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From me

韓ドラ(ラブコメ)好き

想像考察、創作恋物語、花に寄せたポエム、猫との生活etc…
雑貨屋さんのようなブログです。
来てくださって、読んでくださってありがとうございます。

 どの位経っただろう?


 薬が効いてきたのか社長は汗をかき熱も下がり始め目を覚ました



 「大丈夫?熱も下がってきたみたいだからもう大丈夫よ。お水飲んで…喉かわいたでしょ?でも汗かいたままだと駄目だから後で着替えてね…じゃぁおやすみ」


 「行かないで」

 「なぁに子供みたいに…もう大丈夫よ」

 「行くな」

 「はいはい…眠るまでいてあげる…眠らないとまた熱が上がるわよ」

 「じゃぁ寝ない…熱も下がらなくていい」

 「何言ってるの?それじゃ帰れないじゃない?」

 「帰さない」

 「どうしたの?変よ社長」

 「ああ変だよ…どうかしてるよ…愛に会ってからの僕は…」

 「また熱が上がってきたの?冷たいお水飲んで頭冷やして」

 「眠ってる間に水を飲ませてくれたのは愛だろ?」

 「ぁあれは…緊急救命処置。人工呼吸みたいなもんよ。忘れて」

 「忘れられるか。手を伸ばせば抱き締められるところに愛がいるのに」

 「変よ…ほんとにどうしたの?失恋が辛かったの?大丈夫よ…綺麗で優しくて教養があって社長にふさわしい人がきっと現れるわよ」

 「本当にそう思ってる?本気でそんな事思ってるのか?」


 「最初の頃は、君の事を知っているのは僕だけだった」

 「そうだったわね」

 「S社長と会った時の君、監督や先生とメールのやり取りをしている君、そんな君を見ているのがたまらなかった…辛かった…」

 「ちょっと社長?」

 「ああ何度も否定したよ。そんなはずはないって…何度も何度も否定したよ。だけど、否定すればするほど心の中で君はどんどん大きくなっていくんだ…」

 「社長?」

 「否定するから大きくなるんだったら、“愛している”って認めよう…と思った」

 「ちょ…ちょっと待って」

 「そうしたら今度は会いたくてたまらなくなった…自分でもどうしようもないんだ…」

 「何言ってるかわかってる?」

 「僕にふさわしいのは僕を幸せにしてくれるのは、君だけだ。愛でなきゃ駄目なんだ」

 「駄目よ私なんか…私と社長とでは住む世界が違う。だから必死で抑えてきたのに…辛い時や淋しい時、社長に寄りかかりそうになって…でも好きになんかならないなっちゃいけないって、自分にそう言い聞かせてきたのに…やっぱり来るべきじゃなかった…」

 「他の人が誘ってもここに来た?他の人でもあんな風に水を飲ませた?違うよね…僕が誘ったから来てくれた。僕が熱を出したから飲ませてくれた」

 「それは…」

 「そうだよね!」

 「最後にもう一度だけ顔を見たくなってつい来てしまったけど…忘れようと思ってた」

 「僕を真珠みたいにするつもり?そして君はえりかみたいに倒れるつもり?こんな辛い思いをさせる神様を恨んだりもしたけど、今は感謝してる。“真珠とえりかみたいになるまで解からないのか?”って僕に“熱”というお年玉をくれた」

 「でも…私は年上だし…」

 言葉を唇でさえぎった。



 こんな元日を迎えたのは何年ぶりだろう?


    いや、おそらく初めてだ

 毎年どこかのパーティでカウントダウンをし、酔いつぶれフラフラと部屋にもどり初日の出を拝みそのまま眠りに付く

 ここ何年もそれが恒例となっていた


 今年は、愛する人と二人でカウントダウンをし、その人を腕に抱き初日の出を拝むこともなく夜が明けた


 カーテンの向こうには、陽の光を浴びキラキラと輝く穏やかな海が広がっているだろう

 (これは夢かもしれない)

 起き上がろうとして僕は止めた

 (夢なんかじゃない)

 左腕の軽いしびれ感と身体に触れる温もり、かすかに聞こえる寝息が現実だと教えてくれた

 (今日は二人で初詣に行こう…神様にこの報告と感謝をしに行こう)

