三木清「人生論ノート」考察23~希望 | ejiratsu-blog

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人は何を考え(思想)、何を為し(歴史)、何を作ってきたのか(建築)を、主に書いたブログです。

(つづき)

 

 

●希望について

 

 この項では、まず、運命は、偶然と必然の間なので(一切の偶然も一切の必然もない)、人生は、運命だとし、希望は、運命と同様で、符合が逆とみているため、運命は、対外的、希望は、対内的といえ、希望も、偶然と必然の間で(一切の偶然も一切の必然もない)、人生は、希望だといっています。

 つまり、人間は、対外的な運命を生きる中で、対内的な希望を持っており、人生の全体が、本来の運命なので、個々の出来事も、運命であるのと同様、人生の全体が、本来の希望なので、個々の出来事も、希望であり、運命もありえるからこそ、希望もありえるとされています。

 なお、希望は、期待・欲望・目的と区別すべきだとし、個々の出来事で失われるのは、希望ではなく、期待で、人生の全体で失われないのが、本来の希望だとしています。

 また、愛と運命や、愛と希望には、密接な関係があり、愛が運命と結び付けば、必然が優位になる一方、その運命から解放され、愛が希望と結び付けば、偶然が優位になり、希望は、愛で生じ、愛は、希望で育てられるとあります。

 

 つぎに、希望は、生命の形成力だといい、人間の存在は、希望で完成に到達し、この形成は、運命という無からの形成で、希望は、無から出現するイデー(理念)的な力だとみています。

 これは、「虚栄について」の項で、人間は、虚無(実体なし)から出発し、先に各人で虚栄を設定(外面の「ある」)、後にその虚栄を解消する際に(内面の「する」)、創造的な生活・芸術で、人生を自己形成すべきだと主張しているのと、一致するので、運命は、虚無で、希望は、虚栄といえます。

 

 さらに、希望は、自己の内部に持つが、自己から生じるものでなく、他から与えられるものなので、失うことができないとされ、真の希望が、絶望から生じるというのは、絶望とは、自己の放棄で、自己から生じるもの(期待)がなければ、他から与えられるもの(希望)しかないからです。

 この希望は、愛に類似しているとされ、愛は、自分にも相手にもなく、二人の間にあり、双方各々よりも・相互関係よりも根源的で、愛し合う時、二人の間の出来事を第三として自覚され、この第三が、一方と他方にあるとみており、自己に他者(虚栄、希望)が内在していることになります。

 

 そのうえ、希望は、人生ほどの確かさを持つとされ、これは、不確実な虚無から、想像力(イマジネーション、構想力)で、確実な個性へと、人生を自己形成することで、そこでは、虚無の不安・恐怖で希望を刺激し、生成するものの論理により、確実性の新基準を発見すべきとしています。

 

 最後に、希望は、限定・断念する力とされ、これは、無限定な虚無から、構想力で、限定な個性へと、人生を自己形成することで、希望に生きれば、生命そのものが本質的に若いとみています。

 

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◎希望についての「ノート」

 

○人生=運命:偶然が必然の、必然が偶然の意味をもつ

・一切の必然、一切の偶然=運命でない

・希望=運命のよう、運命の符号が逆

・一切の必然、一切の偶然 → 希望なし

・人生=運命 → 人生=希望、運命的な存在の人間が生きる=希望を持つ

 

○希望=欲望・目的・期待と区別すべき → 私の存在の全体=運命 → 個々の出来事=運命

・人生の全体=希望 → 個々の内容=希望

・人生=運命 → 絶望的 → 運命なら希望もありえる

・期待=希望を持ち、やがて失望 → 個々の内容の希望=多くを失う

 → けっして失わない=本来の希望

 

○愛と希望の間=密接な関係 → 希望=愛で発生、愛=希望で生育

・愛=運命 → 運命=必然で自己の力を表現 → 愛=必然に束縛

 → 運命からの解放=愛と希望が結び付くべき

 

○希望=生命の形成力

・生きる限り希望を持つ → 生きる=形成(無=虚無からの形成) → 希望=生命力の形成力

 → 人間の存在=希望で完成に到達 → 希望=運命の無から出現するイデー(理念)的な力

・希望=人間の存在の形而上学的本質を顕在化

・生命そのもの=本質的な若さを意味 → 希望に生きる者=若い

 

○愛=自分と相手の間にある → 二人の間の出来事を第三のものと自覚

 → 第三のもの=二人のいずれか一人のもの → 間にある=双方・関係よりも根源的

・希望=自己の内部のもの(自己から生じるのでない) → 真の希望=絶望から生じる

・絶望=自己の抛棄(放棄)

※近代の主観的人間の特徴的な状態=絶望で自己を捨てられず、希望で自己を持てず

※人格主義の根本の論理:他から与えられるもの(自分に依るのでない)=失うことができない

 → 近代の人格主義=主観主義で解体すべき:自分の持っているもの=失うことができないもの

 

○希望と現実を混同すべきでない → 希望=人生ほどの確かさを持つ

・固形体の論理=一切が保証されれば、希望なし → 人間=確実を要求せず

 → 保証されたい人間も賭(かけ)に熱中

・生成の論理=発明の偶然・強いて作られた運命に心を砕く → 恐怖・不安で希望を刺戟(刺激)

 → 希望の確実性=イマジネーション(想像力)の確実性と同じ性質

※人生問題の解決の鍵=確実性の新基準を発見

 

○希望=限定する力そのもの → 希望=無限定に感じる

・限定=否定(スピノザ)

・断念を本当に知る → 真の希望を持つ

・形成=断念(ゲーテが達した深い形而上学的智慧) → 人生の智慧(芸術的制作だけでない)

 

(おわり)