「戦陣訓」読解1~前半 | ejiratsu-blog

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「軍人勅諭」読解

「教育勅語」読解

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 戦陣訓は、戦地での訓戒(心得)で、日中戦争(1937/昭和12年~)が長期化し、戦地での志気が下がって風紀が乱れたのを改善しようと、陸軍が作成しましたが(1941/昭和16年)、軍人勅諭と比較すると、陸軍でさえ、あまり普及せず、海軍は無視したようです。

 ですが、先の大戦中での日本的儒教を把握するために、ここに取り上げてみました。

 戦陣訓の2本柱は、志気について、不利な戦闘でも安易に撤退させないことと、風紀について、戦地で略奪・乱暴させないことで、そのための道徳心ですが、前者は、軍人に近世・江戸期の武士道が要求され、後者は、中世・戦国期に、食料配給のない足軽兵士が、戦地で略奪・乱暴したのを想起します。

 

 

○序

 

・夫(そ)れ戦陣は、大命に基き、皇軍の神髄を発揮し、攻むれば必ず取り、戦えば必ず勝ち、遍(あまね)く皇を宣布し、敵をして仰いで御稜威の尊厳を感銘せしむる処なり。されば戦陣に臨む者は、深く皇国の使命を体し、堅く皇軍の道義を持し、皇国の威徳を四海に宣揚せんことを期せざるべからず。

 

《そもそも戦地は、天皇の命令に基づき、皇軍(天皇の軍)の本質を発揮し、攻撃すれば必ず奪取し、戦争すれば必ず勝利し、隅々まで皇道(天皇の道)を流布し、敵に仰ぎ見させて天皇の威光の尊厳を心に刻んで忘れさせない場所なのだ。だから、戦地に臨む者は、深く皇国(天皇の国)の使命を体現し、堅く皇軍の道義を持ち、皇国の威厳の徳を世界に明示しようとすることを決意しないわけにはいかない。》

 

・惟(おも)うに軍人精神の根本は、畏(かしこ)くも軍人に賜わりたる勅諭に炳乎(へいこ)として明かなり。而(しか)して戦闘並に訓練等に関し準拠すべき要綱は、又典令の綱領に教示せられたり。然(しか)るに戦陣の環境たる、兎(と)もすれば眼前の事象に捉われて大本を逸し、時に其の行動、軍人の本分に戻るが如(ごと)きことなしとせず。深く慎まざるべけんや。乃(すなわ)ち既往の経験に鑑み、常に戦陣に於(おい)て勅諭を仰ぎて、之が服行の完璧を期せむが為、具体的行動の憑拠(ひょうきょ)を示し、以(もっ)て皇軍、道義の昂掲(こうけい)を図らんとす。

 

《思うに、軍人精神の根本の義は、恐れ多くも「軍人に頂戴した勅諭(軍人勅諭)」に極めて明らかだ。よって、戦闘・訓練等に関して準拠すべき要綱は、また法律・命令の要点に教示されている。ところが、戦地の環境は、ともすると目先の事象に捉われて、大切な根本を失い、時にその行動が軍人の本来の務めに戻るようなことがないとはならない。どうして深く慎まずにいられようか。つまり、過去の経験に照らして考え、常に戦地において「軍人勅諭」を仰ぎ見て、これが、服従・実行の完璧を決意しようとするために、具体的行動の根拠を示し、それで皇軍(天皇の軍)が道義の高掲を図ろうとする。》

 

・是(これ)、戦陣訓の本旨とする所なり。

 

《これが、戦陣訓の本旨とすることなのだ。》

 

 

◎本訓:其の一

 

○第一、皇国

 

・大日本は皇国なり。万世一系の天皇上に在(ま)しまし、肇国(ちょうこく)の皇謨(こうぼ)を紹継して、無窮に君臨し給(たま)う。皇恩万民に遍(あまね)く、聖徳、八紘に光被す。臣民亦、忠孝勇武、祖孫相承(う)け、皇国の道義を宣揚して、天業を翼賛し奉(たてまつ)り、君民一体以(もっ)て克(よ)く国運の隆昌を致せり。

 

《大日本は、皇国(天皇の国)だ。万世一系の天皇が上においでになり、建国の計画を継承して、永遠に君臨なさる。天皇の恩恵を万民に隅々まで行き渡らせ、高徳が八方に光り覆っている。臣民もまた、忠・孝・勇・武を先祖・子孫が相互に継承し、皇国の道義を明示して、天皇の事業を補佐して差し上げ、君民一体によって充分に国の運命を隆盛にいたした。》

