対米英戦争の詔書2~敗戦時   | ejiratsu-blog

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(つづき)

 

 先の大戦での、日本にとっての終戦は、昭和天皇(124代)が、正午からラジオ放送(玉音放送)で、日本の降伏を国民に公表した、1945(昭和20)年8月15日とし、日本政府は、その前日に連合国へポツダム宣言の受諾を電信していました。

 一方、米国をはじめ、諸外国にとっての終戦は、日本が連合国の降伏文書に調印した、9月2日なので、対日戦勝記念日が、9月2日は、米国・ベトナム等、調印翌日の9月3日は、中国・ソ連等で、日本と同様の8月15日は、英国・韓国・北朝鮮等です。

 つまり、敗戦時は、対内的と、対外的に、時差があるので、ここでは、双方の2詔書を取り上げることにします。

 

 

●大東亜戦争終結に関する詔書(昭和20年8月15日)

 

・朕󠄁深ク世界ノ大勢ト帝󠄁國ノ現状トニ鑑ミ非常ノ措置ヲ以テ時局ヲ收拾セムト欲シ茲ニ忠良ナル爾臣民ニ告ク

[朕(ちん)、深く世界の大勢と帝国の現状とに鑑(かんが)み、非常の措置を以(もっ)て時局を収拾せんと欲し、茲(ここ)に忠良なる爾(なんじ)臣民に告ぐ。]

《私(天皇)は、深く世界の大体の情勢と日本の現状に照らして考え、非常の措置(聖断)によって情勢を収拾しようとし、ここに忠義・善良なあなたたち臣民に告げる。》

 

 

・朕󠄁ハ帝󠄁國政府ヲシテ米英支蘇四國ニ對シ其ノ共同宣言ヲ受󠄁諾スル旨通󠄁告セシメタリ

[朕は、帝国政府をして、米・英・支(し)・蘇(そ)、四国(しこく)に対し、其(そ)の共同宣言を受諾する旨(むね)、通告せしめたり。]

《私は、(大日本)帝国政府へ、米国・英国・中国・ソ連の4ヶ国に対し、その(ポツダムの)共同宣言を受諾する主旨を通告させた。》

 

 

・抑々帝󠄁國臣民ノ康寧ヲ圖リ萬邦󠄁共榮ノ樂ヲ偕ニスルハ皇祖皇宗ノ遺󠄁範ニシテ朕󠄁ノ拳󠄁々措カサル所󠄁

[抑々(そもそも)、帝国臣民の康寧(こうねい)を図り、万邦共栄の楽(たのしみ)を偕(とも)にするは、皇祖(こうそ)・皇宗(こうそう)の遺範(いはん)にして、朕の拳々(けんけん)措(お)かざる所。]

《そもそも、(大日本)帝国臣民の安寧を図り、万国と共栄の喜びをともにすることは、天皇の始祖・歴代天皇が残した規範であって、私が捧げ持って据え置けないものだ。》

 

・曩ニ米英二國ニ宣戰セル所󠄁以モ亦實ニ帝󠄁國ノ自存ト東亞ノ安定トヲ庻幾スルニ出テ他國ノ主權ヲ排シ領土ヲ侵󠄁スカ如キハ固ヨリ朕󠄁カ志ニアラス

[曩(さき)に米・英二国に宣戦せる所以(ゆえん)も亦(また)、実に、帝国の自存と東亜の安定とを庶幾(しょき)するに、出(いで)て他国の主権を排し、領土を侵すが如(ごと)きは、固(もと)より朕が志(こころざし)にあらず。]

《かつて米・英の2ヶ国に宣戦した理由もまた、実際には、(大日本)帝国の自存と東アジアの安定を希望するのに、出撃して他国の主権を排斥し、領土を侵犯するようなことは、もともと私の意志でない。》

 

