピアニストはみな浜松国際ピアノコンクールの優勝者ですが、今回聴いた限りの印象では、エレガントなピアノのゴルラッチさん、鋼鉄のピアノのガブリリュクさん、激情のラシュコフスキーさん、即興による魂の演奏のガジェヴさんなどなど、かなりバラエティに富んでいました。

 

そして、今回は複数のソリストによるコンチェルトを一堂に聴くという、普段にない珍しい機会でしたが、曲目が違う中、それぞれの良さや特徴が違う中、さらには演奏順がある中、各人の演奏による印象はかなり違ってくる、変わり得る、という印象を肌で感じました。座席によっても違うでしょう。つまり、コンクールでの順位は全くの水もので運次第、ということなんだと思います。

 

 

なので、今回、浜松のコンクールの優勝者たちのコンサートをめっちゃ楽しんでおきながら何ですが(笑)、今回のみなさまはコンクールの優勝者うんぬんというレベルをもはや凌駕されているのでひとまず置いといて、今後については、コンクールの優勝者や入賞者という肩書きには必ずしもこだわらず、一人一人のピアニストの実演に触れて、その思いの丈を体感していきたい、感動したい。そして好きなピアニスト、お気に入りのピアニストを見つけていきたい。そういう思いを改めて強くした貴重な機会でした。