監督:プラッチャヤー・ピンゲーオ、アクション監督:パンナー・リットグライ、出演:トニー・ジャー“ジージャー”ヤーニン・ウィサミタナンRZAペットターイ・ウォンカムラオマレセ・クランプラター・ポーガームによるタイのアクション映画『マッハ!無限大』。2013年作品。



タイの小さな村で暮らすカーム(トニー・ジャー)は、弟同然の象“コーン”を動物密輸組織に奪われてしまう。コーンの行方を追ううちに警察や双子の姉妹ピンピン(ジージャー)とシューシュー(ティーラダ・キティシリプラサート)に追われることに。コーンを捕らえているのはLCRZA)が率いる犯罪組織だった。“カタナ国”との和平協定の調印式の警護のためにタイに来ていたインターポールのマーク(ペットターイ・ウォンカムラオ)も加わり、象を救出するための戦いが始まる。

ネタバレとかあるけどカンケーないので、皆さんこの映画を劇場で観ましょうよ(^o^)


2011年に観た『マッハ!参』以来のトニー・ジャー主演映画。

「マッハ!」シリーズ第2弾の『マッハ!弐』は映画館で観たけど、1作目『マッハ!!!!!!!!』みたいな痛快ムエタイ・アクションを期待してたら、なんとメル・ギブソン監督の『アポカリプト』みたいなぶち殺しまくりの残酷ヴァイオレンス映画だったのでビックリ。

いや、お好きなかたもいらっしゃるようですけど、僕が観たかったのはそういうタイプの映画じゃなかったので。

しかも映画はお話が途中で終わっちゃって「つづく」。

友だちと劇場の座席でエッと呆気にとられてしまった。

しかもその続篇の『マッハ!参』は劇場公開されずにDVDスルー(観ましたけど)。

なんかスゴい尻すぼみ感を残してトニー・ジャーは僕の前から姿を消したのだった。

その間に芸能界を引退して仏門に入ったりまた俳優に復帰したりとなんだか腰が定まらない様子で、今回の最新作もずいぶん前からその制作が報じられててしかも『チョコレート・ファイター』の主演“ジージャー”ことヤーニン・ウィサミタナンが共演ということなので物凄く楽しみにしていたんだけど、いっこうに日本で公開される気配がないので心配していました。というか、ごめんなさい、忘れてた。

だけどあれから4年、トニー・ジャーが帰ってきたーーーー!!!

ジージャーは2012年、この映画の撮影を終えてから結婚・出産して現在は仕事も再開しているそうだけど、日本ロケも予定されていた(※東日本大震災によって中断)待望の『チョコレート・ファイター2』はどうなったんだろう。

ともかく、僕はトニー・ジャーとジージャーの出演作を観ること自体かなり久しぶりなんで、また劇場の大きなスクリーンで彼らのアクションを観られたことがもう喜びで。

この映画、タイトルに「マッハ!」とあるけど、実は2005年(日本公開2006年)の『トム・ヤム・クン!』の続篇。



『トム・ヤム・クン!』は象を盗まれたトニー・ジャーがシドニーで大暴れ、彼が建物の中で階段を昇りながら敵をどんどん倒していく様子を背後からの長廻しで見せていく場面が印象的でした。あとクライマックスで“おねぇ”のボスキャラに高所で蹴りを入れてたっけ。敵の一人がカポエイラを使ったりしていた。

あれから一度も観返してないんで内容は忘れてますが、ボートで暴走したり敵の骨をポキポキ折ったりしてやりすぎアクションが楽しかったのを憶えてる。

で、今回もまた象を奪われちゃって戦うという、まぁ内容はほぼ同じ、というかあってないようなもので…。

ただし、今回は日本版のポスターに、

一、CGを使います
二、ワイヤーを使います
三、スタントマンを使います
四、早回しを使います
五、最強の格闘技ムエタイを使います
∞、今度は何でもアリです!


という『マッハ!!!!!!!!』の時の「CGを使いません」「ワイヤーを使いません」etc.を反転させたキャッチコピーがついていて、その通りに前作『トム・ヤム・クン!』までは目立つ形ではやっていなかったアクション場面での映像加工を行なっている(※実際には『マッハ!!!!!!!!』でも早回しは使ってたし、トニーのアクション以外の場面でワイヤーもCGも使用していた)。



ジージャー主演の『チョコレート・ファイター』でもワイヤーは使っていたし、迫力あるアクションシーンのため、また俳優の安全を守るためにワイヤーを使用するのは至極当然の措置だと思う。

ワイアーを使っていようが使っていまいが、実際に撮影現場で俳優やスタントマンたち生身の人間が危険なアクションをやってることに変わりはないんだから。

そもそもおおもとの映画の作り手たちは、最初から「ワイヤーを使わない」などとは一言も言っていないわけで。日本で宣伝のために勝手に作った惹句ですから。

ただ、そのことと大々的にCGを使用することとはまったく別の話で、ちょうどジャッキー・チェンのアクション映画でCGが使われてるようなガッカリ感をもたらすことは否定できない(ちなみにジャッキーの映画でもワイヤーは普通に使われている)。