・然ルニ交󠄁戰已ニ四歲ヲ閱シ朕󠄁カ陸海將兵ノ勇󠄁戰朕󠄁カ百僚有司ノ勵精朕󠄁カ一億衆庻ノ奉公󠄁各々最善ヲ盡セルニ拘ラス戰局必スシモ好轉セス世界ノ大勢亦我ニ利アラス

[然(しか)るに交戦、已(すで)に四歳(しさい)を閲(けみ)し、朕が陸海将兵の勇戦、朕が百僚・有司の励精、朕が一億衆庶の奉公、各々(おのおの)最善を尽せるに拘(かかわ)らず、戦局、必ずしも好転せず、世界の大勢、亦(また)我に利あらず。]

《しかし、交戦は、すでに4年を経過し、私の陸海軍の将校・兵士の勇敢な戦闘、私の官僚・役人の精励、私の一億の民衆の奉公は、各々最善を尽くしたにもかかわらず、戦局は、必ずしも好転せず、世界の大体の情勢もまた、私に有利でない。》

 

・加之敵ハ新ニ殘虐󠄁ナル爆彈ヲ使󠄁用シテ頻ニ無辜ヲ殺傷シ慘害󠄂ノ及󠄁フ所󠄁眞ニ測ルヘカラサルニ至ル

[加之(しかのみならず)、敵は新(あらた)に残虐なる爆弾を使用して、頻(しきり)に無辜(むこ)を殺傷し、惨害の及ぶ所、真(しん)に測るべからざるに至る。]

《それだけでなく、敵は新たに残虐な爆弾(原爆)を使用して、しばしば罪のない人々を殺傷し、悲惨な被害の及ぶ範囲は、本当に測ることができないほどに至る。》

 

・而モ尙交󠄁戰ヲ繼續セムカ終󠄁ニ我カ民族ノ滅亡ヲ招來スルノミナラス延󠄂テ人類ノ文󠄁明󠄁ヲモ破却スヘシ

[而(しか)も尚(なお)、交戦を継続せんか、終(つい)に我が民族の滅亡を招来するのみならず、延(ひい)て人類の文明をも破却すべし。]

《それでもなお、交戦を継続しようとすれば、最終的にわが民族の滅亡を招き寄せるだけでなく、引き続いて人類の文明も破却するだろう。》

 

・斯ノ如クムハ朕󠄁何ヲ以テカ億兆ノ赤子ヲ保シ皇祖皇宗ノ神靈ニ謝セムヤ

[斯(かく)の如(ごと)くんば、朕、何を以(もっ)てか億兆の赤子を保(ほ)し、皇祖・皇宗の神霊に謝せんや。]

《このようであるならば(交戦を継続すれば)、私はどうして万民のわが子を保守し、天皇の始祖・歴代天皇の神霊に謝罪できるのか(いや、できない)。》

 

・是レ朕󠄁カ帝󠄁國政府ヲシテ共同宣言ニ應セシムルニ至レル所󠄁以ナリ

[是(こ)れ、朕が帝国政府をして共同宣言に応ぜしむるに至れる所以(ゆえん)なり。]

《これは、私が(大日本)帝国政府へ、(ポツダムの)共同宣言に応じるように至らせた理由だ。》

 

 

・朕󠄁ハ帝󠄁國ト共ニ終󠄁始東亞ノ解放ニ協力セル諸盟󠄁邦󠄁ニ對シ遺󠄁憾ノ意󠄁ヲ表セサルヲ得ス

[朕は、帝国と共に、終始、東亜の解放に協力せる諸盟邦に対し、遺憾の意を表せざるを得ず。]

《私は、(大日本)帝国とともに、終始、東アジアの解放に協力してきた諸々の同盟国に対して、残念な本意を表わさざるをえない。》

 

・帝󠄁國臣民ニシテ戰陣ニ死シ職域ニ殉シ非命ニ斃レタル者及󠄁其ノ遺󠄁族ニ想ヲ致セハ五内爲ニ裂ク

[帝国臣民にして、戦陣に死し、職域に殉じ、非命に斃(たお)れたる者、及(および)其(そ)の遺族に想(おもい)を致せば、五内(ごだい)為(ため)に裂く。]

《(大日本)帝国臣民であって、戦場で死没し、職場で殉死し、非業の死で倒れた者、またはその遺族に思いを巡らせば、五臓(内蔵)が引き裂かれる思いだ。》

 

