トラヴィス・ナイト監督、ヘイリー・スタインフェルド、ジョン・シナ、ジョージ・レンデボーグ・Jr.、ジョン・オーティス、パメラ・アドロン、ジェイソン・ドラッカー、スティーヴン・シュナイダー、グレイシー・ドジーニーほか出演の『バンブルビー』。2018年作品。
1987年。父を亡くし、母親(パメラ・アドロン)が新しいパートナーを迎えた家族と同居しながらアルバイトに励む高校生のチャーリー(ヘイリー・スタインフェルド)は、誕生日に顔なじみの廃品屋の主人に黄色いフォルクスワーゲン・ビートルをもらう。家の車庫で整備していた彼女の前で、車はロボットに変形した。彼「B-127」はサイバトロン星での戦いで“オートボット”のリーダー、オプティマス・プライムの指令により地球にやってきたが、追っ手の“ディセプティコン”の攻撃を受けて声と記憶を失っていた。チャーリーはB-127の外見と体色から彼を“バンブルビー(マルハナバチ)”と名付ける。
マイケル・ベイ監督による「トランスフォーマー」シリーズのスピンオフ作品(今回マイケル・ベイはスピルバーグとともに製作を担当)。2007年公開の1作目の前日譚で、声帯機能の損傷のために言葉が喋れない機械生命体のバンブルビーが人間の少女と出会い、彼と仲間たちの殲滅を狙う敵と戦う姿を描く。
子どもの頃にTVで「トランスフォーマー」のアニメをやっていて、まわりの友だちは観ていたし僕もタイトルは知ってたけどちゃんと観たことがなくて、2007年の最初の実写映画版で初めて登場キャラクターや物語を知りました。
その後2年おきに作られた実写映画版を3作目まで観て、もう充分堪能したので卒業。マーク・ウォルバーグ主演のさらなる2本の続篇は観ていません。
以来、完全にトランスフォーマーの映画に興味を失っていたんですが、このスピンオフは主演が女優のヘイリー・スタインフェルドなのと、これまでのロボット同士の激しいバトルとは違ったジュヴナイルっぽい雰囲気だったので観てみようかな、と思って。
ヘイリー・スタインフェルドは2010年の『トゥルー・グリット』を劇場で観ていて、おさげ髪でまるで男の子みたいな顔をした子役時代の彼女のことがとても印象に残っていたんですが、その後も何本も出演作があるにもかかわらずあいにく鑑賞する機会がなくて、9年ぶりに主演映画を観ることに。
『トゥルー・グリット』ではヴェテランのジェフ・ブリッジスと共演して見事な演技を見せていた(オスカーの助演女優賞にノミネート)けど、抜群な演技力の裏づけがあるからこそこういうVFXを駆使したアクション物でも彼女が演じる役柄にリアリティが感じられるんですね。
ちょっと目許のメイクの感じがプロペラダンスのあの人に似てるんだよね。彼女は名前からわかるようにユダヤ系の血を引いてるけど、一方でお祖父さんはフィリピン系だそうだからアジアっぽい親しみやすさもある。
今回もスポーティでボーイッシュなキャラクターを好演。コメディもお手の物で、クルクル変わる表情とパンツスタイルで弾けるように動き回る様子がほんとに素敵でした。
バンブルビーとのやりとりなんかを観ているとそのリアクションの表情があまりに自然なので、実際にはバンブルビーがCGで合成されていることも忘れるほど。
この映画はもちろんロボットが闘うアクション物なんだけど、ティーンエイジャーを描いた青春映画の側面もあって、ヘイリー・スタインフェルドの普通の人間ドラマが観たいな、と思った。
映画の作り自体が舞台になっている80年代の映画のようなユルさを漂わせたもので、想像してた以上にスタインフェルド演じるチャーリーの日常描写が多いし、これまでのシリーズ作と比べてもバンブルビーとチャーリーの1対1の友情物の要素がより強い。
子どもや若者でも楽しめる映画ではあるけれど、どちらかというとおじさん感涙映画かもw
僕は音楽に疎いのでザ・スミスの曲はピンとこなかったけど、当時はカセットのオーディオテープやヴィデオテープを使っていたし、アメリカ軍がディセプティコンと協力しあってインターネットの技術を手に入れる展開も面白くて。今では80年代も映画のネタになるんだなぁ。
まぁ、映画としてはかなり乱暴な作りだとは思うんですけどね。
チャーリーの水泳の飛び込み競技の伏線なんて『パディントン2』以上にむりくりだし^_^; おかげでほんの一瞬だけヘイリーちゃんの水着姿が見られますが。
亡くなった父親のことが今も忘れられず、別の男性と再婚してまるで過去を忘れたかのように振る舞う母親に内心苛立ち悩むヒロインの物語と、宇宙からやってきた巨大なロボットたちの二大勢力の生存を懸けた闘争というまったく相容れない要素が強引にくっつけられているので、特にチャーリーと家族の物語がわりとおざなりになってるところはあって(後半のアクションシーンでいきなり持ち直す)、逆に劇中で描かれるロボットたちの戦いはこれまでのシリーズ作に比べるとだいぶこじんまりしている。
