対米英戦争の詔書1~開戦時   | ejiratsu-blog

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 私は、先の大戦中の日本が、名ばかり・形だけで、実・理がない(内実・中味=内面がなく、外形・外見=外面のみ)とみており、それは、たとえば、次のような例から、わかります。

 

・自存自衛といいながら(内面)、南方の石油施設を奪取しても、民間の輸送船を充分に護衛せず、米国の潜水艦に次々と撃沈され、石油を満足に日本へ供給できなかった(外面)。

 

・国家は本来、国民の生命・財産を保護するのが目的なのに(内面)、敗戦濃厚になると、政府・軍部は、一億総特攻・一億総玉砕といって、それに逆行した(外面)。

 

・前方の戦闘重視・偏重(外面)、後方の兵站軽視・無視で(内面)、餓死・感染症による病死・傷病者の殺害・強要された自死での戦死者が大半

 

 つまり、特に昭和前期(戦前・戦中)は、実体(内面)と乖離した、美辞麗句(外面)を並べ立てていることを大前提にみるべきで、それをもとに、対米英戦争の開戦時と敗戦時の詔書(しょうしょ、天皇の文書)を、取り上げることにします。

 なお、ここでは、「征戦」(敵地に出かけて行って戦うこと)が目的だといっているので、やったことは、「侵略」とあまり変わりません。

 

 ちなみに、現在でも、防衛費を、国内総生産(GDP)比で1%から2%へ、倍増するのが先行し(外面)、必要経費の積算を後付しようとしており(内面)、軍事関連は、ただでさえ隠蔽しがちで、根拠不明が横行しやすいので、日本の体質は、昔も今も改善されていないとみていいでしょう。

 日本の特徴は、外見(外面)だけで、中味(内面)がなく、だから、「神の国」(森喜朗)といってみたり、「この国のかたち」(司馬遼太郎)を気にするのです。

 

 

●米国及(および)英国に対する宣戦の詔書(昭和16年12月8日)

 

・天佑ヲ保有シ萬世一系ノ皇祚ヲ踐メル大日本帝󠄁國天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有眾ニ示ス

[天佑(てんゆう)を保有し、万世一系の皇祚(こうそ)を踐(ふ)める大日本帝国天皇は、昭(あきらか)に忠誠・勇武なる汝(なんじ)有衆(ゆうしゅう)に示す。]

《天の助けを保有し、永続の唯一の系統の皇位を継承する大日本帝国の天皇は、明確に忠誠・武勇なあなたたち国民に示す。》

 

・朕󠄁玆ニ米國及英國ニ對シテ戰ヲ宣ス

[朕、茲(ここ)に米国及(および)英国に対して戦を宣す。]

《私(天皇)は、ここに米国・英国に対して宣戦する。》

 

・朕󠄁カ陸海將兵ハ全力ヲ奮テ交戰ニ從事シ朕󠄁カ百僚有司ハ勵精職務ヲ奉行シ朕󠄁カ眾庶ハ各々其ノ本分ヲ盡シ億兆一心國家ノ總力ヲ擧ケテ征戰ノ目的ヲ逹成スルニ遺算ナカラムコトヲ期セヨ

[朕が陸海将兵は、全力を奮(ふるっ)て交戦に従事し、朕が百僚有司は、励精・職務を奉行し、朕が衆庶は、各々其(そ)の本分を尽し、億兆一心国家の総力を挙げて、征戦の目的を達成するに、遺算(いさん)なからんことを期せよ。]

《私(天皇)の陸海軍の将校・兵士は、全力で奮起して交戦に従事し、私の官僚・役人は、精励・職務に奉仕し、私の民衆は、各々その本分(本来の任務)を尽くし、万民が一心に国家の総力を挙げて、出征戦争の目的を達成するのに、計算違いがないように決心せよ。》

 

 

・抑々東亞ノ安定ヲ確保シ以テ世界ノ平和ニ寄與スルハ丕顯ナル皇祖考丕承ナル皇考ノ作述セル遠猷ニシテ朕󠄁カ拳々措カサル所

[抑々(そもそも)東亜の安定を確保し、以(もっ)て世界の平和に寄与するは、丕顕(ひけん)なる皇祖考(こうそこう)、丕承(ひしょう)なる皇考(こうこう)の作述せる遠猷(えんゆう)にして、朕が挙々(けんけん)措(お)かざる所。]

