アツキココロ -3ページ目

アツキココロ

広島県在住の経営コンサルタント・児玉学の熱血ブログ。

第3回「名誉第一、本業第二」



一般的に人間、事業の成功後には「名誉」が欲しくなるそうです。公的な役職や勲章など、名誉につながる肩書は年をとればとるほど不思議な魅力があるようで・・・。本当に功なり遂げた人が名を求めるのは別に悪いことではないのですが、ときに3代目や4代目あたりで事業をただ引き継いだだけの経営者に、その順番が逆になる場合があるようです。



A社は創業100年を超える老舗。社長は、地元の名家出身。親戚筋には全国的著名人もいる華麗なる一族です。そのせいか、A社長も全国平均より相当若い時分から地元の商工会議所会頭を務めていました。しかし、本業は時代の流れに翻弄され青息吐息。この会社の物流効率化を提案するある企業から頼まれ、私も何度かA社に足を運びました。副社長以下何名かの幹部社員はいつも打ち合わせの場に出てきますが、A社長は一度も出てきません。聞けば、いつも「財界活動で多忙だから」だとか。商工会議所会頭以外にも実に様々な役職を兼務してほとんど会社に顔を出さないそうです。会社はもう何年も利益を出していません。赤字が積み重なるということは、企業の体力をどんどん奪います。名門A社とて、過去の遺産でいつまでも持つモノではありません。社長なら、そのあたりは従業員の誰よりも痛切に感じているはず。その赤字解消のための大事な大事な会議。しかし、一度として出てこない。全て従業員任せ。私は思いました。「社長は任せる、ということで会社の改革を進めたいのだな~。」と。

ところが、いざ物流改革の案をまとめた段階で、A社で話が全然前に進まなくなりました。2~3度実の無い会議を重ねた後、思い切って私が副社長に尋ねたところ「社長の決済が下りない」とのこと。A社長、決して「任せ切っていた」訳ではなかったのです。で、その理由は?「今回の企画の物流改革が良く分からないから」。・・・・。よく分からないなら、なぜ会議に出ない?理解して、反論するなり、対案を出すなりするのが筋でしょう。私は半分憤慨しながら副社長に詰め寄ると、「社長は何か独自の考えがあるようです」との回答が。いや、いいですよ。我々の案に固執せず、ベストな選択をされるのが一番ですから。で、どんな考え?副社長は苦り切った顔で首を振るばかりでしたが・・・。

半年後、答えが見えました。「別会社化」。A社の成功と歴史の蓄積である不動産部門だけを分離し、新A社(社名存続)とする。旧A社は全国大手に吸収合併され、その歴史に幕を閉じました。A社長はどうしたかって?もちろん、新A社の社長として地元商工会議所の会頭もまま、です。名誉優先。本業は廃業。旧A社の従業員は全て吸収合併された全国大手の傘下に入り、慣れない社風の中苦労を重ねる羽目に。中には窓際に追い詰められ辞める人も。



A社長、本当にあなたは経営者と言えるのでしょうか?財界の重鎮たる立場にいて良いのでしょうか?・・・と、私が心の中で叫んだところで気付きました。そう言えば私、A社長に一度も会ったことがなかったっけ・・・。




第2回「会計が分からんで経営が出来るか」


 「いや~私は会計が苦手でして・・・。」「数値管理は経理任せで・・・。」ときどき耳にする中小企業経営者の発言です。「会計の重要性は良く分かっているんですが・・・。」って、分かってないよ、ホントは。分かってたら、得手不得手の問題じゃなく、経営者としてちゃんと取り組んでるって。「数字を見てたら頭が痛くなるんで・・・。」そんな人は経営やっちゃダメだよ。数字は最もシンプルに事実を示す全世界共通のルール。この偉大さは、あまりに当たり前すぎてときに忘れがちになります。そもそも会計ってそんなに難しいものなの?勝手に難しいものにしてない?税理士先生の説明が難し過ぎる?難しい説明をする人は、決して頭の良い人じゃないですよ。本当に頭の良い人は、分かりやすく説明してくれるはずです。

企業会計の基本は「数学」じゃなくて「算数」です。文系・理系関係ない。挨拶や整理整頓のような基本常識。簿記だとか財務だとか、って学術的に考えると話が難しくなります。基本的に足し算・引き算・掛け算・割り算の世界で、その以上でもそれ以下でもない。えっ?割り算ですでに落ちこぼれた?う~ん・・・、そりゃ電卓でカバーしましょう。


 A社は売上に占めるシェアが大きい卸売先の、売掛金回収に苦しんでいました。取引を続ければ続けるほど、A社の資金繰りが苦しくなる。完全な悪循環です。業を煮やした社長、回収を図ろうと悪戦苦闘の交渉を重ねた結果、期間限定ながらその取引先への支払マージンを上げる、という条件で回収を進めることに。しかし、いつまでたっても売掛は減少しませんでした。なぜでしょう?