それらに物足りなさを感じる人もいるかもしれないけど、僕はむしろそのアンバランスなところや全体的に若干小粒な部分も含めて80年代のジャンル・ムーヴィーを思い出させて嫌いになれないんだな。
観る前に読んだ他のかたたちの感想の「傑作というわけではないが、普通に楽しめる」という評価には頷けましたね。変にヲタク向けになってないところがいい(あまり殺伐としてないから親子で楽しめそうだし)。
これはこのあと観た『レゴ(R)ムービー2』と対照的でした。あちらは映画のネタがいっぱいで、そのネタがわからないとイマイチ面白さが伝わらない場面が多かったから。ほんとに子どもたちは面白かったのかなぁ?って疑問もあった。まぁ、賑やかな映画でしたが。
『バンブルビー』の方も80年代ネタが散りばめられているから似たような部分もあるんだけど、わかる人が限られるヲタクっぽいネタよりは世代に関する話題の方がより多くの人が共有しやすいだろうし。
別に必要以上にノスタルジックな雰囲気を強調してはいないんだけど、90年代が舞台だった『キャプテン・マーベル』よりは時代感があって心地よかった。
『キャプテン・マーベル』でもそうだったように、宇宙人たちからは地球は未開の星として最初は歯牙にもかけられてないところが面白い。
『キャプテン・マーベル』はようやくマーヴェルが満を持して放った女性スーパーヒーロー映画だったけど、アニメも含めて「トランスフォーマー」でも女の子が主人公というのはもしかしたら初めてなのかな?
僕は『キャプテン・マーベル』はもっとヒロインが地球の街なかで活躍する姿を見たかったのにそうではなかったのが残念だったんだけど、『バンブルビー』は地球が舞台でほぼヒロインの行動範囲内で物語が進むのと、ロボットの大きさもゴジラのように巨大過ぎず人間との身長差がちょうどいい感じなので両者の絡みも密接で入り込みやすかった。
僕がマイケル・べイの「トランスフォーマー」シリーズが好きだったのは、ロボットたちが本当にそこに存在しているように見えたからなんですよね。
バンブルビーはこれまでのシリーズでも活躍してきたけど、この最新作ではデザインにもちょっと手が加えられてより可愛さが増している。以前はスポーツカーのカマロに変形していたのが、今回はより小さくて丸っこいビートル。
予告篇からもうかがえたけど、声と記憶を失って幼児返りしたような“ビー”の仕草がいちいち可愛くて、機械製の地球外生命体にもかかわらずチャーリーが彼のことをすぐに受け入れるのもその小動物を思わせる不憫さとキュートさのおかげ。
かすかな目や身体の動きで感情を表現するのが巧みなのは、監督がこれまでストップモーション・アニメ映画を手がけてきた人だからでしょうか。
すでに指摘している人もいらっしゃるように、これはスピルバーグの『E.T.』のアレンジでもあるし、『ショート・サーキット』や『ニューヨーク東8番街の奇跡』など同じく80年代の映画を彷彿とさせる。
普段はとぼけた感じだけど、戦闘モードに入ると物凄い破壊力のある武器で暴れるところは『アイアン・ジャイアント』っぽくもある。
もとは日本産ということもあってアニメはもちろん「ロボコン」や「ロボット8ちゃん」などの実写の特撮番組を思わせるところもあるし、そういう懐かしさを伴う部分も「おじさん向け」なのではないかと。
先ほども指摘したように人間ドラマの方はかなり大雑把で、チャーリーに好意を持つ近所に住むメモ(ジョージ・レンデボーグ・Jr.)がアフリカ系であることにはそんなに大きな意味は込められてなくて、仮に彼が白人のオタク少年でもほとんど物語に支障はない。
チャーリーもメモも、いじめられっ子というほどではないものの互いに同級生たちから浮き気味なところは共通していて、彼らが意気投合することにはちゃんと意味が込められてはいますが。
メモは行動的なヒロインに振り回されながらも彼女にくっついてきて協力する男子という、この手の映画でありがちなキャラクターで新鮮味はないんだけど、ちょっとオバマ元大統領に顔が似てて優しげでユーモラスなジョージ・レンデボーグ・Jr.の演技は嫌味がなかったし、意地悪な女の子から「その髪は取り外しできるの?」とからかわれて「洗って干しとく」と答えるところでは笑っちゃったんですが。だけど、87年頃ってあちらのアフリカ系の人たちはまだあんなアフロヘアしてたっけ。もうちょっと短く刈った髪型をよく見た記憶があるんだけど。
ジョージ・レンデボーグ・Jr.って名前に見覚えがあると思ったら、『ブリグズビー・ベア』で主人公と仲良くなるSFオタクの少年を演じてた人だった。他に『スパイダーマン:ホームカミング』や『アリータ:バトル・エンジェル』にも出てて、今旬の人なんだな。
