ショーン・ベイカー監督、サイモン・レックス、スザンナ・サン、ブリー・エルロッド、ブレンダ・ダイス、ジュディ・ヒル(リオンドリア)、イーサン・ダーボーン Ethan Darbone(ロニー)、ブリトニー・ロドリゲス(ジューン)、マーロン・ランバート(エルネスト)、ツォウ・シンチン(ファン店長)ほか出演の『レッド・ロケット』。2021年作品。R18+。
2016年のアメリカ、テキサス。元ポルノスターでいまは落ちぶれて無一文のマイキー(サイモン・レックス)は、故郷である同地に舞い戻ってくる。そこに暮らす別居中の妻レクシー(ブリー・エルロッド)と義母リル(ブレンダ・ダイス)に嫌われながらも、なんとか彼女たちの家に転がり込んだが、長らく留守にしていた故郷に仕事はなく、昔のつてでマリファナを売りながら生計を立てている。そんなある日、ドーナツ店で働くひとりの少女“ストロベリー”(スザンナ・サン)との出会いをきっかけに、マイキーは再起を夢みるようになるのだが──。(映画.comのあらすじに一部加筆)
『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』のショーン・ベイカー監督の2021年の作品。
『フロリダ・プロジェクト』はとてもよかったから、同じ監督のその次のこの映画も気になってました。
元ポルノ男優が主人公でR18+(18歳以上鑑賞可)というと…やはり期待予想していた通りのポロリが。もちろん男性のが、ですが。
『ミッドサマー』R18+版もそうだったけど、18禁映画でのお宝のモロ見え度の高さよ。
終盤での“フルチン競歩”はほんとに反則で、画面の中で正面向いてフルフルッと揺れ続ける立派な珍古(タイトルの“レッド・ロケット”とはおっ勃った犬のペニスのことなのだとか)に客席で肩が震えてしまったw
安心してください、脱いでますよ!
去年「午前十時の映画祭」で観た『ディア・ハンター』のデ・ニーロのフルチン全力疾走といい、やはり今年の「午前十時の映画祭」でも『フィッシャー・キング』で全裸で踊るロビン・ウィリアムズなど、定期的にスクリーンでおっさんの裸やブツを見てる気がする(他にもまだあった気がするけど忘れた)。
上映時間が130分ということなんで観る前は「ちょっと長くないか」と思ったんですが、観始めたらまったく退屈しないどころか、『フロリダ・プロジェクト』同様に満足感がありました。
…といってもR18で下半身がらみのお話だし、主人公が「クズ」過ぎるので観ていてムカムカして「時間の無駄」だったと感じる人もいるようで、そういう意味では観る人を選ぶ作品だとは思います。
僕も、普段はクズい人のお話とかあまり食指が動かない方なんですが、やはりけっして褒められたものではない生活を送る若い女性とその幼い娘を描いた『フロリダ・プロジェクト』の監督さんの作品だから、というのは確実にあった。
今回は主人公は男性だし、前作以上にわりと同情の余地がない人物なので^_^;観ていて腹を立てる人がいるのも無理はないですけどね。『フロリダ・プロジェクト』は最後に泣けたけど、そういう胸を打たれるようなカタルシスはないから(何しろ揺れるチン○がクライマックスですからw)。
ただ、やはりこれは演じているサイモン・レックスが全身から醸し出す陽気な雰囲気(それは同時に軽薄、ということでもあるが)とショーン・ベイカー監督がクリス・バーゴッチと共同で書いた脚本が見事なので、「うわー、こいつクズ」と思いながらも最後までしっかり観ちゃったし、主人公のマイキーのことも嫌いになれなかった。
これはポルノ版『男はつらいよ』なんではないか(笑)
コメディとまではいかないけれど(人によっては充分コメディでしょうが)、全体的にユーモアが漂っていて殺伐とし過ぎていない。
時々、ガチョーンガチョーンって昔の香港映画みたいなズームになるのが可笑しい。
正直、僕は『男はつらいよ』はそんなに好きじゃないし、それこそ観ていて主人公の寅さんにイライラさせられちゃったりするんだけど、この『レッド・ロケット』は「寅さん」みたいに“人情”でホロリとさせて…みたいなんじゃなくて、途中で人の情は描かれはしても、最後にちゃぶ台返しみたいに全部ひっくり返すんだよね。