毎月小売ベース150万円の卸売りで、10%支払マージンを払って得るA社の月額収入は135万円(150万-15万)。回収額が135万円以上でないと売掛債権は減りません。今まではそれが50万だとか100万だとかしか払ってもらえないから売掛が溜まってきていた訳です。ところが、この取引先が出した条件の暫定支払マージンは今までの倍の20%。その代り毎月150万円づつ売掛債務を支払うというお話でした。卸売りが毎月150万円のままならば、20%のマージンを取られた残りの120万円を上回りますから、30万円づつ回収が進むことになります。(暫定マージン前に置き換えても毎月15万円づつ減る計算。)ところがこの取引先。複数の仕入れ(卸)業者を持っており、そのシェアを変動することで結構やりくりできるため、A社の取り扱い高を上げてきたのです。150万円の小売ベースを200万円へ。するとA社の取り分は160万円(200万-40万)になりますが、回収できるのは150万円。再び売掛債権は膨らんだ、という全く喜劇のような光景が続いたのです・・・。
 

 馬鹿だな~とお笑いのそこのあなた。でもあなたも気付かないまま翻弄されている可能性ありますよ。何が馬鹿なのか分からないあなた。もう1回算数を学び直してください・・・。ちなみにA社の社長は、簿記3級でした・・・。







第1回「社長とクルマと業績の妙な相関関係」





会社の業績と、その会社の社長が乗るクルマに相関関係はありません。でも、コンサルタントとして中小企業の現場を数多く見てきた経験に照らし合わせますと、私にはある種の相関関係があるような気がしてなりません。

だめな社長ほど、派手なクルマに乗りたがる。いわゆる「高いクルマ」「良いクルマ」に乗っていても好業績の会社は多いんです。でも、そこに「派手な」という形容詞がくると、その企業は要注意です。





A社の社長は言いました。「いや~業績がなかなか伸びないし、家庭もいろいろトラブルが多いから気分的に滅入っちゃってね~。私の唯一の趣味がクルマなもんで、ちょっと気分を盛り上げるために買い替えたんだよ。」かなり派手目なBM。その数ヶ月後。今度は派手なベンツで登場。「これは女房の。」・・・あの~。おたくの会社、立派な債務超過なんですけど。それもちょっとやそっとで返せる額じゃない。「見栄も大事なんだよな~。あんまりチンケな車に乗ってると『ああ、あそこ景気悪いんじゃない』って思われちゃうし。」・・・って、本当に景気悪いんだよ。カッコつけてる場合か?少しでも借金減らそうよ。「車ケチったくらいじゃ、大した金にならないし、ね。」・・・。そう、ウン百万が大した金じゃなくなってる。でもそんな比率にしてしまったのは何を隠そう、社長あなたです。・・・この会社、2年後にあえなく倒産しました。

 

B社の社長は、ある仕事の商談に派手なベンツで乗り付けました。「今の女房に買ってもらった」とか。うん、夫婦仲が良いのは幸せなことです。以前の奥さんと死別後、男手ひとつで子供を育て上げ、ようやくつかんだ新たな出会い。でも、ずっと地味なクルマに乗っていた社長が急変。その派手さが気になりました。案の定、そのあたりから妙な噂を聞くことが増え、ほどなく倒産。その会社事務所がヤ○ザの事務所になっていたのを見た時は、さすがの私も背筋に冷たいものが走りました・・・。





