「Fairy Melody~私はピアノ~」の稽古は進んでいる。シーンによって完成度にまだバラツキがあるが、これをあと2週間弱でならして、全体をより高めていかなくてはならない。面白いものを作ろうという意気込みは、出演者全員にある。出来上がったと思われるシーンをもう一度見直し、一から考え直して再構築していくということを繰り返し、ベストなものを見出そうという作業をひたすら続けている。



創作者にとって必要なものは、「根拠のない自信」だとよく言われる。確かに、それがなくてはやっていられないだろう。ただ、それだけでもだめだと僕は思う。やはり、「客観的な視点」も必要だろう。万人にとって面白いものというのは、きっと存在しない。人の嗜好性も多様化した。それでも、より多くの人の感性に訴えるものというのも、確実に存在する。それが何なのか、そして、自分は今どの位置にいるのかを客観的に見極められなければ、戦略は立てられない。そうかといって、自分のやりたいことを押し殺してまで、多くの人にうけることを狙うべきなのか。これは大きな問題である。
そこで、「根拠のない自信」の出番である。これは絶対に面白いと自分では確信している。だから、それをぶつければ、必ずその面白さに惹きつけられる人がいる筈だ、だからこれを作り、発表する。根拠はない。単なる思い込みかも知れない。だが、それなくして創作活動は成り立たない。何かを作り出すという行為は、それを作る価値があると自分で思えるからこそできる。そう感じなければ、そもそも何も作り出す必要はないし、発表する必要もない。
他人様に何かを見てもらうという行為は、面白いものを作ったという確信がなくてはできない。誰にも読まれない日記ならいざ知らず、自分ではない他者の視線に曝すものは、面白いものでなくては意味がない。「面白いかどうか分かりませんが、取り敢えずお見せします」では納得してもらえないだろう。



一方で、内面に閉じ込めようと思ってもできない自分の思いを、他人にとって面白いかどうかは別にして、とにかく表に出さなくてはいられない、そうしないと自分が壊れてしまうもしれないし、生きている意義が見出せないという場合もあるだろう。それは僕も理解できるし、僕もそういう部分がないとは言わない。ただ、それが他人にとっても面白いものなのかというのは、よくよく考えてみる必要がある。その切実さに魂を揺さぶられる人もいるだろうが、逆に鬱陶しかったり、何のことか分からなかったりしてスルーする人もいるだろう。とにかく言ってみた、というものはあまり歓迎されないと思っていた方がいい。鴻上尚史さんが「表現」と「表出」の違いを著書で書かれていた。「表現」は他人にちゃんと伝えたいという意思で作られるが、「表出」にはそれがない。どちらが多くの人に受け入れられるか、言うまでもないだろう。
自分に素直に、とにかく思ったままを、という時、それが何らかの形で目に触れると分かってそれを表に出す時には、実はその人の中で「これは面白い筈だ」という「根拠のない自信」が芽生えているのではないかと僕は思う。そして、他人に面白いものだと認めて欲しいのである。承認欲求に近いか、それそのものだと思っていいだろう。それがなければ、悶々とでも内に抱えたままにしている筈だ。こういう隠れた「根拠のない自信」というのは、それが「表現」に向かえばいいものだが、そうでなく、強烈な「表出」に向かってしまうと、それははた迷惑ということになってしまう。このあたりが難しいところだ。それがどちらに向かっているのか判断するために、「客観的な視点」が必要になる。



僕自身、内なる衝動に突き動かされつつ、多分無意識のうちに「根拠のない自信」を抱きながら作品を作り続けているのだろう。「根拠のない自信」にはまさしく根拠がないため、不安といえば不安である。だが、そんなことをいっていては、公演に足を運んで下さるお客様に失礼だ。根拠がないのをいいことに、自分だけを信じて進んでいくことにする。勿論、常に客観的に自分を見られる冷静さを保ちながら。
創作活動だけではなく、仕事も恋愛も、基本的にはそうなのだろう。「根拠のない自信」がただ単に「イタい」だけになってしまっては困るが、自信を持って進めば拓けてくる道もある。
周りがよく見えた上での「根拠のない自信」を持つこと。それがいい結果をもたらすのである。
根拠はないが、そう信じたい。



Favorite Banana Indians番外公演vol.8
Favorite Banana Indians×memu

「Fairy Melody~私はピアノ~」

作・演出/息吹肇
楽曲・歌/memu

誰にも弾かれなくなった一台のピアノが引き寄せる、時の中に置き去りにされてきた思いと、失われた時間…
戦争で死んだ者と今を生きる者の思いが交わるメロディが、桜の森に流れていく。
死者は「神」になるのか?
安らぎの場所は何処?

●日程
4月22日(金)・23日(土)

●場所
御茶ノ水KAKADO
(JR・東京メトロ御茶ノ水駅徒歩7分)

●キャスト
柚月かな
長紀榮
春田奨
江島志穂
西村守正
高安有紀
小谷陽子(製作委員会)
長谷川彩子

●開演時間
4月
22日(金)19:00
23日(土)14:00/18:00

※開場は開演の30分前

●チケット料金
前売・当日 3000円+1ドリンク(500円)

※全席自由

●チケットご予約

https://ticket.corich.jp/apply/72307/001/

または、息吹に直接ご連絡いただいても大丈夫です。
Favorite Banana Indiansのサイトからもご予約できます。

●Favorite Banana Indiansサイト

http://fbi-act.com

☆稽古場日記
http://fbi-keiko.at.webry.info

ご来場を心よりお待ちしております!