7月に観た新作映画は3本、旧作が3本でした。
リバー、流れないでよ
山口淳太監督、藤谷理子、鳥越裕貴(料理人見習い)、永野宗典(番頭)、酒井善史(板前)、早織(仲居)、諏訪雅(二人連れの客1)、石田剛太(二人連れの客2)、中川晴樹(作家の担当編集者)、角田貴志(料理長)、久保史緒里(旅行者)、本上まなみ、近藤芳正ほか出演。
京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で仲居として働くミコトは、別館裏の貴船川のほとりにたたずんでいたところを女将に呼ばれ、仕事へと戻る。だが2分後、なぜか先ほどと同じ場所に立っていた。そしてミコトだけでなく、番頭や仲居、料理人、宿泊客たちもみな、同じ時間がループしていることに気づく。(映画.comより転載)
この映画がお好きなかたは不愉快になると思いますから、どうぞ飛ばしてやってください。
公開が始まったのは6月ですが、なかなか時間が合わず、7月も後半になってからようやく鑑賞。
世間ではとても評判がよかったようで、僕が住んでるところでは少し前に上映は終了しましたが、それでも約ひと月やってたってことはその人気の高さがうかがえます。
同じ2分間が延々とループしてしまう現象に見舞われた旅館の仲居と周囲の人々のドタバタを描く、要するに「ループもの」の一種で、去年観た『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を思わせますが、限られた登場人物たちによる、ある限定された空間を舞台にしたコメディタッチの小劇場演劇っぽい映画、という共通点以上に、なんらかの理由で同じ時間が繰り返されて、それに翻弄されながらもなんとかもとの状態に戻そうと奮闘する主人公たちを描いている、ということではどちらもとてもよく似た発想で作られた映画といえる。
『リバー』の脚本を担当したのは、舞台版『サマータイムマシン・ブルース』の原作者で映画版の脚本も務めた上田誠さんということで、この映画も彼が主宰する劇団・企画集団「ヨーロッパ企画」によるもの。
さて、僕は『MONDAYS』については、多くのかたがたが褒めちぎっているほど脚本が「素晴らしい」とは思わなかった、というような感想を書いたんですが、それでも楽しみはしたんですよね。観終わって、ちょっとした至福感を味わいもしましたし。
だから、今回もたとえ評判ほどには感じられなくても『MONDAYS』の時と同様に、観終わってある程度の満足感が得られればそれでいいな、と思っていたのです。
もちろん、こちらの期待を大幅に上回るような面白い映画だったら嬉しいし。
…う~ん、だけど。
冒頭からしばらく同じ時間が何度も何度も繰り返されるとだんだん飽きてきて、もういいぞ、と思った頃に主人公の仲居さん・ミコト(藤谷理子)がなんとかループから脱しようとしだすところはその後の展開が気になって集中して観ていられたんですが、ミコトが想いを寄せていた旅館の料理人見習いのタク(鳥越裕貴)と二人で旅館を逃げ出そうとするあたりから、観ていてだんだん気分が悪くなってきてしまって。
比喩ではなくて、ほんとに具合が悪くなってきた。座席で横になりたくなっちゃって。『MONDAYS』と同じく80分ちょっとの映画にもかかわらず。
夏バテ気味だったんだろうか。…でも、観終わったら平気になったんだけど。「ループ酔い」?^_^;
この前観た『ミッション:インポッシブル』の最新作なんて160分あったけど、ピンピンしてたからね。
なんだろう、面白くないと感じたら身体が拒絶反応を示すようになったのか。
これ、どこがそんなに素晴らしい脚本なのだろうか。
『MONDAYS』の時以上に、ちまたで褒められてる理由がわからない。
なぜ料理旅館が舞台でなければならなかったのかは、一応最後にその理由付けみたいなことはしている。
連載中の小説の続きに行き詰まっていた作家が、試しに自分で死んでみたことで伴侶をなくした者の視点で書く、という答えを得たりもする。