 愛の髪を撫でながらそう決めた

 でもそれも、もっと遅い時間でいい…



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 その歳も押し迫った頃

 「こっちでカウントダウンやらないか?」

 と連絡が入った


 「温泉にでも入って今年の疲れを落としたら?」


 「今頃からだとチケットもホテルも取れないでしょ?」


 「チケットも取れたしホテルも取れたから」


 「今年の自分へのご褒美!プチ贅沢してもいいかな?温泉でお正月なんて初めて…社長ありがとう」




 海に面したホテルのメゾネットタイプの部屋を予約しておいた



 「すごい部屋…シングルで良かったのに」


 「贅沢言うなよ、苦労したんだから…愛は上、僕は下、それで我慢しろよ」


 「えっ!この部屋だけ?」


 「だから…愛は上、僕は下、贅沢言うなよ」


 「贅沢過ぎる…初めて見るわこんな部屋…」



 海の幸をたっぷりと堪能し、ワインを呑みながら部屋でテレビを見て過ごした


 愛は、ケラケラ笑いながら特番を見てCMになるとチャンネルを変えた


 「いつもそんな風に見てるの?」


 「気忙しい?年末はいつもこんな感じ。それでそのうちどの番組でカウントダウンするか決めてハッピィニューイヤーってなるのよ。今年はどれにしようかな?どれでカウントダウンしたい?」


 「どれでもいいよ」


 「もうすぐだし…じゃぁこれにするね。毎年一瞬で終るけど何かドキドキしない?ドキドキしてきた…」


 『5・4・3・2・1・0・ハッピィニューイヤー!今年もよろしくお願いします』


 久しぶりに笑った気がした



 「明日、もう今日ね…今日は何をして過ごす?楽しみにしてるわ。じゃぁおやすみなさい」


 「ぁぁ…おやすみ…」

 (愛…まだ一緒にいたい…まだ…)



 足音が階段を上がっていく…




 どうしようもなく落ち着かない心を静めるためシャワーを浴びた


 酔いが回っていたのかそのままソファーで眠ってしまったらしい


 急に寒気がし身体の震えが止まらなくなった


 しばらく我慢していたがますます身体が震え出した




 「大丈夫?濡れたままこんな所で寝てるからよ。早く脱いで」


 気付いた愛が、濡れたバスローブを脱がせ新しいものを着せ

 「歩ける?」

 そう言ってベッドに寝かせてくれた



 「こんな夜中に申し訳ないのですが熱が出てるみたいで…体温計と氷まくらがあればお願い出来ませんか?」


 ホテルにお願いした


 「すみませんお世話おかけして…」


 頼んだものを受け取り、熱を測って頭や脇を冷やし、薬を飲ませようとしたが飲まないので水を口に含み無理矢理に飲ませた



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 愛は監督や先生ともメールを始めたらしく、僕が返信しなくても毎日それを報告してきた


 それを見るのも何故か苛立ちそんな事で苛立っている自分にも苛立っていた



 (社長から連絡来ないけど忙しいのかな?病気とかじゃなかったらいいけど…一人暮らしだと言ってたし…)