 C社の社長。いつもは会社の地味な制服を着て業務用の軽トラックを転がす社長。いい感じ。腰も低いし。でも、そんなある日。新事業進出のために、私の知り合いにお願いして実現した工場視察。さっそうと現れた社長にびっくり。シルバーのベンツ・カブリオレ。服装は数年前のやくざ映画の主役みたい。そう言えばこの社長、頭はパンチパーマぽかったっけ。普段は制服だし、腰低いし、軽トラックだし、あまり目立たなかったけど。「何でそんな車でそんな格好なんです?」私が尋ねました。「いや~なめられちゃいかんと思いまして。親に買ってもらったベンツ引っぱり出しました。」・・・って、どういう神経してるんだ?これは出入りか?工場見学だって言ってるじゃない。それも、普通なら見せてくれないような同業に、わざわざ時間とって見せてくれる、っていうのに。いつもの腰低い姿勢で行こうよ。何で、ベンツなの?・・・結局この会社、新規事業がうまく立ち上がらなかったことは言うまでもありませんが、現在主要取引先にばっさばっさ切られ、大変なことになっているそうです。





 一方、伸び盛りの企業。某支援機関の基調講演にゲストで社長が登壇。話も非常に面白い。別のある企業経営者に是非引き合わせたくって、アポをとりました。社長、快諾。同行しました。忙しいのに、あれやこれや全部社長自らが案内してくれる。アドバイスもばっちり。最後に「お店も見てください」と車で連れ出してくれることに。社長自らハンドルを握ります。少し大きいけれど、立派な10年モノ。でも、なぜかその社長の人格そのものの良い雰囲気を醸し出してる。「車に金かけたって、一銭も稼いでくれませんから。私はそういうものに金かけるくらいなら、工場の部品一つを新品にします。」

 この会社、不景気の今も着実に伸び続けています。












長々と書いてきたこの項も最後。


実はこの「間違いだらけの中小企業経営」は、ある意図を持って書き始めました。

それはモデルとなったこの食品卸会社の経営者に、「何が間違っているのか」を冷静に理解していただくため、時系列的に事実の整理をしたかった、ということです。

文中にも書きましたとおり、この会社の社長は普段無口なくせに「出来ない理由」とか「駄目な理由」「上手く行かないことに対する責任転嫁」とかの話しをし始めると、なぜか理路整然とした話しでまとめるのが天才的に上手くなるのです。

しかし、その中味は対症療法のみで且つ自身に都合の良いよう事実を捻じ曲げていたり、主観を客観のように偽った手法を駆使していますから、丁寧に紐解けば誰もが「おかしい」ということに気づきます。しかし、その「おかしな」理論に一番納得してしまうのが、実は社長本人なんです。

ご本人がその矛盾に気づかず、他者の意見を跳ね除けて「私の主張は正しい」と言い続けていますと、物事はどこまで行っても解決しません。


私はコンサルとして社長のおかしな論理を聞くたびに逐次論破してはいましたが、そのやり方では社長本人には「言い負かされた」という怨念だけが残り、何の解決にもつながっていないことに気づきました。

論争ならばそれで良いのでしょうが、私の目的は「経営者に気づきを与え、良い方向へ変えていく」ことですから、社長に納得してもらわねばなりません。


そこで、この項でもう一度事実の整理を図ったと言うことです。


しかし、残念ながら現実はこのブログの進行よりも早く社長の暴走が飛躍してしまい、悪化の一途をたどりました。

いつからか、「社長」と「夫人を始めとした従業員」の心は急速に離れ、社長は一人ぼっちで経営は荒れ続けています。最早私の言うことに耳を傾けないばかりか、会う事すら避ける始末です。


そのような状況になりつつあった中、本項を同時進行で書くことに躊躇も覚えました。中味は何やら見方によっては社長の悪口オンパレードになってますし、そのようなことをコンサルとして記すのは倫理観に反するのではないかとも考えました。

しかし、私は間違っていることが明白な経営者におもねってゴマをするようなタイプではなく、「駄目なものは駄目」と言い切ることに存在意義があるタイプのコンサルです。そこに賛否両論がありますが、少なくともこのモデル企業の社長以外の従業員さんは皆その姿勢を買ってくださっています。

ということで、躊躇中の長い中断を挟みながら、一応事実は事実として記しきろうと決めました。

改めて社長にも直接読ませたい、そんな思いすらあります。


しかし間違いの最たるもの、即ち「人を信じない」状況にある今の社長には、この文章は残念ながら逆効果にこそなれ真に私の想いを伝えることにはならないでしょう。


人間誰しも間違いはあります。「確信して」間違わないように動いたつもりでも、やはり間違いは起こります。だから本当に大事なことは、間違いを間違いと素直に理解する能力、自身の間違いを素直に認め正しい道に方向転換する能力だと思います。これこそが、中小企業のみならず企業経営に携わる者全てに共通する必須の要素だと私は考えます。


