先月の続きです。
2015年に国連サミットで採択された「持続可能な開発の為の2030アジェンダ」(2030年までに達成すべき世界共通の目標)の中核となっているのがSDGs(持続可能な開発目標)です。

<SDGs17の目標>
目標1:あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ 【貧困をなくそう】
目標2:飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続
          可能な農業を推進する 【飢餓をゼロ】
目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する
         【すべての人に健康と福祉を】
目標4:すべての人々に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進
          する 【質の高い教育をみんなに】
目標5:ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る
         【ジェンダー平等を実現しよう】
目標6:すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する
         【安全な水とトイレを世界中に】
目標7:すべての人々に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセス
          を確保する 【エネルギーをみんなに そしてクリーンに】
目標8:すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用
          およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する
        【働きがいも経済成長も】
目標9:強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新
          の拡大を図る【産業と技術革新の基盤をつくろう】
目標10:国内および国家間の格差を是正する 【人や国の不平等をなくそう】
目標11:都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする
         【住み続けられるまちづくりを】
目標12:持続可能な消費と生産のパターンを確保する 【つくる責任 つかう責任】
目標13:気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る
         【気候変動に具体的な対策を】
目標14:海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する
         【海の豊かさを守ろう】
目標15:陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、
           砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を
           図る 【陸の豊かさも守ろう】
目標16:持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法への
           アクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な
           制度を構築する 【平和と公正をすべての人に】
目標17:持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化
           する  【パートナーシップで目標を達成しよう】

 私が創業したアバンセコーポレーションが35年も前から手掛けている海外人材の呼び寄せは、目標1の「貧困をなくそう」(1日1.25ドル未満で生活する極度の貧困をなくす)に該当する事業です。アバンセの事業で救われた人(進学出来た、結婚できた、土地や農機具を買って農業を始めた等、人生を立て直した人たち)が数えきれないほど沢山おられます。

 小牧営業所が行っているフードバンク活動は、目標12の「つくる責任 つかう責任」(世界全体の食料廃棄を半減させ、食品ロスを減らす)に当たります。日本の食料廃棄物等の量は年間約2,531万トン、このうち本来食べられるのに捨てられる食品「食品ロス(フードロス)」の量は年間約600万トンもあります(農林水産省より、2018年度推計値)。少ない量であっても積もれば莫大な量になります。日常においてみなさんで意識していただくだけで社会が変わるのです。
 

 目標17の「パートナーシップで目標を達成しよう」(先進国は国民総所得比0.7%の資金を政府開発援助(ODA)に向ける)、まさに私たちの仕事はODAそのものなのです。現在ブラジルの邦字新聞社との連携を模索中で、日本の日系コミュニティー向けの媒体とも協働し、ブラジルと日本の日系社会を連動させ、SDGsの一番の眼目「誰一人取り残さない」を目指しています。アマゾンの奥深いジャングルに住む老いた母親も、日本で失業して路頭に迷う親子も、日伯双方のメディアを通じ、網の目の救済、そしてチャンスの場を提供していきたいと考えています。


 SDGsを考えていると、国家とは何なのかを考えさせられます。政府が出入国管理及び難民認定法改正案を今国会で取り下げることになりましたが、スリランカ人女性が入管収容中に亡くなったことが一番大きな原因のようですね。彼女はなぜスリランカに帰国しなかったのか、彼女の事情は分かりかねますが、この国はいくつかの民族に分かれ、多数派の「シンハラ人」は仏教徒、次いで多い「タミル人」はヒンドゥー教徒で、どちらかに所属している限り迫害されることはありません。問題は、シンハラ人とタミル人が結婚したり、縁戚関係ができると迫害等トラブルが起きるようです。「同じ町に住んでいるのだからよくある話だね」とはいかず、シンハラ人からもタミル人からも迫害を受け、スリランカに居場所がなくなっていきます。国境より厳しい民族差別、正義も自由もない中、難民を選択するケースが多いようです。日本人には理解しづらいのかもしれません。SDGsで掲げられている貧困、人権侵害、戦争、難民、平和……国家や民族のカテゴリー分けがある限り難しいのかもしれませんね。アメリカは民主主義という旗印のもとそれを目指しています。ヨーロッパは多民族が経済だけでも統合し、次にヨーロッパ合衆国を期待させる社会実験を行おうとしています。アジアもアフリカも30~50年先には社会実験が始まるかもしれません。SDGsは国家の枠組みを見直し、幸せとは何かを世界が見直す大きな可能性を秘めています。

