東野圭吾文学の最高峰、「白夜行」いよいよ映画化です。
【感想/レビュー】
どこまではかないのだろうかと、こわくなるくらいのこの物語、原作、ドラマ、映画と、出会うたびに胸が締め付けられます。
運命とは誰が決めているものなのか、もし帰られるとするなら、その糸の端っこだけでも見せておいてほしいと、願わずにはいられなくなります。
主演は、「おにいちゃんのハナビ 」「ノルウェイの森 」で名演技を見せている高良健吾さんです。
そして、昨年12月「ジャンヌダルク 」で初舞台を踏み、今や押しも押されぬ女優となった堀北真希さんです。
東野圭吾文学の最大の魅力といえば、主題を取り囲むいくつかの話を同時進行させながら見えないトラップをしかけていくところにあります。
そして読者がそのトラップの意味を深読みしていくことで、読者自身が深みにはまっていくところにあります。
そこへもうひとつ「献身」というキーワードが付け加わります。
この魅力を最大限に盛り込んでいるのが「容疑者Xの献身 」ではなく、この「白夜行 」です。
白夜行 (集英社文庫)
東野 圭吾
今回は映画を見る前に、必ず原作を読んでおくことをお勧めします。
2005年の舞台もしくは2006年TBSドラマをご覧になっているのであれば、原作を読んでいなくても大丈夫かもしれません。
白夜行 完全版 DVD-BOX
東野圭吾
今回の映画「白夜行」は、原作でわかりにくいところをしっかりフォローしてくれています。
ただし、原作で幾重にも織りなす人間模様を若干まとめてしまっているところがあるので、ご注意あれ。
こちらは綾瀬はるかさん山田孝之さん主演のドラマ版「白夜行」です。
今なら見放題です。
昨年来、日本映画の話題作に共通しているテーマがあります。
それは…
法律上の罪を犯した者が本当の罪人なのだろうか?
その罪を犯さなくてはいけない理由は何だったのだろうか?
その理由を作ってしまった人たちもまた罪人ではないのだろうか?
つまり、罪を犯さなくてはイケなくなってしまったトリガーポイントを作らせた原因を問うことが主題ということです。
何が正義か、何が悪かを、問うべきではないだろうかと。
「告白 」しかり「悪人 」しかりです。
もちろん「白夜行」もそこがポイントです。
主人公は高良健吾さん演じる亮司と堀北真希さん演じる雪穂の二人です。
亮司と雪穂はともに両親の愛に恵まれない幼少期を過ごします。
孤独のなかで、児童館で出会った二人はすぐに仲良くなります…きっと心の底から。
児童館で亮司は切り絵とモールス信号に熱中します。
雪穂は刺繍に熱中しながら、モールス信号を覚えます。
亮司は父親に切り絵のためにドイツ製のはさみを買ってもらったことがありました。
それが亮司にとっての父親にやさしくしてもらった唯一の思い出です。
実は雪穂(堀北真希)は母親に少女売春をさせられています。
そのとき小学3年生です。
雪穂を買っていたお客のなかに亮司(高良健吾)の父親がいます。
ある日、その事実を目撃してしまった亮司は父親の背中を父親にもらったはさみでひと突きにしてしまいます。
自分と父親をつなぐ唯一の「はさみ」で父親を殺してしまった亮司はどれだけ苦しんだことでしょうか。
少年の心がどれだけ壊れたか計り知れないものがあります。
そして、亮司は雪穂を地獄から救い出します、
そのために亮司の父、雪穂の母、雪穂のもう一人のお客さんの3人の命が奪われます。
そのときすでに、二人は夜の闇の世界を生きていく覚悟をしていたのでしょう。
二人は二度と会わないようにしようと、別れていきます。
雪穂は誰をも魅了してしまうしたたかさと強さを持ち、燦然(さんぜん)と成り上がっていきます。
そんな雪穂の美貌と魅力に嫉妬する女性がときおり現れます。
そんなとき雪穂は昔通った児童館に行き、昔お世話になったお礼にと手製のぬいぐるみを置いていきます。
そのぬいぐるみの首にはビーズで作ったネックレスが掛かっています。
そして、そのビーズの配列がモールス信号となり、亮司にメッセージとなっています。
その後まもなく、雪穂の生きる道を邪魔した女性は乱暴されたり、恥辱されたりします。
生きる道を邪魔しようとした男性は殺されていきます。
二人はある意味、自分たちの人生を闇の世界に置くことを決意したのでしょう。
だけど、雪穂にとって、太陽以上のものが存在し、それが、亮司であり、決して会うことはないけれど、常に雪穂を邪魔する者を排除してくれる太陽、いや、闇に冴える太陽です…だから、白夜行なのです。
原作では、亮司は最期、父からもらったはさみが自分の胸に突き刺さって死んでいきます。
映画ではラストシーンも少し違います。
映画では、亮司を追う刑事、笹垣(船越英一郎)の思いを表面的な重点に置いて描いています。
裏の重点が亮司の思いといった感じです。
この物語、ひとつの事件から雪穂を中心に亮司が絡みいくつもの事件を派生させていきます。
そこに絡む人々がそれぞれの家族を持ち、その糸があっさりととけていってしまう感じがします。
それは、まるで雪穂と絡んでしまったからがゆえと感じてしまいます。
家族というよりも、そこに脈々と流れる血(亮司と父)よりも遥かに濃いところで結びつくもの…何かを超えた初恋以上の思い(雪穂と亮司)…それは雪穂と亮司にとって幼き頃に降り掛かった性的衝撃であり、その衝撃は、想像を絶する闇を作り出し、二人の人生を覆ったのでしょう。
この物語、亮司に同情せざるにはいられないのですが、それでも、魔性の女であろうと、悪女だろうと、雪穂にいちど出会ってみたいと思わせるあたり、東野圭吾さんの筆力以上に堀北真希さんの女優魂かもしれません。
映画「白夜行」主題歌「夜想曲」と、同じく東野圭吾ドラマ「幻夜」の主題歌「光の彼方へ」が収録されています。
デビューアルバム「ヒカリ」
珠妃
こちらは映画のサントラです。
映画 白夜行 オリジナル・サウンドトラック
サントラ
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