ほたるいかの書きつけ -56ページ目

『中国の旅』

中国の旅 (朝日文庫)/本多 勝一
¥588
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 1971年、国交回復を目前に控えた中国を取材し、翌年に発刊された本の文庫版。その一部は南京事件についてのものだが、多くの日本人にとって、それまで中国戦線で戦い日本に帰ってきた元兵士たちの「自慢話」を通じた噂や東京裁判でそのごく一部が知られるに過ぎなかった南京事件が具体的な証言をもって明らかにされたという点で画期的な本である。細菌兵器を開発していた731部隊の話も出てくる(戦後のミドリ十字との関係や、アメリカとの取引により起訴を免れたという話は追記として出てくる)。以前のエントリで取り上げた『天皇の軍隊』 が侵略した側(日本軍)から見た中国戦線の話だとすれば、本書は侵略された側から見た中国での戦争である。中国各地をまわり、現地で被害にあった人々から話を聞くことに徹することによって作られた本である。

 「天皇の軍隊」が展開した殺しつくし・焼きつくし・奪いつくす「三光作戦」によって、中国の人々がどのようなひどい目に合わされたか、それはもうこの本を読んでいただくしかない(し、要点を要約するなど私の力量では不可能だ)。とにかく、物凄い迫力で迫ってくるのである。

 一点だけ、あまり顧みられることのないことだけ。日本の侵略は、当然ながら、単に軍を送り込み支配しようとしたというだけではない。「満州は日本の生命線」と叫ばれ続けたように(中国の人々にとってはたまったものではない。なんと勝手な理屈か)、中国の資源が重要な目的だったわけだ。
 その資源を活用するため、日本の企業が進出していく。
 ここでは、中国人は取替えの効く「部品」以下でしかなかった。なにかあれば殴られ、いびられ、リンチにかけられ、簡単に殺される。腐りかけたわずかな量の食事で毎日長時間働かされ、身体が動かなくなってくるとサボっていると言われて殴られ、ガソリンをかけて焼き殺されたり、軍用犬の「餌」として食い殺されたりする。大量の中国人を使っていた工場や鉱山では、万人抗と呼ばれる死体を「捨てる」穴が幾つもあったようだ。現在でも、折り重なった白骨死体が簡単に出てくるということだ。
 『天皇の軍隊』でも、民間企業の警備につかされる兵士の不満が描かれていたが、侵略という行為の目的がよくわかる話である。

 今となっては違和感のあるのが、多くの証言者が「毛沢東と党のおかげで~」のような発言をすることだろう。当時は文革の真っ最中だし、下手なことは言えないというのもあっただろう。しかし、これだけ悲惨な目にあったことを考えると、上からの強制だけではないのだろうと思う。あまりにも理不尽な仕打ちに長年あわされてきた身になって考えれば、そういう発言も自然に出てきてもおかしくない部分は小さくないように思われる。
 また、それと並んで必ずと言っていいほど言うのが「敵は日本軍国主義で、そのために日本の人民と連帯してともにたたかいたい」というような発言である。これも事情を知らなければいかにも公式的な発言に聞こえるが、戦争中の八路軍の振る舞いを考えれば、必ずしも変な言い草ではない。むしろ、なにかあればすぐに「国対国」の発想になりがちな昨今の日本でこそ、国境を越えて、共通の課題―そこには「敵」も含まれるだろう―に対処するという方向を考えるべきではないか、と思う。

 とにかく生々しい証言集であり、これをまとめるのは精神的にもつらかっただろうと思う。一度は目を通しておくべき本であると思う。

***

 しかし amazon の書評はひどいのが並んでますな。脊髄反射というのか洗脳というのか、日本がしたことをきちんと見つめるのが「反日」ですかね?たとえば「敵を知り己を知れば百戦危うからず」と言いますけど(「戦」の中身は措いといて)、「己を知る」ってとっても大事だと思うんですけどね。己のしでかしたことから目を逸らしたままでは、マトモな未来は築けないと思いますよ。

 

陰謀

 9.11テロはアメリカの自作自演、という陰謀論をあちこちで目にするわけですが。
 それについては当然「そんなわけない」のであって(それでも疑問をお持ちの方はこちら「PULL IT (ボーイングの行方)」 を参照してください)、陰謀論の立場に立つことはテロを起こしたアルカイーダを免罪し、かつそんな強力なテロ集団を育てたアメリカをも免罪することになるわけで、まさにダメダメなわけです。

 と、ここまでは前置き。
 さて、「陰謀」が全く無いかと言えば、それはもちろんそうではなく、数多くの陰謀はあったわけです。「大量破壊兵器」の存在を口実にイラクに攻め入ったのも、実際に存在するという証拠を欠いたままだったわけですから、これも陰謀と言えば陰謀ですよね。
 でも、これ、発表当時から既に問題点が山ほど指摘されていたわけで、9.11自作自演説とはかなり状況が違います。つまり、アメリカ自身、そんな陰謀はすぐに陰謀とわかってしまう(陰謀であるという具体的証拠が出るまでには時間がかかっても)ような陰謀しかできないわけですよ。