 メディアや街中で「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉とともに 17色が配置されたホイールマークを見かける機会が増えましたね。このカラーホイールの意味を少し考えてみませんか。

 


 

 1990年にバブルが崩壊、その後日本経済が大きなダメージを受けたことは、50歳以上の人は身に染みて理解していますよね。よく言われる「失われた20年」の始まりです。派遣会社が急拡大したのもその頃です。それから10年を経た2000年はITバブル崩壊の年でしたが、2001年に大きな事件がありました。アメリカ同時多発テロ事件です。通称「9.11テロ事件」と呼ばれるこの事件は典型的な南北問題で、富める先進国に収奪され続けた発展途上国の鬱積した不満の大爆発によるものでした。限られた地球に住む我々人類が自分勝手に生き、地球を痛め続けるとどうなるかを思い知らされた時でした。
 

 その前提があって、2001年国連で193カ国全ての加盟国が合意して採択されたのが「ミレニアム開発目標(MDGs)」でした。


 


 しかし、MDGsは人権が中心の目標で、先進国が途上国に何かをしてあげる取り組みがほとんど、南北問題、紛争、地球温暖化などに道筋をつけるに程遠いものでした。その間も温暖化など地球環境は悪化し続け、このまま放置すると地球が消滅するとの声が上がり、ついに国連全加盟国が2015年9月に立ち上がり、採択されたのが「持続可能な開発の為の2030アジェンダ」です。そこに記載された2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標が「SDGs(Sustainable Development Goals)」です。Sustainableは「持続可能な」という単語で、ここでは「将来にわたって、くらし続けていけるように世界をよくしていくための目標」という意味です。その目標は17のゴール・169のターゲットから構成されています。その前文の一部を紹介すると、
 

 「このアジェンダは、人間、地球及び繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由における普遍的な平和の強化を追求するものでもある。我々は、極端な貧困を含む、あらゆる形態と側面の貧困を撲滅することが最大の地球規模の課題であり、持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると認識する。すべての国及びすべてのステークホルダーは、協同的なパートナーシップの下、この計画を実行する。我々は、人類を貧困の恐怖及び欠乏の専制から解き放ち、地球を癒やし安全にすることを決意している。我々は、世界を持続的かつ強靱(レジリエント)な道筋に移行させるために緊急に必要な、大胆かつ変革的な手段をとることを決意している。我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う。」とあり、さらに、「ミレニアム開発目標(MDGs)を基にして、ミレニアム開発目標が達成できなかったものを全うすることを目指すものである。これらは、すべての人々の人権を実現し、ジェンダー平等とすべての女性と女児の能力強化を達成することを目指す。これらの目標及びターゲットは、統合され不可分のものであり、持続可能な開発の三側面、すなわち経済、社会及び環境の三側面を調和させるものである。」と述べられています。


 
 

長くなりましたので、現在私が関わっているSDGsの取り組みについては次回以降に報告致します。

 現在私は社会福祉法人の役員をしており、そこの特別養護老人ホームの入居者様は要介護3以上の方が大半です。認知症で何を言っても分からない状態の人や、排泄、入浴、着替えなどに全介助が必要な人にはなりたくないと一般の人は思うものですが、介護施設のケアマネジャーや生活相談員のみなさんと話していると、全く違った見方をしているのに驚かされます。利用者様の子どもの頃、20代の血気盛んな頃、恋愛、結婚、子育ての頃、仕事に打ち込んだ頃、60代・70代を過ぎ、年老いて今がある。この歴史が分からないと、認知症になった後の異常行動が理解できず、愛情が湧いてこず、心のこもった介護・お世話が出来ないと言います。私は20年近く前に福祉の研修でデンマークを訪問しましたが、その時も文化、歴史、風土について同じことを感じたので少し話をさせてください。