この項の最後に、本田宗一郎さんの話しを。直情型で、自分の意見に逆らう者には鉄拳を振るうことすら辞さないタイプだった若き日の宗一郎氏。でも彼ほど又自身の間違いにすぐに気づき、それを率直に認め素直に謝れる人もいなかったといいます。彼の「力いっぱい人間を愛せよ」という教訓は、どんなに間違っても最後は人間同士カバーは可能と言う力を与えてくれる言葉です。私は、悩みの迷路に入り込んでしまったこのモデル企業の社長にも、やはりまだ可能性を信じているからこそこの項をまとめました。決して起こした「間違い」を攻めるつもりではありません。彼の人間性を愛しているからです。彼もまたその「人を信じ、人間を愛することの正しさ」を思い出していただきたい、ただそれだけで物事はがらりと変わると信じています。



(おしまい)

そして、最も大きな失敗は「人を信じない」失敗。


夫人は何のために頑張ったのか?

当然、会社のためです。夫である社長のためです。にも拘らず、この会社の社長はこの後何と言ったか!!?以下その語録です。

「自分がいい格好したかったんだろう。」

「会社を乗っ取る気じゃないか。」

「自分の金儲けのために違いない」

「(彼女が)頑張れば頑張るほど、こちらはやる気が無くなる。」

・・・・。

誰が最も会社のことを考えているのか、分からないのでしょうか。誰が最も自分にとって大切な存在か、分からないんでしょうか。なぜ信じようとしないのでしょうか?ご自身の身内ですらこうですから、他は推して知るべし、です。


先代の頃から勤務する優秀な社員がいました。少し職人気質なところもありますが、技術も頑張り度合いも桁違い。この人もまた、社長にとっては目の上のたんこぶ。社長を先代から引き継いで以降、ず~っと冷遇していました。先代には可愛がられただけに、この社員さんも日々面白くなくなり、とうとう仕事中に隠れて酒を飲み始めた。そしてそれが露呈。

社長が私に問いかけました。「首にしていいでしょうか?」

私はこう言いました。「好き嫌いで首にしてはいけません。やったことは確かに誉められたことではありませんが、中小企業は人が全て。聞けば先代のお気に入りだそうじゃないですか。もう一度チャンスを与えてあげてはどうでしょう?」

「分かりました。一度だけチャンスを与えますが、二度目があった場合には即首にします。」


この社員さん、どうなったと思います?

この一件以来、以前以上に頑張る超優秀なスタッフとして、夫人と共に戦略実現に大いに貢献してくれています。

私は社長に言いました。「あの時、即首にしていたら何も生まれてなかった。あそこで社長が寛大な処置をしたことが、どれだけ大きな価値を生み出したか、お分かりになられますよね?」

社長に気づいて欲しかったんです。人を生かすことの大切さを。

でも。社長は冷たく一言。「いや~又いつかぼろ出しますよ。あいつは信じられない。」

・・・。未だに社長からは冷遇されています。でも夫人が頼りにしていまして、それを糧に頑張っています。


こんな例は極端かも知れませんが、やはり中小企業の経営者で人を「好き嫌いで判断」する方は結構多いのです。もちろん、人は「感情の生き物」ですから、なかなか性が合わない人は使い難いでしょう。でも、中小企業は経営資源に乏しいんです。限りある人材をどう生かし切るか。経営者から歩み寄らないで、どうして社員が変われるでしょう?そのためのポイントは「信じてみる」こと。これに尽きます。


人を信じられないことの失敗は、他の失敗とは違い経営の根本を決めるくらいのインパクトを秘めています。人を生かせない中小企業に明日はありません。


(つづく)


中小企業が犯しがちな間違いとは何か?