 「もしもし社長?どうしたの?忙しいの?それとも身体の具合でも悪いの?社長のお説教聞かないと何か調子狂っちゃって…」


 「どうせ説教としか思ってないんだろ?」


 「……なんか変ね…失恋でもした?あっそっか…失恋したんだ」


 「………」


 「大丈夫よ。社長はもてるからすぐいい人が現れるわよ。ファイト!失恋くらいで落ち込むなんて社長らしくないわよ」


 「らしくない…か…」


 「そうよ、らしくない。きっと社長のことを良く解かってくれて幸せにしてくれる人が現れるから…元気出して!」


 「そうだよな…きっと違うよな…?」


 「ん…?」



 「ふぅ……ところで…愛は好きな人とかいないのか?」


 「好きな人はいっぱいいるわよ」


 「そういう好きな人じゃなくて…」


 「あぁ…恋人って事?そんな人がいたら社長に電話なんかしてないわ。そんな人がいたら今頃は、愛するその人の、う・で・の・な・か・」


 ケラケラと笑い

 「じゃぁ元気出してねー」

 と切ってしまった


 何故か肩の力が抜けていくように感じた


 失恋して落ち込んでいると思われているのも嫌なので、今までのようにメールや電話をするようになったが内容は日に日に変わっていったと思う




 「映画もだいぶ進んでいるみたいだし、週末スタジオに陣中見舞いに行きませんか?」

 と Y さんから誘われ

 ミーハーの私は

 「行く、行く」

 と一緒に出かけて行った



 初めての撮影現場…

 俳優さんや女優さん

 忙しく働くスタッフの人達


 何もかもが珍しく、監督の横でキョロキョロしていたけれど時間が経つにつれだんだんと意識が薄れていった


 初めてのスタジオ見学で、遠足前の子供のように興奮し夕べ眠れなかった私は、監督の膝に倒れ込むように眠ってしまったらしい
 


 「愛!」


 聞き慣れた声で目が覚めた


 「すみません!本当にごめんなさい」
 平謝りに謝った



 「起こそうとしたんですけど…」


 Yさんも申し訳なさそうに謝ってくれたけど、後で社長に散々怒られたのは言うまでもない


 (ほんと、私ってなんてドジなんだろ?怒られても仕方ないなぁ…変なとこばかり見られるし…でも何で社長がここにいる訳?)



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 「愛さん明日帰れば?僕達もまだ愛さんと話したいし…」


 「明日は仕事だし朝は弱いから勢いで帰りまーす」


 「じゃぁ僕達のホテルは駅までの通り道だから車で話しましょうよ。いいですよね社長?」


 「駅で迷子になっちゃいけないからホームまで社長に送ってもらえば?」


 (何故僕が愛を送らなきゃならないんだ?)


 三人でワイワイ話しているのを聞きながらため息をついた


 二人をホテルで降ろし、愛をホームまで送って新幹線に乗せた
 

 「わざわざ送ってもらってありがとう」


 「寝るなよ。乗り越すぞ」


 「大丈夫。目覚ましセットするから」


 「着いたら連絡しろよ」


 「はーい。じゃぁね」



 台風“愛”は去った
 台風一過

 爽やかな風が吹く…

 はずだった


 またため息をついた



 もうそろそろ着く頃だな


 (着きました。お世話になりました。ありがとう)

 メールが入った


 電話をかけた


 「まだ起きてたの?寝てると思ったからメールにしたのに」


 「早く寝ろよ。じゃぁな」


 「それだけ?またお説教されるかと思った…」


 「明日仕事だろ?早く寝ろよ」


 「社長もね…おやすみ」


 (ラッキー。お説教されずに済んだ…でも社長どうしたんだろ?なんか変)



(説教か…愛の為を思って言ってるつもりだったのに…今夜だってS社長に膝枕してもらったりして…)

 …

 …

 …


 僕は急いでシャワーを浴びに行った


 シャワーを浴びながら


 「そんなはずはない!」

 と否定した


 S社長や監督たちと楽しそうにしていた事を思い出し嫉妬しているのではない!


 そんなはずはない!
 何故嫉妬しなくちゃいけない?
 そんなはずはない!
 あり得ない!


 年上で

 チビで

 おしゃべりで

 天然の失礼女で…


 絶対あり得ない!
 そんなはずはない!
 そんなはずは…

 僕は否定し続けた…



 その日から、心に爽やかな風が吹く事はなくしばらくメールも電話もしなかった


 出来なかったと言う方が正しいのかもしれない



 僕は、松浦晋

 『初めての恋』を読んだ時、僕がモデル?と驚いた位、真珠と僕は似ていた


 生い立ちも何となく似ていたし、想像だが体格や性格も似ているように感じていた


 ただ、女性観というか恋愛観は全然違っていた


 女性に不自由はしないという点では似ているが、初恋で傷つき女性に愛を感じなくなった真珠とは違い、僕はいつも真剣にその人を愛してきたつもりだ


 この歳で独身なのは、独身主義を貫いている訳でもプレイボーイを気取っている訳でもない


 結婚を考えた人もいたが、その人にとって僕が人生を共に歩める男ではなかったと言うだけの事だ


 それに僕は、真珠のようにえりかのことで一喜一憂するというタイプではないし、ましてや女性に守ってほしい等と考えた事もない



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 料理が運ばれて食べ始めた時、私は無口になった


 (あちゃぁ痛くなってきた…私は、普段は何ともないけれどご馳走を食べると胃が痛くなる癖がある。横になりたいけどまた社長に怒られるだろうなぁ)