二人の若手俳優たちの演技は申し分なかったんだけど、いつもジョックスと一緒にいるチアリーダーっぽい意地悪女子に仕返しするシーンで、大量のトイレットペーパーと生卵を投げ入れる悪戯には軽くヒイてしまった。あれはあちらではポピュラーな悪戯なんでしょうか。
チャーリーたちはめっちゃウケてたけど、でもあんなくだらなくて卑怯な迷惑行為ではなくてもっと正々堂々と相手を見返してほしかったなぁ。あんな悪戯で満足されたのでは、いじめっ子たちと同様にチャーリーたちのレヴェルまでもが低く感じられてしまう。
この辺の軽いノリも80年代っぽい、といえばそうなのかもしれないけど。
高級車の上で狂ったようにハシャぐバンブルビーの姿には吹いちゃいましたがw
ところで、いじめっ子といえば、ハリウッド映画ではしばしば白人の「イケてるグループ」の中にアジア系の子が1人混じってて、あまり重要な役ではなくガヤみたいな扱いなことが多いんだけど(『ワンダー 君は太陽』でもそうだった)、あれは現実でもああいう子がよくいるのか、それともあれはステレオタイプな描写に過ぎないのか、地味に気になってます。
この映画でも、やはりメモとチャーリーを見下して笑ってるアジア系の女子が登場する。そして、その後は出てこない。
この映画の監督のトラヴィス・ナイトが作ったストップモーション人形アニメ『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は日本文化に深く敬意を払った作品として好評だったしファンも多いようなんだけど、僕はオリジナルのヴォイスキャストに納得がいかないところがあったのでそのことを感想に書きました。
ここしばらくハリウッド映画におけるホワイトウォッシュが問題視されたり黒人の描き方について議論されることが多くて興味深いんですが、アジア系に対しては相変わらず扱いが雑だなぁ、と。
80年代って、スピルバーグにしろジョン・ヒューズ(彼が監督した『ブレックファスト・クラブ』のラストショットが何度も映し出される)にしろ、それ以外でも当時のハリウッド映画ではカジュアルにアジア系の人々や文化を小バカにする描写が結構あって目にするたびにイラッとさせられるんですが、ハリウッドの意識はあれからどれだけ進歩したのだろうか。
『スパイダーマン:ホームカミング』ではわりとフェアな扱いだったのにな。
いや、娯楽映画に片っ端から「差別差別」と言いがかりをつけるつもりはないし、この『バンブルビー』ではアジア系の登場人物はさっきの一瞬出演のいじめっ子女子ぐらいしかいないので、差別以前の話なんですが。
前もどこかに書いたけど、別にハリウッド映画でどうしてもアジア系の人々や中国要素とか日本要素を観たいわけじゃないので、必然性もないのに無理やり映画の中に入れることはないんだけど、普通にさまざまな肌の色や文化を持った人たちが住んでる環境ならそういう人々が映画に出てこないのは不自然だと思うんですよね。
以上は、映画の内容が他愛なくてこれ以上特に書くことがないので、ちょうど80年代が舞台ということもあって気になってたことを書いてみました(・ω<)
それ以外でも、ジョン・シナ演じる軍人バーンズはまだ声を失う前のビーが迫りくるディセプティコンの追っ手“ブリッツウィング”のことを「あれはエアフォースじゃない」と警告するのを聞いていたり、ブリッツウィングがビーを攻撃するのも見ていたくせにビーのことを脅威としてしつこく追うのが歯痒いし、一度捕らえたチャーリーを簡単に家に帰してしまうのも、そんなことあるか?って。
あのあたりの、チャーリーたちが家族の目を盗んで家を抜け出してビーを救出する工程がどうもスムーズにいってない気がした。チャーリーの家族もいきなり助けに現われるんじゃなくて、その前にビーとのふれあいを描いておくべきだったんじゃないかなぁ。
…と、まぁ、お話に細かくツッコみだすときりがないんですが、敵の2体のディセプティコン、シャッター(声:アンジェラ・バセット)とドロップキック(声:ジャスティン・セロー)が車に変形して疾走するところはワクワクするし、闘いもビーのものだけに絞っていて敵の数も限られているのでとてもシンプルで、マイケル・ベイ自身が撮っていたこれまでの作品のようにゴチャゴチャしててしかも長くて観終わると疲れてグッタリしてしまうということもない。上映時間は114分で2時間以内に収まってるし、僕は『トランスフォーマー3』よりはこちらの方が観やすくて好きですね。
80年代当時のように、これは2本立てで観るとちょうどいい感じじゃないかな。1作目がまた観たくなりました。
チャーリーのキャラクターはこのスピンオフ1本だけではもったいないぐらいだけど、でもこの1本きりだからこそ貴重だともいえる。もしも子どもの頃に観ていたら、チャーリーやヘイリー・スタインフェルドに夢中になってたかもしれないなぁ。
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