 

・戦陣の将兵、宜(よろ)しく我が国体の本を体得し、牢固不抜の念を堅持し、誓って皇国守護の大任を完遂せんことを期すべし。

 

《戦地の将校・兵士は、よくわが国柄の本義を体得し、頑丈で不動の信念を堅持し、誓って皇国(天皇の国)守護の大切な任務を完全遂行しようとすることを決意すべきだ。》

 

 

○第二、皇軍

 

・軍は天皇統帥の下、神武の精神を体現し、以(もっ)て皇国の威を顕揚し、皇運の扶翼(ふよく)に任ず。

 

《軍は天皇が統帥のもと、神武天皇(初代)の精神を体現し、それで皇国(天皇の国)の威厳の徳を広め高め、天皇の運命の助け守りに任命する。》

 

・常に大御心を奉じ、正にして武、武にして、克(よ)く世界の大を現ずるもの、是、神武の精神なり。武は厳なるべし、は遍(あまね)きを要す。苟(いやしく)も皇軍に抗する敵あらば、烈々たる武威を振い、断乎(だんこ)之を撃砕すべし。仮令(たとえ)峻厳の威、克く敵を屈服せしむとも、服するは撃たず、従うは慈しむのに欠くるあらば、未だ以(もっ)て全(また)しとは言い難(がた)し。武は驕(おご)らずは飾らず、自ら溢(こぼ)るるを以て尊(とうと)しとなす。皇軍の本領は恩威並び行われ、遍く御稜威を仰(あお)がしむるに在(あ)り。

 

《常に天皇の心を謹んで受け、正心にして武、武にして仁で、充分に世界の平和を実現するもの、これが神武天皇(初代)の精神だ。武は、厳格であるべきで、仁は、隅々まで行き渡る必要がある。もしも、皇軍(天皇の軍)に抗戦する敵があれば、強烈な武威を奮い、明確にこれを攻撃・粉砕すべきだ。たとえ厳酷な武威で充分に敵を屈服させたとしても、降伏すれば攻撃せず、服従すれば慈悲する徳に欠如することがあれば、まだそれで完全とはいいがたい。武はおごらず、仁は飾らず、自らあふれるのによって尊いとする。皇軍の本質は恩恵・武威が並び行われ、隅々まで天皇の厳格な威光を仰ぎ見させることにある。》

 

 

○第三、軍紀

 

・皇軍軍紀の神髄は、畏(かしこ)くも大元師陛下に対し奉(たてまつ)る絶対髄順の崇高なる精神に存す。

《皇軍(天皇の軍)の規律・風紀の本質は、恐れ多くも大元帥陛下に対して差し上げる、絶対従順の崇高な精神にある。》

 

・上下斉(ひと)しく統帥の尊厳なる所以(ゆえん)を感銘し、上は大権の承行を謹厳にし、下は謹んで服従の至を致すべし。尽の赤(せきせい)相結び、脈絡一貫、全軍一令の下に寸毫(すんごう)乱るるなきは、是(これ)、戦勝必須の要件にして、又、実に治安確保の要道たり。特に戦陣は、服従の精神実践の極致を発揮すべき処とす。死生困苦の間に処(しょ)し、命令一下、欣然(きんぜん)として死地に投じ、黙々として献身服行の実を挙(あ)ぐるもの、実に我が軍人精神の精華なり。

 

《上の者と下の者が等しく統帥が尊厳な理由を感銘し、上の者は、天皇の大権の軍令の継承序列を厳格にし、下の者は、かしこまって服従の至極の誠をいたすべきだ。忠を尽くす真心を結び合い、筋道を一貫し、全軍ひとつの命令のもとに、わずかも乱れないことは、これが戦勝必須の要件で、また実に治安確保の重要な方法だ。特に戦地は、服従の精神実践の極致を発揮すべき場所とする。死・生・困難・苦難の間にあり、命令が一度下されると、喜んで死ぬ場所に身を投じ、黙々と献身・服従・実行の成果を挙げるものは、実にわが軍人精神の本質だ。》

 

 

○第四、団結

 

・軍は、畏(かしこ)くも大元師陛下を頭首と仰(あお)ぎ奉(たてまつ)る。渥(あつ)き聖慮を体し、忠誠の至情にし、挙軍一心一体の実を致さざるべからず。

 