 「愛夢さんお口に合いませんか?」


 「ごめんなさい…私…ご馳走を食べると胃が痛くなるんです…しばらく横になってもいいですか?すぐ治りますので…」


 「愛なんて事を!失礼だぞ!」


 「まぁまぁ社長。いいですよ。どうぞ愛夢さん」


 S社長は冗談っぽく自分の膝をポンポンと叩いた


 「お言葉に甘えて…」


 無意識に膝枕で横になった


 「あっ愛夢さん?冗談なのに…」


 「愛、なんて事を…すみません」


 「構いませんよ…愛夢さん大丈夫ですか?でも社長は何故、愛夢さんの事を“愛”って呼ぶんです?」


 「でしょう?それも呼び捨てで」


 「あぁ…カモフラージュですか…愛夢で愛ですか…」


 「じゃぁ私も愛さんと呼びますか…愛さん治ったら食べなさいよ美味しいから」



 しばらく横になっていた愛は
 「治ってきた」

 と言って起き上がり何事もなかったかのようにケラケラと笑いながら食べ始めた



 「S社長、お願いがあるんですけど」


 「何かな?」


 「私の事秘密にしておいて頂けませんか?」


 「条件を聞いてくれたら考えましょう」


 「どんな?」


 「聞いてくれるかな?」


 「S社長を嫌いにならない条件なら」


 「じゃぁ…ホッペにチュウは?」


 「訴えます」


 「サインは?」


 「嫌いになります」


 「サインは駄目か…じゃぁ握手は?」


 「それならOK」

 

 と愛は握手をした



 S社長もすっかり愛のペースにはまり上機嫌で

 「そろそろ失礼するよ」

 と立ち上がり車に向かった


 「愛お見送りして」


 「え?じゃぁ私も帰っていい?」


 「まだ何かあるのかな?」


 「また社長にお説教されるのかと思って…」 


 「説教?」


 「そう…いつも怒られるの…それは駄目これも駄目…怒られてばかり…」


 「私も愛さんに説教する事がありますよ」


 「お説教されるような事しましたっけ?」


 「誰にでもああいう事をしちゃいけませんよ」


 「ああいう事?」


 「ひざまくら」


 「えっ?ぁぁ…ごめんなさい…」


 「私は構わないですけど襲われますよ」


 「大丈夫ですよぉー。Yさんみたいな人なら危ないでしょうけど」



 愛はそう言って車のドアを閉め

 S社長に手招きをし

 「やくそくですよ」

 と言いながら窓ガラスに向かって投げkissをした


 S社長は笑いながら運転手に出すよう促し車は走り去った



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 ネットに作品をアップしていると少しずつアクセスしてくれる人も増えてきた


 そんな中

 “本にしてみませんか?”

 と言う誘いがあった



 私は、石橋を叩いて叩いて叩き壊してしまうタイプなのだけど、反面甘い話にころっと騙される事が今までにも多々あった


 だからすべて無視していたけれど、一件だけ心惹かれる所がありそこだけは残していた


 甘い言葉ではなく誠実な感じのメールを送り続けてくれていたので…
 



 「川下と申しますが、社長さんはいらっしゃいますか?お約束はしていないのですが、“愛夢のメールの件で来ました”とお伝え頂けたらお解かり頂けると思うのですが…」


 ほんとに実在する会社なのか…?  

 ほんとに実在する人物なのか…?


 石橋を叩きすぎて、会えないことを覚悟で直接会社を訪ねてきてしまった



 「アポを取ってから来てくれたら良かったのに…ここの所忙しくて家にも帰ってないんだよ。こんな格好で失礼しますね」


 “社長 松浦 晋”


 もらった名刺のその人は、無精髭を生やしまるで“熊”という感じ


 (この人が…やっぱりメールって怖い。優しそうな人を想像してた。私もきっと素敵な人と想像されてるんだろうな)


 「はじめまして。松浦晋(まつうらしん)です。貴女が愛夢(あむ)さん?想像していた感じと違いますね…あっ失礼」


 「初めまして。川下愛(かわしもあい)です。連絡もせずに突然押しかけて申し訳ありません。貴方を信用してないと言う訳ではないのですが…いえ、やっぱり信用してなかったので実在してる人なのか確かめたかったんです。一度直接お話をしたかったし…」


 「そうですよね…この業界も色々ありますから…うちは小さな出版社ですがしっかりサポートしますので一緒に良いものにしていきましょう。作品が出来上がるまで色々大変ですが頑張ってくださいね」

 


 本を作るには色々な決め事が多いらしくて、何もわからない私はひとつひとつ教えてもらいながらやるしかなく、指示とか注意とか怒られる事ばかり…


 それでも色んな人の助けを借りながらなんとか出来上がり、届いた本を手に取ると涙がこぼれた…

 

 嬉しくて舞い上がり友達や知り合いに配り回っていたある日、連絡が入った



 「知り合いの新人監督が、本が気に入ったみたいで短編映画にしたいと言ってるんだけど…やらせてやってもらえない?」



 (えっ!そんな…どこまで話がおおきくなってしまうんだろう?何か怖いなぁ…)