《そもそも東アジアの安定を確保し、それで世界の平和に寄与するのは、立派な天皇の祖父(明治天皇)・立派に引き継いだ父(大正天皇)が述べ伝えた遠大な計画であって、私(昭和天皇)が捧げ持って据え置かないものだ。》

 

・而シテ列國トノ交誼ヲ篤クシ萬邦共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ之亦帝國カ常ニ國交ノ要義ト爲ス所ナリ

[而(しか)して、列国との交誼(こうぎ)を篤(あつ)くし、万邦共栄の楽(たのしみ)を偕(とも)にするは、之(これ)亦(また)帝国が常に国交の要義と為(な)す所なり。]

《そして、諸国との友好を厚くし、万国と共栄の喜びをともにすることは、これもまた、(大日本)帝国が、常に国交の主要な意義とするものだ。》

 

・今ヤ不幸ニシテ米英兩國ト釁端ヲ開クニ至ル洵ニ已ムヲ得サルモノアリ

[今や不幸にして、米・英両国と釁端(きんたん)を開くに至る、洵(まこと)に巳(や)むを得ざるものあり。]

《今や、不幸にも、米・英の両国との不和の発端が開くに至り、本当にやむをえないものがある。》

 

・豈朕󠄁カ志ナラムヤ

[豈(あに)朕が志(こころざし)ならんや。]

《どうして(それが、)私の意志だろうか(いや、そうでない)。》

 

・中華民國政府曩ニ帝國ノ眞意ヲ解セス濫ニ事ヲ構ヘテ東亞ノ平和ヲ攪亂シ遂ニ帝國ヲシテ干戈ヲ執ルニ至ラシメ玆ニ四年有餘ヲ經タリ

[中華民国政府、曩(さき)に帝国の真意を解せず、濫(みだり)に事を構(かま)えて東亜の平和を攪乱(こうらん)し、遂(つい)に帝国をして干戈(かんか)を執るに至らしめ、茲(ここ)に四年有余を経たり。]

《中華民国政府は、かつて(大日本)帝国の真意を理解せず、無闇に争い事を起こそうとして、東アジアの平和を混乱させ、最終的に(大日本)帝国で戦争を行うのに至らせ、ここに4年余りが経過した。》

 

・幸ニ國民政府更新スルアリ帝國ハ之ト善隣ノ誼ヲ結ヒ相提攜スルニ至レルモ重慶ニ殘存スル政權ハ米英ノ庇蔭ヲ恃ミテ兄弟尙未タ牆ニ相鬩クヲ悛メス

[幸(さいわい)に、国民政府、更新するあり、帝国は之(これ)と善隣の誼(よしみ)を結び、相提携するに至れるも、重慶に残存する政権は、米・英の庇蔭(ひいん)を恃(たの)みて、兄弟、尚(なお)未(いま)だ牆(かき)に相鬩(せめ)ぐを悛(あらた)めず。]

《幸運にも、(汪兆銘/おうちょうめいの)国民党政府(日本の傀儡政権)が更新することがあり、(大日本)帝国は、これと友好の親交を結び、相互に連携するのに至ったが、重慶(長江上流域)に残存する政権(蒋介石/しょうかいせきの国民党政府)は、米・英の庇護を依頼して、(国民党政府の)兄弟は、いまだなお、囲い込みを相互に争って改まらない。》

 

・米英兩國ハ殘存政權ヲ支援シテ東亞ノ禍亂ヲ助長シ平和ノ美名ニ匿レテ東洋制覇ノ非望ヲ逞ウセムトス

[米・英両国は、残存政権を支援して東亜の禍乱(からん)を助長し、平和の美名に匿(かく)れて東洋制覇の非望を逞(たくまし)うせむとす。]

《米・英の両国は、(重慶の)残存政権を支援して、東アジアの災禍・混乱を助長し、平和という美しい名称に隠れて、東洋制覇の大望をたくましくしようとする。》

 

・剩ヘ與國ヲ誘ヒ帝國ノ周邊ニ於テ武備ヲ增强シテ我ニ挑戰シ更ニ帝國ノ平和的通商ニ有ラユル妨害ヲ與ヘ遂ニ經濟斷交ヲ敢テシ帝國ノ生存ニ重大ナル脅威ヲ加フ

[剰(あまつさ)え、与国を誘(いざな)い、帝国の周辺に於(おい)て武備を増強して我に挑戦し、更に帝国の平和的通商に有(あ)らゆる妨害を与え、遂(つい)に経済断交を敢(あえ)てし、帝国の生存に重大なる脅威を加う。]

