スティーヴン・マーチャント監督、フローレンス・ピュー、ジャック・ロウデン、レナ・ヘディ、ニック・フロスト、ヴィンス・ヴォーン、ドウェイン・ジョンソンほか出演の『ファイティング・ファミリー』。
イングランドのノーフォーク州ノリッジで家族全員でプロレス興行をしているサラヤ・ジェイド・ベヴィスは、兄のザックとともにプロレス界の最高峰WWE(ワールド・レスリング・エンターテインメント)のトライアウトに参加する。しかし、アメリカに渡ったサラヤは他のメンバーたちと馴染めず、“ペイジ”というリングネームで臨んだ試合では観客たちからは「フリーク」と罵られ笑われる。
ストーリーに関するネタバレがあります。
WWEの女子プロレスラー、ペイジの実話に基づく物語。
僕はプロレスやWWEの知識はないし、この映画の主人公ペイジことサラヤ・ジェイド・ベヴィスのこともまったく知りませんでしたが、予告篇を観て面白そうだったので。評判もいいようですし。
実際、面白かったです。プロレス知らなくても話はわかるし楽しめます。
主演のフローレンス・ピューという女優さんを見るのはこれが初めてだけど、とても印象に残りました。顔の表情がいいなぁ、と。パンクかゴスかよくわかんないけど黒髪と黒いアイライン引いたメイクや口許のピアスも似合ってて。もともとああいう化粧してる人みたいに見える。逆にブリーチした金髪の似合わないこと^_^;
でも、ご本人の普段の写真見ると普通の金髪の綺麗なおねえさんなんだよね。女優ってスゴいな。
わりとヴォリュームのある体型の人なので、ほんとに格闘技とかやってたのかな、なんて思ったけど別にそういうわけではないようで。顔がとても親しみやすいんですよね。そして存在感がある。“ザ・主人公”って感じ。
これから公開される『ミッドサマー』でも主役を張ってるし、『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』ではエマ・ワトソンやシアーシャ・ローナンと共演したり、スカーレット・ヨハンソン主演の『ブラック・ウィドウ』にも出演しているということで、これからブレイクしていく人なのかなぁ。
フローレンス・ピューが演じる“ペイジ”=サラヤは下品な言葉も平気だし(この映画では彼女や母親がなんの躊躇もなく“勃起”という単語を口にする)タフさと可愛さが同居していて、かっこよくてキュートなんだよね。
サラヤの部屋にはローズ・マッゴーワンのポスターが貼ってあって、彼女はマッゴーワンがTVドラマで演じたキャラクターの名前を取ってリングで“ペイジ”と名乗るようになる。
しかし、独りきりで渡ったアメリカではイギリス英語の喋り方を「ナチみたい」と言われたり、心無い観客たちからは「ホグワーツ(魔法学校)に帰れ」などと野次られる。
電話で声を聴いて励ましてほしかった兄のザックは、妹が選ばれて自分が落とされたことが受け入れられず彼女を拒絶する。ザックは家族や仲間たちともうまくいかなくなっていた。
なかなか不甲斐ない兄貴だが(史実なのかどうか知りませんが)、でも自分だって頑張ってきたのに「君には輝きがない。諦めろ」などと言われたら、ヤケを起こしたくなる気持ちもわからなくはない。
両親を演じるのは、ひと頃サイモン・ペグとのコンビでよく見かけたニック・フロスト(『宇宙人ポール』『ワールズ・エンド』)と、2012年版の『ジャッジ・ドレッド』でも“ママ”を演じていたレナ・ヘディ。美形の女優さんなんだけどパンクなファッションが妙に似合う人ですよね。
トライアウトでWWEの若手を発掘して育てるトレーナーのモーガン役のヴィンス・ヴォーンは『ハクソー・リッジ』でも兵卒を率いる軍曹役だったけど、教官づいてますね。元プロレスラーという設定に無理がないほど長身で、そのふてぶてしさの中に隠された優しさがなかなか味わい深いキャラクターを演じている。
サラヤの兄ザック役の男優さんが『ダンケルク』や『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』のジャック・ロウデンに似てるなぁ、と思ってたら本人だった^_^; そっか、この人まだ若いんだな。
妹に嫉妬して荒れたりもするが、人のよさが滲み出ているザックを好演してました。
でも、いかにもなアメリカ的なボディビルっぽいマッチョじゃなくて適度に弛んでるところがいいなw
WWEの会場でドウェイン・ジョンソンと鉢合わせして、何度も何度も何度も彼を呼び止めて、しまいにはジョンソンが軽くキレる場面に笑った。
ドウェイン・ジョンソンがサラヤとザックの前でプロレスラー“ザ・ロック”の口調になってまたもとに戻るところは、その「演じ分け」が見事だったし、彼は“ショーマン”なのでこれは若手への技の伝授でもありますよね。ただ、観客の前でのパフォーマンスはそれぞれが工夫を凝らして個性を出さなければならないから「俺の真似をするな」と。そのアドヴァイスは他のさまざまな分野でも通じることですね。「自分を出せ」ということ。表面的に別の誰かを演じても観客はそれを見破る。