《軍は、恐れ多くも大元帥陛下を頂点と仰ぎ見て差し上げる。熱い天皇の考えを体現し、忠誠の至極の感情に和合し、全軍が一心一体の成果をいたさないわけにはいかない。》

 

・軍隊は統率の本に則(のっと)り、隊長を核心とし、掌固(しょうこ)にして而(しか)も気藹々(あいあい)たる団結を固成すべし。上下各々其の分を厳守し、常に隊長の意図に従い、心を他の腹中に置き、生死利害を超越して、全体の為、己(おのれ)を没するの覚悟なかるべからず。

 

《軍隊は、統率の本義にしたがい、隊長を中心とし、堅固でしかも和やかな雰囲気に満ちて団結を強固に形成すべきだ。上の者と下の者が各々その務めを厳守し、常に隊長に意図にしたがい、誠の心を持って他人と接し、生死の利害を超越して、全体のために自己をなくす覚悟をしないわけにはいかない。》

 

 

○第五、協同

 

・諸兵、心を一にし、己(おのれ)の任務に邁進(まいしん)すると共に、全軍、戦捷(せんしょう)の為、欣然(きんぜん)として没我・協力の精神を発揮すべし。

 

《すべての兵が、心をひとつにし、自己の任務に突き進むとともに、全軍が戦勝のために、喜んで無私・協力の精神を発揮すべきだ。》

 

・各隊は互(たがい)に其の任務を重んじ、名誉を尊び、相(あい)じ相援(たす)け、自ら進んで苦難に就(つ)き、戮力(りくりょく)協心、相携(たずさ)えて目的達成の為、力闘せざるべからず。

 

《各隊は、相互にその任務を尊重し、名誉を貴び、信じ合い助け合い、自ら進んで苦難を成就し、一心協力・相互連携して目的達成のために、力戦しないわけにはいかない。》

 

 

○第六、攻撃精神

 

・凡(およ)そ戦闘は猛、常に果敢精神を以(もっ)て一貫すべし。

 

《だいたい戦闘は、勇猛で、常に果敢な精神によって一貫すべきだ。》

 

・攻撃に方(あた)りては果断・積極、機先を制し、剛毅・不屈、敵を粉砕せずんば已(や)まざるべし。防禦、又、克(よ)く攻勢の鋭気を包蔵し、必ず主動の地位を確保せよ。陣地は死すとも敵に委すること勿(なか)れ。追撃は断乎として飽(あ)く迄(まで)も徹底的なるべし。

 

《攻撃に当たっては、決断・積極的に相手よりも先に行動し、意志が強固・不屈で、敵を粉砕しなければ止めないにちがいない。防禦は、また充分に攻勢の鋭い気性を内包し、必ず主体的な行動の地位を確保せよ。陣地は、死んでも敵に任せることのないように。追撃は、明確にどこまでも徹底的になるべきだ。》

 

往邁進(ゆうおうまいしん)、百事懼れず、沈着・大胆、難局に処し、堅忍・不抜、困苦に克(か)ち、有(あら)ゆる障碍(しょうがい)を突破して一意勝利の獲得に邁進すべし。

 

《勇敢に突き進んですべてに恐れず、落ち着いて大胆で難局に対処し、耐え忍んで不動で、困難・苦難を勝ち、あらゆる障害を突破して、ひとつの意志で勝利の獲得に突き進むべきだ。》

 

 

○第七、必勝の信念

 

は力なり。自らじ、毅然(きぜん)として戦う者、常に克(よ)く勝者たり。必勝の信念は千磨必死の訓練に生ず。須(すべから)く寸暇を惜(お)しみ肝胆を砕(くだ)き、必ず敵に勝つの実力を涵養(かんよう)すべし。

 

《信は力だ。自らを信じ、強い意志で戦う者は、常に充分な勝者だ。必勝の信念は、多くを磨いた必死の訓練で生じる。当然わずかな間も惜しんで心を尽くすべきで、必ず敵に勝つ実力を養い育てるべきだ。》

 

・勝敗は皇国の隆替に関す。光輝ある軍の歴史に鑑(かんが)み、百戦百勝の伝統に対する己(おのれ)の責務を銘肝し、勝たずば断じて已(や)むべからず。

 

《勝敗は、皇国(天皇の国)の隆盛・衰退に関係する。光り輝く軍の歴史に照らして考え、全戦全勝の伝統に対する自己の責務を心に刻んで忘れず、勝たなければ、断じて止めてはいけない。》

 

 

(つづく)