2月に劇場で観た新作映画は5本、旧作も5本でした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  コット、はじまりの夏

 

 

コルム・バレード監督、キャサリン・クリンチ(コット)、キャリー・クロウリー(アイリン)、アンドリュー・ベネット(ショーン)、マイケル・パトリック(コットの父・ダン)、Kate Nic Chonaonaigh(コットの母・メアリー)、Joan Sheehy(お通夜の女性)ほか出演。2022年作品。

 

原作はクレア・キーガンの小説「Foster(里子)」。

 

1981年、アイルランドの田舎町。大家族の中でひとり静かに暮らす寡黙な少女コット(キャサリン・クリンチ)は、夏休みを親戚夫婦キンセラ家の緑豊かな農場で過ごすことに。はじめのうちは慣れない生活に戸惑うコットだったが、ショーン(アンドリュー・ベネット)とアイリン(キャリー・クロウリー)の夫婦の愛情をたっぷりと受け、ひとつひとつの生活を丁寧に過ごす中で、これまで経験したことのなかった生きる喜びを実感していく。(映画.comより転載)

 

ストーリーの中身を書きますので、ご注意ください。

 

ずっとタイミングが合わなくて観られなかったのが、公開終了間際にようやく鑑賞。

 

ここんとこヘンテコな映画が続いていたから(笑)心が洗われるような映画を観たくて。

 

この映画の前に「ロッタちゃん」シリーズのリヴァイヴァル上映の予告もやってましたが、最近、女の子が主人公の映画が多いですねー。

 

 

ロッタちゃん、めっちゃおとなになってる。

 

 

今月観たビクトル・エリセ監督の2本の過去作も主人公は女の子だったから、なんか女の子の映画ばっか観てる。たまには男の子の映画も観たいのだけれど^_^;

 

『コット~』の初めの方で、コットがベッドの下に隠れるシーンは、同じような場面がエリセ監督の『エル・スール』にもあった。わざと姿を隠して親が捜しにくるのをずっと待っている、そういう子どもの心理は自分の幼少期などを思い返すとよくわかる。

 

主人公の女の子が車窓から外を眺める、というのは、1月に観た『ミツバチと私』でもあったな。あちらも主人公の少女の、親以外のおとなとの出会いが描かれていた(なんとなくあの映画に雰囲気が似ていたから観るのを後回しにしてしまった、というのもある)。

 

本作品は、去年の第95回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたのだそうで。

 

舞台はアイルランドで、TVやラジオから流れてくるのは英語だけど、コットたちが話すのはアイルランド語なんでしょうかね。父親のダンは英語っぽい言葉も喋ってたし、あちらの人たちは英語とアイルランド語の二か国語を使うのかな。

 

コットはまるでお人形さんのように美しい顔をしているけれど、映画の中で彼女はいつも伏し目がちで笑顔も少ない。

 

 

 

 

学校でも家の中でも居場所がなくて、ついに父によって親戚の夫婦のもとに預けられる。

 

父・ダン(マイケル・パトリック)が車に乗せた女性が後部座席のコットを見て「どの娘?」みたいなことを尋ねていて、ちょっと人物関係がよくわからなかったんですが、この女性の親戚であるキンセラ家のアイリンとショーンがコットを出迎える。

 

まぁ、このダンが自分で子どもこさえといてその子どもをお荷物扱いするわ、アイリンとショーンに礼も言わずコットの着替えの服も渡さずにとっとと帰ってしまうわで、なかなかのクズ親父なんですが。

 

母親がお産で大変だし子どもも多いから、ということなんだろうけど、このふてぶてしい父親の態度がなんとも解せなかった。何様なのかと。

 

人を雇うお金がないから牧草を刈れない、とコットが語っていたように経済的に苦しいんだろうけど、ダンは競馬で自分の牛を賭けて失ったりしていて、人間としてかなり最底辺にいるっぽいのがわかる。

 

 

 

アイリンは男物の服をコットに着せるが、なぜ彼女にぴったりの大きさの男の子の服があるのかはあとでわかる。

 

牛を育てて乳を売っているショーンはダンほど酷くはないが、あちらの男性たちの気質なのか、それともたまたまダンやショーンがそうなのかわからないけれど、けっして愛想のいい方ではなく、最初のうちはしばらくコットとろくに口もきかない。

 

それでも、徐々に二人の間に交流が生まれて、コットは牛小屋の掃除などを手伝うようになる。

 

 

 

 

アイリンはコットのために心を砕き、ショーンもまたコットに服を買ってやり小遣いを渡して甘えさせる。

 

僕はこの映画の舞台となる時代を把握していなかったんですが、1981年だったんですね。

 

建物がどれも古びているし、TV番組も昔のものっぽかったから現在ではないのかな、とも思ったけれど、意外と時代は感じさせなかった。

 

コットをまるで我が子のように大切に扱い、居場所がなかった彼女に安らげる生活を提供したキンセラ家の夫婦がいる一方で、彼らの近所の知人宅で不幸があって一緒に参列した葬儀のあとでコットを一時預かった女性は、コットにアイリンたちのことを根掘り葉掘り聞いてきて、会ったばかりの彼女に「バカな子ね」「なんて鈍い子なの」などと悪態をつく。

 

