どの位経っただろう?
薬が効いてきたのか社長は汗をかき熱も下がり始め目を覚ました
「大丈夫?熱も下がってきたみたいだからもう大丈夫よ。お水飲んで…喉かわいたでしょ?でも汗かいたままだと駄目だから後で着替えてね…じゃぁおやすみ」
「行かないで」
「なぁに子供みたいに…もう大丈夫よ」
「行くな」
「はいはい…眠るまでいてあげる…眠らないとまた熱が上がるわよ」
「じゃぁ寝ない…熱も下がらなくていい」
「何言ってるの?それじゃ帰れないじゃない?」
「帰さない」
「どうしたの?変よ社長」
「ああ変だよ…どうかしてるよ…愛に会ってからの僕は…」
「また熱が上がってきたの?冷たいお水飲んで頭冷やして」
「眠ってる間に水を飲ませてくれたのは愛だろ?」
「ぁあれは…緊急救命処置。人工呼吸みたいなもんよ。忘れて」
「忘れられるか。手を伸ばせば抱き締められるところに愛がいるのに」
「変よ…ほんとにどうしたの?失恋が辛かったの?大丈夫よ…綺麗で優しくて教養があって社長にふさわしい人がきっと現れるわよ」
「本当にそう思ってる?本気でそんな事思ってるのか?」
「最初の頃は、君の事を知っているのは僕だけだった」
「そうだったわね」
「S社長と会った時の君、監督や先生とメールのやり取りをしている君、そんな君を見ているのがたまらなかった…辛かった…」
「ちょっと社長?」
「ああ何度も否定したよ。そんなはずはないって…何度も何度も否定したよ。だけど、否定すればするほど心の中で君はどんどん大きくなっていくんだ…」
「社長?」
「否定するから大きくなるんだったら、“愛している”って認めよう…と思った」
「ちょ…ちょっと待って」
「そうしたら今度は会いたくてたまらなくなった…自分でもどうしようもないんだ…」
「何言ってるかわかってる?」
「僕にふさわしいのは僕を幸せにしてくれるのは、君だけだ。愛でなきゃ駄目なんだ」
「駄目よ私なんか…私と社長とでは住む世界が違う。だから必死で抑えてきたのに…辛い時や淋しい時、社長に寄りかかりそうになって…でも好きになんかならないなっちゃいけないって、自分にそう言い聞かせてきたのに…やっぱり来るべきじゃなかった…」
「他の人が誘ってもここに来た?他の人でもあんな風に水を飲ませた?違うよね…僕が誘ったから来てくれた。僕が熱を出したから飲ませてくれた」
「それは…」
「そうだよね!」
「最後にもう一度だけ顔を見たくなってつい来てしまったけど…忘れようと思ってた」
「僕を真珠みたいにするつもり?そして君はえりかみたいに倒れるつもり?こんな辛い思いをさせる神様を恨んだりもしたけど、今は感謝してる。“真珠とえりかみたいになるまで解からないのか?”って僕に“熱”というお年玉をくれた」
「でも…私は年上だし…」
言葉を唇でさえぎった。
こんな元日を迎えたのは何年ぶりだろう?
いや、おそらく初めてだ
毎年どこかのパーティでカウントダウンをし、酔いつぶれフラフラと部屋にもどり初日の出を拝みそのまま眠りに付く
ここ何年もそれが恒例となっていた
今年は、愛する人と二人でカウントダウンをし、その人を腕に抱き初日の出を拝むこともなく夜が明けた
(これは夢かもしれない)
起き上がろうとして僕は止めた
(夢なんかじゃない)
左腕の軽いしびれ感と身体に触れる温もり、かすかに聞こえる寝息が現実だと教えてくれた
(今日は二人で初詣に行こう…神様にこの報告と感謝をしに行こう)
愛の髪を撫でながらそう決めた
でもそれも、もっと遅い時間でいい…
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