しかもCGや合成の出来が僕らが普段観慣れているハリウッド映画に比べてかなり劣るので、せっかく出演者たちが身体を張ってスゴい体技を披露していてもそのスゴさが相殺されてしまうのだ。

ちょうど昨年の日本映画『イン・ザ・ヒーロー』のクライマックスで、俳優が「ほんとにやってるスゴさ」を見せるべきスタント場面で思いっきりCGや合成が使われていた時の残念な気分とよく似ている。

ダイ・ハード4.0』でブルース・ウィリスに向かって車が回転しながら飛んでくる場面を100倍ぐらい劣化させたようなVFXをトニー・ジャー主演のアクション映画で別に見たくない。

今時あのレヴェルの合成技術で「すげぇ!カッコイイ!」とアガるのは難しい。

壁全体が燃えながらの戦いも、その炎がホンモノじゃないのが丸わかりだからトニーや敵役の俳優たちがそこで足に火がついたまま蹴り合いしてても全部ニセモノに見えてしまう。あとから合成された映像すべてが目障りでした。

これは非常にもったいない。

こんなんだったら余計なVFXはいらないから、せめてCGだけは一切使用しないでほしかった。

好意的に受けとれば、いろいろのっけて観客を楽しませようというサーヴィス精神の表われなんだろうけど、逆効果だったと思います。

それに比べると、ストーリーの雑さはさほど気になりませんでした。

映画を観る前に「脚本にツッコミどころがありすぎ」という批判を結構目にしたんだけど、そんなこと言ったらこの手の作品のほとんどはツッコミどころだらけだし、そこは適度に流さなければほとんどジャンルとして成立しなくなってしまう。なんで犯罪組織の誰も銃使わずに素手で戦ってるの?とか。

ジャッキーの映画だってお話に文句つけようと思ったらいくらでもつけられるでしょ。でも面白いから無問題なんですよね。

こういう映画にストーリーの整合性とか求めちゃいかんのだよ。

象のコーンが手足に鎖をつけられてるシーンで画面に映ってるのがどう見ても全然別の小さな子象だったりして、あぁ、大人の象には鎖をつけることができなかったのかな、なんて思ったり、ある場面でトニーの髪がいきなり短くなってたのもジャッキーの映画を思いだして微笑ましかったし。

髪といえばジージャーのあの微妙な髪型も^_^;『チョコレート・ファイター』での長い髪が印象的だったので、その後のジージャーの髪型は全部微妙に感じられてしまうんですが。でもカワイイからいいけど。

“カタナ国”とかいうヘンな名前の国やカダフィ大佐みたいな名前の人とか、安さ爆発な感じだけど、その辺は笑って観てればよいのではないかとw

僕は以前ジージャーの『チョコレート・ソルジャー』(“ファイター”にあらず)を観て、アクション場面以外の展開があまりに退屈すぎて困ったんだけど、この『マッハ!無限大』では中盤に『マッハ!!!!!!!!』や往年のジャッキー映画を彷彿とさせるアクションに次ぐアクションで映画が推進していくスタイルがとられていて、そうそう、俺が見たかったトニー・ジャーの映画ってこれなんだよ!って思ったんですよね。

 


ストーリーテリングというよりも、アクションの連なりによって映画が成り立っている。

確かにそういう意味では『マッハ!!!!!!!』1作目は物語とアクションが奇跡的に融合していて退屈どころかワクワクさせられ通しだったし、『チョコレート・ファイター』ももうちょっとキャラクター描写には力を入れていた。

その点、この最新作ではトニーのキャラもジージャーのキャラも描かれ方は実に浅くて、特に助演であるジージャーはちょっとした助っ人扱い。

だから『マッハ!!!!!!!!』や『チョコレート・ファイター』の感動を期待してしまうと、悪くはないんだけど…嫌いじゃないんだけど…でも先に挙げた2作には及ばないんだよな…というむず痒さがある。

観終わって無性に『マッハ!!!!!!!!』と『チョコレート・ファイター』が観たくなってしまったもの。

やっぱり『マッハ!!!!!!!!』でのトニーのムエタイの技の一つ一つの見せ方、敵の倒し方、スローモーションなど映像処理の見事さなど、あるいは『チョコレート・ファイター』でのジージャーの危険なスタントアクションの興奮にまでは至らない。