 「社長にはとても感謝してる。こんなに色んなチャンスを与えてもらって…でも何だか本が勝手に一人歩きしてしまってる感じで怖くて…」


 「愛、なに言ってるんだよ!そんなんじゃこれからもたないぞ!ちゃんと食べて寝て体力つけておかないと」


 (そんな言い方しなくたって…)




 「顔を出したくないのは解かるけど、せめて監督や脚本家の先生には挨拶しておいた方がいい」

 と呼び出された


 担当の女性と一緒に、都心から少し離れた所にある店で会うことになった


 (担当してくれる Y さんは、すらりとした美人でスーツがよく似合うとても素敵な人。私をこんな感じの人だと想像している人がたくさんいるんだろうな)




 監督さんと脚本家の先生と聞いていたけど、部屋に通されると三人の男性がいた



 「あなたが愛夢さんですか?」


  Y さんの方を向いて聞いたので

 「え?私は」

 戸惑う Y さんに

 (お願い)

 と目配せをし少し離れた席に座った




 「遅くなり申し訳ありません」 

 

 入ってきた社長に


 「愛!何してるんだよそんな所で!」


 いきなり怒られた


 今まで Y さんの横で上機嫌だったおじ様も驚いた


 「S社長申し訳ありません。天然なもので…」


 (天然?天然バカってこと?)


 「愛、早く皆さんに謝って!」


 「すみませんYさんが愛夢の方がいいかなって思って…」


 席を替わった


 「初めまして。愛夢です…失望させてしまってごめんなさい…この度は素敵な幸運をいただきありがとうございます。何もわかりませんがどうぞよろしくお願いします」


 どこにでも物好きな人がいるもので、どうやらこのS社長はスポンサーで話を聞きつけて愛夢の顔を見に来たらしい



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 「少し時間いいですか?」


 とTさんを誘った


 「ええよ。オフでぶらっと来てみただけやから時間はたっぷりある」


 Tさんは、無精ひげが生えているせいか少し疲れている感じがした



<仁希とTの場合>


 Luiji君は森村社長と彼女のことを話し始めた


 森村社長がパーティに女の人をエスコートして来なくなった事


 何があったのか解からなかったけど、毎日が楽しそうで目がどんどん穏やかになっていった事


 それが彼女のせいだと解かった時の事


 彼女が病気や怪我で入院した時、心配で飛んで行きたかったのに出来ずに辛かった時の事


 愛しているくせに怖くて告白出来ずにいた時の事


 やっと告白出来たのに自分のせいで二人が別れてしまった事


 「泥酔してて覚えてないんですけど…“おめでとうと言ってくれた”と、えりかさんは言っていたけどそんなはずはない…とても辛かったんだからきっと反対の事を言ったんだと思います」


 えりかさんがいなくなって、森村社長は生きる気力をなくし入院、彼女は自分もフラフラだったのに社長が入院したと聞き飛んで来て倒れてしまった事


 そこで二人がどれほど愛し合っているか見せ付けられた事


 退院して、療養を兼ねてここに来ていた二人と偶然出会った時の事



 「その時はTさんも一緒でしたね…二人が婚約したと聞かされた時」


 その後何度も家に遊びに行き浴衣を着てテラスで食事をしたり、ナイトドレス姿にびっくりさせられた事



 そして今日二人に子供ができたと聞き、結婚式の立会いと名付け親を引き受けた事




 「そうか…そんな事があったんやあの二人には…けど君は何で僕にこんな話を?」


 「なんとなく“Tさんも兄貴たちの事を知っといた方がいいかな?”と思って…」



「実は俺もな…何でまたここへ来たんやろ?忘れたいんか…会えるかも知れんと期待して来たんか…解からんかったけど聞かせてもろて良かった…なんか霧が晴れたみたいや。俺が彼女に初めて会ったんは、きっと社長を見送った帰りやな…関西人同士いう事もあったんかも知れんけど、何かスーっと俺の中に入ってきた不思議な人やった…二度と会うことも無いはずやったのに、この前ここで偶然会って…婚約したと聞かされたけど、心から“おめでとう”と言えなんだ…それから何かモヤモヤしててな…君も辛かったんやな」


 「Tさんも」


 「ははは…俺等あの二人の親衛隊やな。こんなすごい親衛隊員はおらへんで。二人には幸せになってもらわな。けど俺等もちゃんと生きなあかん…無精ひげ生やしてる場合と違うな」