 デンマーク人の多くは、出生時に両親によって地元の教会に登録され、成人後も最高で給与の1.5%の教会税(税率は居住地により異なる)を支払うことをキリスト教以外の宗教を信じていても当たり前の義務と考えています。両親が強い信仰心を持っていないと、子どもが宗教を信仰するようになる確率はたったの3%ほどだといいますが、日本の次世代の信仰心はその位なのでしょうね。日本のように安定し、安全で温暖、生活保護等セーフティーネットの確立した場所に住んでいれば、神に助けを求め、守られたいと思うのは病気か死を意識した時位なのでしょうね(だから「葬式仏教」というのですね)。

 日本では、税金は「取られる」と表現しますね。しかし、税率は圧倒的にデンマークの方が高い。付加価値税(日本でいう消費税)は25%、所得税はおよそ40~50%の税率になります。しかし、デンマーク人は「取られる」と言わず、世界一の安心が享受できるなら喜んで払うと言います。医療費や大学までの教育費は無料、労働時間は週34時間、有給休暇も多く、国民は自分たちのお金の行先も理解しています。税金が高いので、収入の格差が世界でもっとも少ないと言われています。

 収入の格差が少ないほど近所同士の人間関係は良くなるとの調査結果も出ています。収入の満足度は一定の分岐点があるようで、デンマークの調査によると、日本円で約320万円以上のお金を得ると裕福にはなるが、人生の満足度は下がっていくといいます。心の機微に合わせ制度が設計されており、社会制度を信頼していれば自分の人生が窮地に追い込まれることはない。だから幸せな人生を約束してくれるこの国に喜んで税金を払うという気持ちになるのでしょう。

 心理学者マズローが提唱した「欲求5段階説」を思い出します。人の欲求は5段階あり、一つひとつの階段がある程度満たされないと次の段階へは行けないと言います。1段階目は「生理的欲求」で、食欲、排泄欲、睡眠欲など生きていくために必要な基本的・本能的な欲求です。2段階目は「安全欲求」で、身体の安全、健康、働くなど安心・安全な暮らしへの欲求です。3段階目は「社会的欲求」で、家族、友人、地域、会社などから受け入れられたいという欲求です。この3段階目までがデンマークではほぼクリアされているのです。本当にすごいですね。4段階目の「承認欲求」および5段階目の「自己実現欲求」は、がんばりたい人ががんばれば良い、みんなにそれを強いることはないよというのが、デンマークの制度設計なのですね。

 「少欲知足」(欲を少なく、満足する事を知るという意味)── これは仏教から出てきた言葉ですが、死んだら少しの物もお金も持っていけないのに、どうしてがつがつ取り合い戦うのか、お釈迦様が執着を捨てないと幸せになれないと言ったのは、どうもここにありそうですね。

 ある時、私がホームレスの人たちのために炊き出しをしていると、ある母親が子どもを連れ、足早に通り過ぎました。その時子どもに「あんたがんばらんとあんな風になるよ」と脅していました。私たちは、子どもが大人になり失敗することがあっても、誰かが助けてくれる「共助の心」を育てたいと炊き出しをしているのです。安心社会の中で「がんばれ」と、恐怖感満載で「がんばれ」と言われるのは、子どもの心に与える影響は天と地ほどの開きがあります。本来の福祉が日本に根付くのはまだまだ先の話になりそうですね。
 