ところどころ、地元民っぽい、あるいは旅館で働く人々のリアリティを感じさせるような台詞のやりとりもあるのだけれど、やがて深夜にやってるコントドラマみたいなお話になっていく。
雪が降る情緒溢れる京都の老舗旅館とSF的な要素という一見ミスマッチな組み合わせに意外性と面白さを感じる、というのはわからなくもないんだけど、まず『MONDAYS』でも思ったんだけど、“コメディタッチ”ではありつつも実はそんなに笑えるところはなくて、奇妙な現象に右往左往する人々の様子を出演者たちが演劇的なオーヴァーアクト(大仰な芝居)で演じる。
すべてのシーンが、とは言わないけれど、この役者陣のオーヴァーアクトが僕はちょっとしんどくて。
どうやら「推し活」をやってるらしい仲居のチノさんのいちいちオーヴァーなリアクションに思わずイラッとしたりも。
チノ役の早織さんって、『百円の恋』で安藤サクラさんの妹を演じてた人なんですね。全然気づかなかった。
『百円の恋』での早織さんの演技はよかったから俳優の演技力の問題ではなくて、これは脚本があまり面白くないからではないか。台詞がイマイチなんですよね。登場人物たちの台詞のやりとりで笑わせてほしいのに台詞の中身がわりとスカスカなので、状況を説明したり、全員がいちいち大袈裟に慌てふためいたりしてるだけで(湯上がりの半裸のままでウロウロする編集者もしつこ過ぎるし)「世にも奇妙な物語」で30分以内に収められそうな話を80分かけてダラダラとやっている。
「世界線」とか「能力」とか、いかにもアニメやら小劇場のお芝居で使われそうな単語が登場人物たちの口から何度も何度も当たり前みたいに出てくるのにも抵抗が。
「リバー、流れないでよ」や「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」ってタイトルも、いかにも小劇場の芝居っぽいもんな。好きじゃないんだ、こういうあざといタイトル。目立たないと埋もれてしまう!という必死さと作り手の作品に対する自意識が滲み出てるよーで。
あと、ご本人には失礼だし、ファンの人にも申し訳ないですが、主演のかたの鼻にかかったようなアニメ声が苦手で。普通にもうちょっと腹から声出した方がいいと思う。
同じ時間を繰り返してるはずなのにループのたびに雪が降ってたり道に積もってたり空が思いきり晴れてたりするのは「世界線(※僕はこの言葉が嫌い。だいたい“世界線”というのはもともとまったく違う意味の物理学用語。まぁそんなこと言ったら時系列だの時間軸だの世界観といった言葉だって僕らが普段使ってるのは本来の意味とは違うのだが)」がどーたらこーたらと後付けで説明してたけど、演劇だとかアニメなら通用するだろうお話を実写の映画で無理やりやろうとするからチグハグになるんだよな。
映画の冒頭で神社にお参りにきていて、途中で「車のタイヤが凍結してしまった」と旅館に助けを求めてくる若い女性が一連の“ループ”となんらかのかかわりがあるのだろうことは予測できるから、その後もミコトが自分のせいだと思い込んでワチャワチャやってるのがじれったくてしょうがない。
タイムパトロールだかなんだか機密のために詳しい事情は話せない、という、未来から樽みたいな装置に乗ってやってきたらしいこの女性を、なんの疑いもなく信じてお土産まで持たせて見送る旅館の人たち。ほっこりします?
…もう一度尋ねるけど、この脚本のどこがそんなに見事なの?
1本の長篇映画として観るに堪えなかった。
上映時間が80分台だからなんとか持ちこたえたけど、もしもこの映画が2時間ぐらいあったら途中退出してたかもしれない。
どうでもいいけど、近くで車が動かなくて困ってる女性を「私たちに言われても」みたいにほっとく旅館の従業員たちってどうなんだろ。電話して誰か呼んでやるぐらいしたらどうなのか。
終盤近くでミコトがタクと一緒に逃げ出すくだりでは、この主人公の女性の考えてることがわかんなくなってきてどんどん関心が薄れていったのだった。
だって、あの時点ではミコトは自分の“お祈り”のせいで2分間ループが続いていると思ってたわけでしょう。
なのに、旅館の他の人たちを置いたまま車で逃げようとする、ってなんなの?