間違いのオンパレードだった、この企業をもう一度振り返って見ましょう。


まず第一に「捨てるべきモノを捨てない」間違い。この企業は2年以上経った今でも相変わらずあの小売店を運営しています。そして(当然ですが)、今でも赤字です。限られた経営資源を有効に活用せずして、中小企業の存在価値は高められません。弱者の戦略としてよく言われることですが、「集中・徹底」こそが中小企業が生き延びる唯一の道なのです。それを「もったいなから」とか「せめて投資回収するまで」とか「もう少し様子見て」とか色々な理由をつけて捨てないでいると、その捨てないモノより大事なモノを得るチャンスすら逃してしまうことになる。ここが重要なんです。捨てたくない気持ちは良く分かる。折角始めたのなら、そう簡単に止めてはいけない。そういう説も良く分かる。でも戦略に合致しないモノは捨てなければならないんです。かけた費用は「サンクコスト(埋没費用)」といって、回収にこだわるより前向きに切り捨てるべきコストなんです。


サンクコストをいかに見切るか。これが企業経営の将来を左右する重要な要素であることは間違いありません。

伸びている企業は、ポイントポイントで必ずサンクコストを見切り、貴重な経営資源の再配分を行っています。


ところであろうことか、この間違い社長は今更なるサンクコストを発生させています。赤字の小売店はおろか、生産や直販といった戦略が軌道に乗る前に、今度は飲食店を始めてしまいました。ここも赤字です。しかもここには小売店以上に大きな投資をしています。引くに引けなくなることでしょう。体力も無いのに兵站を延ばしてしまうことのおろかさは、旧日本軍を例にとるまでもなく失敗の本質としてよく挙げられていることです。本当に残念です。(え?私はコンサルなのにひとごとみたいに言うな?その理由はこのシリーズの最後にお話しすることにしましょう。)


第二に「学ぶべきことを学ぶべき時に積極的に学ばない」間違い。学びの大切さを知らない中小企業経営者は実に多い。皆良く「セミナー」等には参加しています。でも経営の学びは「座学」では得られません。真似でも何でもとにかくまず実体験してみる。これが中小企業には一番大事です。

先行企業・大企業には当然先行企業のメリットがあります。でも後発企業・中小企業にもメリットがある。先行企業の良い点を真似ることが出来ます。良いところはどんどん真似る。そのうちにオリジナリティが出てきます。最初から「独自色」を出そうとすると失敗します。何度も言います。中小企業は経営資源が限られているのです。だのに、「中小企業ほどオリジナリティが大切」と説く書籍や情報に踊らされ、最初から難しく考える経営者の如何に多いことか?未開拓のブルーオーシャンを切り拓くのは容易ではないんです。まずは「真似る」こと。そのためには他の雑事を置いてでも、経営者自らが勉強しないといけないタイミングがあります。この間違い企業もそうです。経営者が自らの業務を抱え込み、「時間がない、時間がない」と言って結局先行企業に学びに行きませんでした。そのせいで、戦略目標だった「生産の強化」がいかに遅れたか。経営者が自らの業務を抱え込んで進歩しないのならば、他の社員さんの成長もそこで止まる。その企業が伸びることは永遠にありません。


第三に「出来ない理由を探す」間違い。出来ない理由を挙げさせたら天下一品の人をよく見かけます。そんな人に限って、口がやたらに立つ。だから一見もっともに聞こえます。しかし。しかし。出来ない理由がいくら立派な理論で構成されても、何も生み出しはしない。新しい付加価値は出来ない理由からは現れては来ないのです。

この間違い社長も普段は無口なほうなのに、出来ない理由を延べる時だけはえらく論理的に話しをし始めます。恐らく今までの人生でここに最も力を注いでこられたのでしょう。そう、出来ない理由を正当化することで、今まで多くのことから逃げてきた。そんな感じです。ボンボンの間はまあそれでも良かったんでしょう。しかし、経営者となったら逃げ道は無い。逃げたって結局全部自分に返ってくる。ならば「どうしたら出来るか」を考えたほうがいい。難局に際して、この正反対の考え方が出来るかどうか。これも重要なポイントです。


第四に「負荷が成長の原点であることを理解しない」間違い。成長の源は逆説的ですが「苦難」なんです。苦難なくして成長は無い。負荷をかけられればかけられるほど、それを乗り越える知恵と勇気と行動力が沸いてくる。こんな組織こそが伸びるのです。この間違い企業では、夫人がそれを見事に証明してくれました。しかし多くの中小企業は、負荷を避ける傾向が強いようです。経営資源が少ないことや、競争にさらされるストレスを理由に負荷をことさらに避ける。・・・間違っています。経営資源が少ないからこそ、負荷によって鍛えていかねばならないのです。もちろん持っている体力以上の負荷を受けて、という意味ではありません。ちゃんとコンティンジェンシープランを持ち、常に細心の注意を払いながら果敢にリスクを負っていく。このことの大切さを知らない、2世3世経営者も結構多いようです。