絶対にただ「イイ話」で終わらせない。そこがいい。
登場人物たち全員が「こういう人たちはいるかもしれない」と思わせるし、誰かを完全な「悪」みたいに描いてもいない。
先月観た『ザ・ホエール』でも、主人公をはじめ、みんなどこか欠けていたりダメだったり、でも憎めないところもあったりする。この映画でも同じことを描いているようにも思えたんですよね。いや、少なくともマイキーは間違いなくクズなんだけど。
結末は主人公がまた無一文に戻って、でもお相手の新しい女の子がいて、という、それはマイキーが若い頃にこの故郷を出た時と同じような状況になる。成長もしないし、反省もしない主人公。
そもそも40代の男が17歳の少女とどうこうって、ダメじゃん。犯罪だろ。
何がクズ、何がサイテーって、マイキーはストロベリーというニックネーム(本名も言ってた気がするけど忘れた)の少女をポルノスターとして売り出して、自分もそれで復帰しようと目論んでいること。要は金づるをみつけたわけで。
ストロベリーはドーナツ屋でバイトする高校生だけど性的には奔放で、最初に声をかけたのはマイキーではあるが、ストロベリーは彼に興味を持ち出すとセックスに関してまったく物怖じしないばかりか、セフレだった同級生の男子をあっさりフって彼女の方から積極的にマイキーを誘う。
まぁ、そういう「資質」を彼女に見出したからこそマイキーは「彼女はイケる」と見込んだんだろうけど。
また、ストロベリーはマイキーが元ポルノ男優であったこともさっさと調べ上げて、それでもなお彼との付き合いをやめようとはしない。
のちのち、彼女は彼女で故郷を出ていくきっかけを待っていたのかもしれない、と気づかされる。ストロベリーには彼女なりの算段があってマイキーの申し出に乗っかったんだろう。
僕はそのあたりの仕組みをよく知らないので不思議なんですが、法律的には18歳からポルノ、つまりAVに出てもいいことになってるの?でも酒は飲んじゃダメだったり、女の人がポールダンスやってるお店にも入っちゃいけないことになってたり、どういう基準なんだろ。
ストロベリーを演じるスザンナ・サンは監督が映画館でスカウトしたそうなんだけど、なんかやってることがマイキーと同じではないか^_^; いや、もちろん、スザンナ・サンさんご本人は撮影時の時点で成人してますが(1995年生まれ)。
声が高めですごく幼く見えるんですよね。
だから、そんな彼女が劇中であんなことやこんなことをやってるのが映し出されると、観ていて勝手にハラハラしてしまった。
映画初出演とは思えない大胆さ。おっぱいも普通に出してるし。
この映画が18禁なのは、サイモン・レックスの“レッド・ロケット”がボカシ無しで映ってるのと、あとは二人が繋がってる場面でボカシを入れてないからでしょうね(映倫の規定でそう決まってる。別にスザンナ・サンのナニが写ってるわけではない)。…あ、もしかしたら全裸じゃなかったからかも。
こういう映画はボカシ入れて無理にR15+なんかにするよりも、無意味な修正などせずに今回のように18禁で上映すればいいんだよね。
だいたい、この映画はフルチン競歩がバッチリ見えなければ面白さがわからないんだから。『ミッドサマー』も、男のアレにボカシ入ってるヴァージョン(僕は観てないが)だったらあの場面の可笑しさは観客に伝わらなかったと思う。
なんかさっきから下半身の話しかしていませんが、最初に書いたように登場人物たちの描写、役者たちの演技がお見事だったから、彼らを見てるだけで面白かったんですよね。
マイキーの妻・レクシー役のブリー・エルロッドは田舎で母親と暮らす中年女性をほとんどノーメイクで演じているけど、ほんとにああいう人に見えるし、母親・リル役のブレンダ・ダイスとは実の親子に見える。
『フロリダ・プロジェクト』でもそうだったけど、誰がプロの俳優で誰が現地で起用した素人なのかわからない。
ブリー・エルロッドさんは舞台で活躍している女優さんだそうですが。