ポスターではドウェイン・ジョンソンが主役以上にデカデカと写ってるけど、彼はサラヤが仰ぎ見る目標で彼女を見守り励ます天使のような存在。現実はあのような劇的な出会いではなかったようだし。
劇中ではサラヤたちは当たり前のようにスマホを使ってて舞台になっている時代も曖昧だけど、現実のサラヤがWWEで活躍しだしたりドウェイン・ジョンソンに出会ったのは数年以上前だからスマホはまだそこまで普及してないはずだし、Wikipediaでのサラヤ・ジェイド・ベヴィスの経歴と比較すると映画は史実での出来事をずいぶんと端折っている。かなりフィクションが含まれている模様。
このあたりはエルトン・ジョンの人生を描いた『ロケットマン』とも共通するところですね。映画は史実が手を加えられずにそのまんま描かれているわけではない、ということ。
僕はプロレス界の内情とか業界の“ルール”とか仕組みみたいなものを知らないので、たとえばラストの試合でのサラヤの“勝利”というのがそもそもガチなのか勝敗が最初から決まってたのかもわかんない。
この映画ではプロレスの「マッチメイク」とか「アングル(仕込み)」についてはほとんど触れられていないし(でも、闘う選手たちが互いに“協力”しあって試合を成立させていく模様は一応描かれてはいる)、試合はまるで真剣勝負みたいに描かれるので、なんとなく最後のサラヤの勝利にモヤつくというのはある。
プロレスってあんなふうにいきなり本番!ってな感じなの?とも。
サラヤのメンタルがいくらなんでもヤワ過ぎではないか、とか、13歳の頃からプロレスやってて鍛えてきた彼女がモデルやチア出身で格闘経験のない女性たちと競い合って体力や運動能力で本気でかなわない、ということがあるんだろうかとか、疑問はいくつも湧いてくる。
本物のサラヤは、きっと映画の彼女よりももっとタフで要領がいいんじゃないだろうか。
あれは、同世代のイケてる女子たちから「変人家族のフリーク」と呼ばれてきたサラヤ(これだって事実かどうか知らないが)がずっと抱いていた軽そうな女子たちへの偏見が覆されて、モデルやチア出身の女性たちにも大きな覚悟があったことを知って打ち解けていくという展開を作るために映画用に脚色された部分なのではないか、と。そのあたりについては劇場パンフなどを読んでないのでほんとのところは僕はわかんないですが。
映画では一気にチャンスがめぐってきて最後は「シンデレラガール誕生!」みたいに演出されているけれど、実際のサラヤさんはもっと地道に何年もアメリカで活動してきて満を持しての「RAW」でのディーヴァズ王座獲得だったようだし、でも映画では「家族の絆」を描こうとしているためにその部分を濃縮・強調してるんですね。
兄ザックの嫉妬のくだりだって、そのことで兄と妹が再び心を通じ合わせて家族との関係もより強まっていく、という演出効果を狙ってのことのように思える。
だから、これを「史実の映画化」と思って観ているとなんとなく疑問も湧いてこなくはないんだけど(何しろ“プロレス”が題材ですから、いろいろ盛られてるはずで)、プロレスを「稼業」としている型破りな家庭の女の子が最後に自分の活躍の場所を得る物語だと思えば、うまくまとまってるといえるかも。
妹はその“輝き”を存分に活かせる場所を、また兄は地元で居場所のない少年たちにプロレスを教えることで自分が本当に輝けるものがなんなのかあらためて知ることができた。
ザックの妻の母親がプロレスのことを「インチキよね?」と言うと、ザックの父が「インチキで骨折するか?」と答えるように、確かにプロレスには「筋書き」はあるが、けっしてただ段取り通りにやってるだけではなくて、モーガンがかつてスーパースター“ザ・ロック”を際立たせるために相手役として何度も高いところから落ちて大怪我を負って引退を余儀なくされたように、あるいはミッキー・ローク主演の『レスラー』で描かれたプロレス残酷物語のような苛酷な現場で“本気で”闘っている者たちによって支えられている。
選手たちと観客が一丸となって作り上げていく世界。やっぱりそれは眩しい。
エンドクレジットで実際のペイジやその家族が映し出されるけど、ヴィデオキャメラの前であくびしてるお母さんとかニック・フロスト以上に巨漢のお父さんとか映画以上にムッキムキ兄貴のザックとか、いかにもな感じで微笑ましかったですね(^o^)
正直なところ、僕はヒロインがいくつもの試合を経てついにトップに立つまでを描くような話を想像していたので、才能はありながらも結構揺れやすくて試合前にビビッて控え室にこもっていたような彼女がいきなりチャンピオンに勝ってベルトを獲っちゃうようなラストに若干肩すかしも感じはしたんですが。
そこは主演のフローレンス・ピューやまわりの出演者たちの好演に作品が大いに支えられていたと思います。
物凄い傑作だとか感動作というわけではないんだけど、観終わったあとに満足感のある映画でした。
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