(つづく)

夫人は、従来からのお得意様に対する個別お願いととチラシ広告で戦略商品を売りに出しました。するとどうでしょう。700個もあった在庫はあれよあれよと売れ続け、期限としていた1週間後の在庫は遂に100個に。私が買い取ってプレゼント企画に使用する数量は結局100個だけになりました。

もちろん、夫人のこの爆発的な売上には「値引き」「セット企画」等が混じっていましたが、それでも原価割れはなし。全く問題ありません。多くのお客様に感謝の気持ちとクチコミを拡げていただく仕掛けとしては文句のつけようがありません。「在庫」というピンチを見事なまでに「知っていただく」チャンスに変えたのです。


私も負けてはいられません。

全国の美味しいもの通に向けて、Webを通じてプレゼント企画を打ちました。その反響。男女50組100個のプレゼントに集まった応募数は何と「2845」組。

それこそ北は北海道から南は鹿児島まで。(残念ながら沖縄は無かった。)そりゃ、ただだから・・・という説もあるでしょう。でも田舎の無名の企業がただ出しただけではここまでは集まらない。仕掛けはずばり「某百貨店東京本店でもご好評を頂いた」のフレーズ。これは食品という「安全」や「安心」が重要なキーワードとなる製品には欠かせない「ブランド価値」を加えてくれました。


厳選した50組100名にプレゼントを贈り、ちゃんとアンケートが戻ってきたのは42組84名。回答率84%。8割行けばよいかな~と考えていた私の予測を上回りました。今後の商品作りやマーケティングに役立つ貴重なアドバイスと共に、全国に少なくない数のファンが誕生する結果となりました。


一見大成功!!です。


・・・・ところが。社長の逆噴射が始まりました。

まず夫人に対して「売り切ったと言ったって、儲けにつながっていないじゃないか」との言葉が。

広告代や電話代、配送料を考慮したらトータルではマイナスじゃないかと。しかも、しかも。「既存の顧客に売りつけただけじゃないか」とも。

・・・・信じられない。私はその報告を夫人から受けて頭がくらくらしてきました。

厳密に言えば確かに夫人の売り切った600個は目の前の利益は生み出していないかも知れません。でも間違いなく「マイナス」ではない。今後のことを考えれば本当に大きな「プラス」です。そんなことすら分からない経営者って何なんでしょう?

既存の顧客に売りつけた?どこが悪い?嫌なら買わないよ、お得意さんほど。お得意さんの目ほど厳しいものはない。そのお得意さんの厳しい目に見極めてもらおうとした夫人の試みのどこが悪い?

そもそもお金を払っていただくお客様に「既存」も「新規」も関係ない。何を言ってるんだろう?

次いで私への悪口だったそうです。「彼(私のこと)が売れる売れるというから偉い目に遭った」とか。

・・・・偉い目に遭った?誰が?そもそも誰の会社だよ?誰のためにやってんだよ。

戦略の意味も理解せず、失敗(本当は失敗でも何でもないのだが、社長本人はそう思っている)だけを論って、他者を攻める。


私も今まで多くの中小企業を診てきました。どんな企業も多かれ少なかれ間違いを犯す。でも、ここまで間違いだらけの企業・社長に出会ったこともありません。


(つづく)

前半3日間頑張った夫人率いる先発隊に代わり、物産展4日目からは社長率いる後半部隊の登場です。


2日目の夕方盛り上がる現場を後に広島に戻った私に、夫人から電話が入りました。「3日目も目標売上大幅オーバーでした。」すごい、すごい。一緒に頑張っていられた社員さんなんかは、もう声ががらがら。それくらい熱を入れてくれた。これは客にも伝わります。アツキココロ、です。


さあ、この勢いを後半戦にも活かして!!社長にも夫人の意気込みが伝わるよう激励しました。


しかし。しかし、です。

4日目。物産展開始後最低の売上に終わってしまいました。・・・。後半部隊の女性社員がその訳をこう夫人に知らせてきたそうです。「社長が休憩時間を長く取って物産展の他のブースを回り、色々買って・・・。観光気分の社長につられて、何となく全体にだらけた雰囲気になってるんです。」これを聞いた夫人は怒って社長に電話しました。「少なくともこの物産展については私が責任者。たとえ社長でも、言うことを聞いて欲しい。休憩をとってもいいが、だらけた観光気分が生じないよう言動には気をつけて。折角のチャンスなんだから、もっともっと頑張って戦略商品を中心に売って!!」


