バズ・プーンピリヤ監督、トー・タナポップ、アイス・ナッタラット、ヴィオーレット・ウォーティア、ラター・ポーガーム、オークベーブ・チュティモン、ヌン・シラパン、プローイ・ホーワン、タネート・ワラークンヌクロほか出演の『プアン/友だちと呼ばせて』。2021年作品。PG12。

 

ニューヨークでバーを経営するタイ出身のボス(トー・タナポップ)は、バンコクで暮らす友人ウード(アイス・ナッタラット)から数年ぶりに電話を受ける。ウードは白血病で余命宣告を受けており、ボスに最後の願いを聞いてほしいと話す。バンコクへ駆けつけたボスが頼まれたのは、ウードが元恋人たちを訪ねる旅の運転手だった。カーステレオから流れる思い出の曲が、かつて2人が親友だった頃の記憶をよみがえらせていく。そして旅が終わりに近づいた時、ウードはボスにある秘密を打ち明ける。

(映画.comより転載)

 

ネタバレがありますので、これからご覧になるかたはご注意ください。

 

ウォン・カーウァイ監督の過去作5本が4Kリマスター版で8/19からリヴァイヴァル上映されているんですが(僕が住んでるところではひと月以上遅れての上映になりますが)、僕はウォン監督の映画の中でも特に評価が高い作品(『ブエノスアイレス』『花様年華』)を観ていなくて、まだタイムテーブルが出るまではわからないけれど時間の都合がつけば観たいなぁと思っています。

 

最新作があるわけでもないのになんでこのタイミングでリヴァイヴァル上映なんだろうと思ったんだけど、このタイ映画『プアン/友だちと呼ばせて』を彼がプロデュースしているということで、あぁ、それに絡めてたりするのかな、と。

 

観てみたら、ウォン・カーウァイの映画のようなテイストも感じなくはなかったけれど、彼の作品ほどキャメラが自己主張はしないし、とても観やすかった。

 

主人公たちと一緒にタイを車で旅してるような気分になった。

 

ちなみに、邦題の『プアン』というのはタイ語で「友」という意味らしいけど、映画の中でそういう説明はないし、原題は『One for the Road』でこれは「帰りがけの一杯」みたいな意味だそうで、しかもラストシーンに繋がる言葉だからそのままこのタイトルにすりゃよかったのになぁ。『One for the Road/友へ』とかさ。

 

タイ映画は僕はひと頃トニー・ジャーやジージャーのアクション映画を観ていたぐらいで特に最近はご無沙汰気味だったんですが、去年の初めにナワポン・タムロンラタナリット監督の『ハッピー・オールド・イヤー』を観て、とても好きで昨年のマイ映画ランキングの2位にしたぐらいだったので(なんなら1位でもよかったぐらいで)、評判のいいこの映画にも興味をそそられたのでした。

 

 

僕はあいにくバズ・プーンピリヤ監督の『バッド・ジーニアス -危険な天才たち-』は観ていないんですが、『ハッピー・オールド・イヤー』で主演を務めていたオークベーブ・チュティモン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)はあの映画にも出ていて、今回の『プアン』にも主人公の一人、アイス・ナッタラット演じる白血病の青年ウードの元カノで女優のヌーナー役で出演しています。

 

 

 

 

出番は多くはないけれど、あっ、『ハッピー・オールド・イヤー』のあの人だ、と嬉しくなった。やっぱり巧いし。ウードと付き合ってた頃と現在の演じ分けもお見事でした。

 

この映画、主人公のボスとウードの元カノたちが何人も登場するけれど、演じている女優さんたちが皆さんほんとにいいんですよね。

 

ボスの“姉”タック役のラター・ポーガームも綺麗で貫禄もあってよかったし。どっかで見たことある人だなぁ、と思ってたら、トニー・ジャー主演の『マッハ!無限大』でセクシーな格好で闘ってた人だった。あぁ!あの綺麗でかっこいいお姉さん!(^o^)

 

 

 

そして、この映画のヒロインであるプリム役のヴィオーレット・ウォーティアはほんとに素晴らしかった。

 

年下のボスを元気づける時の笑顔や言い合いをしている時の泣き顔など、その表情の演技に見入ってしまった。彼女にだったら惚れるのも無理はないなぁ、と。

 

 

 

 

 

エンドクレジットで流れる歌もヴィオーレット・ウォーティアさんが唄ってるんだそうで。

 

 

死ぬ前に元カノたちに会いにいく、というのは、なんだ、リア充男の自己満足の話か?と思いながらはじめのうちは観ていたんだけど、これまで付き合った恋人たちに別れを告げて返せなかったものを返しにいく、というのは『ハッピー・オールド・イヤー』とも共通する物語だし、その途上でウードの自分勝手な行為は元カノたちやボスから指摘、批判されるので、『ハッピー~』の時と同様に残酷さと切なさがない交ぜになった物語にいつしか入り込んでしまっていた。