素人目にですが、なんとなくアクションの難易度が先の2本よりも下がっているように感じた。

『マッハ!!!!!!!!』はバックの音楽もよかった。戦いのシーンで最高に盛り上がるんだよね。

逆にこの『マッハ!無限大』を先に観て、そのあとであの2本を観ると感動は倍増するかも。今回、初めてトニー・ジャーやジージャーを観た人たちが羨ましい。

それでも僕はこの映画、観てよかったと思います。

アクション映画界の至宝、トニー・ジャーとジージャーが共演している、一緒に戦ってる姿を目にすることができたんだから。




エンドクレジットでのNGシーンが復活してたのもよかったなぁ。

アクションシーンのあとに「疲れたからちょっと休むわ」と言って座ってるジージャーが可愛い。

敵役のマレセ・クランプが実はとても礼儀正しい人だったり。

やっぱりあまりにも深刻すぎる話じゃなくて、『マッハ!!!!!!!!』みたいに適度に笑いの要素が入ってる方が個人的には好きですね。

今回は『マッハ!!!!!!!!』ほどコメディ色は多くはなかったけど、むやみに残酷すぎる描写もなく、トニーもジージャーも動きっぱなしだったからともかく退屈する暇がなかった。

ほんとはもっとジージャーのアクションが見たかったけど。

あと、この映画でのジージャーは可愛く見える時とブサイクちゃんに映ってる時と結構差が激しくて、そこはもうちょっとメイクとか衣装とか考えてあげてほしかった。『チョコレート・ファイター』の時は全篇可愛かったんだから。

 


LCの愛人でもあるNo.20(ラター・ポーガーム)は、最初ほんとの女性なのかそれとも性転換した人なのかちょっと判別できなくて(『トム・ヤム・クン!』の敵はそういう人だったし、タイはニューハーフのかたがたで有名なお国柄ですから)、きわどい格好でもムラムラしてよいものか躊躇してしまった^_^;

 


結構出番があったわりにはRZA演じるLCに首絞められて簡単に死んじゃったり、せっかくならジージャーと戦ってほしかったですが。

マレセ・クランプ演じるNo.2はメチャクチャ強くてトニーは苦戦、最初の対決では歯が立たずに倒されてしまう。

 


これだけの強敵はトニー・ジャーの映画では珍しいし(『マッハ!弐』『マッハ!参』のダン・チューポンとかいたけど、あれは魔物なのでw)、だからこそ最後もトニーに決着をつけてほしかったけど、父親を殺されたジージャーがとどめを刺す、というのがお話的には一応まとまってたのかな。

RZAについては、僕はこのジャンルに詳しくないからよく知りませんがクンフー物とか好きな人のようで、でも本職はラッパーで格闘家やアクション俳優じゃないんだから、彼が最後にトニーたちと戦ってもいまいち遠慮がちでちょっと迫力が(;^_^A

 


マレセ・クランプとの戦いをクライマックスにして、RZAはさっさと倒されればよかったのにw

やっぱりホンモノの肉弾戦が観たいよ。

最後に、もはやトニー・ジャーの映画ではお馴染みの(ジージャーの主演映画を監督もしている)ペットターイ・ウォンカムラオ。




この人、インターポール(国際刑事警察機構)のエージェントという設定なんだけど、劇中で欧米人の仲間たち相手にまったく英語を話さないw

『マッハ!!!!!!!!』ではコメディリリーフのハム・レイ役でイイ味出してたけど、今回はコメディ演技がないのがちょっと寂しい。

高校時代にこの人に顔がソックリな先輩がいたので、なんだか他人とは思えないんだよねwww

劇中では無謀にもNo.2に挑んで善戦(?)してましたが。

あれこれ書いてきましたが、今回の最新作を観ていろんな意味で『マッハ!!!!!!!!』がいかに優れた映画だったかあらためて実感しました。

この数年、ああいうタイプの映画を量産することがいかに難しいかをDVDスルーされたトニーやジージャーの作品で感じたんだけど、でも彼らにはそのうちまたぜひ共演してほしいな。

今度彼らのアクション映画を観られるのはいつなんだろう。


トニー・ジャーはヴィン・ディーゼル主演の『ワイルド・スピード』の最新作に出演するんだとか。

あのシリーズは前作では『ザ・レイド』の出演者をキャスティングしてたし、作り手がなかなかの目利きとお見受けする。

アジア系アクションスター枠のゲスト出演という形なんだろうけど、ハリウッドでのトニーの活躍に期待しています♪

ジージャーの主演映画もまた観たいなぁ。



※『七人のマッハ!!!!!!!』で監督を、また『マッハ!!!!!!!!』『チョコレート・ファイター』、そしてこの『マッハ!無限大』でアクション監督を務めたパンナー・リットグライ氏が昨年2014年の7月に死去。ご冥福をお祈りいたします。


関連記事
『ワイルド・スピード SKY MISSION』
『プアン/友だちと呼ばせて』



マッハ!無限大 [DVD]/トニー・ジャー,ジージャー・ヤーニン,RZA

¥4,104
Amazon.co.jp

トム・ヤム・クン! プレミアム・エディション [DVD]/トニー・ジャー,ペットターイ・ウォンカムラーオ,ボンコット・コンマライ

¥4,104
Amazon.co.jp

マッハ ! プレミアム・エディション [DVD]/トニー・ジャー,ペットターイ・ウォンカムラオ,プマワーリー・ヨートガモン

¥4,104
Amazon.co.jp



にほんブログ村 映画ブログへ にほんブログ村 映画ブログ 映画評論・レビューへ