コットが買ってもらった黄色い服をバカにしたり、息子の死の原因になったかもしれない飼い犬を殺せなかったショーンのことをこれも口汚く罵る。一体、このおばさんはキンセラ家になんの恨みがあるんだろうか。

 

ようやくその女性の家に着くともう夜も更けていて(どんだけ歩いたの?)、疲れた表情の老婆や姉弟喧嘩している子どもたちがいる。

 

そこにショーンとアイリンが車でやってきて、コットを連れて帰る。

 

…なんのためにこのおばさんはコットを預かろうとしたのかよくわかんなかったんだけど(そしてアイリンたちはどうして彼女に頼んだのか)、あの辺に住んでるのが単純に善良な人たちだけではない、ということはよくわかった。

 

邦題に「はじまりの夏」とあるし、学校が始まるから実家に呼び戻されることからも、コットがキンセラ家に滞在していたのは夏の間なんだろうけど、ダンが「今日は暑いな」と言ってたわりにはコットもみんなも長袖を着てたりするし(作業用だからでしょうが)、でも、風邪を引いたコットに半袖の服を着せてたり、若干季節感がよくわかんないところはあった。

 

意外とあっという間にひと夏が過ぎちゃったような印象だったし。

 

でも、青々とした草やキンセラ家の前の木立の道などが目に美しくて、その中でショーンに促されてポストに駆けていくコットが見せるあの笑顔はまぶしい。

 

 

 

 

コットは普段は無口だが、ショーンが子牛に粉ミルクを与えていると「人間が粉ミルクを飲んで、子牛には母乳を飲ませるべきよ」と言う。自分の意見をしっかり持っている子だということがわかる。

 

ショーンは、コットの無口なところを長所として認めて、「沈黙」の大切さを語る(この映画の英題は“The Quiet Girl”)。「沈黙」を破ったために失うものがたくさんある、と。

 

それは、余計なことばかり矢継ぎ早に質問してきてアイリンとショーンの息子のことまでコットにベラベラと喋ったあの女性のことでもある。

 

アイリンは「この家に秘密はない」と言っていた。息子の死は別に秘密ではなかったが、誰だって思い出したくないことはある。

 

だけど、けっして彼女は忘れることなどできないだろう。だから、ああやって息子の服をそのままに残していた。「私があなたの親だったら、人に預けたりしない」とアイリンはコットに言う。

 

これは、子どもの存在をしっかりと受け止めて、「気に留められている」「大切にされている」「愛されている」と彼らが実感できることの重要さと、おとなたちの責任について語った物語でもある。

 

子牛には母乳を、と言っていたコットだが、その彼女に「肌にいい」とアイリンが飲ませたあの井戸の水は、コットにとっては母乳のようなものだったのではないか。

 

実の母にもいろんな苦労や、彼女なりの娘への愛はあるだろう。

 

アイリンが語ったように、たとえコットがずっとキンセラ家にいることを望んでも、現実には難しい。簡単に「はい、どーぞ」などとはいかないだろう。

 

それでも、お別れしたあとでショーンたちの乗った車を追いかけて、コットが抱きついて「パパ」と呼んだ相手が誰だったのか、本当に必要とされるのはどういうおとななのか、この映画は観る者にそれを訴えている。

 

 

 

 

関連記事

『ロッタちゃん はじめてのおつかい』『ロッタちゃんと赤いじてんしゃ』

「アンという名の少女2」

 

 

 

 

落下の解剖学

 

こちらはまた後日感想を投稿しますね。

 

 

旧作

 

リバー・ランズ・スルー・イット(午前十時の映画祭13)

 

ミツバチのささやき(※以前書いた感想です)

 

キング・コング (1933年版)

 

エル・スール

 

スケアクロウ(午前十時の映画祭13)

 

 

今月はビクトル・エリセ監督の旧作と新作合わせて3本を観ました。

 

その1本1本が貴重な監督さんですね。

 

『キング・コング』は映画館でではないですが、一応、スクリーンで観た、ということで。

 

さて、4月5日(金) から始まる「午前十時の映画祭14」の上映ラインナップが発表されました。

 

 

 

 

去年の「ジュラシック・パーク」シリーズに続いて、今年は「インディ・ジョーンズ」三部作(4作目の『クリスタル・スカルの王国』は無視!w)が上映されます。絶対観たい!♪

 

そしてジョージ・ミラー監督の最新作『フュリオサ』公開に合わせてメル・ギブソン主演の「マッドマックス」シリーズの1作目と2作目が(3作目の『サンダードーム』は無視!w)。

 

東宝特撮シリーズからは、『妖星ゴラス』と『海底軍艦』!!

 

他にも観逃せない作品がいっぱい。

 

そして来月も観たい新作旧作が目白押し。いっぱい過ぎて選ぶのが大変。

 

暖かくなったりまた寒くなったりで体調を崩している人も多いかと思いますが、もう春は目の前です。

 

正直なところ、個人的にはもうちょっと長く寒い時期が続いてもいいのになぁ、と思ってますが(大変な思いをされている寒い地域の皆さんには本当に申し訳ありませんが)。明らかに昔に比べて“冬”が短くなっている。

 

でも、春には植物も目に楽しくなってくるし、これで花粉さえ飛ばなければ言うことないんですが^_^;

 

新しい年度まであとひと月ですね。

 

明るいニュースが増えますように。

 

 

↑もう一つのブログでも映画の感想等を書いています♪

 

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