・・・・・・・っということで、4月6日に発生したドクターヘリの墜落事故について、NTSB(事故調査委員会)より事故原因と疑われるテールローター・コントロールロッドの点検指示が出ましたね。
事故発生から1ヶ月も経たずこのような発表は珍しいことです。
正式な調査報告書は半年〜1年以上かかるのが普通ですから、事故原因を特定するにはそれを待たなくてはなりません。
しかし、さらなる事故発生を防ぐために、このような指示が出ることがあります。
6名の搭乗者のうち3名が亡くなり、生存者の中には機長が含まれます。
事故機はフランス製のエアバス・ヘリコプターズ(ユーロコプター)式EC135です。

発表された資料です。↓

テイルローターのロッドが破断しています。
これが破断すると、テイルローターをコントロールできません。
テイルローターは尻尾に付いているファンで、メインローターが発生するトルクを打ち消す働きをします。
これによって、機首の方向をコントロールできます。
これが効かなくなると、機体はメインローターのトルクで左に回転を始めます。(アメリカ製のヘリコプターはその逆の向き)
ですから、パイロットは通常右のペダルを踏んでホバリングをします。
しかし、これはヘリコプターの前進スピードがゼロか低速で飛行している場合です。
巡航速度で飛行している場合、ペダルを踏む場合はターンをするときです。
極端な話、直進飛行ではペダルから足を離しても、まっすぐ飛んでいきます。
これは垂直尾翼の働きによって、機首を一定に保ってくれるのです。
特にEC135は、写真のように大きな垂直尾翼が付いています。(テイルローターはフェネストロンというファン式ですね。)
このため、巡航飛行中はまっすぐ飛んでくれるのです。
事故現場は壱岐島沖の海上ですね。

目的地は福岡ですから、速い巡航スピードで飛行していたことでしょう。
この時点でパイロットがラダーペダルを踏んでもコントロールが出来ないことに気付いたことになります。
この辺の状況は、パイロットが詳しく説明しているはずです。
そして、パイロットはフロートを展開して、不時着水を試みた。
結果はこの通り。

ぼくがオカシイなと思うのは、何でこんな海上で着水をしたのかです?
上で説明した通り、ラダーが効かなくなった状態でも飛行は継続できるのです。
福岡空港までは自信がなくとも、近くの陸地までは飛行を続けられたのです。
こう書くと、じゃあ着陸はどうやって行うの?という疑問が生じるでしょう。
ヘリコプターは飛行機と違って、スピードを限りなく遅くしながら着陸します。
スピードが遅くなったら、機体が左にクルクル回って着陸できないじゃないか?
しかし、着陸できるのです。
やり方は2つあります。
1)オートローテーション
これはメインローターとエンジンの結合を切ってしまいますので、メインローターによるトルクは発生しません。(機体は右に向こうとしますが)
最後のフレア(ブレーキ)をかけるときに、機体はメインローターと同じ右に向こうとします。
そのとき、生きているメインローターとの結合を再開してトルクによって左に回転させ、右回転しようとする機体を前に向かせることができるのです。
操縦は実にデリケートで、はっきり言って難しいです。
機長は3600時間の飛行時間があるので、できて当たり前とは言いませんが、機体を壊しても人命を守ることはできるはずです。
2)滑走着陸
これは、前進速度を保ったまま、飛行機のように滑走着陸させる方法です。
前進速度があるので、垂直尾翼が働いて機首をまっすぐ保ったまま着陸できるのです。
実はパイロット免許を取るときの必須の操縦法で、ぼくも実地試験でやらされました。
尤も、下手くそでしたから、滑走路に2本のひどい傷跡をつけてしまいましたが。(;^_^A
・・・・・・・
次に疑問なのが、何で不時着水したのかという点です。
ぼくが知っている自家用パイロットは、ヤクザを乗せて沖合で着水させたのです。
何で着水したかというとご想像に任せるしかありませんが、見事にひっくり返ってしまいました。
フロートは荒れた海上や風が強い日は転覆の危険があるのです。
もちろんフロートを展開してもひっくり返らないように設計されていますが、湖では安定しても海上は脱出の時間を稼ぐ程度の装置です。
・・・・・・・
もちろん本件のパイロットは、ぼくよりずっとずっとベテランです。
当然、上で挙げた操縦法を熟知していたはずです。
事故原因究明には分からないことばかりですから、ここでは一般的な話をしただけですので、誤解のないように。
最後になってしまいましたが、事故で亡くなった方々のご冥福を祈ります。