 現在、私が代表理事を務める一般社団法人日本海外協会およびリスタートコミュニティー支援センターの活動として、国籍や宗教などを問わず納骨できる共同墓地(2021年5月中旬完成予定)の準備を有志の方々のご協力のもと進めています。多くの外国人労働者の方々が日本で暮らし、徐々に高齢化が進む中、国籍、宗教、金銭などの問題で普通の墓地に遺骨を受け入れてもらえなかったという事例も珍しくなく、日本の法令上血縁者以外の他人に遺骨を預けることが禁止されているため、この共同墓地の建設を計画しました(お問合せは日本海外協会まで)。


  

一般社団法人日本海外協会 ホームページ 
https://www.nihon-kaigaikyoukai.com/


 ブラジルはヨーロッパ文化の影響が強く、今も土葬を望む人が多くいらっしゃいます。そのため、「お化け」のイメージは「ゾンビ」で、映画などでも鼻がもげたり身体全体が溶けてきたりする描写がされています。火葬文化に慣れた私たちは骸骨に比べてゾンビの怖さに実感がないのはそこにありそうです。チベット仏教では遺体は魂の抜けたものにすぎず、鳥に食べてもらうこと(鳥葬)で天へ遺体を送ると考えられています。モンゴルには木がほとんどなく、牛糞は燃料にするが熱量は高くなく遺体を燃やせないので風葬、アラスカやロシアは2メートルも掘れば永久凍土で土葬も出来ないため川や海に流す。日本は国土が狭いため、ほぼ灰に近くなるまで焼かれ、骨を少し残す。あとは葬儀関係者によるビジネスの対象となっていきます。かくして日本の葬祭コストは世界で一番高くなると言われていますね。仏教では肉体の死に執着しません。魂が本体で肉体は乗り物、私たちは別の世界から意図(魂の計画)を持ってやってくる。肉体に乗り肉体の限界を迎えたら、故郷つまり別の世界に戻っていきます。これを繰り返すことを輪廻や転生と呼ぶのです。あの世が存在することが確信出来れば、死ぬことに対する恐怖や人生の多くのストレスはほぼ解決可能となります。そもそも死を心配する必要もなくなります。1.5兆円ビジネスといわれる健康食品市場や、70歳以上の人が医療費全体のおよそ半分を使っているなどと死の恐怖対応ビジネスはほとんどが消え去ることになり、業種転換が求められますが、死の恐怖と既存の産業利権とは相性が良く、簡単に崩れることはないでしょう。

次のグラフは、2020年1月の主な産業の正規・非正規職員・従業員の前年同月比増減数を表しています。


 


 このグラフを見て、今回の新型コロナウイルス禍で誰がダメージを受け、どの産業にフォローの風が吹いたのか、そして数年後雇用がどのような形で進み収斂されていくのかが何となく見えてきました。
 製造業の非正規労働市場は「5勤2休」から「4勤3休」や「3勤4休」となり、解雇ではなく兵糧攻めで縮小しました。2020年8月以降は仕事は出てきましたが、20~40代が中心で50歳以上は厳しい状況となっています。建設業はAIやロボットに軸足を移し、対応可能な若者を優先雇用しています。
 今後非正規労働者は、建設業、製造業、運輸業、宿泊業等、今後AIやロボットで置換可能な分野や、複合サービス事業、介護・福祉、飲食サービス業等に収斂されていくのでしょう。ただ、資本主義は欲望社会です。資本という欲望に翻弄され社会は流れていきます。



 人材派遣会社は労働者を守る立場だったのが、現在は第二人事部に近い存在になりつつありますね。AI、ロボットがより一層普及すれば、週休3日制や週休4日制が当たり前になり、海外工場も日本国内に回帰、物流も自動運転、梱包や仕分けの自動化も進むことでしょう。少し仕事量が減っても、付加価値を生む産業は人手不足、労働集約的な産業は整理解雇になり、言い換えると、今後労働集約的な作業は年齢の若い技能実習生、特定技能労働者に置き換わっていくことが先ほどのグラフからも見えてきましたね。これが格差の拡大につながります。フランスの経済学者、トマ・ピケティは著書『21世紀の資本』の中で、日本のようにGDPがあまり増えない、所得もあまり増えないのに、資本収益率(資本が効率的に使われているかを見る指標)が上がっている国は格差が拡大していると述べています。技能実習生で新興国に富を移転する目的であれば問題はないですが、日系人のように定住・永住が目的である人たちは教育を施し、より良い隣人として育てていく必要があるのです。中東やヨーロッパは失敗事例にあふれていますよ。

