第3回「名誉第一、本業第二」
一般的に人間、事業の成功後には「名誉」が欲しくなるそうです。公的な役職や勲章など、名誉につながる肩書は年をとればとるほど不思議な魅力があるようで・・・。本当に功なり遂げた人が名を求めるのは別に悪いことではないのですが、ときに3代目や4代目あたりで事業をただ引き継いだだけの経営者に、その順番が逆になる場合があるようです。
A社は創業100年を超える老舗。社長は、地元の名家出身。親戚筋には全国的著名人もいる華麗なる一族です。そのせいか、A社長も全国平均より相当若い時分から地元の商工会議所会頭を務めていました。しかし、本業は時代の流れに翻弄され青息吐息。この会社の物流効率化を提案するある企業から頼まれ、私も何度かA社に足を運びました。副社長以下何名かの幹部社員はいつも打ち合わせの場に出てきますが、A社長は一度も出てきません。聞けば、いつも「財界活動で多忙だから」だとか。商工会議所会頭以外にも実に様々な役職を兼務してほとんど会社に顔を出さないそうです。会社はもう何年も利益を出していません。赤字が積み重なるということは、企業の体力をどんどん奪います。名門A社とて、過去の遺産でいつまでも持つモノではありません。社長なら、そのあたりは従業員の誰よりも痛切に感じているはず。その赤字解消のための大事な大事な会議。しかし、一度として出てこない。全て従業員任せ。私は思いました。「社長は任せる、ということで会社の改革を進めたいのだな~。」と。
ところが、いざ物流改革の案をまとめた段階で、A社で話が全然前に進まなくなりました。2~3度実の無い会議を重ねた後、思い切って私が副社長に尋ねたところ「社長の決済が下りない」とのこと。A社長、決して「任せ切っていた」訳ではなかったのです。で、その理由は?「今回の企画の物流改革が良く分からないから」。・・・・。よく分からないなら、なぜ会議に出ない?理解して、反論するなり、対案を出すなりするのが筋でしょう。私は半分憤慨しながら副社長に詰め寄ると、「社長は何か独自の考えがあるようです」との回答が。いや、いいですよ。我々の案に固執せず、ベストな選択をされるのが一番ですから。で、どんな考え?副社長は苦り切った顔で首を振るばかりでしたが・・・。
半年後、答えが見えました。「別会社化」。A社の成功と歴史の蓄積である不動産部門だけを分離し、新A社(社名存続)とする。旧A社は全国大手に吸収合併され、その歴史に幕を閉じました。A社長はどうしたかって?もちろん、新A社の社長として地元商工会議所の会頭もまま、です。名誉優先。本業は廃業。旧A社の従業員は全て吸収合併された全国大手の傘下に入り、慣れない社風の中苦労を重ねる羽目に。中には窓際に追い詰められ辞める人も。