どうせ2分経てばもとに戻ってしまうんだから遊んでるだけなんだろうけど、あの一連の無駄な動きがほんとに苛立たしかった。
だいたいさぁ、1階と2階で互いにあんな大声あげて喋ってたら他の人に丸聞こえなのはアホでもわかるでしょうに。あそこだけ舞台劇みたいなんだよなぁ。無理があり過ぎ。お前らが惚れ合ってようがなんだろうが、どーでもいいから!雪の中のバカップルのおふざけになんで付き合わされなければならんのだ。
何事も起こらない平穏な日々に飽き足らず、旅館を出てフレンチの修行をしたいと思っているタクと、彼と離ればなれになるのがツラいミコト、というのは、今現在、進路や恋愛のことで悩んでいたり、今、この大切なひとときについていろんな想いを抱いている人たちにとっては共感できるものなのかもしれない。
あの雪の中での若い男女のくだらない戯れに「せつなさ」を感じた人もいるかもしれない。
でも、残念ながら僕はこの映画はハッキリ「面白くない」と思いました。
さっき述べたように、もしもこの作品が「世にも奇妙な物語」の中の1篇としてもっと短めにまとめられていたり、深夜にたまたまつけたTVでやってたりしたのなら、サラッと楽しめたかもしれない。
比較対象として、同様に「ループもの」で僕が「面白かった」と感じた映画『パーム・スプリングス』の感想を挙げておきます。まだご覧になっていなければ、ぜひ。
また、厳密には「ループもの」と言えるかどうかわかりませんが、劇中で主人公が何度も同じ過去の地点へ戻ってやり直すという展開がある『アバウト・タイム~愛おしい時間について~』もお薦め。
笑えて、ちょっとじんわりくる映画は僕も嫌いじゃないんです。
だからこそ、この『リバー』ももっともっと面白くできたんじゃないだろうか。
「面白い映画」って、もっとずっと面白いだろうと僕は思います。
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旧作
ラヴ・ストリームス(ジョン・カサヴェテス レトロスペクティヴ リプリーズ)
バックドラフト(午前十時の映画祭13)
タワーリング・インフェルノ(午前十時の映画祭13)
ようやく7月も終了。でも暑さはこれからさらに本格的に。
引き続き、熱中症に気をつけたいですね。
すでに夏休み映画はあらかた観ちゃった感じだし(『ザ・フラッシュ』が夏休み期間前に上映が終わってしまったのはほんとにもったいない)、8月はできればお休みの日にはなるべく外出を控えたいですが。
今年は、3月と今月7月に老舗のミニシアターが2館も閉館となってショックを受けています。
いえ、偉そうに語れるほど通いつめてたわけじゃないですが、でも思い出のある場所がなくなったり、貴重な映画の数々を上映してくれる場所がなくなってしまうのはなんとも寂しい。
映画館に行って帰ってくるまでが「映画鑑賞」ですから、単純にその数が減るのは残念です。
ところで、定期的にお断わりしていますが、このブログでは映画の感想ではなるべく自分が感じたことをそのまま書き残そうと思っています。
ブログ記事を読んでくださって「いいね」やコメントをしていただくととても励みになりますし、一応、読んでくださるかたのことを最低限意識して書いてはいますが、中には批判的な内容の文章もありますし(今回の記事の中にもありますが)、それで傷つかれたり不快な思いをされるかたがいらっしゃることも自覚はしています。挑発的で上から目線な表現だと感じられるかたもいらっしゃるかもしれません。
それでも、僕は自分のブログで自分が感じたこと、考えたことを書く自由があると思っているので、作品を観て不満を感じたり腹が立ったのなら、どこがどう不満で腹が立ったのか書き残したいのです。読んでくれている人に気を遣って表現を穏当なものにすれば、自分の意見を抑えることになりますから。それではなんのためにブログをやってるんだかわからなくなってしまう。
このブログの記事をリブログしたり引用するのはどなたでもご自由にしていただいて結構ですが、僕がここで何を書こうと自由(もちろん限度はありますが)なように、他のかたがたが僕のブログ記事にどのような意見を持たれて外部でそれを述べられるのも自由ですから、今後はこちらからそれらの反応に対する返答やコメントなどは控えさせていただきます。皆さんの意見の交換の道具として用いていただければ幸いです。
それから、ブログ記事をちゃんと読んでくださればわかりますが、僕は別に「批判」ばかりしているわけではありませんので。作品の素晴らしさについて書いている感想もたくさんあります。批判ばかりに目を向けられるのは不本意ですね。
感想へのご意見はコメントで承っていますが、以前は通りすがりの人たちによる感情に任せた暴言や意味不明なもの、延々カラみ続けてくる粘着コメントなどが多かったので、アメブロのアカウントをお持ちのかたに限らせていただきました。
おかげさまで最近はコメント欄が快適です。
そんなわけで、長々と書いてきましたが、皆様、今後ともどうぞよろしくお付き合いのほどを。