 

 

 

 

元カノのことで語り合える「友」がいるのはいいもんだね、とも思ったけど、それも終盤になるとその友情もどこか危うげな雰囲気に。

 

これまでにいろんな人を傷つけてきた。…その懺悔と、彼らのこれからの幸せを願って去っていく。

 

結局のところは自己満足かもしれない。

 

最初に会いにいったアリス(プローイ・ホーワン)はボスの説得でウードと再会したが、彼女も最初は「会いたくない」と言っていたようにおそらくはウードの元カノたちは全員彼とは良い別れ方をしていない。

 

 

 

ウードが前もって会う約束をしていたルン(ヌン・シラパン)は、電話で「夫とヨリが戻ったから今シンガポールにいる」と嘘を言う。そのことに気づいてウードに代わって問い詰めるボスに、彼女は「私の気持ちはどうでもいいの?」と答える。

 

かつてニューヨークでウードと付き合っていたヌーナーは、女優になった今、タイの撮影現場にやってきた元カレが差し出したオスカー像ならぬ「ウードスカー像」をはたき落として彼をひっぱたく。

 

思い出したくない過去もある。それをわざわざ思い出させることは残酷だし、自分勝手だ。それは『ハッピー~』で描かれていたことでもある。

 

ヌーナー役のオークベーブ・チュティモンさんが、今回は『ハッピー・オールド・イヤー』の主人公の役柄と立場が逆転しているのがちょっと面白かったですが。

 

『プアン』が好きなかたは、『ハッピー・オールド・イヤー』もぜひご覧になってみてはいかがでしょうか。

 

この映画はウードやボスの視点で描かれていて、元カノたちが何を考え悩み、そして彼らと別れるに至ったのかは詳しくは描かれない。元カノたちはウードが「元カノ巡礼の旅」をしていることを知らないわけだし、だから彼女たち側の視点で見れば、また全然違う話にもなるでしょうね。

 

ウードがずっとボスのカノジョだったプリムのことが好きだったというのも、ウードがいつの時点でプリムへの想いを吹っ切ったのかはわからないが、彼女と別れたボスと同じくプリムのことをずっと引きずっていたんなら、その後ウードが付き合った元カノたちにしてみれば失礼な話だ。

 

でもまぁ、そういうことはありますよね…。

 

プリムの、ウードを同じ店で働く「友だち」として見ている、同郷の友だちだからこそ頼る、でもウードの自分への好意は拒絶する、という態度は、男側からすればまるでこちらを弄んでいるように思えるかもしれないけれど、彼女の側からすれば男女関係なくただの友だちとしてしか見ていなかったわけで、恩を着せられてだから付き合えと言われたって承服できるものではない。

 

このあたりのウードの一方通行の恋がなんともキツかったですね。身に覚えがあるから。

 

プリムの、本人が無意識なのと意識しているその狭間の、つまり男側からはいくらでも魔性の女扱いできてしまいそうな、でも本人はただ昔から目指していたバーテンダーの道に進むために努力してきただけなのに、という、このズレ。

 

彼女はボスのことが好きだったが、でも姉(実は母)が結婚した金持ちの男性からの援助でニューヨークで贅沢な生活をしているボスは、その母からプリムが金をもらっていたことを知り、ふたりの間の愛がただの金のための偽りであったと思い込み、彼女を責めてその仲はこじれる。

 

プリムはバーテンダーになるため街を出るが、彼女に横恋慕するウードはボスに「プリムに新しいカレシができた」と嘘を言う。

 

ウードがボスを「元カノ」たちとの再会の旅の道連れに誘ったのは、過去のその嘘を告白して詫びるためだった。

 

…まぁ、なかなか罪深い男ですが^_^;

 

メロドラマ的だし、死を間近にした男が「友」に最後の罪滅ぼしをする…こんなこと現実にあるかなぁ?とも思うんですが、でもただ単にイケメンが自分に酔う映画じゃなくて、とても繊細な部分に触れていると思うんですよね。

 

ちょっと思い出しただけ』がそうだったように、「終わってしまった関係」に惹かれている自分がいる。

 

わりと冷めた感想も目にしますが、僕はこの映画とても好きだなぁ。

 

カクテルが飲みたくなりました(^o^)

 

 

関連記事

『ふたごのユーとミー 忘れられない夏』

『欲望の翼』『いますぐ抱きしめたい』

『恋する惑星』『天使の涙』

『エドワード・ヤンの恋愛時代』

 

 

 

 

 

↑もう一つのブログでも映画の感想等を書いています♪

 

にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