 「そうですね…親衛隊員がちゃんとしてないとね」


 「俺等はええ事でも悪い事でも目立つから…君は名付け親になるんやし、その子が後ろ指差されんようにちゃんと生きなあかんで」


 「はい!もちろん!」





 夕日があたりを染め始めた頃、式は始まった


 誓いの言葉に続き、指輪の交換は二人の希望でえりかさんの首に小さなベビーリングをかけた


 ベールをあげkissを交わす二人を、まるで祝福するかのように夕日が紅く美しく染めていった



<Tの場合>
 心からおめでとう!幸せにな。親衛隊員として俺もちゃんと生きて二人に負けん位幸せになるから



<仁希の場合>
 兄貴、えりかさんおめでとう!親衛隊員として、立会人として、名付け親として僕も恥かしくないよう生きていく
 そして二人に負けない位幸せになるよ






<真珠とえりかの場合>


 俺達は、たくさんの人達に見守られ支えられてこんなに幸せになれたんだね


 その人達の為にも、もっと幸せになって幸せのおすそ分けをしようね


 出会い 別れ そしてめぐり逢った『初めての恋』は

 俺にとってもえりかにとっても、海に夕日が沈むように静かに命を終えるその日まで『初めての恋』であり続けるだろう                           
The end

 長文、読んでいただきありがとうございました


 第二章『愛夢の場合』も読んでもらえれば嬉しいです

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 「今日のお礼に食事でも」

 ということになりホールを出た


 「ちょっとトイレに」

 と行ったえりかが、なかなか戻ってこないので先生が様子を見に行ってくれた



 「どうしたの?気分でも悪い?」


 「大丈夫です。真珠さんが食べろ食べろって言うものだから、ついつい食べてたら食べ過ぎて胃をこわしたみたい」


 「えりかさんおめでた?」


 「まさか!」


 「なぁんだ。でもなかなか健康診断なんてしないから一度病院へ行った方がいいわよ」


 「そうですね…来週にでも行ってみます」
 



 「顔色が悪いけど大丈夫?気分でも悪い?」


 「大丈夫きっとお腹がすいたのよ」


 「じゃあ予約もしたし早く行こう」




 このホテルのレストランは、景色もいいし料理も美味しい


 しばらくオフだという仁希とも、久しぶりに食事や酒をゆっくり楽しんだ


 えりかも、食事をしたら顔色も良くなってきたので安心したが

 

 「胃の調子が悪いみたいだから“一度病院へ行った方がいい”と言っといたわ」


 と先生が言っていたのが気になっていた



 皆が帰ってから

 「今度でいい」

 と嫌がるえりかを

 「診察がまだあるから」

 と病院へ連れて行った


 色々検査をし先生に呼ばれた


 「少し胃が荒れていますが心配ないでしょう。お薬の方は産婦人科の方で」


 「あの…何か悪い結果が…?」


 「大丈夫だと思いますよ…これを持って産婦人科の方へ行って下さい」

 とファイルを渡され指示に従った



 問診、検査の後俺も呼ばれた


 お腹の辺りのエコーを見ながら


 「ちゃんと覚えておられないのではっきりした日が分からないですけど、春くらいでしょうか?」


 「解かりますか?これが心臓」


 モニターの中に小さな何かが写っていた


 俺はまだ理解出来ていなかった
 

 「……えっ?まさか?」


 「おめでたです」


 「……えりか?」


 「シン…パパになるのよ…ううん、もうこの子のパパよ」


 「俺がパパ?」


 涙が止まらなくなった


 「お父さんの方が心配ですね。帰られて病院が決まったら連絡下さい。お大事に」


 診察室を後にした




 「えりか結婚しよう。式を挙げよう。式は明日がいい。あのホテルの庭で夕日の中で挙げよう。そうだ仁希にも電話しよう」


 俺は思いつく事をすべて並べ立て電話をした


 ホテルにも無理を言い、明日夕焼けの中で式を挙げたいのでと準備を頼んだ




<真珠の場合>
 “明るい太陽の下で”と誰でも思うかもしれないが、俺達は、病室でお互いの大切さを思った時も、プロポーズをした時も、家族が増えたと聞かされた今日も、綺麗な夕焼けの中だった