 年末年始休暇中、無性に古い本が読みたくなり、以前古本屋で十数冊購入した100年ほど前の著作(それも100円本)を読みました。ステイホームを超安価で楽しく過ごし、少し頭もリフレッシュしたような気がします。

 読んだ本の一部を紹介します。1916年に出版されたマーク・トウェイン著『不思議な少年』と1915年に出版された夏目漱石著『道草』はほぼ同じ時代の作品ですが、『不思議な少年』ではキリスト教的人生観が披露されており、一生懸命働き、倹約より儲けたお金を隣人のために使うことが神の教えにかなっているとの考えが読み取れ、神が何を望んでいるのかが全ての価値基準になっています。多くの大金持ちが儲ける人生を終えた後、財産を寄付し、「神の御心」に沿った生き方を目指そうとしますよね。

 一方、夏目漱石の『道草』では、お金をどう見ているのでしょうか。主人公の「健三」は次のように見ています。

  健三は昔この男につれられて、池(いけ)の端(はた)の本屋で法帖(ほうじょう)を買ってもらった事をわれ知らず思い出した。たとい一銭でも二銭でも負けさせなければ物を買った例(ためし)のないこの人は、その時も僅(わず)かな五厘の釣銭(つり)を取るべく店先へ腰を卸して頑として動かなかった。董其昌(とうきしょう)の折手本(おりでほん)を抱えて傍(そば)に佇立(たたず)んでいる彼に取ってはその態度が如何(いか)にも見苦しくまた不愉快であった。                                        (引用:夏目漱石著『道草』、新潮文庫)

 倹約は見苦しいものだという考えが見て取れます。アメリカ人のマーク・トウェイン氏と日本人の夏目漱石氏とでは考え方が異なることが分かりますね。

 さて、私は有志の方々とともにSDGs(持続可能な開発目標)に沿った取り組みの一環として、主に日本で暮らす外国人の方々を対象に、貧困によって住居を失った人に対し住居と食を無料で提供する支援活動を行っていますが、様々な難問、奇問を抱えた人が私たちの活動拠点に来所されます。子どもを連れた目の見えない母親、工場が5勤2休から3勤4休になり家賃も払えない人、60歳を過ぎて夫婦二人とも失業し、行くところも頼るあてもない人など、様々な人が来所されますが、中には備品や食品を持ち逃げする人もいます。なぜでしょうか。育つプロセスで愛情を受けていないことも原因の一つと考えられます。食べたいものを聞いても「分からない」という子もいます。もちろん挨拶や感謝の言葉も出てきません。生活保護世帯の子どもが大人になって生活保護受給者になることが多いのは、共感の乏しさ、まさにそこにあるのでしょう。私たちがミルクや生理用品まで用意して対応しても、自らが受けてこなかった愛を食や住居の支援だけで愛として受け取ることはないのです。特に日本人が難しいと感じるのは、キリスト教やイスラム教のように絶対神を持っていないことで、頼る術を持っていないことです。衣食住だけでは温めることの出来ない心の芯を温める術として頼るべく宗教、こころの礎を持っていない国民は、追い詰められると弱さを露呈、脆いような気がしています。ブラジル系日系人に自殺など考えられなかったのは昔の話で、今は追い詰められると簡単にノイローゼになり、自殺を考える人が出現、まさに日本人化しつつあります。

 現在、群馬県大泉町で私が参加する「リスタートコミュニティー支援センター」では、食料や住居の支援に加え、彼ら自身のスキルアップを図り、自らの力で暮らせるよう支援し、貧困の連鎖を断ち切るための新たなプロジェクトを考えています。プロジェクトが進みましたら改めてここでもお知らせしたいと思います。ご期待ください。

