ウォン・カーウァイ監督、トニー・レオン、レスリー・チャン、チャン・チェンほか出演の『ブエノスアイレス』。1997年作品。

 

激しく愛し合いながらも別れを繰り返してきたウィン(レスリー・チャン)とファイ(トニー・レオン)は関係を修復するためイグアスの滝へ向かうが、途中で道に迷って言い争い、そのままケンカ別れしてしまう。その後、ブエノスアイレスのタンゴバーでドアマンとして働いていたファイのアパートに、傷ついたウィンが転がり込んでくる。仕方なくウィンを居候させるファイだったが、ケガから回復したウィンはファイの留守中に出歩くように。そんな中、転職して中華料理店で働きはじめたファイは、同僚の青年チャン(チャン・チェン)と親しくなる。(映画.comより転載)

 

「WKW4K ウォン・カーウァイ4K 5作品」の中の1本、『ブエノスアイレス』。

 

 

こちらの作品は僕は観るのは今回が初めて。

 

当時、この映画の存在を知っていたかどうかもう覚えていないですが、知ってたとしても男性同士の同性愛カップルの話をあえて観にいこうと思ったかどうかはわからない。

 

96年に観た『楽園の瑕』でウォン・カーウァイ作品に関心を失ってから、その後2004年の『2046』まで彼の映画を観なかった。

 

今回も、こういう機会だからこそ観てみよう、という気になった。

 

トニー・レオンは最初にこの映画の出演オファーが来た時に、同性愛者の役を演じることに抵抗を感じて断わったそうだけど、なるほど、冒頭から濃厚な男性同士のベッドシーンがあって、彼が躊躇する気持ちもわからなくはなかった。

 

この映画は、その後のゲイを描いた映画に大きな影響を与えた、と言われているそうだけど、そちらの方面にまったく疎くて関心もないため「…あぁそうなんだ」という反応しかできないですが、この映画もまた多くのウォン・カーウァイ作品がそうであるように、過ぎ去った時や失われたものについての物語だから、その部分で感じ入るものはあった。

 

世の中には穏やかで優しいゲイのカップルだって大勢いらっしゃるだろうけれど、どうも映画などで目にするのはとても激しい愛の物語──嫉妬や暴力、セックスにまみれた関係が強調されることが多いような気がしていて、そのあたりでも個人的に敬遠する理由になっている。

 

1対1の濃密な愛憎関係、エキセントリックな恋愛模様など年々苦手になってきているので(人と一緒にいると体力いるじゃないですか。しんどいんだよね^_^;)、やれ誰が誰と寝ただの、浮気しただの、別れたかと思えばヨリを戻したりと、そういうことでワチャワチャしてる人たちに付き合ってられなくて。

 

で、基本的にはこの映画はそういうことを描いているんですが、カップルの一人を演じているレスリー・チャンが現実にすでにこの世にはいない(2003年死去)、という事実を知ってて観ると、それは初公開当時に観たのとは違う(僕は観ていませんが)映画を超えた感情を呼び覚ましもする。

 

って、僕はレスリー・チャンさんの映画をこれまでにほとんど観たことがないんですが。

 

ただ、僕が映画を意識して観だすようになった90年代頃、彼はいつも映画のポスターに映っていた。観てはいなくても、何本かの映画のタイトルを記憶している。

 

『男たちの挽歌』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『さらば、わが愛/覇王別姫』…。先ほどの『楽園の瑕』にも出ていた。

 

ファンが大勢いる歌手で映画スターで、今なお彼の死を悼む人々の多さに驚かされるし、だからこそ、この映画が愛され続ける理由もわかる気がする。

 

自分の感想よりもむしろ、人が語るこの映画の感想が味わい深い。

 

この映画でレスリー・チャン演じるウィンは未成熟なまま成長したような青年で、トニー・レオン演じるファイをわずらわせ、喧嘩してはそのたびに「もう一度、やり直そう」と言って彼のもとへ帰ってくる。

 

でも、やっぱり可愛いから(笑)元さやに戻っちゃったりして、その繰り返し。

 

男性でも女性でも、こういう人いるよな、と思う。

 

寂しいから求める。孤独を慰め合う。

 

 

 

恋愛のことはよくわからないけれど、なぜ誰かとともにいようとするのか。それは孤独を恐れてのことなんだろうと思う。もちろん、自分以外の誰かに対する好奇心もあるだろうけど。

 

ファイもファイで、嫉妬してウィンのパスポートを隠すとか、なんとも大人げない。

 

どこかで彼らは似ているんだろう。だから惹かれ合った。

 

 

この映画も音楽が印象深かったですね。

 

相変わらず音楽のこと全然わかんないですが、そんな僕でも耳に残る曲たち。

 

まぁ、『恋する惑星』もそうだったように同じ曲を何度も何度もしつこくかけるから、嫌でも耳に残るんだけど。

 

 

 

どうしてこの映画が特に女性に人気が高いのか不思議だったんだけど、多くの女性は(すべて、ではないでしょうが)人と人との関係に興味を持ってそこに「尊さ」を覚えたり萌えたりして感情が揺さぶられるのを楽しんでいるのかな、なんて。

 

くっついたり離れたり腐れ縁を続けるウィンとファイの姿、その関係がもどかしかったりじれったかったり、でも愛おしかったり。

 

料理、煙草、濡れた服。タンゴ。

 

イグアスの滝を見るために故郷の裏側にある国にやってきたふたりは、なんでもないようなことで二度と会うことはなくなる。この別れのあっけなさ。

 

 

 

 

何か、自分自身を傷つけずにはいられない衝動性、求めながらも破壊してしまう…これ、ちょっと間違えるとDVとかモラハラになってもいくんだろうけど。

 

見当違いのことを言ってたら申し訳ありませんが、実生活じゃこんなふうに激しく人と求めあったり突き放したり必死になれないから、映画の中で愛し合い喧嘩するカップルを見ていて、スクリーンの中にこそ「生」があるんじゃないかと錯覚したりする。

 

チャン・チェン演じる青年に、ファイは何を見たのだろう。

 

 

 

チャンの故郷・台北を訪ねて、その実家の屋台から彼の写真をくすねたファイの表情は清々しさに満ちている。

 

これは新しい出会いなのだろうか。ウィンとの永遠の別れなのだろうか。

 

「会いたいと思えば、いつでも会える」

 

それは現実にはかなわなくなったのだが、それでも想いはイグアスの滝に向かい、いつの日か再会の時が訪れるかもしれない。

 

人々に記憶され続ける存在となったレスリー・チャン=ウィンにスクリーンの中で会えてよかったです。

 

 

 

 

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