 「俺はずっと一人で生きていくんだと思ってたのに、えりかと子供…俺は一人じゃないんだよね」


 「まだまだ増えるのよ…子供が結婚して孫が出来てひ孫が出来て…子供が独立しても、シンのそばには嫌だって言ってもずっと私がいるわ」



 「シンが食べろ食べろと言うからすっかり中年太りになってしまったわ」

 と文句を言っていた少しふっくらしたお腹が愛しくてならなかった



 「シン名前考えてね」


 「えりか…それ仁希に付けてもらってもいいかな?」


 「どうして?自分で付けたいでしょ?」


 「俺達、仁希のお陰でこうして幸せになれた。そんな俺達よりももっと幸せな子になって欲しいから、仁希に名付け親になってもらいたいんだ。解かってもらえるかな?」


 「そうね。私達、仁希さんにサインをもらう度に幸せになってきたものね…あのLuijiさんが名付け親なんてそれだけでこの子は幸せよ」


 次の日、仁希に電話した


 仁希達が泊っているホテルに偶然 T さんも泊っていて、先生と三人で遅い朝食を摂っているところだと…


 「えりかさん調子悪いんだって?病院へは行ったの?大丈夫?」


 「食べ過ぎで胃を荒らしたみたいだ。それで頼みがあるんだけど…夕方ここのホテルで式を挙げるから立ち会ってくれないか?」


 「式って?


 「結婚式だよ…俺達の」


 「結婚式?食べ過ぎで何でいきなり結婚式なんだ?」


 「気分が悪かったのは胃が荒れてたせいなんだけど、パパとママが結婚してないと…」


 「パパとママって?誰が?え?兄貴まさか?」


 「そうそのまさか…」


 「そうかー。兄貴良かったな…おめでとう」


 「ありがとう。仁希それでもう一つ頼みがあるんだ…この子の名付け親になってくれないか?」


 「何言ってるんだよ兄貴。そんなの駄目だよ…兄貴が付けるべきじゃないか」


 「俺達はお前からいっぱい幸せをもらった…その俺達よりもっと幸せな子になって欲しいから、お前に名付け親になって欲しいんだ…えりかも解かってくれた」


 「仁希さんお願いします。私達、仁希さんにサインをもらう度に幸せになったわ…この子にも、生まれて初めてのサインを仁希さんにお願いしたいの…この子の心にもいっぱいサインして幸せにしてやって欲しいの」


 「でもな…そんなこと…」


 「頼むよ!」


 「よし解かった。飛びきり幸せな名前を考えるよ」



 「ありがとう」


 「おめでとう。私達も立ち会っていい?」


 先生やTさんの声も聞こえた



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 ホールには俺達の他に仁希しかいなかった
 

 「今日は二人の為の試写会だから」


 そう言って映画が始まった


 「仁希、これって」


 仁希は、にっと笑った


 設定やストーリーは変えてあったが、俺達には出会ってからの事を思い出さずにはいられない内容だった



 情けないやら、恥かしいやら…


 エンディングで仁希のナレーションが入った


 「兄貴えりかさん、おめでとう。お幸せに」


 嬉しかった


 えりかも涙ぐんでいた



 ライトが点き、監督や先生が入ってきた


 「どうでした?」


 「恥かしいですね…でもありがとうございます。こんなに素敵な話にして頂いて」


 「僕達からのお祝だよ」


 「こんなにすごいお祝なんて…本当にありがとうございます」



 「ところで社長。お願いがあるんですけど」


 「何でしょう?」


 「この映画まだ題名が付いてないのね。彼女にお願い出来ないかしら?」


 「え?私?何故私に?無理です…そんな事」


 「社長、いいでしょう?」


 俺はしばらく考えてから


 「えりか、こんなにすごいお祝を頂いたんだからお礼に考えてみたら?素人の付ける題名だから却下されるよ。そしたらプロに付けてもらえばいいんだから…それでいいですよね?」


 「ええもちろん」



 えりかはしばらく

 「駄目よ駄目よ」

 とぐずぐず言っていたが

 覚悟を決めたのか考え始め



 『初めての恋』

 

 と書いた


 仁希が

 「初めての恋?初恋?」

 と聞いた



 『初めての恋』


 愛し 別れ そしてめぐり逢った


 サブタイトルを付けた



 「子供の頃に出会う淡い初恋じゃなく、人を愛し、傷つき、別れ、色々な事を経験した後でめぐり逢った人との、今まで経験したことのない初めての恋」


 「駄目だわ…やっぱり私には無理」

   