・且戰傷ヲ負󠄁ヒ災禍ヲ蒙リ家業ヲ失ヒタル者ノ厚生ニ至リテハ朕󠄁ノ深ク軫念スル所󠄁ナリ

[且(か)つ、戦傷を負ひ、災禍を蒙(こうむ)り、家業を失いたる者の厚生に至りては、朕の深く軫念(しんねん)する所なり。]

《そのうえ、戦場で負傷し、戦災・戦禍を受け、家業を失った者の生活の充実に至っては、私が深く心配することだ。》

 

・惟フニ今後帝󠄁國ノ受󠄁クヘキ苦難ハ固ヨリ尋󠄁常ニアラス
[惟(おも)うに今後、帝国の受くべき苦難は、固(もと)より尋常にあらず。]

《思うに今後、(大日本)帝国が受けるであろう苦難は、もともと普通でない。》

 

・爾臣民ノ衷情󠄁モ朕󠄁善ク之ヲ知ル

[爾(なんじ)臣民の衷情(ちゅうじょう)も、朕、善く之(これ)を知る。]

《あなたたち臣民の本心も、私はよく知っている。》

 

・然レトモ朕󠄁ハ時運󠄁ノ趨ク所󠄁堪ヘ難キヲ堪ヘ忍󠄁ヒ難キヲ忍󠄁ヒ以テ萬世ノ爲ニ太平󠄁ヲ開カムト欲ス

[然(しか)れども、朕は、時運の趨(おもむ)く所、耐え難きを耐え、忍び難きを忍び、以(もっ)て万世の為に太平を開かんと欲す。]

《しかし、私は、時の運命が向かって行くほうへ(成り行きまかせに)、耐えがたいことに耐え、忍びがたいことを忍んで、それで永遠のために、泰平の世を切り開こうとしている。》

 

 

・朕󠄁ハ茲ニ國體ヲ護持シ得テ忠良ナル爾臣民ノ赤誠ニ信倚シ常ニ爾臣民ト共ニ在リ

[朕は、茲(ここ)に国体を護持し得て、忠良なる爾(なんじ)臣民の赤誠(せきせい)に信倚(しんい)し、常に爾臣民と共に在(あ)り。]

《私(天皇)は、ここに国体(天皇中心の秩序)を護持することができ、忠義・善良なあなたたち臣民の真心を信頼し、常にあなたたち臣民とともにある。》

 

・若シ夫レ情󠄁ノ激スル所󠄁濫ニ事端ヲ滋󠄁クシ或ハ同胞󠄁排擠互ニ時局ヲ亂リ爲ニ大道󠄁ヲ誤󠄁リ信義ヲ世界ニ失フカ如キハ朕󠄁最モ之ヲ戒ム

[若(も)し夫(そ)れ、情の激する所、濫(みだり)に事端を滋(しげ)くし、或(あるい)は同胞排擠(はいせい)、互(たがい)に時局を乱(みだ)り、為に大道を誤り、信義を世界に失うが如(ごと)きは、朕、最も之(これ)を戒(いまし)む。]

《もし、そもそも感情が激化することで、無闇に物事の発端を増大させ、あるいは仲間を押し退けて排除し、相互に情勢を混乱させ、そのために正しい道理を誤り、信用・義務を世界から失うようなことは、私が最もこれを控える。》

 

・宜シク擧國一家子孫相傳ヘ確ク神州ノ不滅ヲ信シ任重クシテ道󠄁遠󠄁キヲ念ヒ總力ヲ將來ノ建󠄁設ニ傾ケ道󠄁義ヲ篤クシ志操ヲ鞏クシ誓テ國體ノ精華ヲ發揚シ世界ノ進󠄁運󠄁ニ後レサラムコトヲ期󠄁スヘシ

[宜(よろ)しく、挙国一家、子孫相(あい)伝へ、確(かた)く神州(しんしゅう)の不滅を信じ、任重くして道遠きを念(おも)ひ、総力を将来の建設に傾け、道義を篤くし、志操(しそう)を鞏(かた)くし、誓(ちかっ)て国体の精華を発揚し、世界の進運に後(おく)れざらんことを期すべし。]