そのときは社長も素直に聞いてくれたそうです。


しかし、売上はその後週末に最大の売上を上げたものの、前半の盛り上がりから想定した目標はクリアできずに終了しました。

そして夫人から私に電話。

「戦略商品の総売り上げは結局300個でした・・・。」「前半で150個売ってましたから、週末にかかる後半はもっと出ると思ったんですが・・・。」


「そうですか。まあでも300人近いクチコミ候補者が出来ただけでも、すごいことですよ。」

「在庫が700個残りましたが、どうするんだと社長が私を責めるんです・・・。あんたが責任者なんだからと、嫌みっぽく・・・。」


そうか・・・。社長はそういう態度に出たか・・・。私は本当に悲しくなりました。そりゃ、物産展中の夫人からの激を飛ばす電話で、社長としてのプライドを傷つけられたかも知れません。でも、子供じゃあるまいし。まして、夫人の言ったことは正論です。だからこそその時は社長も素直に聞き入れたはずなのに・・・。


この物産展の持つ意味も、戦略商品が300個も売れた意味も、社長には最後まで理解されなかったようです。ただ単に、在庫の問題を責任者の名の下に夫人に押し付けて、ねじれた感情の捌け口にしたようです。・・・自分の会社のことなのに・・・。


まあ、とにかく今は在庫に対する施策が先です。

私はあらかじめ考えていた案を伝えました。「私が残った在庫を全て買い受けましょう。ただし原価で。私はそれを今後のWebショップ顧客候補開拓につかいます。Webマーケット会社を通じてプレゼント企画を打ちます。」


それまで沈みきっていた夫人は、これを聞いて即座にこう応えました。「いえ、私も売ります。今までお付き合いのあるお得意さんに向けて、頑張って売ってみます。」


本当はこの言葉を社長から聞きたかった・・・。そうなんです。商売は負荷があるところから始まるんです。何とかしようと工夫するから、伸びるんです。安全策、安全策ばかりでは企業は伸びません。自信がないから、安全策?そんな気持ちではライバルに勝てる訳が無い。もちろん、負荷をそのまま放置はできない。事後策を考えとく。それが「コンティンジェンシープラン」というやつです。

私の予測では半分の500個は売れ残るだろうと。(もちろん上手くムーブメントが起こせれば1000個も可能性あり、と踏んでましたが。)しかし、たとえ物産展で売れなくても、「原価割れしない活用法」さえあればいい訳です。損は無い。いくらでも生きた使い道はある。むしろ、この戦略商品の認知度を高めるチャンスだ。近場のお客様にも知らない方はたくさんいる。この方々へは日頃の感謝とHP開設の告知を兼ねて特別価格でPR。全国の潜在顧客へはアンケート付きプレゼント企画。アンケート結果はそのまま販促ツールにも使えるでしょうし、商品改革にもつなげられる。

これが私のコンティンジェンシープランでした。もちろん、私が買い受けるというのはと特例中の特例。本来、コンサルがこんなことしてちゃいけません。でも社長に目を醒ましてもらいたくて、最悪そうすることも選択肢に入れていました。


でも目を醒ましたのは夫人でした。

夫人は私の意を受け、再び気力を復活させました。


そして・・・。


(つづく)


物産展が始まりました。


仕掛人の私も、当然応援に駆けつけました。すると・・・午前中からすごい人だかりです。さすが東京。さすが老舗。

そんな中社長夫人率いる先発隊は、早速お揃いのエプロンで必死の接客対応。

期待の戦略商品の売れ行きは?この商品を見たことも無い東京の消費者に、まずは理解してもらわないといけません。ある著名マーケッターは「分からない商品は売れない」と言っています。お客さんに理解されないモノは売れないんだと。だからまずは、理解してもらうために、試食、試食。夫人ともう一人の社員さんは必死で来場者に試食を進めます。


