皮肉なことに、その短いながらも濃厚だった経験が功を奏したのか、なんと競合他社のアパート管理会社から連絡が来た。
実はその電話、五つ星ホテルの面接の2時間前にかかってきたものだった。私はそのとき、ChatGPTでスペイン語の自己紹介や想定質問のスクリプトを作り、それを必死に読み上げて練習していたところだった。できるだけ自然でプロフェッショナルな話し方ができるように、必死に暗記していたのだ。
そんな中、突然の着信。「あなたの履歴書を見て電話しています」と言われた。相手は若いエクアドル人の採用担当者。こちらの了承もないまま、矢継ぎ早に質問が飛んでくる。
当然聞かれた。「なぜ前職をそんなに短期間で辞めたのですか?」
本当の理由は複雑だ。オーナーの妻による理不尽な指示や被害妄想、そして家族経営の悪しき文化により、長時間の無償労働を当然とする環境。でも、そんな感情的な部分は出さず、「法的に問題があると判断したため、退職を決めました」と冷静に伝えた。
事実、試用期間中の雇用解消に明確な理由は必要ない。けれど、今回の解雇の背景には、文化的、そして人種的な偏見が確かにあったと思う。
要は「安くて便利で、ある程度タダ働きしてくれる外国人」が欲しかったのだろう。
私は伝えた。「残業そのものは問題ない。でも、夜中まで緊急対応をさせておいて対価が支払われないのは違うと思う」と。
この答えが功を奏したのか、2日後にマネージャーとの面接がTeamsで組まれることに。確認メッセージを送ったら、マネージャーから🖤のスタンプが返ってきた。スペインらしい、なんともカジュアルな対応だ。
面接当日、開始はオンタイム。
採用担当者が事前に情報を伝えてくれていたのか、退職理由には一切触れられなかった。聞かれたのは、
前職でのアパート管理の具体的な方法
英語力に問題がないかどうか
こちらからの質問に対する回答
まるで尋問ではなく、対話をしているような穏やかな雰囲気だった。
ただ、候補者は私を含めて3人。スペイン人がいれば、スペイン語での表現力では劣る可能性もある。選ばれるかどうかは正直わからない。
結果は来週。採用担当者からメッセージが来る予定だ。ちなみに、面接中マネージャーのカメラが不調で表情が見えず、どんな印象だったのかまったく読めなかった。
「スペインで働いた」という一歩が、何より大きい
前職がどれだけ理不尽な解雇であっても、「スペイン企業で雇われ、働いた」という実績は、外国人にとって大きな一歩だ。
専門学校のインターンも、3日で辞めたが修了証は発行された。
その後、落ち込みながらもインターン先を探して歩き回り、ことごとく断られた。
そんな中、偶然応募したアパート管理会社で採用され、結局は無償労働を拒否して解雇。
スペインでの転職活動は、甘くない。
でも、不当解雇の先にも、次につながる「縁」はあった。
今はただ、面接の結果を待っている。