 ところで(実はここからが本題)。
 陰謀の好きな国家といえば、実は日本がそうだったりしますよね。無論、1945年までの日本、ですが(とりあえずそういうことにしておきます)。あの柳条湖事件はまさに陰謀(謀略)。1931年、南満州鉄道の線路を日本軍が自ら爆破し、それを中国軍の仕業だということにして攻撃を開始、侵略をすすめていったわけです。

 日本軍は中国の人々を各地で強制連行したり、虐殺したりしてきたわけですが、その際も陰謀が使われた。つまり、「銃声が聞こえた」ことにして、普通の住民が住む村を襲撃し、拷問し、犯罪者に仕立て上げ、殺したり連行したりする。こういうことをあちこちでやったわけです。

 とすると、「権力というのは陰謀をめぐらすものだ」と疑ってかかる思考様式には(日本の場合ですが)ソレナリの根拠があることになります。どれだけ汚いことをするかわかったものではない、と。

 なので、あり得そうな陰謀と、荒唐無稽な陰謀を見分けるコツを身につける、というか、訓練することが必要なような気がします。
 それはもちろん「そんなに大勢がかかわっていたらすぐにバレて陰謀なんかできやしない」とか「陰謀を起こす合理的な理由がない」とか今までに散々言われてきたことでもあるのですが、でも一旦思い込んじゃうとそこから抜け出るのは難しいのだろうなあ、と思ったりもします。
 ちなみに柳条湖事件は線路を爆破しただけだし、関わった人数も少ない。それでも、すぐに日本軍の謀略ではと言われ、ばれちゃった訳です。日本軍は戦争仕掛けたくて仕方なかったってのもわかってましたしね。

 というわけで、日本軍がしてきた所業の数々を知る人ほど、もしかしたら陰謀かもと疑う思考様式を身につけているのかもしれません。ま、それでも物事を合理的にとらえ全体のなかに位置づける訓練がされていれば、見分けることは可能だとは思うのですが(で、実際陰謀論にはまる人は一部ではあるわけです。エキセントリックな主張だから目立つけど。私もついついそういう人に注目しちゃうし)。


 しかしそれにしてもですね、昔々は日本人は正々堂々と(何が正々堂々かは措くとして)戦ってたのですよね。「やあやあ我こそは…」と名乗りあってから戦闘開始、だったと思うのですが、それがいつのころからか奇襲は仕掛けるは謀略はするは、なんだか卑怯だなあ、と思っちゃうのですが、この変化は一体なんなんでしょうかね。

珍説:消費税は逆進課税ではない!?

 『赤旗』5/29より:消費税に“新説” 逆進性ない?

 阪大の大竹文雄氏(政府税調・専門委員)は、生涯所得と生涯消費税支払額はほぼ比例しているといい、だから逆進性はないのだ、と主張しているそうである。要するに、死ぬまでに稼いだ金と持ってる資産を全部使い切れば、それだけ消費税を払うんだから、逆進性があるとは言えないでしょ、ということらしい。
 しかしこれは仮定に仮定を重ねた議論で、トンデモすれすれではないか。珍説である。
 相続はなしにして、死んだら資産は全部国が取り上げよ、とでも言うのだろうか?利子や配当は?投資は?疑問だらけだ。
 どういう解析をしているのかわからないのでなんとも言えないが、そのあたりも明らかではなく、まさになんとも言えない、というところらしい。そんなことで消費税率アップの口実に使われてはたまらない。

 なんというか、哀れな御用学者、としか言いようがない。結論先にありきとしか思えない。言ってて恥ずかしくないのだろうか。こういう人が日本のアカデミズムにいるというのは、率直に言って私は恥ずかしいのだが。

「理科教室」5月号

 気がついたらもう5月も終わろうとしているので、6月になる前に、特集の目次だけでも紹介しておく。

「理科教室」 5月号
[特集]非合理と科学教育
主張 「ニセ科学」「非科学」を見抜く力を!(鈴木健夫)
1 非合理の潮流と現在 -人のこころから見た不思議現象-(菊池聡)
2 教育現場で非合理・非科学にどう対応するか(西尾信一)
3 <高校>『水からの伝言』が教えてくれたこと(斉藤哲郎)
4 <高校>高校英語教科書と星座・血液型占い(鈴木亨)
5 <高校>ゼミナール 「科学とニセ科学について考える」(梶山正明)
6 <高校>「1億人ジャンプで地球は動く?」を検証する授業(長谷川大和)
7 <中学校>ニセ科学を信じる生徒への対応をどうする(村石幸正)
8 「創造論」とは -アメリカ教育現場事情-(高橋信夫)

 これが普通のニセ科学批判本(雑誌だが)と違うのは、学校現場での実践報告が含まれる点であろう。「水伝教師」については、ややもすると「一人見かけたら~」的に思ってしまうのだけれども、実際にはそればかりではなく、着実に批判を実践している教師たちもいる、ということだ。現場の先生はがんばっているのである。

未確認飛行物体

ベトナム通信、カンボジア沖で「UFO」爆発と報道
 ベトナム通信(VNA)は28日、同国南部プーコック島の上空で未確認飛行物体(UFO)が爆発したと報じた..........≪続きを読む≫ 「恐らく飛行機だろうが、当局は民間機か軍用機か確認できていない」って、まさに正しい意味でのUFO(Unidentified Flying Object)だと思います。
 「UFO」に反応しちゃったわけね(って私もそうだが^^;;)。