しかし、やはり通常商品の方に目が行く。戦略商品の方は興味は引きますが、購入にまでは至らない。でも夫人の熱意に引かれて、通常商品の方はどんどん売れていきます。


いいんです、いいんです。夫人に目配せしながら、あせらないようお願いしました。

じっくり腰を据えて、分かっていただこう。それが今回の目的なんですから。


「分からない商品は売れない」?前述著名マーケッターはこう続けます。「だから分からない商品を作っては駄目だ」と。・・・。それは、ある意味正論です。マーケティングの王道でしょう。でもマーケットはそんな「何であるか理解され」て、「皆が食べてるから安心」し、「皆に人気があるから欲しい」というフォロワーばかりで構成されているわけじゃありません。必ずどこにでも「チャレンジャー」がいるのです。この「チャレンジャー」達に認められて、それから徐々に一般化していくものなんです。今回は、東京で初めての試み。この大都会にいるチャレンジャーに知っていただければいいのです。影響力も絶対数も田舎のチャレンジャーの比じゃない。売るつもりで作った1000個の製品在庫?大丈夫。品切れ起こすよりマシ。「分からない商品」を作ったわけじゃない。昔から地元で伝わるモノをより美味しく丁寧に作っただけ。伝統の品は、伝統になるわけがある。分かる人に必ず分かる。だから、もし物産展で全部売れなくても、他にいくらでも打つ手はある。


・・・1日目が終了しました。

初日のこの企業の売上は、主催の百貨店担当者も驚く好成績。戦略商品こそ当初目標を大幅に下回りましたが、それでも実は大健闘。(大幅に下回ったのは実は鼓舞するために大幅に吹っかけていた目標値に原因あり、です。)夫人や社員さんの熱心な「戦略商品」試食勧めが、全体の売り上げ増に貢献したのは間違いありません。

夫人も他の社員さんもお疲れでしたが、充実の笑顔。


そして2日目。1日目以上の賑わいで戦略商品も前日より売上アップ、です。新聞社のインタビューも来ました。夫人はここでも一生懸命「戦略商品」を売り込んでいます。そうなんです。この気持ちがチャレンジャーを呼ぶんです。私は夫人の熱意に、明るい未来がそう遠くないことを感じました。


ところが、それがこの後とんでもない悲劇を呼び起こすことになろうとは・・・。


(つづく)

それからの夫人の動きは実に素早いものでした。


1000個の戦略商品の生産体制をまとめ、パッケージ・ネーミングの決定、試食形式の売り込み方式の決定、その段取り、出店百貨店との協議、更にはこの機会に認知度を高めようと私が仕掛けた「プレゼント企画」への参画からWebショップ立ち上げまで・・・・。


その間煮え切らない社長は完全に蚊帳の外。私も時間が限られている中、社長に構っている暇はありませんでした。


そしていよいよ迎えた物産展前々日。前日から現地入りし準備をするため、今日が最後の打ち合わせ日。1週間の物産展期間を二班に分け、前半のリーダーを夫人、後半のリーダーを社長とし、全統括は社長に・・・。期間中の現地・会社の体制確認と気合を入れようとしたその直前・・・。又社長が「私は自信がない・・・。」


出たよ。又かよ。しかもこの段階で。さすがに私も怒りを覚え、こう言いました。

「社長、そんなに自信がないなら奥さんに全権委任しなさい。その代わり、少なくともこの物産展に関わる事項は全て奥さんがトップ。たとえ社長であろうともその指示・命令に従う、ということを全社員に社長の口から伝えてください!!」


社長は力なくつぶやきました。「・・・・分かりました・・・・。」


この企業の規模・体力からして相当の負荷がかかるのは分かっていた今回の物産展への出店。でも、「経営革新」とはそのくらいの負荷を打破しなくては成功しません。しかもプロジェクトは段取り8割、と言われます。その段取りを全て行った夫人を、私は実務でも中核にする腹案を持ってはいました。

しかし、最後の最後までそれに社長が触発されて「実務は自分が責任を持ってやる」とと言い出してくれることを期待してました。


でも・・・。やはり・・・。


しかし、もう今は立ち止まっていられない。この企業の壁を打破する最高のチャンスが、目の前にあるのですから。

指示命令系統の統一と、社長へのショック療法を兼ね、わざと全社員の前で社長の口から「今回の物産展は女房がトップで行う」旨広報してもらいました。


全権委任された夫人は、張り切って物産展に乗り込みました。


そして・・・。


(つづく)