「文藝春秋」3月号を受け取った時、600ページに近い分厚さに少々驚く。理由は芥川賞作品掲載のためで、今回は2作受賞で共に短編としては少し長く合わせて200ページに近い。まあ、例によって「平成最後」であるため、この間の「芥川賞」を回顧しての、「選考委員会秘話」(宮本輝)と「母親になった私たち」(綿矢りさ、金原ひとみ)も含めてではあるが。
「ニムロッド」(上田岳弘)、「1R1分34秒」(町屋良平)の順で読んだが、共に面白い。読了後、選評を読むと、この2作品は候補6作の中で傑出した評価を受けていることがわかる。一方、そのうちの古市憲寿は全ての選者からボロクソに言われていて気持ちが良かった。ここまで選考委員こぞっての否定は珍しい。候補作に残した方が間違っていて話題づくりのため残したとしか思えない。この古市何某はTVでよく見かけるが、<若いのに凄い>と思ったことは1回もなくどうでもいいことをグダグダ述べているだけだから、ただただ生意気そうな若造という印象が残るだけだ。ジジ殺しなのだろう。
ことに「ニムロッド」、私にとって、芥川賞作品としては最も面白い内の1つに入るだろう。3月号がAIについて特集しているのを受けてか、来たるべきAI社会における人類の哀れさー絶望ーのプレリュードに思えた。象徴的なのが、小説の進行と共に紹介される「駄目な飛行機コレクション」。例えば、
No.4 コンベアNB=36
1950年代にアメリカが開発した原子力飛行機。
墜落すると非常に恐ろしい被害が想定されるため、大統領執務室とのホットラインが設置された。
No.5 ボニーガル
1928年レオナード・ボニーが開発したカモメ型飛行機。「有人飛行成功のためにはできるかぎり鳥をマネすることが必要」と4年間カモメの研究をしてつくられたが、初飛行で墜落し、ボニーは帰らぬ人となった。
~
No.9 航空特攻兵器 桜花
パイロットが生還できないように設計された飛行機。兵器としてみれば高性能の誘導ミサイル。
一読して笑える飛行機を次々と紹介してくる。しかしながら、これらの「駄目な飛行機」は、当然なことながら、笑いをとるために作られたものではなく、人類の必死な営為であったはずである。ここに人類の絶望がある。そして、これは来たるべきAI社会に繋がっていくのだろうと。(なお、「駄目な飛行機」はネットのサイトからの引用であることに、ほとんどの選考委員は「手抜き」とするが、作者ははっきり「引用」と書くことにより、下手に加工して著作権でトラブルを起こすことから回避を狙ったのではないかと私は思う。)
「1R1分34秒」ボクサーの試合中の意識の流れ、トレーナーとの肉体を通した会話の緻密さに感心した。ボクシングをここまで緻密に描写した小説は初めてでそれだけで価値がある。