 2021年を迎え、昨年を振り返ると、新型コロナ一色の1年でした。このコロナ禍で特にダメージを受けたのが、社会的弱者と称される外国人、女性、子ども、そして障がい者の人たちです。その中でも非正規労働市場、飲食サービス業に従事する割合が高い女性の自殺者が急増しています(図1)。厚生労働省によると、特に2020年10月の40代女性の自殺者数は前年同月比で約129%増、30代は約93%増と大幅に増加しているとのことです。なぜ30代~40代の女性が死を選ぶのでしょうか。新型コロナ禍で今後も引きこもり傾向が続くことは間違いなく、失業、残業カット、友人等との外出の自粛、リモートワークやリモート授業などで1日中家に居る家族…それはストレスも溜まりますよね。しかし、男性も女性も同じように引きこもっているのに、女性だけがなぜ追い詰められるのでしょうか。内閣府男女共同参画局によると、2020年4月から9月のDV相談件数は、前年同期比で約2割増とのことですが、DV被害者等の保護施設を行政が建設したという話を私は聞いたことがありません。「自己責任」で片付けられ、行き場を亡くした人々が追い詰められた結果が現在の日本社会なのかもしれません。
 

 一方、この未曽有の経済危機にもかかわらず、日本では企業の倒産件数は増えていません(図2)。完全失業率も2020年11月時点で2.9%に収まっています(図3)。これには緊急避難的な持続化給付金他資金繰り対策が効いています。経営者仲間では、「『コロナ対策』と言って2,000万~3,000万円の融資をお願いしたら5,000万円出た」などという話が当たり前に飛び交っています。加えて、雇用者向けに雇用調整助成金、新型コロナ支援金、給付金他県単位にも助成措置があり、実体のない雇用を下支えしています。コロナはいつまで続くのか。助成金が息切れした時、コロナ禍で甚大な被害を受けた運送業、小売業、宿泊業、飲食サービス業、生活関連サービス業、娯楽業、医療・福祉業は、この春以降債務返済が困難となり、倒産や廃業が頻発することでしょう。企業も個人も格差はより一層広がる兆候が出ており、歪な社会に移りつつある(悪い意味での)社会の変革期を感じさせます。
 

 他方で、この危機を追い風にして業績が好調な企業もあります。今後企業が生き残り、発展していくためには、現状を認めながら、新たなビジネスモデルから新たな産業の創生に向け、歩みを進めていくことが重要になりますね。

 

 

 


 

 2019年10月BSフジのテレビ番組で、萩生田文部科学相が2020年度に始まる大学入学共通テストで導入される英語の民間試験に関して、「身の丈に合わせてがんばって」と発言、野党やマスコミが猛反発し、後日「国民や受験生に不安や不快な思いを与えかねない説明不足な発言だった」として謝罪しましたね。みんなに同じように「がんばれ」と言っても、能力、適性、メンタルなど全て人によって違うのに、「身の丈」がなぜいけないのでしょうね。