《一家のように国を挙げて、子孫が相互に伝え、確固として神国の日本の不滅を信じ、責任重大で道が遠くだと思い、総力を将来の建設に傾け、正しい道理を厚くして、意志・節操を堅固にし、誓って国体(天皇中心の秩序)の本質を奮い立たせ、世界の進歩の機運に遅れないことを決心するのがよい。》

 

・爾臣民其レ克ク朕󠄁カ意󠄁ヲ體セヨ

[爾(なんじ)臣民、其(そ)れ克(よ)く、朕が意を体(たい)せよ。]

《あなたたち臣民は、それを充分に、私の本意を体現せよ。》

 

 

・御名御璽

昭和二十年八月󠄁十四日

内閣總理大臣 男爵󠄂 鈴木貫太郞

海軍大臣 米内光政

司法大臣 松阪廣政

陸軍大臣 阿南惟幾

軍需大臣 豐田貞次郞

厚生大臣 岡田忠彥

國務大臣 櫻井兵五郞

國務大臣 左近司政三

國務大臣 下村宏

大藏大臣 廣瀨豐作

文部大臣 太田耕造

農商大臣 石黑忠篤

内務大臣 安倍源基

外務大臣兼大東亞大臣 東鄕茂德

國務大臣 安井藤治

運輸大臣 小日山直登

 

 

●降伏文書調印に関する詔書(昭和20年9月2日)

 

・朕ハ昭和二十年七月二十六日米英支各國政府ノ首班カポツダムニ於テ發シ後ニ蘇聯邦カ參加シタル宣言ノ掲クル諸條項ヲ受諾シ帝國政府及大本營ニ對シ聯合國最高司令官カ提示シタル降伏文書ニ朕ニ代リ署名シ且聯合國最高司令官ノ指示ニ基キ陸海軍ニ對スル一般命令ヲ發スヘキ事ヲ命シタリ

[朕は、昭和二十年七月二十六日、米・英・支、各国政府の首班が、ポツダムに於(おい)て発し、後に蘇連邦が参加したる宣言の掲(かか)ぐる諸条項を受諾し、帝国政府及(および)大本営に対し、連合国最高司令官が提示したる降伏文書に、朕に代(かわ)り署名し、且(かつ)連合国最高司令官の指示に基(もとづ)き、陸海軍に対する一般命令を発すべき事を命じたり。]

《私(天皇)は、昭和20年7月26日に、米国・英国・中国の各国政府の首脳が、ポツダムで発表し、のちにソビエト連邦が参加した宣言で掲示された諸条項を受諾し、(大日本)帝国政府・大本営(陸海軍の最高統帥機関)に対して、連合国最高司令官が提示した降伏文書に、私に代わって署名させ、そのうえ、連合国最高司令官の指示に基づき、陸海軍に対する一般命令を発すべきことを命令した。》

 

・朕ハ朕カ臣民ニ對シ敵對行爲ヲ直ニ止メ武器ヲ措キ且降伏文書ノ一切ノ條項竝ニ帝國政府及大本營ノ發スル一般命令ヲ誠實ニ履行セムコトヲ命ス

[朕は、朕が臣民に対し、敵対行為を直(ただち)に止め、武器を措(お)き、且(かつ)降伏文書の一切の条項、並(ならび)に帝国政府及(および)大本営の発する一般命令を誠実に履行せんことを命ず。]

《私(天皇)は、私の臣民に対して、敵対行為をすぐに止め、武器を置き、そのうえ、降伏文書の一切の条項、また、(大日本)帝国政府・大本営の発する一般命令を誠実に履行すべきことを命令する。》

 

・御名御璽

昭和二十年九月二日

内閣総理大臣 (東久邇宮/くにのみや)稔彦王

国務大臣 公爵 近衛文麿

海軍大臣 米内光政

外務大臣 重光葵

運輸大臣 小日山直登

大蔵大臣 津島寿一

司法大臣 岩田宙造

農林大臣 千石輿太郎

国務大臣 緒方竹虎

内務大臣 山崎厳

商工大臣 中島知久平

厚生大臣 松村謙三

文部大臣 前田多門

国務大臣 小畑敏四郎

陸軍大臣 下村定

 

(おわり)