《それだけでなく、同盟国を誘い、(大日本)帝国の周辺で軍備を増強して私に挑戦し、さらに(大日本)帝国の平和的通商にあらゆる妨害を与え、最終的に経済断交を思い切ってし、(大日本)帝国の生存に重大な脅威を加えた。》

 

・朕󠄁ハ政府ヲシテ事態ヲ平和ノ裡ニ囘復セシメムトシ隱忍久シキニ彌リタルモ彼ハ毫モ交讓ノ精神ナク徒ニ時局ノ解決ヲ遷延セシメテ此ノ間却ツテ益々經濟上軍事上ノ脅威ヲ增大シ以テ我ヲ屈從セシメムトス

[朕は、政府をして事態を平和の裡(うち)に回復せしめんとし、隠忍(いんにん)久しきに弥(わた)りたるも、彼は毫(ごう)も交譲(こうじょう)の精神なく、徒(いたずら)に時局の解決を遷延せしめて、此(こ)の間、却(かえ)って益々、経済上・軍事上の脅威を増大し、以(もっ)て我を屈従せしめんとす。]

《私(天皇)は、政府に事態を平和のうちに回復させようとし、耐え忍びが長く渡っても、彼(米・英)は、わずかも譲り合いの精神がなく、無駄に情勢の解決を遅延させ、この間にかえって、ますます経済上・軍事上の脅威が増大し、それで私を屈伏・服従させようとする。》

 

・斯ノ如クニシテ推移セムカ東亞安定ニ關スル帝國積年ノ努力ハ悉ク水泡ニ歸シ帝國ノ存立亦正ニ危殆ニ瀕セリ

[斯(かく)の如(ごと)くにして推移せんか、東亜安定に関する帝国積年の努力は、悉(ことごと)く水泡(すいほう)に帰(き)し、帝国の存立、亦(また)正(まさ)に危殆(きたい)に瀕(ひん)せり。]

《このようにして推移したからか、東アジアの安定に関する(大日本)帝国の積み重ねた努力は、すべて水の泡と消え、(大日本)帝国の存立もまた、ちょうど今、危機に直面している。》

 

・事旣ニ此ニ至ル

[事、既に此(ここ)に至る。]

《物事は、すでにここに至っている。》

 

・帝國ハ今ヤ自存自衞ノ爲蹶然起ツテ一切ノ障礙ヲ破碎スルノ外ナキナリ

[帝国は、今や自存自衛の為、蹶然(けつぜん)起って、一切の障礙(しょうげ)を破砕するの外(ほか)なきなり。]

《(大日本)帝国は、今や自存自衛のため、勢い盛んに起き上がり、すべての障害を破砕する以外にないのだ。》

 

 

・皇祖皇宗ノ神靈上ニ在リ朕󠄁ハ汝有眾ノ忠誠勇武ニ信倚シ祖宗ノ遺業ヲ恢弘シ速ニ禍根ヲ芟除シテ東亞永遠ノ平和ヲ確立シ以テ帝國ノ光榮ヲ保全セムコトヲ期ス

[皇祖・皇宗の神霊上に在り、朕は、汝(なんじ)有衆(ゆうしゅう)の忠誠・勇武に信倚(しんい)し、祖宗(そそう)の遺業(いぎょう)を恢弘(かいこう)し、速(すみやか)に禍根(かこん)を芟除(さんじょ)して、東亜永遠の平和を確立し、以(もっ)て帝国の光栄を保全せんことを期す。]

《天皇の始祖・歴代天皇の神霊の上にある、私(天皇)は、あなたたち国民の忠誠・武勇を信頼し、始祖・歴代の事業を広大にし、すぐに災禍の根本を刈り取って、東アジアの永遠の平和を確立し、それで(大日本)帝国の栄光を保全することを決心する。》

 

・御名御璽

昭和十六年十二月八日

 

内閣總理大臣兼内務大臣陸軍大臣  東條英機

文部大臣 橋田邦彦

國務大臣 鈴木貞一

農林大臣兼拓務大臣 井野碩哉

厚生大臣 小泉親彥

司法大臣 岩村通世

海軍大臣 嶋田繁太郞

外務大臣 東鄕茂德

遞信大臣 寺島健

大藏大臣 賀屋興宣

商工大臣 岸信介

鐵道大臣 八田嘉明

 

(つづく)