 2019年3月、内閣府は「生活状況に関する調査(平成30年度)」において、中高年層の引きこもりについての調査結果を発表しました。40歳から64歳までの男女を全国から無作為に選んで訪問、回答を回収できた3,248人のうち47人(約1.45%)が引きこもりに該当し、全人口で推計すると61万3千人にものぼるとのことです。厚生労働省が「引きこもり」として定義する、「様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態」の人は、広義に考えると120万~150万人はいるだろうと言う社会学者もいます。特に現在40~45歳位の人たちは、学校卒業がITバブル崩壊で歴史的就職難の時期だったこともあり、非正規が40%余り(航空業界も2021年度新卒採用の中止を発表していますが、それと同じような状況)、多くの人たちが企業内訓練、職業訓練を受けず年を重ね、今に至っています。私が30代の頃は、友人と会っていても老後や年金の話題は酒の肴にもなりませんでしたが、今は20代でも老後や年金を平気で心配しています。2018年の出生者数は約91.8万人、2019年は約86.5万人(厚生労働省「人口動態統計」より)、今年(2020年)はどうも80万人を切るのではないかと言われていますね。みなさん不安なのですね。ほとんどの人はその人生で成功したいと願っています。良い学校に入り、大企業に就職、そして高い社会地位や名誉、もしくは財を成したいと考えています。しかし、人の特性は全て違い、様々です。手先の器用な人・不器用な人、体力のある人・ない人、記憶力の良い人・悪い人、みなさん天分が違うのに競争しようと考え、比較し戦う。本当に大切なことは、自分の天分を正しく理解し、それを生かすことのような気がしています。70年生きて、私は自分の天分をまだよくは理解できていませんが、それを探し、心の落ち着き場所を見つけ、幸せ感を持って人生を全うする。人生の目的はそこにあるのかもしれませんね。キーワードは「安心」そして「自己肯定感」かもしれません。

 私は、学校の成績は大したことありませんでした。運動能力もダメ、手先の器用さや芸術的センスもダメ、趣味もない。だから妻から、「あんたは仕事を辞めたら何をするの」と言われ、70歳を過ぎたこの年になって本当に困っています。しかし、過去に前例のない日系人を組織的に受入れ、35年間行政やメディアなど様々な人たちから叩かれ、それでもへこたれず、今日に至るまでやり続けた「根気」があります。そして、いつも自分と関わった人たちの幸せを願い続けた点でも、他の業者より若干ホスピタリティは上回っているような気がしています。それが私の天分かもしれません。福祉の世界でも、有料老人ホームやグループホームなど36事業所を手掛け、現在は特別養護老人ホームの理事長も務めています。性格も争いを好まない福祉に適性を感じています。みなさんも自分の特性、天分に目覚めると、人と比較するのがバカバカしくなりますよ。

 世界の推計人口を2020年、2050年、2100年で比較してみると(図表1)※1、上位10か国のうちアフリカ勢が2020年は1か国、2050年には3か国、2100年には半数の5か国になると予測されています。その上2050年の中位年齢※2は、ナイジェリア22.4歳、エチオピア27.3歳、コンゴ22.1歳、なんと日本の54.7歳の半分以下、戦後の高度成長を支えた私たちベビーブーマーの学童期とほぼ同じ年齢構成図で、2050年はアフリカの時代だと言われているのも頷けますね。

 


 中位年齢についてアジアを見てみると、タイは2020年40.1歳、2050年49.7歳、2100年には52.3歳に、ベトナムは2020年は32.5歳と若いですが、2050年41.2歳、2100年には47.1歳になり、決して若い国とは言えない時代に近づいていきます。送り出し国の要素は所得と中位年齢で、中国からの技能実習生が激減したのはそこに原因がありそうです。驚いたのは、移民大国アメリカ合衆国の中位年齢が、2020年38.3歳から30年間で4歳ほどしか上がらないことです。中国やインドは10歳ほども上がり、日本は2050年には54.7歳の超高齢国になるというのに、アメリカは適度な規模の人口増加で、かつ、若さや活力を維持していく、まさに羨ましい限りですね。
 

 今回のアメリカ大統領選挙で敗れたドナルド・トランプ氏は共和党所属ですが、共和党は伝統的に白人の支持者が多く、ジョー・バイデン氏は民主党所属で、黒人や中南米系などマイノリティからの支持を多く得ていることはよく知られています。今後、共和党はよほど政策を変えない限り、政権を取ることは難しくなりそうですね。
 

 そして今回のアメリカ大統領選挙は、多文化共生にも一石を投じてくれました。中国の同化政策は、55の少数民族に対し多様性を一切認めず、力ずくで一つの「中華民族」を創り上げようとしています。対するアメリカは、白人の国から多民族・多国籍共存の国に変貌できるのかが今後注目されます。2020年、2050年のアメリカの人種・民族別人口構成(推計)は図表2※3の通りですが、政治の舵取りで船の向きは一気に変わります。