左から、ブリー・エルロッド、ショーン・ベイカー監督、スザンナ・サン、サイモン・レックス、ブリトニー・ロドリゲス
レクシーの家の隣りに住んでいて、帰ってきたマイキーといっときツルむことになるロニー役の彼(イーサン・ダーボーン)も、普段からああいう髭してるみたいですね。
あと、マイキーの高校時代の同級生・エルネスト(マーロン・ランバート)や、その母でリルたちとも親しいアフリカ系の女性・リオンドリアを演じてるジュディ・ヒルも、僕は劇場パンフを買っていないので彼ら出演者のプロフィールがわかんないんですが、みんな巧いなぁ、って。
ずっと不機嫌そうな憮然とした表情で、マイキーだけでなく兄のエルネストにまでキツめの言葉を発するジューン役のブリトニー・ロドリゲスが妙に気になった。
ちょっと目許が若い頃の吉野公佳に似てるなぁ、って(伝わるだろーか^_^;)。
かっこいいおねえさんだよなぁ。他に出演作品はないのかなぁ。
やさぐれているようで、でも誰もが人間臭くもある。
リルは娘のレクシーのことを大切にしていて、今後二度と身体を売るようなことはさせたくない、とマイキーに言うし、レクシーは取り上げられてしまった幼い息子の親権を取り戻したいと思っている(ちゃんと説明されないので確信がないけど、写真の息子はアジア系っぽかったから、マイキーとの子ではなくて別の男性との間の子どもだろうか)。
だから、マイキーさえその気なら母娘二人ともあらためて彼を再び受け入れる気でいる。
そんな彼女たちが、マイキーが金を持って出ていくと知るや、どんな行動をとったか。
おそらくレクシーはかつてマイキーにそそのかされてポルノ女優になったが、クスリに溺れて落ちぶれて実家に帰った。
マイキーは彼女にしたのと同じことを、今度はストロベリーにしようとしている。
また、リルとレクシーの親子と親しいリオンドリアは面倒見のよさそうな女性だが、マリファナの密売の元締めのようなことをやってるし、息子や娘たちも彼女の命令に従う一家のボスでもある。
一人の人間の中にいろんな面がある。
マイキーはストロベリーがいかにポルノ女優としての素質があるかを語り、まるで彼女が「複数プレイ」が好きな女性のように決めつけているんだけど、実際にはストロベリーは相手は一人だけがいいと言うし、またマイキーの前で見事な腕前で楽器を弾いて上手に歌を唄う。それを聴いていたマイキーの戸惑い気味の表情が面白い。
ストロベリーが、自分が考えていたのとは違う面を持っていることに意外性を感じているんですね。
マイキーは女性の「1300人斬り」をやった、とロニーの前で豪語して、自分は女のことはよくわかってる、みたいに得意げに話すんだけど、彼はストロベリーのことを全然わかっていないし、レクシーのことだってわかっていなかったんだろう。
やっぱり寅さんみたいだよなw
じゃあ、ロニーは舎弟の登か、それとも寺男の源公か。
悲惨な話ではあるんだけれど、人は死なないし(ロニーの起こした事故でも死者は出ていない模様)、どうしようもなく愚かな男を描きながら、やっぱりどこかで人間への愛おしさも感じるような撮り方をしてるんですね。
そして、しょーもない話のようでいて、舞台となっている時代は2016年、ドナルド・トランプ(彼が演説するところもTVに映っている)が大統領になる直前で、なぜこういう人々を映画の中で取り上げるのか、ちゃんと意味が込められていることがわかる。
『フロリダ・プロジェクト』がそうだったように、これはアメリカを描いた映画だし、つまり「今」に繋がるお話でもあるんだよな。
『フロリダ・プロジェクト』にも登場したような、カラフルな色とりどりの壁の家々がここでも映し出されていた。あれはほんとにああいう色を塗ってあるんですね。
明るい色彩、ユーモア。
その奥に暗さが隠れている。
ショーン・ベイカー監督の次回作もぜひ観たいです。
誰にでもお薦めできる作品ではありませんが、僕はこの映画、今年観た映画の中で結構好きですね。
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