 書いたものを破こうとした時


 「それいいかも。いえいいわ!それにしましょ監督」


 「そうだなすぐ手配するよ」


 監督は出て行った



 「さすがね…ところで社長、お仕事柄ご存知かと思ってお聞きしたいんですけど…」


 「今度は何です?何だか恐いなぁ」


 「"love dream"って知ってます?」


 「"love dream"?」


 「ネットで短い恋詩を書いてた人なんですけど、“好きな人が出来てもう書けなくなった”って書くのを止めてしまったんです」


 「………」


 「もったいないと思いません?好きな人が出来たら書けないなんて…本当に書いてないのかしら?」


 「………」


 「えりかさんはどう思う?」


 「え?私?私は…」


 「貴女も好きな人が出来たら書けない?」


 「私は……その人のことは良く解からないけど…私ならやっぱり書けないと思います。頭と心と別々に考えられないから…好きな人が出来たら何を書いてもその人へのラブレターになってしまう…だから書けないと思います」


 「もったいないわねぇ…書いていて欲しかったわ」


 「その人はきっと、“もったいない”と思ってないと思いますよ…それにきっと、この世でたった一人だけの為に書いてると思いますよ。たぶんラブレターでしょうけど…」


 「フフフそうかもね」



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 バスの最後尾に座って、手を振りながら見送ってくれる二人を見ていたら、嬉しいような淋しいような複雑な気持ちになり涙が出そうになった


 「Luiji、ちょっといいか?先生と話していたんだが映画やらないか?」


 「映画?どんな?」


 「ラブストーリー。あの二人を見ていたら創作意欲が沸いてきて…二人がモデルの映画やらない?」


 「駄目だよ。色々あって幸せになったんだからそっとしておいてやって」


 「不思議な二人だと思わない?もちろんモデルだなんて分からない様にするから…その為にはLuijiさんから二人の事を聞かせてもらわなきゃならないけど」


 「僕が知ってるのは…たぶんほんの一部分。二人でいる時の事まではネ」


 兄貴の気持ちは僕にしか解からないし、僕の気持ちも僕にしか演じきれないので僕が二役をやるという事で話が進んでいった



 「じゃぁそういうことで宜しくお願いします」


 「ところでLuijiさん…

 “love dream”って知ってる?」


 「いいえ…それ何ですか?」


 僕はごまかした


<仁希の場合>
 少しまだ辛いような複雑な気持ちだけど、これを二人へのお祝のメッセージにしよう


 心からおめでとうと言えるように…





 療養がてらの旅行も終わり、以前の幸せな日々を過ごしていた


 変なことと言えば

 仁希がしょっちゅう


 「家に寄っていいか?


 と遊びに来ては

 俺達の事をじっと見ていることだろうか?


 人希との食事はダイニングのこともあるが


 “京都の床もどき”

 とテラスの時もあるし


 ゆかた祭りだからと浴衣を着て

 “屋台もどき”

 と驚かされることもあった



 仁希と一緒に帰る時は

 その事を伝えるのだけれど


 「今日は僕が一緒だと言わないで反対に驚かせようよ」


 と言うので


 「今から帰るよ」


 とだけ電話を入れ少しワクワクしながら家に着いた



 チャイムを鳴らしたが応答が無い


 鍵を開けて入った


 真っ暗だ


 (何かあったのか!?)


 急いで電気をつけた



 「おかえりー」


 飛び込んで来たえりかはセクシーなナイトドレス姿だった


 「キャー」という声と

 俺がえりかを隠すのと

 仁希が背を向けるのと

 同時だったような気がする



 えりかさんは急いでバスローブをはおり


 食事を並べながら


 「人希さんが一緒だってどうして言ってくれなかったの?何か疲れてるみたいな声だったから…ほんとにもう…」


 散々怒っていたが


 兄貴はというと…

 ニヤニヤが止まらない



 「えりかさん、僕が支度するから先に着替えてきたら?ここで兄貴が襲うかもしれないから」

 
 冷やかし半分に笑った



<仁希の場合>
 まいっちゃうなぁ
 いい歳してまったく


 ここに来るのはもちろん楽しいからだけど、役作りの為でもあったのに僕の知らない兄貴が次々に出てくる


 もうクランクアップだというのに僕は役作りに失敗しちゃったかなぁ?




 秋風が吹き始めた頃

 仁希が

 「今度の映画が完成したから見に来てくれない?」

 と言ってきた


 場所は、あの海辺のホテルがある街の小さなホールだった


 (何故そんな所で?)


 と思ったが、秋の夕焼けも見たくなって出かけて行った



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