 

 日本は、アメリカの「多様性・多文化」主義より、中国の「郷に入っては郷に従え」主義に馴染み易い国ですが、今後世界で断トツの老人国家になることが自明となっても尚、中国や韓国のように「自国のルールが全ての正義」で通るものでしょうか。日本語教育も、日本社会で言葉に困らない人を育成するだけではなく、通じ合う価値観や人生観の理解に踏み込んだ互いの学びが必要であるのに、日本人、日本社会への適応だけが目的の現状に疑問を感じています。
 

 30年後、アジア人材は日本のお助け人材にはなりません。人材の受入れが中東やアフリカなどの後発開発途上国に移動していくことでしょう。単純労働市場がAIによって劇的に変貌し、仕事の価値、人間の価値が教育レベルによって大きく左右され、労働市場のみならず世界は複雑なモザイク模様を呈することになりそうです。政治の舵取りも大切ですが、企業の舵取りもより一層先読みスキル(仮説→検証→仮説→…)が求められますね。

 2020年9月3日、ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所が発表した先進・新興国38か国に住む子どもの幸福度についての報告書※によると、日本は「身体的健康」について1位でした。これは医療、福祉、公衆衛生等、命のセーフティーネットの全てが高いレベルであることを意味します。その一方で、生活満足度の低さ、自殺率の高さなどから「精神的な幸福度」は37位と最低レベル、日本のアンバランスさ、不幸を感じさせます。

 安倍政権から菅政権に移りましたが、菅総理の人脈を見ると、そうそうたる規制改革論者、アメリカン・ドリーム信奉論者が垣間見えます。アベノミクスの「三本の矢」は、1本目の「金融政策」と2本目の「財政政策」は成功したとの定評ですが、3本目の「成長戦略」は残念ながら(空振り三振とまでは言いませんが)ヒットではないファウルチップレベルだったように思います。菅総理は真っ先に新型コロナ禍でデジタル改革を掲げ、電話料金の値下げ、それも4割程度の引き下げを提起しています。競争についてこられない中小企業の再編、最低賃金の大幅引き上げも矢継ぎ早に出してくることでしょう。人材サービス業界にとってビジネスチャンスも数多く出現することでしょうが、国民生活全般にとって幸せなことばかりではありません。アメリカの経済学者 マイケル・ポーター氏は、著書『競争の戦略』で自由な価格競争について、「非常に不安定であって、収益性の点からして業界全体を傷つけることは間違いない。値下げをすると競争相手もすぐ負けじと値下げで対抗し、需要の価格弾力性がほどほどに高くなかったら、業界のすべての企業の収益は低下する」と述べています。価格弾力性に乏しい労働集約型ビジネスには、価格だけではない新たな競争戦略が今後は求められていくのでしょう。
 

 米ゼネラル・エレクトリック(GE)の戦略を見るとよく分かります。1981年社長に就任したジャック・ウェルチ氏は、中核事業である小型家電事業を躊躇なく即座に売却します。理由は膨大な日本製品の輸入でした。品質、価格、その全てに勝る日本勢にウェルチ氏は、「日本のメーカーに殺されると思った」、「負け続けるのは嫌だ」、「勝てるゲームにしたい」と考え、過去に成功した事業、使命を終えたと思う事業をブランドのあるうちに売却、新たなブランド構築に向け舵を切ったのです。
 

 私たちが日本のこの政権下で、この仕事で生きていくのならば、時代に合わせたブランド構築を目指さないと勝ち残ることは難しく、それならばどうするのか、何を目指すのか、今一度考える必要がありそうですね。

※データ出所:ユニセフ(国連児童基金)・イノチェンティ研究所「レポートカード16」
 日本の結果について(概要)(2020年9月3日)
https://www.unicef.or.jp/news/2020/0196.html